アップグレード後の性能が知りたい!

SSDのヒートシンク、変えたらもっと冷えるのでは?大型/薄型タイプに付け替えて性能・温度を検証

「アップグレード後の性能が知りたい!」では、さまざまなデバイスをアップグレードし、使い勝手やパフォーマンスの改善度を検証していきます。

 M.2タイプのNVMe SSDは小型で高速だが、発熱が大きく、特にハイエンド向けでは安定動作には熱対策としてヒートシンクの搭載が必須と言える。

 しかし、M.2用ヒートシンクはシンプルで小型のものから、ファン付きの大型サイズまで多種多様だ。また、マザーボードに標準搭載されていることも多い。それぞれに、どれほどの性能差があるのか。PCI Express Gen 3/Gen 4/Gen 5(3.0/4.0/5.0)のSSDを用意してテストしていく。

薄型/大型/ファン付き/マザー付属のヒートシンクで温度と速度の変化をテスト

 2023年はSSD価格の下落が続いている。M.2形状のハイエンド向けNVMe SSDでも、2TBモデルが1万円台で購入できるケースが増えており、換装や増設を考えている人も多いだろう。

 最近のマザーボードは、M.2スロットを3~4基備えている点も増設のしやすさを後押ししている。M.2形状のSSDを搭載する上で重要になるのは熱対策だ。

 ほとんどのSSDは一定の温度以上になるとデータ転送速度を落として発熱を抑える「サーマルスロットリング」が発動する。製品を守る重要な機能ではあるが、熱対策して温度が上がらないようにしないと本来の性能が発揮できなくなってしまうわけだ。

 M.2スロットを複数備えるエントリーからミドルレンジのマザーボードでは、ヒートシンク付きのM.2スロットは1基だけというケースが珍しくない。複数のSSDを搭載しようと考えた場合、別途M.2用のヒートシンクが必要になってくる(ヒートシンク付きのSSDの場合は別だが)。

 そこで、今回はM.2用のヒートシンクを3製品用意して冷却力を比べてみたい。比較用としてマザーボードに標準搭載されているヒートシンクも加えることにする。

【薄型タイプ】サンワサプライ「TK-HM5BK」

1つ目はサンワサプライの「TK-HM5BK」。薄型ヒートシンクだが、実売価格は650円前後と導入しやすい
シリコンパッドをSSDに付け、その上にヒートシンクを載せてゴムで固定するだけという非常にシンプルな作り

【ファン付きタイプ】JIUSHARK「M.2-THREE」

2つ目はJIUSHARKの「M.2-THREE」(販売はサイズ)。ファン付きの大型タイプで実売価格は2,000円前後
シリコンパッドは2種類の厚さを付属。SSDが片面実装なら、裏表とも厚めのシリコンパッドを、両面実装なら裏側は薄めのシリコンパッドを使う
4カ所のネジを外し、底面部分を分離させてSSDの厚みにあったシリコンパッドを装着。そしてSSDを取り付ける
SSDを取り付けたところ。付属ファンは60mm角で動作には4ピンのファンコネクタへの接続が必要だ
ファンがM.2スロットの幅からはみ出すので、マザーボードによっては拡張スロットと干渉するので注意が必要だ

【大型タイプ】Thermalright「HR-09 2280 PRO」

3つ目はThermalrightの「HR-09 2280 PRO」(販売はディラック)。実売価格は2,000円前後。6mmのヒートパイプ2本と74mmの大型ヒートシンクを組み合わせている
4つのネジを外して底面を取り外す。シリコンパッドは最初から装着されており、青い保護シートを剥がして、そこにSDDを挟み込む。シリコンパッドはSSDが片面実装でも両面実装でも同じものを使用
SSDを取り付けたところ。高さはあるがM.2スロットの幅しかないので、ほかのパーツには干渉しにくい

 また、使用するSSDも複数用意。Gen 3対応のエントリーモデル「Crucial P3」(1TB)、Gen 4対応のハイエンドモデル「Crucial P5 Plus」(1TB)、Gen 5対応の最新ハイエンドモデル「Crucial T700」(2TB)の3種類で、それぞれの冷却にマッチしたヒートシンクがどれなのかも確かめていく。それぞれのスペックは以下の通りだ。

【表】使用したSSDのスペック
Crucial P3Crucial P5 PlusCrucial T700
型番CT1000P3SSD8JPCT1000P5PSSD8JPCT2000T700SSD3JP
容量1TB2TB
フォームファクタM.2 2280
インターフェイスPCI Express 3.0 x4PCI Express 4.0 x4PCI Express 5.0 x4
プロトコルNVMe
NANDフラッシュメモリMicron製
コントローラPhison PS5021-E21Micron製
(詳細非公開)
Phison PS5026-E26
シーケンシャルリード3,500MB/s6,600MB/s12,400MB/s
シーケンシャルライト3,000MB/s5,000MB/s11,800MB/s
総書き込み容量(TBW)220TB600TB1,200TB
Gen 3、Gen 4、Gen 5と各インターフェイスのSSDを用意した

エアフローの有無も含めて5分連続書き込み

 ここからは実際の温度を測定していこう。テストでは「TxBENCH 0.98 beta」で5分間のシーケンシャルライトを実行した際の温度とデータ転送速度を「HWiNFO Pro」で計測した。

 SSDはCPU直結でGen 5に対応するM.2スロットに装着している。今回はPCケースではなく、ベンチ台を使ったバラック組みの状態でテストしており、CPUクーラーは簡易水冷ということもあってM.2スロットにはエアフローのない状態。

 むき出しの状態とは言え、SSDが冷えにくい環境なのは間違いない。そのため、M.2スロットの後方に12cm角ファンを設置してエアフローを作ったパターンでも計測している。PCケースでの前面ファンから吸気をするイメージだ。

 そのほか検証環境は以下の通り。

TxBENCH 0.98 betaでシーケンシャルライトを5分間連続で行なうという負荷の高いテストを実行した
各ヒートシンクを装着
サンワサプライ TK-HM5BK
JIUSHARK M.2-THREE
Thermalright HR-09 2280 PRO
マザーボード付属ヒートシンク

【検証環境】CPU:Core i9-13900K(24コア32スレッド)●マザーボード:MSI MPG Z790 CARBON WIFI(Intel Z790)●メモリ:Micron Crucial DDR5 Pro CP2K16G56C46U5(PC5-44800 DDR5 SDRAM 16GB×2)●システムSSD:Western Digital WD_BLACK SN850 NVMe WDS200T1X0E-00AFY0(PCI Express 4.0 x4、2TB)●ビデオカード:MSI GeForce RTX 4060 VENTUS 2X BLACK 8G OC(GeForce RTX 4060)●CPUクーラー:Corsair iCUE H150i RGB PRO XT(簡易水冷、36cmクラス)●電源:Super Flower LEADEX V G130X 1000W(1,000W、80PLUS Gold)●OS:Windows 11 Pro(22H2)

Gen 3接続のCrucial P3でのテスト結果

 Gen 3接続となるCrucial P3の結果から見ていこう。まずは、シンプルに各ヒートシンクの平均と最大温度をまとめたグラフだ。ざっくりと性能差を見るのに向いている。

 Gen 3接続でエントリークラスのSSDということもあって、小型ヒートシンクのサンワサプライのTK-HM5BKでも、最大58℃とそれほど高い温度ではない。このクラスのSSDならば、最低限の熱対策で問題ないと言ってよいだろう。

 JIUSHARKのM.2-THREEは、さすが大型ヒートシンクとファンの組み合わせだけあり、トップの冷却力となった。ここから、温度と速度の推移を見て、もう少し細かく傾向を探っていく。

 温度推移を見ると、エアフローのないTK-HM5BKは温度が上昇し続けている。長時間使うにはちょっと不安を感じるところだ。

 ThermalrightのHR-09 2280 PROは、大型ヒートシンク採用と言ってもエアフローがなければ熱が逃げにくく、性能を発揮しきれないのだろう。

 実際、エアフローを追加すると4~5℃も下がる。PCケース内という一般的な運用方法なら前面に吸気用ファンは付けておくべきだろう(そもそも付いているPCケースも多いが)。

 一方で、M.2-THREEはファンを搭載しているので、エアフローに関係なく高い冷却力を発揮。環境を選ばず、確実にSSDを冷やせるのは大きな強みと言える。

Gen 4接続のCrucial P5 Plusでのテスト結果

 続いて、Gen 4接続でハイエンドモデルのCrucial P5 Plusの結果だ。同じく平均と最大温度をまとめたグラフから見ていこう。

 どれも動作上問題のない温度ではあるが、TK-HM5BKだとエアフローの有無にかかわらず平均で60℃超えと、ちょっと心許なくなってくる。

 エアフローに関係なく、安定感があるのはファン付きのM.2-THREE、エアフローのある状態ではHR-09 2280 PROが強い。続いて、推移を見てみよう。

 温度の差はあるが、ハッキリとした傾向が見られる。エアフローのない状態だと温度が上がり続けて、エアフローがあると負荷が続いても3分半以降は安定するパターンが多い(マザーボード付属ヒートシングだけがやや例外)。

 ハイエンドのSSDを使うなら、ヒートシンクに加えて、しっかりエアフローを作るほうが安心して運用できると言える。

 PCケース内のエアフローが弱いと感じる環境なら、ファンのあるM.2-THREEを使うのが正解。エアフローの有無でほとんど冷却力が変わらないからだ。

 なお、書き込み速度はどれも安定。TK-HM5BKは70℃を超える箇所もあるが、サーマルスロットリングの発生は見られなかった。

Gen 5接続のCrucial T700でのテスト結果

 最後はGen 5接続で公称シーケンシャルライトは11,800MB/sと現役最速クラスのCrucial T700の結果だ。速度から発熱が高いことが容易に予測でき、冷却力が十分か気になるところ。平均と最大温度をまとめたグラフからチェックする。

 さすがに発熱は今回のSSDで一番大きい。薄型ヒートシンクのTK-HM5BKでは明らかに冷却不足だ。ファン付きのM.2-THREEは、エアフローのない状態でも最大58℃と高い冷却力を見せた。

 HR-09 2280 PROもエアフローがある状態ならGen 5のSSDでも余裕で冷やせると言ってよいだろう。推移を見てさらに細かく分析してみよう。

 書き込み速度の推移を見れば分かるが、TK-HM5BKは今回のテストで唯一サーマルスロットリングが発生した。特にエアフローのない環境では冷却力不足が顕著だ。

 Crucial T700は2段階に速度が落ちるようで、まず81℃で5,800MB/s前後まで低下、それでも温度が下がらない場合、83℃で2,300MB/s前後まで速度が低下し、さらに温度が下がらなければ、どんどん速度は低下し、最終的には100MB/s前後まで落ちた。

 そのほかのヒートシンクでは速度低下は見られなかったが、エアフローのない状態では温度は上昇傾向にあり、Gen 5 SSDはヒートシンク+しっかりしたエアフローで運用したいところ。Crucial P5 Plusもそうだが、ハイエンドSSDは“熱い”のが改めて分かる結果だ。

まとめ - 冷却力ではM.2-THREE、トータルではHR-09 2280 PROが強い

 サンワサプライのTK-HM5BKは、冷却力はそれほど高くないが、エントリークラスのSSDとの組み合わせなら十分で、650円前後とお手軽価格なのが強み。ただ、ハイエンドのSSDで使うにはやや不安だ。

 JIUSHARKのM.2-THREは、ファン搭載によってエアフローに関係なく強力な冷却力を安定して発揮できる。2,000円前後と価格が手頃なのもよいが、ファンが隣のスロットを塞いだりとほかのパーツと干渉する可能性があり、ファンに電源供給も必要なのがデメリットだ。

 ThermalrightのHR-09 2280 PROは、大型ヒートシンクで高い冷却力があり、M.2スロットの幅しかないのでパーツ干渉の心配もいらない万能タイプ。それぞれ一長一短があるので、自分のPCケースと装着したいSSDにマッチしたヒートシンクを選んでほしい。