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静岡大、授業の動画化にMicrosoft Azureを活用し年間10億円の費用を削減

覚書に署名する日本マイクロソフトの平野拓也社長(左)と、静岡大学の伊東幸宏学長

 国立大学法人静岡大学と日本マイクロソフトは8日、大学教育におけるデジタルトランスフォーメーションの推進に関して協業すると発表。2017年3月8日、静岡県静岡市の静岡大学において、両者の関係者が覚書を結んだ。

 静岡大学では、低コストで反転授業を実現するクラウド反転授業支援システムを開発。これを、Microsoft Azureを活用した「大学教育テレビジョン」として、静岡大学で活用するとともに、全国の大学に向けて提供していく。同校では、動画コンテンツの制作、保存、配信費用などにおいて、年間10億円の削減ができると試算している。

 また、静岡大学の学生1万人を対象に、Office 365 Educationの活用を強化。2017年4月から、OneNoteクラス ノートブックの運用を開始することも発表した。

署名した覚書を持って握手する日本マイクロソフトの平野拓也社長(左)と、静岡大学の伊東幸宏学長
覚書の調印は、日本マイクロソフトおよび静岡大学の関係者が出席して、静岡大学で行なわれた
今回の協業の内容

 今回の協業において、日本マイクロソフトは、Office 365 Educationなどのマイクロソフトテクノロジー導入における技術支援、全国の大学に向けた提案サポートのほか、クラウド反転授業支援システムセミナーの開催や講師派遣などを行なう。

 反転授業は、授業の前にデジタル教材で予習し、授業中はディスカッションに集中するなど、基礎的な学びを教室以外の場所で繰り返し行う仕組みを採用。教育手法の改革として、その有効性が注目されてきた。

 静岡大学では、2012年から研究を開始し、静岡大学全体で2,000科目を超える授業の動画化と、教材の電子化に取り組んできた経緯がある。

 静岡大学が開発した反転授業支援システムは、誰でも簡単に低コストで授業動画を制作できる機能や、動画を含む教材の保管を組織の規模に応じて自由に増減できる機能、動画を含む教材を高速に世界中に配信する機能を持ち、これをベースに2016年からは、クラウドやマルチメディアミックス、教材電子化の技術を活用することで、クラウド反転授業支援システムへと進化。校内外の420人の教職員を対象に実証実験を行なってきた。

 2016年2月から2017年3月2日までの実証実験の結果では、反転授業支援システムでは、1,650人の教員および学生が登録。239科目において、937科目で利用。725本動画コンテンツが登録されている。そのうち、Office Mixによる動画は380本、YouTubeの動画は345本が登録されている。

 今回の日本マイクロソフトとの協業にあわせて、2017年4月から、静岡大学におけるクラウド反転授業支援システムの本格的な運用を開始する。

 「教員の教え方改革、学生の学び方を変革するものになる。低コストの反転授業は、世界に類を見ない画期的なものであり、教育の革新をもたらすことになる。全国の大学のデジタルトランスフォーメーションの推進を支援していく」(国立大学法人静岡大学の伊東幸宏学長)とした。

 また、日本マイクロソフトの平野拓也社長は、「今回の静岡大学におけるデジタルトランスフォーメーションへの取り組みでは、学生との繋がりを変え、学生や教員にパワーを与え、授業コンテンツを変え、教育および研究の業務を最適化することを目指す。日本マイクロソフトでは、静岡大学に対する支援とともに、この成果をもとに、20人の営業部門担当者や、1,000社の教育分野向けのパートナーが、全国800校の大学に対しても、アプローチをしていくことになる」と述べた。

 クラウド反転授業支援システムでは、Azureの全面採用により、登録動画数、教材数、教材容量の制限がなく、保管容量不足や処理能力の低下の心配がなくなったほか、動画の制作やクラウドへの保管、世界への配信を追加コストがなく行なえるという特徴を持つ。学生はパスワードを使用して、動画を閲覧することで学習に利用することが可能になる。Office 365で提供されるOffice Mixを活用することで、簡単にコンテンツを開発できるのが特徴だ。

 「クラウド反転授業支援システムは、授業が終わった時点で、動画を完成させることができる。しかも、PowerPoint以外の専用ツールなどは不要である。一般的なPCを使って、テレビ会議システムとは比較にならない画質の動画コンテンツを制作でき、反転授業に十分利用できるものが提供できる。

 さらに、クラウドの特徴を生かして、静岡大学の教員だけでなく、全国15万人の大学教員全員が使用しても余力がある形で配信ができる。この点がクラウド反転授業支援システムの新規性になる。静岡大学のノウハウと、マイクロソフトの協力がなければ実現しないもの」(国立大学法人静岡大学 教授 情報基盤センターの井上春樹センター長)とした。

 静岡大学による試算では、4,600科目中2,000科目で動画コンテンツを利用。1科目あたり10本の動画コンテンツを制作するとした場合、1本あたり5万円の制作料で換算すると年間10億円の費用がかかるとしている。クラウド反転授業支援システムを活用することで、これに関わるコストがなくなる。

 「静岡大学の学生は約1万人。これを全国の285万人の大学生に適用した場合には、2,850億円の必要が必要になると見られるが、これがなくなる」(静岡大学・井上センター長)という。

 反転授業は、その有効性が注目されていながらも、動画コンテンツの制作費用が高く、それを実証するような環境が整っていなかったのも事実。今回のクラウド反転授業支援システムの活用によって、低コストで多くの動画コンテンツを制作できるようになれば、反転授業の効果実証にも弾みがつくものと考えられる。

クラウド反転授業支援システムのシステム構成
動画コンテンツの様子
年間で10億円規模のコスト削減が期待できるという
これを全国の大学に展開すると2850億円のコスト削減に繋がる
反転授業の定義

 一方、教育分野においては、2018年問題と呼ばれる大学の定員割れの課題がある。2026年には、約20%の定員割れが見込まれており、これを埋めるために、大学では留学生の受け入れや、社会人学習への拡大などの取り組みを進めようとしている。反転学習は、留学生や社会人の学生の授業を効果的に行なう場合にも活用できるとしている。

 国立大学法人静岡大学 理事(企画戦略・情報・人事担当)の東郷敬一郎氏は、「社会人学生や留学生が増加した場合にも、授業で理解できなかったり、授業に参加できなかった場合などにも活用できる。教育効果を上げるために、このシステムをツールとして提供していく。静岡大学では、2020年までには、全授業の50%を反転授業に採用したいと考えている。反転授業そのものの浸透とともに、支援システムを普及させたい」とした。

 一方、第4次産業革命に向けた人材育成として、次世代AI人材の育成のための講座、ワークショップを実施する考えも明らかにした。

 日本マイクロソフトの最新技術をタイムリーに提供し、CTOやAI技術者を派遣する。また、同社が取り組んでいる働き方改革に関する知見も提供。「将来のビジネスパーソンに向けて、将来の働き方とはどんなものになるのかといったことをメッセージしていく。大学の未来に向けたデジタルトランスフォーメーションに貢献したい」(日本マイクロソフトの平野社長)という。

 今後は、制作した日本語の動画コンテンツを、マイクロソフトのAI技術を活用して英語にするなど多言語化を図る一方、人型ロボットを活用した講義の実現、教育および研究分野へのAIの活用なども行なう。

 日本マイクロソフト 執行役員常務 パブリックセクター担当の織田浩義氏は、「動画の編集スキルが必要であったり、煩雑な作業が必要であったが、Office Mixを活用することで、PowerPointで簡便にオンライン講義のコンテンツが制作でき、しかも、この機能をアドオンで無償利用できる。

 文教分野向けのOneNoteクラスノートブックによって、教科書、参考書に加えて、ノートもデジタル化でき、教育から学生に向けて一斉に教材を配信したり、双方向でノートを共有したりといった機能を搭載している。音声および文字の翻訳エンジンを活用して多言語対応も図っていくことができる。クラウドから生まれる価値を活用して、静岡大学の変革に加えて、全国の大学の変革の支援を行なう」とした。

 静岡大学では、基幹システムや事務用システムをAzureに移行する計画も明らかにした。「現在、72台のプライベートクラウドを活用。パブリッククラウドでは280台を利用している。今後、95~97%をパブリッククラウドに移行したい。高い信頼性があること、日本リージョンが設置されていることが採用した理由」とした。

国立大学法人静岡大学の伊東幸宏学長
国立大学法人静岡大学 理事(企画戦略・情報・人事担当)の東郷敬一郎氏
国立大学法人静岡大学 教授 情報基盤センターの井上春樹センター長
日本マイクロソフト 代表取締役社長の平野拓也氏
日本マイクロソフト 執行役員常務 パブリックセクター担当の織田浩義氏