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国内産業の競争力向上を目指す「日本ディープラーニング協会(JDLA)」が設立

~記念シンポジウムを「CEATEC JAPAN 2017」で開催

 2017年10月4日、幕張メッセで開催中の「CEATEC JAPAN 2017」内のカンファレンスの1つとして、「日本ディープラーニング協会(Japan Deep Learning Association、略称:JDLA)」設立記念シンポジウムが開催された。

 JDLAはディープラーニング(深層学習)技術を活用し日本の産業競争力向上を目指すことを目的として、ディープラーニングを事業の中核とする企業や研究者らによって設立された団体。理事長は東京大学大学院工学系研究科 特任准教授の松尾豊氏。

協会会員

 理事メンバーは以下のとおり。

  • 井崎武士氏:エヌビディア合同会社 エンタープライズ事業部長
  • 上野山 勝也氏:株式会社PKSHA Technology 代表取締役/ファウンダー
  • 岡田 陽介氏:株式会社ABEJA 代表取締役CEO
  • 岡谷 貴之氏:東北大学 情報科学研究科 教授
  • 尾形 哲也氏:早稲田大学基幹理工学部表現工学科 教授・博士
  • 川上 登福氏:株式会社IGPIビジネスアナリティクス&インテリジェンス 代表取締役CEO
  • 草野 隆史氏:株式会社ブレインパッド 代表取締役会長
  • 佐藤 聡氏:株式会社クロスコンパス 代表取締役社長
  • 南野 充則氏:株式会社FiNC 取締役 CTO
  • 監事:渡辺英治氏 渡辺税理士事務所
  • 事務局長:岡田隆太朗氏

企業正会員は以下のとおり。

  • 株式会社ABEJA
  • 株式会社ブレインパッド
  • 株式会社FiNC
  • 株式会社GRID
  • 株式会社IGPIビジネスアナリティクス&インテリジェンス
  • エヌビディア合同会社
  • 株式会社PKSHA Technology
  • 株式会社STANDARD
  • 株式会社UEI
  • 株式会社クロスコンパス
  • 株式会社zero to one

 賛助会員としてトヨタ自動車株式会社も加わっている。協会事務所はABEJA内に設置される。会員は募集中。

設立目的
協会概要

ディープラーニングによる「視覚の誕生」が世界を変える時代に

ディープラーニングは革命的な進歩だという

 まず、経済産業大臣の世耕弘成氏からの祝辞が経済産業省 商務情報政策局 大臣官房審議官 前田泰宏氏から代読で述べられ、内閣府による「Society5.0(超スマート社会)」概念に関する議論を踏まえて、優れたAI関連人材育成の重要性が強調された。

 日本ディープラーニング協会(JDLA)が取り組もうとしている人材育成は産業競争力に直結するものであり、主要産業界との連携にも期待しているという。

 続けてJDLA理事長である東大特任准教授 松尾豊氏が設立背景を説明した。松尾氏はディープラーニング技術に習熟した人材をいかにはやく育成するかが重要だと切り出し、ディープラーニングの重要性や問題意識を改めて強調した。

東大特任准教授 松尾豊氏
経済産業省 商務情報政策局 大臣官房審議官 前田泰宏氏

 囲碁ではもうコンピュータは人に負けなくなった。アルファ碁は自己対局を繰り返して強くなったが、その棋譜は人から見ると不思議なもので、これまで人間が対局して来た囲碁の世界がごく一部に過ぎなかったことを関係者たちに改めて知らしめた。

 今AIは3回目のブームになっている。松尾氏は、人工知能でできることとできないことを切り分けることが重要だと強調。だがディープラーニングは不連続な変化で、これまで何十年もできなかったことが急激にできるようになっている。とくに認識や運動の習熟ができるようになりつつあるところがこれまでとは異なる点だという。

コンピュータ囲碁をめぐる衝撃
AIをめぐる動向

 とくに画像認識精度はディープラーニングを使うことで飛躍的に向上し、2015年には人間の精度を超えた。これ1つとっても、大きな変化が起こると松尾氏は再び強調。多くの仕事には視覚を使って行なわれているからだ。

 また運動の習熟にはディープラーニングと強化学習の組みあわせによってさまざまなタスクができるようになりつつある。目を持った生物の誕生による動物が多様化したとするアンドリュー・パーカーの光スイッチ説が提唱されている書籍『眼の誕生』を取り上げて、機械の登場によって、機械・ロボットの世界で「カンブリア爆発」が起こると述べた。この領域を日本企業が取れるかどうかが大きな分岐点だという。

認識から運動の習熟、意味理解へ
アンドリュー・パーカー『眼の誕生』

 従来のカメラはイメージセンサーに過ぎない。ディープラーニングを使った視覚野の処理を組みあわせることで、初めて「目が見える」ようになる。その結果、農業、建設、食品加工、組み立て加工などの分野に革命的な変化が起きるのだと述べた。あらゆる産業において人が「目」を使って行なっている作業が自動化できる可能性があり、急がなければ海外企業に負ける。

センサーとディープラーニングで目が見えるように
既存産業への広がり

 今、世界の時価総額が高い国はIT企業だが、日本企業は入っていない。「目を持った機械」は日本のものづくりにとって最後のチャンスではないか、新たな産業競争力になるのではないかと述べた。日本ディープラーニング協会のメンバーたちも同じ思いだと語った。

機械のカンブリア爆発が起こる
ディープラーニング関連の海外企業

 従来のITやAIとディープラーニングの区別は重要だと考えたため「ディープラーニング協会」という名前になったという。またAIが「なんでもできる」とか、逆に「まったく何もできない」とか極端にふれやすいため、ユーザー企業の知識レベルを上げることが重要だと述べた。

 「人工知能」は定義が難しい技術だ。今急激に人工知能という製品やサービスが増えている理由もここにある。従来は呼ばれなかったものまでが「人工知能なんとか」と言われるようになっているのだ。

 これまでのブームでも同じことが起きていた。それを防ぐためには良いものを良いということが重要だと述べ、人材育成を行なうことで、産業競争力強化につなげられるのではないかと語った。とくに日本が得意とするものづくり系の企業に役に立てる形へと、ディープラーニング技術を発展させていきたいという。

問題意識
産業競争力につなげる

2020年にジェネラリスト10万人、エンジニア3万人の育成を目指す

協会活動のまとめ

 協会の概要と今後のプランについては運営事務局長の岡田隆太朗氏から解説された。ディープラーニングの産業活用を促進するために事例や取り組み手法の発信、公的機関・産業界への提言、社会に受け入れてもらうための窓口的役割もになう。人材育成のための試験も行なう。

日本ディープラーニング協会 運営事務局長 岡田隆太朗氏
組織体制

 産業活用については、ノウハウ、事業者、スケールなどが不足していることが問題であり、事例共有・共通課題の収集、業界間連携、ベンチャーの組織化などを進めていく。イベントやシンポジウム、ハンドブック発行などを行なう。

産業応用促進において期待されること
事例収集などを行なう

 AI関連人材は2020年までに4.8万人が不足するとみずほ総研は述べており、需要供給に大きなアンバランスがある。JDLAではディープラーニングの基礎知識を持って活用する能力を持つ人、理論を理解して実装できる人、その両方を育てることをねらい、それぞれ「ジェネラリスト検定(G検定)」、「エンジニア資格(E資格)」を実施する。

人材育成の必要性
ジェネラリストとエンジニアを育成する

 まず最初に12月にジェネラリスト検定(G検定)を実施する。オンラインの試験なのでどこからでも受験ができる。エンジニア資格(E資格)は来年(2018年)2月に行なう。こちらは講座を行ない、その講座を修了した人が受けられる会場試験となる。試験委員会によってシラバスが公開され、ほかの民間機関にも認定する形で実施する。認定対象にはオンライン講座も含まれる。2020年にはジェネラリスト10万人、エンジニア3万人の育成を目指す。

 社会対話も進める。各種学会での議論にも参加して、連携していく。各種情報はホームページから登録できるニュースレターで配信する。

ジェネラリスト検定(G検定)
エンジニア資格(E資格)
人材育成目標
法や倫理に関する国際連携も

ディープラーニングを理解して正しいところに正しい使い方を

 続けて「日本におけるディープラーニングの産業活用動向と課題」と題したパネルディスカッション形式で協会理事から、エヌビディア合同会社 エンタープライズ事業部長 井崎武士氏、株式会社ブレインパッド 代表取締役会長 草野隆史氏、株式会社 クロスコンパス 代表取締役社長 佐藤聡氏、そしてモデレータとして、株式会社IGPIビジネスアナリティクス&インテリジェンス CEOの川上登福氏らが登壇。各社のディープラーニングを使った取り組みの紹介や、海外事例との比較、今後あるべき日本企業の取り組み方などを議論した。

 エヌビディアの井崎氏は同社のGPUがディープラーニングのための計算インフラとして使われていることを紹介。ブレインパッドの草野氏は、ビッグデータを用いたビジネスのための分析手法としてディープラーニングを活用していると述べた。食品生産ラインでの異物を避けたり、河川護岸のチェックなどのために使われているという。

 クロスコンパスの佐藤氏は、AIを使うためのプラットフォーム提供ビジネスを進めており、製造業におけるセンサーの時系列データ解析のためにディープラーニングを活用していると事業内容を紹介した。

 海外のほうが法整備や環境整備が進んでいるという点は否めない。だが日本国内でも実例はあまり出せないが、取り組みは進んではいるという。ただ、ITエンジニアリングとビジネス現場の距離が遠いところが日本企業の課題なのではないかといった議論が行なわれた。経営者も含めて技術を理解してビジネスを進める点が重要だという。

 また、日本企業の場合、まわりの企業の動向を待っていることが多く、スピード感が根本的に欠如も問題だとされた。「儲かるかどうかわからないもの」にも投資できないと負けるという。最後はディープラーニングを正しく理解して、正しいところに正しく使うことが重要だと締めくくられた。

株式会社IGPIビジネスアナリティクス&インテリジェンス CEO 川上登福 氏
エヌビディア合同会社 エンタープライズ事業部長 井崎武士氏
株式会社ブレインパッド 代表取締役会長 草野隆史氏
株式会社 クロスコンパス 代表取締役社長 佐藤聡氏