ニュース
【詳報】常時接続で20時間超駆動を目指すSnapdragon搭載のWindows PC
2017年12月6日 20:00
Qualcommは、米国ハワイ州マウイ島においてテクノロジーイベント「Snapdragon Tech Summit」を開催している。
現地時間12月5日午前8時半(日本時間、12月6日午前3時半)から開始された基調講演に登壇した、同社の半導体子会社Qualcomm Technologies社長のクリスチャン・アーモン氏は、Microsoft Windows & Devices担当上級副社長のテリー・マイヤーソン氏をゲストに招き、同社とMicrosoftが昨年(2016年)のWinHECで構想を明らかにしたArm ISA(【詳報】Win32アプリが動く“ARM版Windows 10”はフル機能搭載の完全なるWindows 10参照)に対応した「Always Connected PC」のWindows 10(いわゆるWoA=Windows on Arm、QualcommではWoS=Windows on Snapdragonと呼んでいる)を正式に発表した。
Snapdragon 835を搭載したPCは、まずASUS、HPの2社から発表され、2018年1月にラスベガスで行なわれるCESでLenovoからも発表される予定だ。さらにアーモン氏は「この動きはまだ始まりに過ぎない」と述べ、将来的にほかのデバイスメーカーからも販売される可能性を示唆した。
PCやIoT、自動車などはQualcommにとって成長事業、年率25%での成長が望める
アーモン氏は、「ワイヤレスが業界を変えてきた、3G、4Gときてまもなく5Gになる。そのなかでQualcommは成長を続けてきて、数十億のデバイスに入り、最大のファブレス半導体企業へと成長した。デジタルからアナログに、2Gから4Gへと進化してきたように、コンピューティング分野に関しても変革していく」と述べ、スマートフォン向けのSoCとモデムでモバイル革命をリードしてきたQualcommが、PCの分野に参入することの意味を説明した。
「デジタルの世界は、PCからスタートしてモバイルへと進化してきた。そして現在は約60%のコンシューマはスマートフォンを使っているなど、スマートフォンがデジタルの中心になっている。
2020年のQualcommにとっての潜在市場は8,000億ドル(日本円で約95兆円)だが、そのうちモバイルが5,100億ドルで、それ以外のIoT、自動車、ネットワーク機器、PCなどが2,900億ドルになる。すでにこうした市場は30億ドルの売り上げがあり、今後年率25%の成長が望めると考えている」と述べ、NXPの買収なども含めて、PCを含めた新しい市場がQualcommの成長を支えることになると強調した。
そして次の業界の大きな変革である、5G(第5世代移動通信システム)について触れたアーモン氏は、「5Gでワイヤレス通信は電気と同じような存在になる。電気が普及したことは社会のあり方を大きく変えた。5Gもそうなると我々は予想しており、速度があがるのにコストやレイテンシは削減されていく。それにより容量制限なく、低コストの無線通信が可能になる」と述べ、5Gの経済効果が非常に大きく、ネットワークが低コストで無制限になることで、クラウドアプリケーションの利用が現在よりももっと進んでいくだろうと説明した。
そしてその5Gの進展に関しては、2019年からサービスや端末の提供が始まるだろうというこれまでの見通しを繰り返し、3GPPの仕様策定も18年前半に完了し、Qualcommが既に発表している5Gモデムの実製品となる「Snapdragon X50 modem」などにより、OEMメーカーが5Gに対応した製品を出荷できるようになると、これまでの見解を繰り返した。
また、LTEに関しても、引き続き進化が続いており、1Gbpsの下り通信速度を実現するGigabit LTEがグローバルに25カ国、43事業者、13億人のユーザーが利用可能になっていると紹介した。
Snapdragon 835搭載PCの特徴は常時オン、常時接続と、バッテリ駆動時間の3つ
その後アーモン氏は、Snapdragonに話をうつし、「Snapdragonは10周年を迎え、Snapdragon 835を搭載したデバイスが多数市場に登場した。重要なことは、モバイル向けのSoCが製造技術でリードしていることだ。
これまでの最先端の製造技術は、まずPCやグラフィックス向けに採用されてきたが、今の世代ではモバイルが最初で、まさに転換点となっている」と述べ、IntelのPC向けプロセッサやNVIDIAのGPUなどが、最先端の10nmプロセスルールへの移行が滞っていることを指摘し、モバイル製品が半導体市場をリードする存在になったという認識を明らかにした。
その上で、同社のSnapdragon 835が、MicrosoftのAlways Connected PC(常時インターネットに接続されているPC)構想に対応していることを明らかにし、バッテリ駆動時間が20時間以上となり、ユーザーの使い方を大きく変える製品だと強調した。
そして、壇上にMicrosoft Windows & Devices担当上級副社長 テリー・マイヤーソン氏を呼び、マイヤーソン氏からArm版Windowsを採用したAlways Connected PCの特徴を説明させた。
マイヤーソン氏は「Snapdragon 835を搭載したAlways Connected PCの特徴は、フル機能を備えたWindowsを採用しており、ハイバーネーションなどにする必要なく常時起動状態で、LTEを利用してシームレスにネットワークに接続されており、一般的な使い方であれば、一度充電すれば1週間使うことができるという3つだ」と、Snapdragon 835を搭載したAlways Connected PCの特徴を説明した。
OSは標準でWindows 10 Sを採用しているため、ブート時からセキュアな状態が維持されており、安全性も高いと強調した。
かつ、現代のWindows 10の機能、例えばWindows Helloを利用した生体認証、タッチ、高速な復帰などのフル機能を備えており、かつ現在のIntelアーキテクチャ(IA)ベースのPCと比較してスタンバイにかかる時間が4~5倍は短くできると強調した。
今後のラインナップ拡大を示唆
次いで、ASUS CEOのジェリー・シェン氏、ソフトバンクの子会社で米国の通信キャリアとなるSprint 技術部門 COOのギュンター・オッテンドルファー氏、HP 副社長 兼 コンシューマ製品事業部門 事業部長のケビン・フォレスト氏を壇上に呼び、ASUSとHPは搭載製品を、SprintはAlways Connected PC向けのプランを提供していくと発表した。
ASUSのシェン氏は「ユーザーは常時接続を望んでおり、それを使ってよりよい生活を実現していきたいと望んでいる。ASUSはスマートフォンとPCの両方を開発してきたベンダーで、そうした声に応えていける」と述べ、ASUSがAlways Connected PCに対応したPCとなる「NovaGo」を発表したことを明らかにした。
シェン氏は、NovaGoの特徴として「eSIMとNano SIMの両方に対応しており、4CA、4x4MIMOに対応してGigabit LTEが実現できている。また、22時間のバッテリ駆動が可能で、スタンバイ状態では30日も持たすことができる」と述べ、特に22時間というバッテリ駆動時間を強調した。
そして、製品の価格として4GBメモリ/64GBストレージのモデルが599ドル、8GB/256GBのモデルが799ドルという価格であることを明らかにした。また、米国、中国、イタリア、イギリス、フランス、台湾などでは、通信キャリアなどから通信プランと一緒に提供される予定があると説明した。
なお、NovaGoの詳細は別記事(ビデオ再生時でも22時間バッテリ駆動。Arm版Windows 10搭載2in1「ASUS NovaGo」をハンズオン)に詳しいので、そちらをご参照頂きたい。
Sprintのオッテンドルファー氏は「Sprintは米国のキャリアで最初にGigabit LTEを投入する計画だ。今後はWindows 10でアクティベーションが簡単にできるようにしていく」と述べ、ASUSのNovaGoなどでサポートされているGigabit LTEを、同社のネットワーク上で利用できるようにしていくと説明した。
また、SprintはWindows 10用の専用アプリケーションなどを通じて、ユーザーがLTE回線の契約をオンラインで済ますことができるようにするなど、利便性を向上させていくと説明した。
HPのフォレスト氏は、「HP ENVY x2」について、「ENVY x2は脱着型のキーボードを備えて、タブレット自体は6.9mmの薄さを実現している。2018年春から販売を開始する予定だ」とその特徴を説明した。
なお、HP ENVY x2に関しても別記事(写真で見る、Arm版Windows搭載の12.3型2in1「HP ENVY x2」が詳しいのでそちらをご参照頂きたい。
そして最後に壇上に戻ってきたアーモン氏は、「LenovoもSnapdragon 835を搭載した製品を計画している、彼等はCESが行なわれる1月9日に発表を行なう予定だ」と述べ、Lenovoの製品が1月9日に同社がCESで行なう予定の記者会見で発表される見通しだと明らかにした。
その上で「Always Connected PCはまだ始まったばかりだ。これからさらに新しい形、新しい機能、新しい地域での展開が始まっていくだろう」と述べ、今回発表された製品群はまだスタートに過ぎず、今後も他のOEMメーカーもArm版Windowsデバイスに取り組んでいくと示唆した。