ニュース
富士通、“匠のモノづくり”でコンピューティングを支える島根工場を公開
2017年2月24日 15:54
富士通クライアントコンピューティング(FCCL)は、ノートPCの生産拠点である島根県出雲市の島根富士通の様子を公開した。
今年(2017年)2月1日に、同社が設立1周年を迎えたのに合わせて、「FCCLの匠体験会~FCCLのテクノロジーの今と未来」と題し、同社の事業戦略や島根富士通におけるモノづくりの強みなどを紹介するものになった。
富士通クライアントコンピューティング 代表取締役社長の齋藤邦彰氏は、「匠体験会の企画は、社員全体が、仕事そっちのけで、全力で準備をしてきた。もちろん、これも仕事ではあるが」と会場を沸かしながら、「富士通クライアントコンピューティングは、『あらゆる人、あらゆる場所で発生する、あるいは必要とされるコンピューティングを全てまかなうことにより、お客様の豊かなライフスタイルに貢献する』ことを目指している。匠の技術を使って、いち早くいい製品を届ける疾風を実現しながら、35年間、PC事業をやってきた。世界初の製品を出し続けてきた。歴史を活かさなくてはいけない。ベストフィットの製品を出すということには負けない。そして、1台ごとに違うものを作ることができ、顧客が求めるリードタイムで出荷することができる。これは、開発、生産、サポートの全てを日本で完結できるスーパーバリューチェーンが、匠を支えるものになっている」などとした。
島根富士通は、国内最大規模を誇るPCの生産拠点でもあり、1990年に、富士通製PCの生産拠点として操業。2013年には、累計生産台数が3,000万台を突破している。
当初は、FM TOWNSを始めとするデスクトップPCの生産も行なっていたが、1995年からはノートPCの生産に特化しており、現在ではタブレットの生産も行なっている。そのほか、富士通のデスクトップPCの生産を行なっている福島県伊達市の富士通アイソテックと連携。事業継続性の観点から、島根富士通でもデスクトップPCの生産を行なえる体制を構築しており、定期的に試験生産を実施している。このように幅広い製品を生産できる点も島根富士通の強みの1つだ。
2011年には、島根富士通が立地していた斐川町が、出雲市に編入。それに伴い、島根富士通で生産したPCを「出雲モデル」としてブランド展開。出雲市では、ふるさと納税の返礼品の1つに、島根富士通で生産したノートPCを用意している。
島根富士通の宇佐美隆一社長は、「我々が目指す匠は、クラフトマンという部分だけでなく、プロセスの部分も含まれる。現場を変えることをいかに組織としてできるかが鍵であり、日々、小さな改善を積み上げることで、イノベーションにできる。モノづくり現場の匠を見て欲しい」とした。
富士通 執行役員専務の河部本章氏は、「富士通は、通信機器の会社としてスタートし、その後、情報分野に進出。ハードウェアの上にSIなどのサービス事業を築いてきた。今後、富士通は、デジタルサービスに舵を切るが、他社との違いは単純なサービスカンパニーではなく、強固な技術を基盤としたサービスカンパニーであるという点。今回の匠体験会を通じて、たくさんの技術を見てもらえる。ユビキタスソリューション事業の技術は、深さともに、数がある。この点では、エンタープライズを遙かに超えている。強い技術を大事にしながら、いかにサービスに結び付けていくかという視点で考えていく。さらに、島根富士通の生産ラインは、富士通グループの工場としては最高のものの1つとなっている。また、FCCLは顧客ごとにカスタマイゼーションができるのが大きな強みと言える。持っている技術を社会の繁栄や、人の繁栄に結び付けていくことが重要である」とした。
一方、来賓として登壇した島根県庁昇降労働部の安川真史次長は、溝口善経兵衛知事の代読として挨拶。「島根富士通は、操業27年目を迎え、PCの一貫製造を行なう国内最大規模の工場として、また、1,000人を超える県内有数の企業に成長してきた。トヨタ方式をベースにした生産革新活動やIoTへの取り組み成果を、全国に展開しており、県内の産業レベルを引き上げる役割も果たしてきた。島根県では、Rubyを中心にソフト系IT産業の集積が進みつつあり、経済産業省の地方版IoT推進ラボにも、しまね研究開発センターが選定された。古くからモノづくり産業が、この地域の文化を支えている」と述べた。
また、出雲市の長岡秀人市長は、「島根富士通は、地元企業という思いでおつきあいをしてきた。2015年には、第6回ものづくり日本大賞において経済産業大臣賞を受賞し、匠のモノづくりと、人と機械の協調生産が評価された。島根富士通で生産されたノートPCは、出雲モデルとして販売されており、出雲ブランド商品の第1号製品にもなっている。FCCLが分社化して1年を経過し、これを機にさらに発展させて欲しい。今後、モノを作りへの期待だけでなく、教育分野における協力などにも期待している」とした。
山陰中央テレビジビョン放送 代表取締役社長の田部長右衛門氏は、「当社は、富士通グループとは長いつきあいがあり、合弁会社を設立したり、富士通の機器販売を行なうグループ会社もあり、緊密である。出雲モデルを全国に発信してもらうことは地元企業としても喜ばしい。富士通のパートナー企業として、最新技術を勉強し、これを島根から全国に発信したい」と語った。
島根富士通の生産現場
一方、富士通クライアントコンピューティングでは、島根富士通の生産現場の様子を公開した。
島根富士通は、2003年からはトヨタ生産方式をもとにした生産革新運動をスタート。この10年間で、製造コスト50%削減、リードタイムの80%改善などの成果を上げている。
半導体基板を製造する基板実装ラインは10本あり、50×50mmから410×360mmまでのさまざまな基板サイズの生産が可能なのが特徴。
また、高速で実装する高速マウンターの採用の最新の設備の導入により、0603(0.6×0.3mm)と呼ばれる微細な部品や異形の大型コネクタの搭載も柔軟に行なえる。実際、1日の段取り替えは、280回にものぼっており、1ロット10枚といった小ロット生産にも対応できる体制を構築している。
ノートPCやタブレットにおいては、小型、軽量化を追求するため専用基板を開発することになる。小ロットの生産にタイムリーに基板を供給することが求められる。締まる根富士通で柔軟性が高い基板実装ラインを持つことは、富士通クライアントコンピューティングが持つ匠のモノづくりを実現する上では欠かせないものだ。
現在、1つの基板から2機種分のマザーボードやサブボードを生産。さらに、最終検査工程では、アームロボットと、パラレルリンクロボットを活用。基板分割や最終検査を完全自動化している。
一方、組立工程では、17本のラインがあり、そのうち、6本の生産ラインで、PCとタブレットの両方が生産できる混流ラインを実現している。現在、島根富士通で生産する製品の約2割がタブレットだ。
今回公開した組立ラインでも、ノートPCとタブレットが1台置きに生産するといったシーンが見られており、小ロット多品種生産を実現していることを示した。
これに合わせて、部品をピックアップする仕組みを進化させ、混流生産に合わせた部品供給ができるようにしたほか、生産工程のシミュレーションによる効率的な生産手順や、最適な機器および人の配置などを仮想的に検証する「VPSシミューション」を導入し、効率的に作業を行なう環境の設計ができるようにしている。
島根富士通では、機械や治具の導入にも積極的で、「人と機械の協調生産」の実現を目指している。
さらに、IoTの活用にも余念がない。Intelとの提携により、センサーを活用することで、修理工程を可視化。不具合部品の所在やステータスを把握し、これをタイミングよくトラックに積載するように改善を図った。
従来は、定期出発のトラックに積載することができないといった問題が発生していたがこれを解決し、修理工程内のリードタイムが20%短縮し、出荷遅延の抑制により、輸送コストの30%削減が実現したという。こうした細かい改善と、最新技術の採用による取り組みが、コスト削減に繋がっているという。
島根富士通の工場内の様子を、写真を中心に追ってみた。
最後に、富士通クライアントコンピューティングの齋藤社長は、「現在は、工場のラインにおける日々の改善を伴った匠のモノづくりが進められている。それを最大化するようなアプリも提供している。その先には、やらなくてはならないことは多い。コンピューティングは日々進化し、カバーするエリアも増える。クラウドとエッジの分散処理や、Intelligent GateWayといった領域でも活躍できるチャンスがある。成熟すればするほど、リアルワールドを形成するフロントと、クラウドやAI、IoTプラットフォームなどで構成されバックとの間に存在するエッジコンピューティングにおいて、やらなくてはならないことが増えてくる。富士通クライアントコンピューティングは、エッジコンピューティングで成長できると考えている。未来にも期待して欲しい」と述べた。
なお、LenovoとのPC事業の統合については、「協議をしていることは当社側からも発表をしているが、それ以上のことは言えない。決まっていることは何もない。工場の維持についても話はできない。だが、このように工場を見せ、匠を分かってもらうのは我々の意思。顧客に受け入れられる限り続けたい」と述べた。