やじうまミニレビュー

“パンタグラフだけどストローク3.8mm”なキーボード

やじうまミニレビューは、1つ持っておくと便利なPC周りのグッズや、ちょっとしたガジェットなど幅広いジャンルの製品を試して紹介するコーナーです。
BSKBU510BK

 株式会社バッファローは、パンタグラフ構造を採用しながら、3.8mmのストロークを実現したキーボード「BSKBU510BK」を発売した。価格はオープンプライスで、実売価格は7,000円前後だ。今回、バッファローよりサンプルの提供があったので、簡単に試用レポートをお届けしたい。

 パンタグラフ構造と言えばノートPCで一般的なキー構造である。キースイッチの構造自体はメンブレンそのものだが、特徴は、キーの四隅に近い部分をパンタグラフによる4点で支えている点だ。

 いわゆるメンブレン式は、ゴムによるラバードームに接点があり、キーが垂直に押下できるよう、筒状のガイドにキートップをはめ込む。しかし、ガイドとキートップ間で生じる摩擦がキータッチの感覚に影響を及ぼす。また、ガイドが小さすぎるとキーの中央以外を押したときに正しく押下されないし、ガイドを大きく取ると今度は摩擦が増えるため、素材に配慮する必要があり、それから製造誤差を抑える必要がある。

 一方のパンタグラフ式では、ガイドの代わりにX字に交差したパーツでキートップの四隅を支える。このため動作時に生じる摩擦は10点(Xの中心と4つの先端、これが2つ)に集中し、摩擦も垂直方向ではなく、水平方向(押下時のパンタグラフが逃げる先)と回転に変わるため、摩擦による影響が最小限に抑えられる。ラバードームの反発性能がよりリニアに反映され、摩擦低減による長寿命化も期待できる。

 実際、メンブレン方式を採用したバッファローのゲーミングキーボードの打鍵耐久性は、エントリー向けの「BSKBC02BK」で500万回、上位(といっても3,000円台)の「BSKBUG500BK」でも2,000万回とされているのだが、本製品に関しては、それらを上回る3,000万回の耐久性が実現されている。

 ただ、これまでパンタグラフ構造のキーボードのほとんどは、ストロークが2mm未満だった。おそらく、これまでおもにノートPCで採用されていたため、そもそも深いキーストロークで作ろうという発想自体なかったのだろう。あるいは、深いキーストロークを実現しようとすると、より長いレールを必要とし摩擦距離が増えるため、寿命の確保に難があったのかもしれない。

 その点、3.8mmという深いキーストロークと3,000万回打鍵を両立させたBSKBU510BKは画期的だろう。製品担当者によると、キートップはABS樹脂、シザーにはポリアセタール(POM)を使っているとのことだ。

 POMはエンジニアリング・プラスチックの一種で、耐磨耗性があり自己潤滑性もあるため、優れた摺動性を示す。ちなみにPOMをベアリングとして使うことも可能で、それを採用したCooler Master製のファン「Sickle Flow X」では、18年間の連続稼動が可能なほどの耐久性を誇っている。同様の素材をパンタグラフとして使う本製品でも、高い耐久性が期待できる。

BSKBU510BKのパンタグラフ。シザーにPOMを採用しており、摺動性に優れている

 さて、パンタグラフについての説明はこの程度にしておき、実際の製品を見ていこう。本製品はキーボードの市場ラインナップにおいて、あまり製品がなかった7,000円台の価格レンジを狙ったものであるが、パッケージ、本体のデザインともにシンプルそのもので、スタンダードそのものだ。ゲーミング向けのBSKBC02BKやBSKBUG500BKとは異なり、“モノづくりにこだわる方へ”のクリエイター向けとして位置づけている。

 本体はいたってスタンダードだが、上部が角ばっているためシャープな印象を受ける。キートップが低く、ステップスカルプチャー構造も採用しておらず、以前レビューしたBSKBC02BKに近い印象だ。配列は日本語109をベースに、独自のショートカットP1~P4を加えた113キーとなっている。刻印は英字と記号のみで、かなは省かれている。

 底面に目を向けると、3方向に引き出せるケーブルガイド、大きくしっかりとした造りの足、そして水抜き用の穴などが見える。ただし本製品は構造上防水設計ではないため、穴があるからといって液体をこぼすようなことは避けていただきたい。スタンド機能もあり、8度の角度がつけられるが、筆者にはこれが若干高すぎるように思える。できれば4度あたりがあるとうれしかった。

 実際の操作感としても、BSKBC02BKに近い印象。先述の通り、ステップスカルプチャー構造ではないため、普段ステップスカルプチャーに慣れた筆者には、奥のキーが若干遠いように思える。とは言え、ノートPCに慣れたユーザーが使う想定されているため、あえてステップスカルプチャーを採用する必要性は薄いだろう。

 肝心なタイピング感だが、これまた独特な印象だ。長く表現すると“キートップのぐらつきのなさはパンタグラフ譲り、押下している最中の感触は富士通コンポーネント製の「リベルタッチ(45g)」似、底打ちしたときの音はパンタグラフ、感触はメンブレン”だろうか。一言で表すなら“サクサク確実に入力できる”のである。

 市場にある多くのゲーミングキーボードは、大半がメカニカルスイッチになっているが、BSKBU510BKはそれらに比べるとかなりソフトな印象。キースイッチこそメンブレンだが、パンタグラフ構造によってラバードームの特性が十分に活かされ、入力したときのフィードバックがしっかり得られため、キーの入力抜けが起きることはない。このため、長文入力でもストレスになりにくい。

 筆者の要望を挙げるとすれば、やはりステップスカルプチャー構造だろうか。そうすれば、さらに疲れにくいキーボードになるはずだ。

製品パッケージ
本体前面
本体側面
本体後部。珍しくBuffaloのロゴが入っている
スペースバーと左右の無変換/変換キーは若干手前にカーブしている
キートップはかな刻印なしのシンプルなもの
本体底面は3方向のケーブルガイドがある
スタンドを立てたところ

 本製品のもう1つの特徴が、テンキーの奥にあるプログラマブルキーだろう。4つ用意されており、デフォルトではP1にホーム、P2にEメール、P3にメディアプレーヤー、P4に電卓が割り当てられている。

 専用のユーティリティをダウンロードすれば、特定プログラムの起動に加え、マルチメディア機能や切り取り/貼り付けといったショートカット、ユーザーが記録したマクロの再生、文字列の入力なども可能。しかもこれらの設定は本体内メモリに保存されるため、ほかのPCに繋いで使ったさいも、ユーティリティなしで再現可能だ。本製品の位置づけを踏まえると、よく使うアプリを登録しておくと便利だろう。

 なお、Amazon.co.jp専用モデルとして、「BSKBU515BK」も用意されている。価格は5,000円台と安価だが、内容はBSKBU510BKと共通だ。

本体右上のプログラマブルキー
バッファローのWebサイトからダウンロードできるユーティリティ
プログラムの実行に加え、マクロや文字列の入力、マルチメディア機能なども割り当て可能
マクロはキー遅延まで記録できる

 ちなみに本製品はクリエイター向け製品ではあるが、スタンダードな作りから、一般的なPCユーザーにも受け入れやすいものとなっている。そこで、普段書類の作成や経費処理などでフルキーボードが欠かせない弊社の経理T氏と、弊誌で執筆している佐藤亮氏が、プライベートのいちゲーマーとしての視点から見た感想もお伝えしよう。

経理:T氏

とにかくキータッチが軽く、楽々タイピングできる。今まで使っていたキーボードと比較して、タイピング音が静かになったのも評価できる。
デザインもスタンダードで、一般的なキーボードからの乗り換えも違和感がない。
今まで使っていたキーボードは、右FNキー(ほかのキーボードでは右Windowsキーになるキー)がなかったため、スペースキーが広かったが、本製品スペースバーが狭く、ミスタイプをするときがあった。これは時間とともに慣れていくと思う。

編集:佐藤亮氏

タイプフィールは特筆するべき点はなく、通常のメンブレンキーボードである。しかし、実売7,000円程度のキーボードであるということを考えると、驚くほどよくできている。特に、十分な剛性を感じる本体、精度がよいためか揺れのないキートップ、均一な梨地など、ふしぶしの作り込みのよさが感じられた。
また、ゴム足も大きくそう簡単にはがれることはなさそうであり、折りたたみ可能なスタンドもしっかりと固定されるため、ガタツキなどは感じられなかった。ゲームで白熱した場合でも、ゴム足や筐体がしっかりと入力を受け止めるため、ズレることもなく安心できる点はよい。
ゲームにおいては、やはりフルサイズのキーボードなので横幅があるため、マウスを動かすエリアがほしくなる場面があった。そのため、テンキーレスモデルの登場が望まれるところだ。