やじうまミニレビュー
キヤノン「PIXUS iP2700」
~超破格、2,950円カラーインクジェットプリンタの実力
(2015/4/29 06:00)
キヤノンが発売する「PIXUS iP2700」は、同社のインクジェットプリンタの中で最下位に位置するモデルだ。以前筆者が紹介したロジクール製スピーカー「Z120BW」と同様、Amazon.co.jpのプリンタカテゴリではベストセラーとなっている。なぜ売れているのかと言えば単純で、プリンタ本体としては破格の2,950円(購入時。4月29日現在は2,882円)を実現しているからだ。
PCを始め、スマートフォンやインターネットの普及により、紙の電子化が進んでいる昨今、企業でも個人でもプリンタへのニーズは下がる一方と思われがちだが、紙だけが持つ利便性や手軽さはほかのものには代えがたく、紙そのものを生活から完全に取り除くまでには至っていない。ペーパーレス化に関する記事を数十年書いているPC Watchでも、この記事を含め未だ文章の校正は紙で行なっていたりするし、このiP2700を総務部で購入してもらうように依頼する書類も未だ紙だ。
そして筆者はプライベートでも航空券やスケジュール、オフライン地図の印刷など使うシーンもあるので、何かと1台プリンタは必要になる。「コンビニプリントがあるじゃないか」と言われるかも知れないが、以前PDFファイルをコンビニプリントで注文したところ、なぜか送ったファイルが認識されず印刷できないトラブルがあった。旅行の前日にまさかの航空券が印刷できないトラブルで焦ったが、仕方なくヨドバシカメラに足を運んでプリンタを買った記憶もある。
仕事はともかく、個人でプリンタを本格的に使っているのかと言われればそうではない。先述の通りライトな使い方がメインなので、正直今のPCで印刷できて、換えのインクがちゃんと売られていれば、1994年に発売された「BJC-400J」クラスの性能でも十分使えるのではないかと思う(当然、この機種はWindows Me時代でドライバのサポートが終了しているし、今の大半のPCはパラレルポートがない)。この程度の使い方なので、購入するならば安価に越したことはないし、それで問題はないと思っている。
iP2700はまさにそう言ったニーズにピッタリなプリンタだ。BJC-400Jは決して高スペックのプリンタではないと記憶しているが、それでも定価は59,800円で、筆者も3万円程度で購入した記憶があるので、まさに隔世の感がある。ちなみにiP2700の発売は2010年の2月下旬と、既に5年も経過しているのだが、今なお生産を続けており、長らくモデルチェンジがないロングセラーである。
それではパッケージを見ていこう。パッケージ本体に相応しい大きさで、軽いため1人でも楽々設置できる。内容物は本体と各種マニュアル、ドライバCD-ROM、電源ケーブル、インク(カラー/モノクロ)と至ってシンプル。本機はUSB接続にしか対応していないが、肝心なUSBケーブルは別売りである。コストダウンの一環でもあるのだが、PCからプリンタまでの距離に応じて自分で好きな長さのケーブルを選べ、余ったケーブルが無駄にならないという意味では正解かもしれない。
本体は梨地仕上げで、ASF付き給紙トレイ部は光沢がある仕上げとなっている。中央にPIXUSの立体的なエンブレムが入っており、安っぽさは感じられない。メディアスロットなどが一切なく、単機能機のため、至ってシンプルな外観で好感が持てる。
コストダウンの努力はあちらこちらに見られる。まず、一般的なプリンタでは当たり前となる排紙トレイがない。このため排紙はそのまま床や机の上に行なわれる。また、給紙トレイもなく、背面のASF(オートシートフィーダ)による手差し給紙のみである。よって使わない時は用紙を取る必要があり(ホコリが積もるため)面倒だ。機能には関係ないが、電源ユニットは底面はめ込み式で、これもコストダウンに繋がっているのだろう。
ただコストダウンで妥協しているのはそれぐらいで、フレームは金属製で剛性が高く、印刷中左右に揺れてしまうようなことはない。フタを開けると自動的にインクが交換位置に来るし、交換したことは記録されドライバでも通知される。ソフトウェア面も充実しており、インクの残量もきちんとドライバ確認できるし、ヘッドのクリーニングや位置調節なども設定可能。Windows 7であれば、デバイス&プリンターの項目でもちゃんとプリンタの絵が出て、選択に迷うこともない。この辺りはさすがプリンタを作り慣れたキヤノンといったところだ。
ドライバの印刷設定も充実しており、印刷品質の選択/用紙選択といった基本的なものから、2ページ/4ページを集約する機能、手動の両面印刷、モノクロ印刷を始め、各色の微調節機能と言った便利なものまでを搭載する。設定画面も直感的であり、ヘルプも充実しているため、初心者でも迷うことはないだろう。
スペックは、解像度が4,800×1,200dpi、最小インク滴サイズが2pl、インクがC/M/Y染料+BK顔料、ノズル数はBKが320、C/M/Yが各384の合計1,472、対応用紙がA4~A5、レター、リーガル、封筒、L判、はがきなどとなっている。給紙枚数は普通紙100枚、はがき40枚。インターフェイスはUSBだ。
対応インクカートリッジはBC-311(C/M/Y)とBC-310(BK)。いずれもヘッド一体型となっており、ノズル詰まりに困ることはないだろう。ただカラーは一体型のため、どれか1つだけでもインクが切れるとカラー印刷はできないことになる。ちなみにAmazon.co.jpでのBC-311の価格は2,385円、BC-310は2,205円。つまり両方入れ替えるぐらいなら、本体を買い替えた方が1,640円安いことになる。
印刷速度は、データによって誤差もあるので参考までだが、A4の文書3ページは普通画質/普通紙印刷設定で概ね50秒、A4フチなし写真1ページはきれい/写真用紙 光沢プロフェッショナル設定でおおよそ4分だった。1~2枚程度の印刷ならまったくストレスなく行なえると言って良い。
さて肝心な画質だが、普通紙への文書の印刷は、BKインクが顔料系ということもあり、くっきりしている。レーザープリンタの結果と比較するとほんの僅かなにじみが認められるが、気になるほどでもなく、ぱっと見区別が付かないほど高品質だ。一般用途にはまったく不満はないだろう。
一方普通紙への写真印刷は、インクが染料ということもあり、コントラストが低く眠たい印象で、用紙もインクでしなってしまう。写真や塗りつぶしグラフが多いプレゼン資料などは印刷はできなくはないが、そのまま相手に見せるには少し躊躇してしまう。
しかし、写真用紙へ“きれい”の設定で写真を印刷すると、印象がガラッと変わる。発色は非常に鮮やかで、生き生きとした写真に見える。今回、カラーマッチングなどを行なっていないため、ディスプレイで見るのと比べるとやや黄色よりの印象で、また黒の染料インクがないため、黒がやや浮いているが、正直アマチュア写真家でも作品として飾るにも恥ずかしくない仕上がりだと言えるだろう。
印刷時の騒音だが、起動時や給紙時はやや音が大きいものの、印刷時は比較的静かだった。
今回の試用で感心したのは給紙精度の高さ。以前に筆者が購入したプリンタでは、ガイドを正しくセットしたつもりでも、斜めに給紙されてそのまま斜めに印刷されて、終いには紙の端が折り曲がってしまう上に、用紙外へのインク吐出で内部が汚れるなど、いろいろ大変の思いをしたのだが、本機はそういった現象はまったくなく、そもそも紙を適当に置いてもまっすぐセットできる。給紙ミスによる印刷失敗はかなり少ないのではないだろうか。この辺りはさすがプリンタを長年手がけているキヤノンだ。
欲を言えば、用紙を格納するトレイがないにもかかわらずフットプリントが大きく、できれば「iP110」サイズと言わずともBJC-400Jクラスのフットプリントに抑えて欲しかったところ。これはプリンタの発表会に行く度に要望を出していたりするのだが、上位モデルと印刷部を共通化してコストダウンを図っているため致し方ないだろう。いずれにしても2,950円でキヤノンブランドだと考えれば、十分に満足できる製品だ。