笠原一輝のユビキタス情報局
Intel、2023年の製品計画プランを延期。ゲルシンガー氏の新体制で強いIntelへの回帰なるか
2021年1月22日 13:38
Intelは1月21日(現地時間)、2020年第4四半期(10月~12月期)の決算を発表した。
現地時間14時(日本時間1月22日午前7時)から行なわれた決算発表の会見では、2月15日をもって退任することが発表されたIntel CEO ボブ・スワン氏、その後継CEOになるパット・ゲルシンガー氏が参加し、同社の今後の方針などが新旧CEOの口から語られるという重要な決算発表会見となった。
新CEO就任でロードマップは大きく変更。そしてベテランエンジニアが開発陣に復帰
今回の決算発表の会見(Earnings Call)を聞いて筆者が率直に感じたのは、Intelが「変わらないために変わるため」の手がすでに打たれはじめており、それがじょじょに姿を現わしているということだ。
その予兆はこの会見の冒頭にあった。Intelはこれまでこの会見のなかで発表するとしてきた7nmと外部のファウンダリの利用計画を明らかにせず、今後数カ月のうちに発表するとしたのだ。
10月に行なわれたIntelの2020年第3四半期(7月~9月期)の決算会見のなかで、Intel CEO ボブ・スワン氏は「次の決算会見のなかで外部ファウンダリの利用も含めた2023年の製品計画について明らかにしたい」と説明していたし、1月13日(現地時間)のCEO交代の発表のなかでも告知されていた。
おそらく新しいCEOのプランとの「食い違い」が見つかったため見直されたということなのだろう。実際、今回の決算会見には現CEOのスワン氏だけでなく、2月15日にCEOに就任する新CEOとなるパット・ゲルシンガー氏も参加して、アナリストの質問に答えていた。
そのなかでゲルシンガー氏は、「まだIntelのCEOになると決まって数日しか経っていないので、完全にデータを分析できたわけではないが、データを見るかぎりは私でも彼の下した決断と同じ決断にいたっただろうと考えている。しかし、それと同時に完全にロードマップを理解し、より詳細な決断を下すにはもう少し時間が必要だと判断した。
それと同時に幹部や開発チームのリーダーの調整も必要だと考えており、今後そうした発表があるだろう。たとえば、グレン・ヒントンがIntelに帰ってきてくれる。そうした私の新しいチームがいい仕事をしてくれると思っており、今後数週間の時間をかけて分析して、より会社にとって確実な基礎となるような堅実な決断を下していきたいと考えている」と述べた。
幹部なども含めてIntelの構造も見直しているところなので、スワン氏の下した決断とは異なる決断を下す可能性があることを示唆しているわけだ。
なお、グレン・ヒントン氏は、2017年にIntelを退職したエンジニア。ゲルシンガー氏はそのベテランのヒントン氏を呼び戻したというのだ。ヒントン氏はPentium Pro/Pentium II/Pentium IIIの上級アーキテクトでもあり、その後もPentium 4(NetBurst)、Core(Nehalem)などの製品でアーキテクトを務めており、Intelで多くのCPUの開発を主導してきた。
そのヒントン氏を会社に呼び戻したというのは、要するにエンジニア主導のIntelをもう一度構築するというゲルシンガー氏の強い意欲の表われと言える。そして、そのヒントン氏のような経験が豊富な開発チームが主導して新しいロードマップを策定していくというのだ。それに期待するなというほうが無理だ。
パンデミック影響でノートパソコンの出荷台数は増加するも、1台あたりの利益は減少
Intelが発表した2020年第4四半期決算および2020年通期決算は、現在のIntelが置かれている状況を象徴する結果となっている。
まず2020年通期の売上で言えば、779億ドル(1ドル=105円換算で8兆1,795億円)と過去最高を記録しており、2019年の720億ドル(同7兆5,600億円)と比較して約8%の増加となっている。
その一方で、企業のビジネスモデルの健全性を示す粗利益は56%と、2019年の58.6%から2.5%ほどの下落となっている。
第4四半期単体では売上は200億ドル(同2兆1,000億円)となっており、2019年の同時期の201億ドル(同2兆1,105億円)と比べて1%の下落で、粗利益は56.8%とやはり前年同期時の58.8%から2%の下落となっている。つまりより俗な言葉で言えば、売上は増えたけど、儲けは少し減ったということだ。
その最大の要因はパソコンの需要が増加して出荷する台数は増えたが、その一方で低価格な製品に市場全体がシフトしたからだ。Intelのパソコン向け製品を扱う事業本部はCCG(Client Computing Group、クライアントコンピューティング事業本部)で、今回の第4四半期の決算では前年同期と比較して売上は9%アップとなっている。
それを牽引したのがCOVID-19の影響によるリモートワークやリモート授業などを要因としてノートパソコンの需要増で、昨年同期に比べて売上は30%増えているという(2020年通期では前年に比べて20%の増加)。
それに対して2020年第4四半期のデスクトップは前年同期に比べて6%の減少で、2020年通期では前年に比べて10%の減少となっている。
ところが、ノートパソコン向け製品の2020年第4四半期のASP(平均単価)は前年同期に比べて15%のマイナスとなっており、2020年通期では6%のマイナスとなっている。要するにノートパソコン向けの製品の出荷数は増えたが、製品1つのあたりの利益は減っていることを示している。
その要因に関してスワンCEOは「教育向けの製品が増えたため」と述べ、日本のGIGAスクール構想向けパソコンのように、低価格なノートパソコンが成長を牽引したためだと説明した。
ただし、その問題は今後そうした低価格製品の製造技術を10nmへ移行していくことで、製造コストが低下して解消していくだろうという見通しも明らかにしている。
というのも、今現在そうした低価格製品(PentiumやCeleronブランドの製品)は14nm世代で製造されている。今後Intelはそうした製品を10nm世代へと移行し、同じ性能のチップであればよりダイサイズを小さくできるため、1つのウェハで製造できるチップ数を増やすことができる(つまりより低コストで製造できる)。
スワン氏は、2020年末時点でのIntelの10nmの製造キャパシティが2019年末のそれと比較して4倍になったと明らかにしている。つまり、苦労してきた10nmの立ち上げにもようやく成功し、低価格製品も10nmで製造できるようになったということだ。
実際、IntelはCESのタイミングで教育市場向けのNシリーズのPentium SilverおよびCeleron(コードネーム:Jasper Lake)を発表しており、今後そうした製品の出荷が進めば、粗利益が再び上昇に転じる可能性はある。
IDMというIntelの強みのビジネスモデルは継続。外部のプロセルルールのライセンスも検討
このことは、Intelの半導体ビジネスモデルであるIDM(Integrated Device Manufacturer)の強みを示している。IDMとは、半導体の開発、製造、販売までをすべて垂直統合して行なうビジネスモデルのことだ。
その反対のやり方が、製造はファウンダリ(TSMCなど)に委託して、開発と販売に集中するファブレスで、AMD、Apple、NVIDIA、QualcommなどIntelの競合となる半導体メーカーはいずれもこのモデルを採用している。
ファブレスの半導体メーカーは、つねに製造は外部委託するため、その都度一定の委託コストが生じることになる。しかし、Intelの場合は、製造プロセスルールや工場の建設というコストはかかるが、それは一度のみの出荷で、大量に作れば作るほど製品1つを作るコストは下がっていき、利益率は上がっていくことになる。
これがIDMの強みであり、それが順調に回っているうちは、他社がIntelに追いつくのも、追い越すのも難しかった。
しかし、前回の以下の記事で説明したとおり、Intelが10nmの立ち上げに手間取っている間に、ファウンダリ各社が製造技術でIntelを追い抜いていった。
TSMCがすでに5nmの量産出荷を開始し、Appleなどがそれを利用して製品を製造して出荷しているのに対して、Intelはようやく10nmの立ち上げに成功したという段階だ。
そして、Intelの次の製造技術であり、TSMCの5nmと同程度の性能を持っているとされる7nmの製造計画は2022年に開始され、量産は2023年になると見られている。すでにIntelはこの7nmの計画がオリジナルの計画よりも半年遅れており、Intelの製品計画に影響を与えていることを認めている。
それを外部委託するのかどうかは、今回の決算発表のなかで明らかにされるとしてきたのだが、冒頭でも説明したとおり、その発表は数カ月延期されることになった。
では、問題はどのように変更されるのかということだろう。じつはIntelがTSMCに一部製品の製造を委託する計画は、すでに台湾の半導体調査会社により暴露されている。情報ソースは当然委託される側(つまりはTSMC)である可能性が高いので、すでに契約は済んでいると考えるのが妥当だろう。
2021年後半にCore i3の製造がTSMCの5nmではじまり、2022年の後半にハイエンド製品がTSMCの3nmで製造開始されるというものだ。
おそらくそこまではもう決まっているので、そこは動かしようがないと思う。新CEOとなるゲルシンガー氏やそのチームが検討しているのは、その先のプランだろう。端的に言えば2024年以降にもIntelは自社工場を維持する、つまりIDMのビジネスモデルを維持するかどうかだ。
これについてゲルシンガー氏は、明快にIDMのビジネスモデルは維持すると明らかにし、7nm世代の先の自社のプロセスルールの開発は続けるとした。
その一方で、他社が開発したプロセスルールのライセンスを受け、自社の工場に導入する可能性に関しても否定しなかった。ゲルシンガー氏は、「会社のなかでの議論をはじめ、装置メーカーやCADメーカーなどとも話をしている。イノベーションは会社のなかでも外でも起きる。ベストな製品を製造するために最善の選択をする」と述べ、最高の製品を顧客に提供するためだったら、制約なくなんでもやれることを検討するとした。
最高の製品を提供するためのロードマップを策定し着実に実行
決算会見の最後にゲルシンガー氏は、「これからのIntelは4つの事に注力していく。それは最高の製品を顧客に提供すること、そのためにロードマップを着実に実行していくこと、業界にイノベーションをもたらすこと、透明性を持ってデータドリブンな文化を浸透させていくことだ」と説明した。
昔のIntelが強かった理由はそこにあるし、ここ数年のIntelに欠けていたのもそこだ。それを象徴しているのが、今回の第4四半期決算のDCG(Data Center Group、データセンター事業本部)の決算。DCGの売上は61億ドル(1ドル=105円換算で、6,405億円)となっており、前年同期比で16%の減少となっている。
その要因としてはCOVID-19のパンデミックで政府系や大企業などのクラウドへの投資が鈍っていることもあるが、Intel自身も「競争的な要因」であることを明確に認めている。つまり、競合(この場合はAMD)の製品が強力であるため、競り負けているということだ。
Intelは昨年中に第3世代Xeon Scalable Processorsとして、開発コードネームIce Lake-SPで知られる10nmのデータセンター向けの製品をリリースすると説明していたのだが、結局発表できず今四半期にずれ込んでしまっている。
その間にAMDは第2世代EPYC(開発コードネーム:Rome)を2019年にリリースし、今四半期にはその後継となる第3世代EPYC(開発コードネーム:Milan)をリリースすることをCESで発表している。AMDはいずれもロードマップどおりに製品をリリースしており、従来のIntelとはポジションがすっかり逆転している状況だ。
これでは、顧客が競合に流れてしまうのもある意味当然だ。したがって、今のIntelに求められているのは、他社製品に対抗できる強力なロードマップと、その着実な実行と言える。それはデータセンターだけでなく、クライアント向けもそうだろう。
そのロードマップがどういうものかは明らかにはされなかったが、新CEOとなるゲルシンガー氏がそれを理解していることはよくわかった。その意味で、今後数カ月の間に発表されるという新しいロードマップを、石にかじりついてでも着実に実行していくことが、ゲルシンガー氏に求められる。そう、ゲルシンガー氏が在籍していたかつてのIntelがそうだったように……。