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日本科学未来館、“機械人間”や“金星探査”など常設展示をリニューアル

~日本のインターネットの父・村井純氏も講演

日本科学未来館

 お台場にある日本科学未来館は2017年6月22日(木)、常設展に4つの新展示をオープンした。テーマは「IoT」、「機械人間」、「ヘルスイノベーション」、「金星探査」。22日にはプレス向けに展示内覧会と勉強会が行なわれ、勉強会では慶應義塾大学 環境情報学部 学部長・教授の村井純氏が講演を行なった。

4つの新展示。IoT、機械人間、ヘルスイノベーション、金星探査

日本科学未来館 館長 毛利衛氏

 日本科学未来館 館長の毛利衛氏は「未来館では『不易流行』を大事にしている。研究者の顔が見えることについては変わらず、今から将来へ変わるための最前線の研究を一般の方が理解できるようにつとめている。すべての科学技術はほかの文化活動と同じようによりよい持続可能な未来を作るためにある」と挨拶した。

4つの新展示は以下のとおり。

  • (1) インターネット物理モデル2017(3F)
  • (2) 機械人間「オルタ」(3F)
  • (3) 〈メディアラボ〉第18期「アクティブでいこう! ものぐさ→アスリート化計画」(3F)
  • (4) 〈フロンティアラボ〉金星探査機「あかつき」の挑戦(「太陽系に挑む」コーナー)(5F)

 それぞれ簡単にご紹介する。

インターネット物理モデル2017

インタ=ネット物理モデル2017

 「インターネット物理モデル2017」は、2001年の開館当初からの人気展示だった「インターネット物理モデル」を、IoTなど多様な機器がつながるようになった今日のインターネットの状況を反映してリニューアルしたもの。モノや環境、サービスを相互につなぐ情報基盤としてのインターネットを表現した。日常的に使われているインターネットの裏側の仕組みに気づいてもらうことを主眼としている。

 「インターネット物理モデル」は1つのパケットを白黒のボール16個で表現している。旧モデルは前半8bitがアドレス(ヘッダー)、後半8bitが送信するデータだった。2017バージョンでは送信先アドレスを4bit、送信元のIPアドレスを4bitとして、送信元アドレスも送れるように改良。実際のIPネットワーク動作をより忠実に再現した。たとえば間違ったアドレスで送ると戻ってくる。

 また、これまでは文字だけだったが、音や動き(鳥かごの鳥の動き)などの情報をデジタルに変換して復号できるように新機能を追加した。多様な情報を扱えるデジタル表現の特性を実装させたとしている。

 体験は、エンコーダであるデータスティックを使って行なう。最初にデータスティックを送信器にセットして文字や音、動きなど何をどこに送るかを決める。するとデータスティックに白黒が表示されるのでそれに従って球を並べて送り出すという仕組みだ。

 ネットワーク全体は端末5台、ルータ5台、LAN4基から構成されている。1969年12月当時のARPANETを模したものだ。玉は基本的に自重で転がっていき、白黒は赤外線センサーで検出してルーティングされる。自律・分散・協調で動くインターネットの面白さに気づいてもらいたいという。

エンコーダであるデータスティック
玉をデータスティックのとおりに並べて送り出す
受信機
ボールの白黒を検出する赤外線センサー
鳥かごの鳥の動きなどを送れるようになった
動きのデータを自分に送り出し、再び受信して再生させた

機械人間「オルタ(Alter)」

機械人間「オルタ」

 機械人間「オルタ(Alter)」は、常設展示「アンドロイド 人間って、なんだ?」に追加されるもの。機械むき出しの外見だが動きで生命らしさを表現する「オルタ」と、隣に並べられている人間に似せたアンドロイドの「オトナロイド」を比較することで、より多様な視線で「人間らしさ・生命らしさとは何か?」という問いを深める。

 大阪大学石黒研究室、東京大学池上研究室による「オルタ」については本誌でも、昨年(2016年)8月に発表・期間限定公開されたときにレポートしている(生命らしさを見た目ではなく複雑さで表現「機械人間オルタ」、日本科学未来館で公開参照)。池上氏は「ぜひ子供になってオルタと相互作用することを考えてもらいたい」と語った。なお、展示の最中にも改良を続けていくとのことだ。

センサーで滞留する人の動きを検知してそれに合わせて動きを自動生成する
オトナロイドと並べて展示されている
オトナロイドは人が遠隔操作するアンドロイド

〈メディアラボ〉第18期「アクティブでいこう! ものぐさ→アスリート化計画」

センサーを組み込んだ肌着「心衣(こころも)」

 〈メディアラボ〉第18期「アクティブでいこう! ものぐさ→アスリート化計画」は、多世代が楽しく知らず知らずのあいだに運動ができる「運動の生活カルチャー化」を目指した、自然と運動をはじめたくなるようなテクノロジの展示。文部科学省/科学技術振興機構COI「アクティブ・フォー・オール拠点」での研究成果の一部をもとにしている。

 大きくわけて3種類の展示からなる。肌着にセンサーを組み込んで身体データを取得する「心衣(こころも)」は心電図と姿勢データをとる。

 「音玉(おとだま)」、「音扇(おんせん)」、「音的(おとまと)」は超音波スピーカーを応用し、音が聞こえるエリアを設定する。体験者の動きを追跡して、頭部の周囲だけに音声を届ける。

 「おえかきんでん」は筋電センサーを腕に着けた3人の体験者が協力して運動して1枚の絵を描き、音楽を奏でるインタラクティブ展示。腕の筋電から絵や音を生み出すことで、新しい運動体験を実現する。

「音的(おとまと)」と「音扇(おんせん)」
「音玉(おとだま)」
「おえかきんでん」

〈フロンティアラボ〉金星探査機「あかつき」の挑戦

金星探査機「あかつき」の5分の1模型

 〈フロンティアラボ〉金星探査機「あかつき」の挑戦(「太陽系に挑む」コーナー)は、2015年12月に日本初の惑星周回衛星となった金星探査機「あかつき」の5分の1模型や実際に搭載されている機器の同等品、研究者たちのインタビュー映像などを通して、5種類のカメラで金星の気象を観測している「あかつき」の成果や「スーパーローテーション」と呼ばれる金星の気象現象の謎などを紹介する。

 地球以外の惑星や衛星も含めた個別の惑星気象を知ることで、それらを統一的により深く理解するための普遍的な法則を探すことが目的だ。

 実際に搭載することもできるものが展示されているそうだ。リチウムイオン電池はメーカーにも宇宙研に納品されたもののとまったく同じものがあり、充電状態や環境状態を同じように変化させて状態を管理しているとのこと。

JAXA 宇宙科学研究所 中村正人教授
「あかつき」に搭載されているリチウムイオン電池
太陽電池パネル(右)と遮光筒(左)
撮影画像を地球に送る高利得平面型ラジアルライン給電スロットアレイアンテナ(左)と低利得アンテナ(右)
研究紹介VTR。映っているのは東京大学大学院 今村剛教授
あかつきが撮影した金星大気の様子
一度軌道投入に失敗したあかつきは姿勢制御用スラスタを使って金星周回軌道に入った

村井純氏による講演「未来をつくる情報基盤”インターネット”」

慶應義塾大学 教授 村井純氏

 「未来をつくる情報基盤”インターネット”」と題した慶應義塾大学 教授の村井純氏によるメディア向け勉強会も行なわれた。

 今や社会の前提となっているインターネット。村井氏はインターネットは「世界で1つの連続したデジタルネットワーク」だということを強調した。インターネットは情報を数字にして運ぶ。デジタルデータが通れば、あいだがなんでも大丈夫という設計になっている。「地球で一個のものを作る、グローバルな社会や空間はこういう考え方でないとできない」と語った。今後のインターネットの将来においてはユーザー数が圧倒的に多い中国の動向が重要になるという。

 人工知能技術についてもふれた。IoTによるビッグデータが生成される時代になっている。「スマートフォンはスーパーセンサー」だ。ほとんどタダのような値段でものすごく高性能なセンサーが搭載されている。またスマートフォン同士で連携した処理も可能になろうとしている。サービスプラットフォームによって連携ができるようになるとさまざまなソリューションが生まれる。

 今中国ではスマートフォンとQRコードでほとんどの場所で支払いができるようになっており、信頼などもデータ化・可視化されるようになっている。またTVの視聴データや自動車の動きもより細かくわかるようになった。農業機械の高度化も進んでおり、イネの食味は収穫時にわかるようになっている。これらのデータの所有権が誰にあるのかは今後議論すべき課題だと述べた。

 「テクノロジーが地球環境を作っている」という毛利氏の談話も紹介し、再度「インターネットは唯一1つだけの環境として作ってきた」と強調。「その意味がなんなのかを考える時期に来ている。インターネット物理モデルがリニューアルしたのはよいタイミングだった」と語った。テクノロジは人間の振る舞いをサポートする方向に進んでおり、そのためむしろ、人間が本当に自分がやりたいこと、やるべきこと、解くべき問題は何なのか考えることの重要性が増しているという。

インターネットの原理
インターネットの階層モデル
TCP/IPのアーキテクチャ
インターネット利用人口。中国の伸びが大きい
関係者による記念撮影