イベントレポート

IBM Watson CTOロブ・ハイ氏基調講演レポート

~ディープラーニングやAIの普及によりコンピューティングのモデルは変わっていく

AldebaranのNAOとWatsonの組み合わせについて語るIBM フェロー兼 副社長 兼 Watson担当CTO(最高技術責任者)のロブ・ハイ氏

 IBM フェロー兼 副社長 兼 Watson担当CTO(最高技術責任者)のロブ・ハイ氏は、4月6日午前11時(現地時間)から行なわれたGTCの2つめの基調講演に登壇し、IBMが開発しているコグニティブコンピューティングプラットフォームとなるWatsonについての講演を行なった。

 コグニティブとは知覚を意味する英語で、コンピュータシステム(実際にはクラウドベースだが)に学習機能を搭載することで、自然言語を覚えたり、人間とゲームをしたり、いわゆるAI(人工知能)に近いような仕組みを提供する。

 講演の中でハイ氏は、ソフトバンクのロボット“Pepper”を共同開発したロボットメーカーとして知られているAldebaranのNAOとWatsonを組み合わせた例に紹介したほか、WatsonのトレーニングにGPUに使うと、8.5倍高速になるとアピールした。

IBMが開発しているいわゆるAIをクラウドベースで提供するWatson

 冒頭に登場した、NVIDIA アクセラレーテッドコンピューティング担当副社長のイアン・バック氏は、「機械が100万ドルを必要としているのかよく分からないけど」とジョークを飛ばしながら、WatsonのCTOであるロブ・ハイ氏を紹介した。IBMのWatsonは2011年に、アメリカの有名なクイズ番組「Jeopardy!(ジェパディ!)」の特別大会に、2人のチャンピオンとの勝負に臨み、見事に1位になり賞金として100万ドル(日本円で11億円)を獲得したエピソードは米国ではよく知られているのだ。

NVIDIA アクセラレーテッドコンピューティング担当副社長 イアン・バック氏
IBM フェロー兼 副社長 兼 Watson担当CTO(最高技術責任者)のロブ・ハイ氏

 ハイ氏は、IBMのエンタープライズ向けのWeb業務システム「WebSphere」の開発に関わるなど、IT業界での経験が長いエンジニアだ。そのハイ氏が開発を進めているWatsonは、同氏の言葉を借りると“コグニティブコンピューティングプラットフォーム”となる。コグニティブとは知覚を意味する言葉で、入力される情報によりさまざま学習していくコンピューティングシステムだ。俗な言葉で表現するとすれば“AI”(人工知能)の一種でだ。Watsonはクラウドベースのプラットフォームとして提供されており、既に商用サービスも開始されている。

 同氏は「2015年の時点で1日に2.5EBのデータが生成されている。しかし、2020年にはそれが1日44ZBと加速度的に増えていく。それらを処理していく仕組みが必要だ」と述べた。現在の一般的な科学者が最新の研究を読むために使う時間は1カ月に5時間程度だが、将来的には1カ月に160時間が必要になる計算だ。このため、情報を理解して整理してくれるコンピュータシステムが必要であり、それをどのように実現するかが現在のテーマだという。

現在は1日2.5EBのデータも2020年には1日に44ZBになる
コグニティブコンピューティングプラットフォームの概念
Watson進化の歴史

AldebaranのNAOとWatsonを組み合わせたビデオをデモ

 そうしたソリューションの1つがWatsonだ。Watsonでは人間が与える情報により、成長していくコンピューティングシステムになる。例えば、子供向けには恐竜の形をしたロボットとして提供し、子供の言うことを学習していくという。「コグニティブコンピューティングは教育により学習して、進化していく。子供が成長していくようなものだ」と述べ、学習が重要であると強調した。

 具体的にWatsonを利用したロボットの例として、Aldebaranが作った「NAO」と組み合わせて、より多くのことをNAOが学習していき、より多くのことができるようになる様子をデモした。

ロボットとWatsonを組み合わせることでコンピュータの形が変わる
Watsonのロボットでの使われ方
AldebaranのNAOとWatsonを組み合わせたビデオ

 その上でハイ氏は「現在のコンピューティングパワーは全く十分ではない、もっともっと演算性能が必要だ」と述べ、Watsonを利用したディープラーニングのトレーニングにGPUを採用することで、CPUより8.5倍高速に処理できるとし、今後WatsonのトレーニングにGPUを積極活用していくとした。既にIBMはWatsonのプラットフォームに、GPU(NVIDIA Tesla K80)によるアクセラレーションを加えており、GPUを利用したトレーニングを行なえる。

WatsonのトレーニングにGPUを活用すると8.5倍になる

 最後にハイ氏は「10年以内にコグニティブコンピューティングは、現在のトランザクションベースのコンピューティングにとって変わると思う」と述べ、AIやディープラーニングの普及により、コンピューティングのモデルは大きく変わっていくだろうと指摘して、講演をまとめた。

10年以内にトランザクションベースのコンピューティングからコグニティブコンピューティングへ進化する

(笠原 一輝)