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常用OC環境は作るのも使うのもおもしろい

~【DIY PC 09】ワンランク上の性能が手に入る常用オーバークロックPC

 テーマはマルチスレッド性能の高い常用OCマシン。CPUには10コア/20スレッドを誇るCore i9-7900Xをチョイス。マルチスレッド性能が活きる動画編集などでの長時間運用に耐えられるように、パーツは耐久性や冷却力にもこだわってチョイスした。

 OCの要とも言えるマザーボードには、屈強な電源回路を誇るASRock X299 Taichi XE、電源には高負荷時の安定性の高さからオーバークロッカーに人気のEnermax MaxTytan EDT1250EWTを採用。クーラーには、36cmクラスの大型ラジエータを備えるH150i PRO RGBを組み合わせて、高クロック時の発熱にも備えは万全だ。

【Point 1】10コアのCore i9-7900Xで高次元のOC環境を実現する

 常用オーバークロック(以下OC)用と言えば、メインストリーム帯のLGA1151プラットフォームがもっとも人気がある。確かに、LGA1151 CPUの上位モデルであるCore i7-8700Kを5GHzまでOCすれば、CINEBENCHのスコアはマルチスレッドが約1,630cb、シングルスレッドが約220cbと、通常では考えられないほどの高い性能を実現できる。しかし、Core i7-8700Kでマルチスレッド性能をこれ以上高めるのはかなり厳しく、空冷や水冷では実現不可能な領域になってくる。

 そこで浮上してくるのがLGA2066版のCore i9-7900Xだ。Core i9-7900Xは10コア/20スレッドのCPUで、定格でもCINEBENCHのマルチスレッドスコアが約2,200cbと、Core i7-8700Kを液体窒素冷却などの極冷で6.6GHzまでOCしてやっと実現できるレベルの性能を持つ。これをOCするのだから、LGA1151とは別次元の性能を得ることができるのだ。しかも極冷など特別なことは必要ない。

 また、Core i9-7900Xは、44レーンというPCI Express 3.0のレーン数や、最大で128GBものメモリサイズをサポートするなど、拡張性の面でも魅力がある。

Core i9-7900X。10コア20スレッド動作のハイエンドCPU。定格時は3.3GHz、Turbo Boost MAX 3.0有効時は最大4.5GHzで動作する。なお、OC時の不安定要素となるので、今回のマシンではTurbo Boost MAX 3.0は有効にしていない
タスクマネージャーのCPUの欄を開くと20スレッドのCPUとして認識されているのが確認できる

【Point 2】OCに有利な13フェーズVRMを搭載したマザーボード

 10コア以上のCPUを搭載する場合は、電源回路の作りが貧弱だと高負荷時に電圧が降下してしまい動作クロックが安定しないことが多い。また、それだけでなく、製品や設定によっては電源回路が許容温度が超えて燃えてしまう場合もある。マザーボードを選ぶさいにまずチェックしたいのがVRMのフェーズ数だ。OCを考えているなら、合計10フェーズ以上備えている製品を選ぶのが望ましい。

 VRMが多フェーズ構成のマザーボードの場合、1フェーズあたりの負担が少なくなり、OC時の発熱が抑えられて安定する傾向にある。次に重要なのがEPS12Vコネクタの数。8ピンが2基備えられている製品のほうが1コネクタに流れる電流が小さいため、電源ユニットの保護回路が働く可能性が低くなり、より高い動作クロックが狙える。

ASRock X299 Taichi XE。X299チップセットを搭載したLGA2066マザーボード。高性能部品で採用された13フェーズのVRMを搭載するなど、堅牢なハードウェア仕様が魅力
X299 Taichi XEは8ピンのEPS12Vコネクタを2基備える。発売前の製品テストにおいて、筆者がCore i9-7980 XEを極冷で5.5GHzまでOCしても安定した電力供給が可能だった
いかにフェーズ数の多い製品でもOC状態で長時間負荷をかけると電源回路の温度は上昇しがち。本製品は重厚なアルミ製ヒートシンクを備えているので放熱はバッチリだ

【Point 3】36cm大型ラジエータを搭載した高性能簡易水冷クーラー

 OC耐性の高いCPUやマザーボードを使っていても冷却力が貧弱では宝の持ち腐れになってしまう。今回選んだのは冷却力に優れる36cmクラスの大型ラジエータを搭載するCorsairのフラグシップモデルH150i PRO RGBだ。摩擦音が少なく静音性に優れる磁気浮上ベアリングを採用するファンが3基付属するので、冷却力と静音性の両立が求められる常用OCに最適なクーラーだ。独自ユーティリティのCORSAIR LINKを使用すれば、ファンやポンプの回転数を細かく設定できる点も心強い。

Corsair Components Hydro Series H150i PRO RGB 360mm Liquid CPU Cooler。36cmクラスのラジエータを装備した簡易水冷クーラー。高い冷却性能と静音性を兼ね備えるのが特徴。製品名にRGBとあるように、水冷ヘッドとラジエータファンにRGB LEDが装備されており、好みの色やパターンで光らせることができる
独自ユーティリティのCORSAIR LINKを使って自分だけの常用設定を作るべし。ポンプの回転数はPerformanceプリセットを選択して常時高回転にして、ファンの回転数を1,000rpm前後になるようにするのが筆者のオススメ設定だ

【Point 4】OCメモリでさらなるパフォーマンス向上を狙う

 最近、AMDプラットフォームで注目されているメモリOCだが、Intelプラットフォームでも効果はある。とくにコア数の多いCPUほどスコアアップが望める。今回はDDR4-4133のG.Skill製キットを使用。ただ、X299の場合は41.33倍のメモリ倍率がないため、DDR4-4000まで落として使用した。その際にアクセスタイミングをCL16-15-15-28-440-1Tに手動設定した。結果、CINEBENCHのスコアは、マルチスレッドは2,187cbから2,248cb、シングルスレッドは189cbから192cbまでスコアが向上した。

G.Skill International Trident Z F4-4133C19Q-32GTZSWF。G.SkillのPC4-33000 DDR4 SDRAM 8GB 4枚組セット。オーバークロッカーから広く信頼を集めている同社製品ならではの高耐久性が魅力

【Point 5】常用OCの設定のキモはコレだ!

【倍率設定】4GHzで動作させたい場合は40倍といった具合に、CPUの倍率を変更して動作クロックを設定する。細かく動作クロックを調整したい場合はベースクロック変更が有効だが、ベースクロックを設定するとメモリやリングバスのクロックも変わってしまい不調の原因になるため、まず倍率変更でOCすることが成功のコツだ
【Input電圧とLLC設定】CPUに実装された電圧レギュレータへの供給電圧を設定しないと、いくらCPU電圧を昇圧しても効果がない。常用OCだと1.75~1.85Vの間に収めるとCPUや電源回路の発熱を抑えられる。高負荷時の電圧降下を防ぐCPU Load-Line Calibrationを設定するのも忘れずに行なおう。
【コアとアンコアの電圧設定】高クロック動作を狙うと昇圧が必要だが、その分発熱が増えるので要注意だ。殻割りをしていないCPUで常用OCを行なう場合は、クロックにかかわらずVcore電圧を一定に保つOverride Modeにして、昇圧は1.1~1.2Vの間に収めるのがベター。メモリをOCする場合はSystem Agent Voltageの昇圧を忘れずに行なおう。
【省電力設定の無効化】動作クロックや電圧が変動すると高負荷時に不安定になる場合が多いので、省電力機能はすべて無効にするのがセオリー。CPU C States SupportをAutoからManualに変更し、Enhanced Halt State、CPU C6 State Support、Package C State Supportの3つを無効にすればOKだ。

【Point 6】全コア4.3GHzの常用OCに成功!

 今回のマシンは動画編集や演算などでの長時間稼働も想定しているため、AVX命令を有効にしたOCCT CPU:LINPACKを10分間完走することを常用成功の条件とした。エラーなく完走できたのは4.3GHzまで。これよりも下のクロックに設定するとアプリケーションによっては性能が下がるので注意が必要だ。1.2Vまで昇圧すればCINEBENCH R15を4.5GHzでクリアできたが、OCCTは開始直後にエラーが出てしまった。

 ちなみに、CPU定格状態だと、CINEBENCH R15では全コアが4GHzで動作しているものの、より負荷の高いOCCT実行中は発熱抑制のためかCPUクロックが3.6GHzまで低下している。

今回の常用OC設定は4.3GHzが限界だった。7900Xの場合、今回の設定だと4.1GHzが厳しい個体もあるので結果は上々
CPU電源回路の発熱が気になる場合は、水冷ヘッドに冷却ファンを搭載するCRYORIGのAシリーズがオススメだ
ベンチマークでエラーが出るたびにUEFIを起動していては時間がもったいないので、OC設定は専用ユーティリティを使うとよい
長時間稼働を目的とするならば、最大級の発熱を誇るAVX有効での負荷テストを行なうのがベターだ

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