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パナソニック、最大速度1Gbpsを実現する「HD-PLC Quatro Core」

パソナニック製のHD-PLC同軸LANコンバータ

 パナソニックは、高速電力線通信「HD-PLC」ソリューションに関する技術説明を行なった。

 HD-PLCは、電力線を通信線として用いる高速電力線通信技術で、通信ケーブルを張ることなく、物理速度で最大速度240Mbpsの有線による安定したネットワーク通信が行なえるのが特徴だ。国際標準規格にも認定されており、他社へのライセンス提供も行なっている。電力線のほか、同軸線や電話線などさまざまな既設線を活用する通信モデムとして、BtoB分野を中心に浸透している。

パナソニック AVCネットワークス社技術本部PLC事業推進室の荒巻道昌室長

 「現在、HD-PLCは、年間約200万台の出荷規模。もともとは家庭用の利用を想定していたが、家庭では無線LANが普及したこともあり、苦戦している。だが、屋内だけでなく、屋外でも利用メリットがあり、BtoBでの使用が増えている。IoTの広がりとともに活用範囲はさらに広がることになる」(パナソニック AVCネットワークス社技術本部PLC事業推進室の荒巻道昌室長)とする。

 「HD-PLCのコンセプトは、2つの用途に利用する“Dual Usage Concept”。これは、パナソニックの創業時のヒット製品であり、電灯と家電用ソケットに利用できる二股ソケットと共通した考え方であり、HD-PLCでは、電力線を電力供給とデータ伝送の2つの用途で利用できる。2000年にコア技術を開発し、2006年に第1世代アダプタ製品を発売した。IoT時代を迎えて、HD-PLCが改めて注目を集め始めている。コンセントに差し込むだけでどこでも通信が可能になり、無線通信の不安定を解決。無線が届かない部屋や障害物がある場所での通信も可能になる」(パナソニック AVCネットワークス社技術本部PLC事業推進室の荒巻道昌室長)とする。

 これまでにも、電力線の状態によってノイズの影響を受けやすく繋がりにくいという課題が指摘されたり、接続台数や接続距離が短いといった問題もあったが、「電力線の状況に合わせて特性を推定し、高速化を実現できる伝送路推定技術の採用や、通信距離を数kmまで拡張できるマルチホップ機能の開発によって、こうした課題が解決されてきた。マルチホップ機能により、10段階の中継が行なえるほか、それまでは総接続数が128個までだったものを、最大1,000個にまで拡張。これにより、ビルや工場といった産業分野のほか、従来の通信手段では対応困難であった分野にも拡大が期待できる。無線通信方式に比べて、安定性、コスト、利便性においてメリットがある。日本では、利用の規制の課題もあるが、今後は、社会インフラを支える通信技術に位置付けたい」とした。

 従来のHD-PLCでは、2つの端末の間を1対1で通信するものであったのに対して、マルチホップ機能では、1つの端末から、複数の端末へデータを次々に飛び越え(ホップ)させることで、通信距離を伸ばすことができる。この実現においては、国際標準規格であるITU-T G.9905で採用したマルチホップ通信プロトコルを採用しているという。

 また、ルーティング負荷を軽減し、伝送特性の変動に対応して通信ルート探索を自動で行なう機能を備えており、これにより多数の端末による設置設計を容易に行なえるほか、運用時に、ある端末に故障が発生した場合でも通信ルートを自動変更し、保守性の高めることができるという。

 「無線通信が困難で不安定なビル内や、屋外の環境に設置する場合であっても、既設の電力線を利用しながら、マルチホップ機能による長距離伝送を実現できる」という。

 また、HD-PLCは、電力線だけでなく、同軸線、ツイストペア線、電話線といったさまざまな線を活用可能。既設ビルなどでは、既設線を有効活用することで、配線工事コストを大幅に削減できるとともに、機器や設備のメンテナンス性向上にも寄与できるという。

HD-PLC開発の背景
HD-PLCの通信速度の改善
分電盤を超えての通信でも繋がるようになった第3世代
規格化とマルチベンダー化
マルチホップ中継機能を実装
既存の線を利用できる

 例えば、エレベータにおいては省線化に貢献。エレベータ内の監視カメラ、サイネージ表示、緊急電話などの利用においても、HD-PLCを活用することで配線数を少なくすることができ、配線のシンプル化、メンテナンス時間の削減が可能だという。また、セキュリティカメラでは同軸LANコンバータを活用して、同軸ケーブルで最大2kmの使用が可能であり、DC電源(48V)の供給とともに映像通信を実現するという。

 さらに、中国/北京の地下鉄では、車両サイネージでHD-PLCを利用。パナソニックが開発した水中インフラ点検ロボットにおいても、水中ロボと船上操作者間の通信方式として、HD-PLCを採用し、水深200mまでの点検を可能にしている。

 そのほか、神奈川県藤沢市のスマートタウン「藤沢SST」にも導入されている。LED誘導手すりでは、炎センサーと連動させることで、火災発生時などに手すりに埋め込まれたLEDが避難する方向を示すように点滅。ここにもHD-PLCが使用されているという。

エレベータの省線化
ロボット通信での利用
監視カメラでの利用
北京の地下鉄での利用
LED誘導手すりでの利用
水中インフラ点検ロボットにおいてもHD-PLCを採用
監視カメラもHD-PLCで接続することで既設線を利用できる
神奈川県藤沢市のスマートタウン「藤沢SST」にも導入されているLED誘導手すり

 日本では、電波法による規制で、HD-PLCが家庭内での利用や分電盤配下の敷地内での利用に限定されているため、屋外での利用については導入が進みにくいという商況にあるが、2015年5月に設立した高速PLC技術実証研究会(会長・岡本浩氏=東京電力ホールディングス常務執行役)により、IoTの普及に伴うHD-PLCの利活用に向けた実証実験などを進めており、同時に規制緩和への働きかけを行なう姿勢もみせている。同研究会には、現在、65社の企業が参加しているという。

 一方パナソニックでは、HD-PLCに関して、LANの通信規格であるIEEE 1901の認証を取得。IPコアをパナソニックが開発し、LSIメーカーに対して、「HD-PLC」Completeライセンスを2010年から提供。さらに、2016年7月からは、マルチホップ機能搭載の「HD-PLC」IPコアの提供を追加。また、通信速度を現行の最大4倍にまで拡張するスケーラブルな「HD-PLC」IPコア(HD-PLC Quatro Core)のライセンスを、10月1日から新たに追加することも発表した。

 「誰でも商品化できる技術として、標準化とマルチベンダー化が必要であると考えている。それを実現するために、IEEEの規格化と、IPライセンスの認証を行なっている。これまでに7社にライセンスを供給している。新たにライセンスするHD-PLC Quatro Coreでは、最大速度1Gbpsの実現により、8K映像が伝送可能になる。ワンチップで用途に応じて5段階のモード切り替えが可能であり、1つのIPコアを提供することで、選択して利用できる拡張性と柔軟性を持つことになる」とした。

 気になるのは、家庭向けの製品戦略だが、同社では、まずは事業拡大が見込めるBtoB分野への取り組みを優先する考えを示すものの、今後、家電へのIoTの広がりなどにあわせて、改めて普及戦略を描く可能性もありそうだ。

 同社では、今後、「線あるところはHD-PLCでつなごう!」をマーケティングメッセージにして展開していく考えだという。

 なお、同技術は、10月4日から、千葉県幕張の幕張メッセで開催されるCEATEC JAPAN 2016のパナソニックブースで展示される予定だ。

高速PLC技術実証研究会
会員一覧
研究会実施の様子
HD-PLCが提案するIoTソリューション
IoT機器と通信方式の考え方
IoTネットワーク例
線のあるところは「HD-PLC」でつなごう! というマーケティングメッセージ
HD-PLC Quatro Core
1つのIPコアで実現
発表会のまとめ