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大阪大学、BMI義手を利用し幻肢痛を制御することに成功

~幻肢運動の脳情報を減らすことで痛みを低減

概念図

 大阪大学は、「ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)」技術を活用した義手(BMI義手)を使った新たな訓練方法を開発し、幻肢痛患者の痛みをコントロールできることを発見したと発表した。

 本研究は栁澤琢史寄附研究部門講師(大阪大学国際医工情報センター)、齋藤洋一特任教授(大阪大学大学院医学系研究科脳神経機能再生学共同研究講座)、株式会社国際電気通信基礎技術研究所 神谷之康室長、ケンブリッジ大学/脳情報通信融合研究センター/大阪大学免疫学フロンティア研究センター Ben Seymour教授らの研究グループによって行なわれたもの。

 人間は事故などで手や足を失った後も、まだ手や足があるように感じ、そのような“幻の”手や足に痛みを感じる場合がある(幻肢痛)。神経が脊髄から引き抜けるなど、感覚がなく、全く動かない場合にも幻肢痛が発生するが、幻肢痛は通常の鎮痛薬だけでは消えず、痛みで眠れない、仕事がままならないなど、生活に大きな支障が出てしまう。

 幻肢痛は手や足を失ったことに脳が適応できないため生じると考えられており、失った手の機能を再建することで痛みが減弱すると考えられてきたが、鏡などを使用して失った手が戻ったように錯覚させることで、対応する脳活動を訓練する治療を行なっても、全ての患者の痛みが減るわけではなかったという。

 また、幻肢の脳活動が強く残っているほど痛みが強いという報告もあり、脳活動と痛みとの因果関係は分かっていなかった。

 今回、研究グループは、手の動きを念じることで、脳活動をコンピュータが検知し動かすことのできるBMI義手を用いて、患者が頭の中で幻肢を動かしながら義手を操作する訓練を行ない、訓練により痛みがどのように変化するかを調査したという。

 調査は大阪大学医学部附属病院脳神経外科に通院する幻肢痛患者10名を対象として行なわれ、まず、患者が幻肢を動かすことを考えた時の脳活動を脳磁計で計測し、機械学習により脳信号のパターンをコンピュータに学習させ、幻肢を動かす時の脳信号をロボットの動きに変換する「幻肢運動デコーダ」を作成。次に、患者がこのデコーダを使って動くBMI義手を、幻肢を動かすつもりで操作する訓練を行ない、訓練前後で幻肢の動きを念じる課題を行なった際の脳活動を比較した。結果、訓練後には幻肢の動きに応じた脳信号の変化が大きくなったが、当初の予想に反し、痛みも増加したという。

 次に、患者の健康な方の手を動かした時の脳信号をロボットの運動に変換する「健常肢運動デコーダ」を作成し、それを使ってBMI義手を作成。先の実験と同様に、患者が幻肢を動かすことを考えながらBMI義手を操作する訓練を行なうと、失った手に対応する脳部位の活動が持つ幻肢運動の脳情報は少なくなり、痛みは減弱したという。

 これらの結果から、BMI義手を動かすための手本となる脳活動を変えることで、幻肢を動かすための脳活動を操作することができ、これに伴って痛みをコントロールすることに成功したとする。

BMI義手を使った訓練
BMI訓練による痛みと脳活動の変化。オレンジ色の円で囲まれた部分が失った手に対応する脳部位で、色が明るいほど幻肢運動の脳情報が多いことを示す

 幻肢痛患者の痛みは長く続き、有効な治療法がないため、社会生活への支障、慢性的な投薬などが大きな問題となっている。大阪大学では、同研究は幻肢痛患者の痛みを減らす訓練ができることを明らかにし、これまで考えられていた仮説に反して、幻肢運動の脳情報を減らす訓練をすることで痛みが低下することを明らかにしたとして、今後、研究成果を応用した治療法が開発されることが期待されるとしている。