■笠原一輝のユビキタス情報局■
Windows Vistaがリリースされた2007年1月から2年半近くが経とうとしているが、Microsoftは次世代OSとなる「Windows 7」のリリースに向け、着々と準備を進めている。今月の上旬から配布が開始されたRC(Release Candidate、出荷候補)版のWindows 7は、各所において評価が進められているが、おおむね好評を持って迎えられているようだ。
本レポートではそのWindows 7 RC版を利用して、Windows VistaやWindows XPなどの過去のWindowsと比べてパフォーマンスがどうなのか、そのあたりに迫っていきたいと考えている。
●Vistaが遅いとあまり感じないのがVistaユーザーの本音、Vista遅いという世論との乖離のなぜ?別に初めて告白することでもないのだが、筆者はWindows Vistaをメインの環境に使っている。今この原稿もWindows Vistaが初期導入された「ThinkPad T61p」で書いているし、Windows Vistaはリリース当初(2007年1月)からずっと使い続けている。その筆者にとって、Windows Vistaの偽らざる評価は、“すげーはえー快適”と感じたことはないが、別に日常の利用環境では何も困ったことはないし、実際安定して動作しており特に不便を感じたことはない。
だが、いわゆる“世論”というべきような世の中の雰囲気は“Windows Vistaおせーよ”というものではないだろうか。実際、筆者の周りの業界の関係者に聞いても、そういう人は多い(少なくないではなく、“多い”、だ)。この乖離はなんなのだろうかとずっと考えていたのだが、そうした“Windows Vistaを遅い、遅い”という人に聞いてみるという筆者の独自調査(?)によれば、どうやら2つのパターンがあることがわかった。
1.そもそもWindows Vistaを使い込んでいないのに、Windows Vistaが遅いと結論づけている場合
多くの場合はこれに該当するのだが、Windows Vistaが遅い、遅いと言っている人にWindows Vistaどれくらい使っています? と聞いてみると、実際には使っていなくて、何度かWindows VistaがインストールされたPCを使ってみて、遅いと思ったのでWindows XPを使い続けているという方が多い。さらに聞き続けてみると、みんな口をそろえて言っていたのは“起動がWindows XPにくらべて圧倒的に遅い”だった。どうやら最初の起動とかがあまりに遅くて、すぐWindows XPに乗り換えてしまったため、Vistaは遅いという印象だけが残っているということが多いようだ。
2.あまりスペックが高くないハードウェア、例えばネットブックとかで使っている
例えばVAIO type PやAtom Nシリーズを搭載したネットブックなどにWindows Vistaをインストールして、遅いと感じている場合。
なるほど、そう言われてみれば、筆者の“Windows Vistaフツーに使えるよ”という感想と乖離がある理由が何となくではあるが得心がいった。
というのも、前述のように筆者はWindows VistaをノートPCや24時間つけっぱなしのリビングPCなどに導入して利用しているため、OSの起動/終了というプロセスをあまり利用していない。ノートPCを移動させる場合にはサスペンドないしはハイバネーションを利用するし、OSの再起動はWindows Updateでパッチを当てた時ぐらいしかしないのだ。
それからもう1つ、筆者がWindows VistaをインストールしているPCは、Core2 Duo T7700(2.4GHz)/4GB/7,200rpm HDDのThinkPad T61pや、Core2 Quad Q9550(2.8GHz)/8GB/SSDという自作PCなどで、ハードウェアとしてはそれなりに高めのスペックと言える。これらのPCに導入すると、あまり「おせーよ」と感じることが無かったのは事実だ。だが、昨年の7月に購入したウィルコムのD4(Atom Z515/1GB/4,200rpm HDD)では、確かに「おせーな」と感じたのも事実だ。
どうやら、この起動が遅いのではないか、ハードウェアのスペックが遅い場合Windows XPと比べて遅く感じることが増えるのではないかという2つが多くのユーザーに“Windows Vistaが遅い”という原因ではないかと考え、そのあたりがWindows 7でどの程度改善されているのかを、調べてみることにした。
●Windows Vistaの起動時間は確かに遅かった、Windows 7では大幅に改善されているまずは、起動時間に関して調べてみた。Windows 7 RC、Windows Vista Service Pack 1、Windows XP Service Pack 3(いずれも32bit版)の3つのバージョンのOSの起動時間を計測してみた。
とはいえ、1回のOSの起動時間を比較しても、Windows Vista以降のOSではあまり意味がない。というのも、Windows Vista以降のOSではSuperFetchという機能が入っており、OSやアプリケーションなどにロードされるファイルをシーケンシャルデータにして高速化するという仕組みが入っており、これにより高速化が実現されるようになっているのだ。このため、ある程度最適化が進まない限り、実際の比較にはあまり意味がないと言えるのだ。
そこで今回は、実際に起動時間を計測する前に、まず40回ほど起動、終了を繰り返し、かつその40回の起動/終了が終わった後に、ベンチマークテストプログラムを実行してある程度実際に利用するような環境に近づけた上で、3GB、1GB、512MBの3つのメモリ容量で10回まで起動時間を計測してみた(計測はストップウォッチで行なっているので、若干の誤差はご勘弁いただきたい)。
なお、各環境ともテスト時点で最新のOSのパッチなどを当てており、当て終わった後はWindows Updateを通知だけのモードに設定してテストを行なっている。ここでの“起動時間”の定義は電源ONから、スタートアップに登録しておいたワードパッドが起動するまでの時間ということにした。BIOSのPOSTにかかっていた時間は約20秒だ。結果はグラフ1~グラフ3の通りで、環境は表1の通りだ。
CPU | Core2 Duo E8400(3GHz) |
マザーボード | Intel DG45ID |
チップセット | Intel G45 Express |
GPU | AMD Radeon HD 4650 |
HDD | HGSTHDT725050VLA360 |
【グラフ1】メモリ3GB時の起動時間 |
【グラフ2】メモリ1GB時の起動時間 |
【グラフ3】メモリ512MB時の起動時間 |
結論から言えば、「Windows Vistaの起動は確かに遅かった」。まずはグラフ1のメモリが3GB時の結果を見て欲しい。実は1回目から5回目まではWindows Vista SP1とWindows 7 RCの起動時間はほとんど変わらないか、むしろWindows Vista SP1の方が高速だった。ところが、6回目以降には、突然20秒近く遅くなり、以降その後はこの遅い時間で高止まりするという結果になった。
実はこの数回起動後に遅くなるというWindows Vista SP1の傾向は、なんどやっても同じような結果がでた。下のグラフ4は、前述した最初の40回の起動/終了時にテストとして計測した数値なのだが、やっぱりWindows Vista SP1は6回目以降、遅くなり、その後だんだんとそれが悪化していき、最終的に90秒を超えるような時間がかかっている。
【グラフ4】メモリ3GB時 インストール後20回の起動時間 |
このWindows Vistaの起動時間が悪化する“病気”の正体が何であるのかはよくわからないのだが、容易に想像できるのはSuperFetchによる最適化が、逆効果になっている可能性だ。
これに対してWindows 7 RCでも若干そうした傾向があることがグラフ4の結果から伺えるが、だが、Windows 7ではしばらくするとそれが収まりきちんと最適化され、起動時間はもとの時間に戻るか若干速くなっていることがわかる。それが顕著なのはメモリ1GB時の結果(グラフ2)だろう。最初の数回はWindows Vista SP1よりも遅いぐらいだが、5回目以降はきちんと高速化され、Windows XP SP3並とまではいかないものの、それなりに高速化されていることがわかる。
ただ、メモリが512MB時の結果(グラフ3)を見る限りは、メモリが少なすぎるとほとんどWindows Vistaと変わらない結果であることがわかる。ちなみに、メモリが512MBしかない環境では、せっかくのWindows AeroもOFFになってしまっているなどの制限もでてきてしまっていた。起動時間から見る限り、Windows 7 RCを利用するには1GB以上のメモリはあった方が良さそうだ。
●Windows 7はWindows XPの成功体験を再び繰り返しつつある以上のような結果から、多くのユーザーが感じている(と思われる)Windows Vistaの起動速度の問題は、Windows 7 RCにおいて大幅に改善されていることがわかっていただけるのではないかと思う。今回の記事を作るにあたり、3つのOSを比較してみた筆者の正直な感想を述べるのであれば、Windows 7 RCは確かにWindows Vistaよりは高速化されている、ただしRC版の状態では、Windows XPよりも高速かと言われればそこまではいっていない、というあたりだろう。
もっともこれは妥当な結果だろう。というのも、Windows 7はWindows XPに比べて初期ロードされているサービスの数も増えている(なぜならXPに比べれば機能が増えているからだ)。表2は、筆者が表1の環境で調べたサービスの数だ。グラフィックスのドライバなどもインストールし終わった後の数だが、Windows 7はほとんどWindows Vistaと変わらないだけのサービスがロードされている。それなのに、Windows Vistaに比べて、起動時間はあれだけ短縮されているのだから、Windows Vistaに比べて最適化が進んでいるというマイクロソフトの言い分も充分根拠があるものだと言えるだろう。
Windows XP Professional ServicePack3 | Windows Vista Ultimate ServicePack1 | Windows 7 RC | |
サービスの数 | 46 | 68 | 64 |
OSドライブの使用容量 | 4.68GB | 20.9GB | 11.1GB |
結局のところWindows 7というのは、よい意味でも、悪い意味でもWindows Vista Second Editionなのだ。マイクロソフト自身も認めているように、Windows 7のカーネル(OSの基本部分)はWindows Vistaのものがベースになっており、それを発展させたものだ。
だが、それは前向きに考えるのであれば、Windows XPの成功体験を繰り返すという意味合いがあるものだと言える。というのも、よく知られている通り、Windows XPはWindows 2000のカーネルをベースに開発され、それをさらに最適化することで安定したOSという評価を手に入れることに成功した。Windows 7はその成功体験を繰り返しつつある、筆者はそう考えている。
(2009年 5月 27日)