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日本IBM、企業向け気象情報提供サービスを開始

~人工知能Watsonによる解析と組み合わせてソリューション化

 日本アイ・ビー・エム株式会社は2017年3月13日、企業向けの気象情報提供サービスを開始すると発表した。新組織として「The Weather Company Japan」を設立し、気象庁の定める気象情報業務の許可を取得、リアルタイムにアジア・太平洋地域の気象予報を行なう気象予報センター「APFC(Asia Pacific Forecast Center)」を本社内に開設した。

 気象予報、気象データを提供すると同時に、気象データと各業種におけるデータとの関係を「IBM Watson」を始めとする同社のコグニティブ技術で解析し、各業種向けソリューションとして提供する。

気象はあらゆるビジネスに影響をもたらしている

コグニティブプラットフォームとしてのWatson

 会見ではまず、日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員でワトソン事業部担当の吉崎敏文氏が全体について解説した。

 そして、IBM CEOのGinni Rometty氏は「データは21世紀の新たな天然資源である」と述べており、同社ではデータをどう活用するかが企業の競争優位の源泉であると捉えている。Watsonは同社ではコグニティブ・プラットフォームと位置付けられており、今回の気象データ提供はそのソリューションの1つの例となると考えているという。

 The Weather Company プレジデントで、ビジネス・ソリューションズ担当のマーク・ギルダースリープ(Mark Gildersleeve)氏は「気象は、あらゆる産業に影響をもたらす」と語り、The Weather Companyについて紹介した。

 The Weather Companyは35年の歴史があり、BtoB、BtoCそれぞれにおいて気象データ提供ビジネスを行なっている。25万カ所以上の計測点を持ち、モバイルデバイスを通じて5億人以上に気象予測を提供しているほか、140社の航空会社、小売りや保険、公共機関などに気象データを提供している。

日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員 吉崎敏文氏
The Weather Company プレジデント マーク・ギルダースリープ氏

 IBMはThe Weather Companyの事業を2016年1月に買収し、6月にはThe Weather Companyの予測モデルとIBMが開発した機械学習を用いるローカル気象予測モデル「Deep Thunder」を発表している。

 マーク・ギルダースリープ氏は「気象は多くのビジネスに影響をもたらしている。世界の自動車事故の4分の1は天候が原因であり、毎日のエネルギー需要の変化の9割以上が天候が背景にあると言われている。人々の感情にも影響しており、小売りにも直接的・間接的に影響を与えている」と続けた。

 そして「多くの企業は気象情報に対して後追いで対応している。だがこれからはより正確な情報をもとに先読みして気象情報を積極的に活用していくことができる」と語った。

 例えば保険会社が雹(ひょう)の予測を適切に出して顧客に警告を出すことができれば、車のバンパー損傷などをある程度防いで、保険料請求を減少させることができる。エネルギー分野では電力需要予測をサポートすることができる。悪天候が予測される場合は電力会社は停電に対するアクションプランを事前に準備することができるという。

気象は多くのビジネスに影響をもたらす
保険業界は保険料請求を減少させることができるかもしれない

データ分析パッケージの1つとして気象分析を提供

日本アイ・ビー・エム株式会社 ワトソン事業部 加藤陽一氏

 日本アイ・ビー・エム株式会社 ワトソン事業部 The Weather Company Japan Sales担当の加藤陽一氏は、「The Weather Companyのデータは世界最高レベルの精度であり、それを各業種別コンサルタントが分析することで、顧客価値に貢献できるようなユースケースを提案できる」と述べた。予測型の分析を行なうことで、売り上げ増大、リスク低減、リソース配置最適化、生産性向上などを行なうことができるという。

 特にフォーカスしている領域は小売り、保険、政府・自治体、交通・旅行、電力、ライフサイエンスなど。それぞれの領域でコンサルタントがデータを分析して、ソリューションとして提供する。中にはSaaSのアプリケーションとしてパッケージ化されているものもある。日本の顧客の多くは既に同社のデータ分析パッケージである「SPSS Modeler」を使っており、その中からAPIを通じて呼び出して使うこともできるという。

単なる気象データ提供に留まらずビジネス価値を提供する
各業種の気象データの価値

 デモでは、メディア向け、エネルギー業界向け、航空業界向けなどのソリューションの例が示された。今後に関しては小売り、エネルギー、交通などのビジネス領域における中長期予報の精度を上げることに注力しているという。

 マーク・ギルダースリープ氏は、全部で162の予測モデルを作っており、毎日ロケーション独自の重み付けをして7カ月先までの予測を行なっているが、機械学習を使ってさらに精度を上げていきたいと述べた。ただし最終的には人間の予報士が判断することが重要であり、「人間というファクターを追加することでより良い結果をもたらしていきたい」と語った。

 また吉崎敏文氏は、今後、気象データと同様に、IBMが取得してコグニティブ技術で深掘りすることで、ビジネスに新たなインパクトをもたらすことができる分野としては、ライフサイエンス・医療をあげた。昨年(2016年)、ワトソンは200社以上の顧客に導入されたが、今年(2017年)はさらに裾野を広げていくという。

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