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広島大学、室温で1分子に情報記録する「単分子誘導体」を実証

~既存技術の1,000倍の記録密度を実現

 広島大学は9日、単分子で強誘電性を示す「単分子誘導体(Single Molecule Electret:SME)」を世界で初めて実証したと発表した。

 電場がなくても分極が整列し(自発分極)、かつ分極の方向が電場によって反転する物質を「強誘電体」と呼ぶ。この自発分極の方向を0と1に対応させることで、データを記録する材料として利用できる。これを実用化したデバイスとしてはFeRAMなどが存在する。

 しかし、強誘電性は一定のサイズよりも小さくすると熱ゆらぎによって分極方向を保持できなくなるため、物理的な微細化には限度があり、ストレージの記録密度に制限を課してきた。実際、既存の平面記録密度の限界は1Tbit/平方インチとされている。

 今回、広島大学大学院理学研究科の西原禎文准教授、加藤智佐都博士らを中心とする研究チームは、本来強誘電性が出現しないとされていた単一分子で、強誘電体特有の自発分極と分極ヒステリシス(メモリ効果)を発見した。

 今回の現象は、30個のタングステン、110個の酸素、5個のリン原子からなる、かご状の無機分子「Pleyssler型ポリオキソメタレート」で観測できた。この分子は内部が筒状の空洞となっており、そのなかにテルビウムイオン(Tb3+)が格納されている。

 そしてこのTb3+イオンは、空洞の中心からずれた、2カ所の安定サイトのどちらか一方に存在し、イオンの停止サイトに依存した分極を有する。もう一方のサイトにイオンが移動することで分子分極が反転すると考えられるが、エネルギー障壁よりも十分に低い温度域ではイオンが移動できず、電場を印加することでイオンの移動を強制的に誘起できるという。

 この材料は強誘電転移を示さないが、室温以上で分極ヒステリシスや自発分極を示すことが確認できたという。また、この分子を高分子内に分散させ、分子間の相互作用を断ち切った状態でもあってもこれらの現象が確認できたため、単分子として強誘電的な性質があることがわかったのだという。

 今回の発見は、従来の強誘電理論に則った一般的な強誘電体とは発見機構が異なり、単一分子でメモリ効果があることを示す材料となった。研究グループによると、今回の物質をメモリとして実装できれば、既存の1Tbit/平方インチの1,000倍となる、1Pbit/平方インチの記録密度を実現できるとしており、HDDやフラッシュメモリの超小型化などを期待している。