笠原一輝のユビキタス情報局

ついに登場したBD 3DをNVIDIA 3D Visionで視聴する



 世間では3D立体視が可能なTVが話題だが、すでに本連載でも何度も取り上げている通り、3D立体視はPCでも楽しむことができる。その要件は、筆者の連載の中でも触れている通り、3D立体視に対応した液晶ディスプレイ、眼鏡、対応ソフトウェアの3つだ。

 ただ、3D立体視の注目馬はBlu-ray 3D(BD 3D)だが、以前の記事でも述べたとおり、現時点ではBD 3Dのコンテンツは、まだ一般には販売されていない。PC用再生ソフトとなる「PowerDVD 10」も、BD 3D対応版はまだリリースされておらず、現状では通常のDVDを3D変換して楽しむことにとどまっている。

視聴に利用したBD 3Dのタイトル「MONSTERS VS ALIENS 3D」。米国でSamsung Electronics の3D TVを買うとおまけでついてくる

 そうした中、米国でSamsung Electronicsが3D TVの販促品として、同社の3D TVを購入したユーザーにBD 3Dに準拠した映画「MONSTERS VS ALIENS 3D」(邦題:モンスター VS エイリアン)をプレゼントする企画を始めた。

 今回のレポートでは、このディスクを利用して、PCでBD 3Dを楽しむとどんな感じになるのかについてお伝えしたい。

●PCでBD 3Dを楽しむ要件

 前述の通り、PCで3D立体視を楽しむためには、PCそのもののほかに以下の器機が必要になる。

(1) 何らかの3D眼鏡に対応した液晶ディスプレイ
(2) 3D眼鏡
(3) 3D立体視に対応したGPUを搭載したビデオカード
(4) 2倍速以上のBDドライブ

 現時点で3D立体視に対応したディスプレイは、大きく分けると、120Hzのリフレッシュが可能な3D Vision対応ディスプレイと、Zalmanが販売しているような偏光方式のディスプレイという2つになる。

 偏光方式は光の屈折を利用するもので、走査線ごとに右目の映像と左目の映像を表示し、それらを液晶表面に貼られた偏光フィルムを通じて分離する。メガネにも偏光フィルムが貼られており、右目には右目の映像、左目には左目の映像が届く。

 これに対して3D Visionでは、電子シャッター方式を採用している。映像に同期して電子的に眼鏡のシャッターを閉じたり開いたりすることで、視差のある映像を交互に左右の目に表示することで立体的に見せる仕組みを採用している。

 それぞれにはメリット、デメリットがある。

 偏光方式の長所は眼鏡が軽くて、かつコストが安くすむことだろう。このため、PC OEMメーカーのようにコストが何よりも重視される場合に適しているといえる。ちなみに、先日発表されたNECの立体視対応一体型PC「VALUESTAR N VN790/BS」は偏光方式を採用した製品となっている。短所は、視野の角度に制限があり、うまく見えるポジションを探さないといけない。

 偏光方式の単体ディスプレイは、以前はZalmanから「ZM-M220W」が販売されていたのだが、現在は出荷が終わったらしく、新しいモデルの「ZM-M240W」、「ZM-M215W」が発表されている。ZM-M220WではHDCPに対応していないという問題があったが、これら2製品ではその問題も解決している。ZM-M215Wの方はすでに日本国内での流通も開始されており、4~5万円前後で入手できる。

 電子シャッター方式の長所は視野角にはあまり気を遣わないでよい点。短所はディスプレイや眼鏡のコストが高いことで、初期投資が必要になる点。特に120Hzのリフレッシュレートに対応したディスプレイと、2万円前後の3D Visionの眼鏡への投資が必要になるため、決して安価ではない。

 ただ、そうした状況も徐々に改善しつつある。その背景の1つは3D Visionに対応したディスプレイが徐々に増えてきていることだ。表1は日本で入手できる3D Visionに対応したディスプレイだ。

【表】3D Visionに対応したディスプレイ
メーカーAcerLG電子デルサムスン電子
型番GD245HQW2363DAlienware OptX AW2310SyncMaster 2233RZ
パネルサイズ23型23型23型22型
パネル方式TNTNTNTN
解像度1,920x1,080ドット1,920x1,080ドット1,920x1,080ドット1,680x1,050ドット
輝度300cd/平方m400cd/平方m400cd/平方m300cd/平方m
応答速度2ms3ms3ms3ms
HDMI121-
DVI1111(シングルリンクのみHDCP対応)
ミニD-Sub15ピン1---

 多くの製品が市場価格で3~4万円程度と、同じサイズの通常製品に比べてプラス1万円程度になってきている。

 追加投資という意味では、ユーザーがNVIDIAのGPUを持っていない場合には、それも購入する必要になる。

 そして、3D Visionそのものは、NVIDIAのある程度以上のGPU(GeForce 8以降)であれば利用することができるのだが、BD 3Dを楽しもうというのであれば、注意が必要となる。というのも、以前の記事でも説明した通り、BD 3DのCODECであるMPEG-4 MVCをデコードするには、一定以上のGPUに内蔵されているビデオエンジンのスループットが必要だからだ。

 具体的には、VP4と呼ばれるNVIDIAの第4世代のビデオエンジンを内蔵しており、かつそのそのスループットが十分なものという条件で、GeForce GTX 480/470とGeForce GT 240がその対応製品と言うことになる。

 BD 3Dだけのために、5万円を超えるようなGeForce GTX 480/470を買うのは現実的ではない。GeForce GT 240なら、市場価格が1万円程度になっており、かつ市場に潤沢に在庫もあるので、現時点ではほとんど唯一の選択肢と言っていいだろう。

●普段使っているPCを使ってBD 3Dの再生が可能に
テストに利用したPC。CPUはCore 2 Duo E8400、チップセットはGeForce 9400、GPUはGeForce GT 240

 今回レビューに利用したのは自作PCで、CPUにはCore 2 Duo E8400(3GHz)、チップセットはMCP7A(GeForce 9400)でGPUを内蔵するが、PCI Express x16にGeForce GT 240を挿入した。利用した液晶ディスプレイはLG電子の「W2363D」で、デュアルリンクDVIケーブルで接続している(これは3D Visionがデュアルリンク接続を必要とするためだ)。

 再生ソフトウェアはサイバーリンクの「PowerDVD 9」の3D対応ベータ版を利用した。PowerDVD 9は3D立体視には対応しないのだが、OEMメーカーなどのテスト用にPowerDVD 9のBD 3D対応ベータ版を提供しており、今回はこれを利用した。このため、実際ユーザーが利用できるPowerDVD 10のBD 3D対応版とは挙動が異なっている可能性があるので、あらかじめお断りしておきたい。

 まず、視聴環境だが、電子シャッターという特徴上、ターゲットとなるディスプレイ以外の光が眼鏡に入ると、チラツキが発生して非常に見にくくなる。実際筆者は2台のディスプレイを並べて、右側にW2363Dをおいているのだが、左側のディスプレイがついていると、大きなチラツキが発生した。また、筆者はもともと眼鏡をかけているため、その上に3D Visionの眼鏡をかける形になるのだが、そうすると3D Visionの眼鏡と顔の間に隙間ができるので、外光が入ってしまう。そのため、部屋の電灯を落とすなどして暗くすると、ずっと見やすくなる。

 ベータ版なのでソフトウェアの使い勝手の評価にはあまり意味がないと思うが、一応触れておくと、PowerDVD 9では、3D再生時にはフルスクリーン表示のみとなりウインドウ表示にすると3D立体視は強制的にオフになる。この仕様は製品版のPowerDVD 10に実装されているDVDの2D-3D変換でもそうだ。3Dの設定を変更するときにも、いちいち再生を終了させてからでないと設定できなくなっているのは改善して欲しい。

 BD 3Dの視聴そのものに関しては問題なく行なうことができた。作品は、巨大化してしまった主人公がモンスターやエイリアンと戦うというストーリーのアメリカンCGアニメーションだ。最初から3D立体視を意識して作られていることもあって、迫力のある3Dを楽しむことができた。また、もともと3D Visionの眼鏡に慣れていたこともあってか、違和感なく見ることができた。

 実は今回、偏光方式であるVALUESTAR N VN790/BSでも同じタイトルを視聴してみた。この環境では、先にも述べたとおり、きちんと見える角度が限定的だった。また、左右それぞれの目における縦の解像度が半分となるため、画質もやや低下してしまう。偏光方式はシャッター方式より映像が明るいというメリットがあるが、解像度低下のデメリットの方が大きいと感じた。その意味で、同じBD 3Dでも、画質を求めるなら、偏光方式より3D Visionに分がある。

「MONSTERS VS ALIENS 3D」の映像。右目の映像と左目の映像を高速に切り替えるが裸眼だと二重に見える3D Visionの眼鏡を通して3Dの映像を見ているところ。写真だとわかりにくいが、両目で見ると立体的に見えるPowerDVD 9(特別ベータ版)の3D立体視設定画面。PowerDVD 10と同じように3Dの深度設定、3Dディスプレイなどを選択できる

●BD 3Dだけでなく、PCゲームも3Dで楽しむことができる3D Vision

 3D Visionに関してもう1つ触れておかなければいけないことは、ほとんどの3D(ポリゴン) PCゲームも3D立体視が利用できるというメリットだ。最初から3D Visionを意識して作られたゲームはもちろんのこと、そうでないゲームでも、多くで3D立体視でプレイできる。対応状況は、NVIDIAのWebサイトに詳しいのでここでは列挙しないが、シューティングゲームや自動車ゲームなどが3D立体視になると、臨場感が増すため、より楽しめるようになるだろう。

 このように、PCでは、3D TVではまだ実現できないゲームの3D立体視も今すぐ楽しめる。そうした意味で、画面の大きさを除けば、3D TVと比べてアドバンテージは決して小さくないと思う。

 3D Visionを利用したPCにおける3D立体視の課題は、やはりコストだろう。前述の通り、3D Visionの眼鏡が2万円弱、液晶ディスプレイが3~4万円、GeForce GT 240が1万円と、約6~7万円程度の投資が必要になる。

 ただ、新規に購入するユーザーであれば、3D Vision非対応構成との差額はもっと小さくなるので、対応製品を購入することをお勧めする。今後、BD、ゲームとも3D対応が進むことが見込まれる。今からそのために投資をしておいても、きっとその見返りを得ることができるだろう。

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(2010年 5月 31日)

[Text by 笠原 一輝]