笠原一輝のユビキタス情報局

GPU性能競争に“帰ってきたAMD”

~NVIDIAの最高峰と並ぶ性能を久々に実現したRadeon RX 6900 XTをサプライズ発表

Radeon RX 6000シリーズのチップを公開するAMD CEO リサ・スー氏(出典:AMD)

 それはAMDがオンラインで行なった記者会見の終盤だった。NVIDIAのGeForce RTX 3080に匹敵するRadeon RX 6800 XT、GeForce RTX 2080 Tiに匹敵するRadeon RX 6800を発表し、これで終わりかと皆が思ったところで、最近AMD CEO リサ・スー氏が好んで使う「One More Things」(もう1つ発表がある)と述べ、おもむろに「Radeon RX 6900 XT」をサプライズ的に発表した。

 下位製品となるRadeon RX 6800 XTに比べてCu(コンピュートユニット)が増えており、性能がさらに向上しており、AMDが公開したデータによれば、現時点でNVIDIAの最高峰製品となるGeForce RTX 3090と性能がほぼ同じか、ゲームによっては上回るとアピールした。

 このことは両社の競争では、大きな意味がある。というのも、近年のAMDのGPUは、NVIDIAの下位グレードのGPUにしか性能で対抗しておらず、「値段で勝負」という競争軸でしか競争できていなかった。しかし、Radeon RX 6900 XTではそれが大きく覆され、AMDがNVIDIAの最高峰と同等の性能を発揮し、しかも安いということが売りになる。

 このRadeon RX 6900 XTの登場で、これまで事実上NVIDIA一択だったハイエンドGPUの選択肢がNVIDIA/AMDの二択になり、市場は大きく変わっていくことになりそうだ。

RDNAに比べて電力効率は約50%、性能は倍になっているRDNA2を採用したRadeon RX 6000シリーズ

Radeon RX 6000シリーズを手に紹介するAMD CEO リサ・スー氏(出典:AMD)

 今回AMDが発表したRadeon RX 6000シリーズは、AMDがこれまで「Big Navi」の開発コードネームで開発してきた新しいデスクトップPC向けGPU製品となる。AMDによれば以下の3製品がラインナップされており、Radeon RX 6900 XTが12月8日に発売、Radeon RX 6800 XTとRadeon RX 6800が11月18日に発売となる。

【表1】Radeon RX 6000シリーズ
モデルGPUアーキテクチャCu(コンピュートユニット)ビデオメモリゲームクロックブーストクロックメモリバス幅インフィニティキャッシュトータルボードパワー発売予定日市場想定価格
AMD Radeon RX 6900 XTRDNA280GDDR6/16GB2,015MHz最大2,250MHz256 bit128 MB300W12月8日999ドル
AMD Radeon RX 6800 XTRDNA272GDDR6/16GB2,015MHz最大2,250MHz256 bit128 MB300W11月18日649ドル
AMD Radeon RX 6800RDNA260GDDR6/16GB1,815MHz最大2,105MHz256 bit128 MB250W11月18日579ドル
Radeon RX 6900 XT(出典:AMD)
Radeon RX 6800 XT(出典:AMD)
Radeon RX 6800(出典:AMD)

 いずれの製品もAMDがRDNA2(アールディーエヌエーツー)と呼ぶ新しいGPUアーキテクチャに基づいている。昨年(2019年)の6月に発表した「Radeon RX 5700」シリーズでは、RDNA(アールディーエヌエー)という名称のGPUアーキテクチャを採用した。RDNAはRadeon DNAの略称で、従来のGCNに比較して完全に新しいアーキテクチャを採用してきた。

AMD Radeon Technology事業部 上級部長 兼 フェロー ラウラ・スミス氏(出典:AMD)
RDNA2を採用したRadeon RX 6000シリーズのダイ、7nmで製造される(出典:AMD)
RDNA2を採用(出典:Where Gaming Begins、AMD)

 今回発表されたRDNA2は、とくにゲーミングパフォーマンスの向上に焦点が当てられており、RDNAからさらに大きな性能向上が実現されているという。AMD Radeon Technology事業部 上級部長 兼 フェロー ラウラ・スミス氏は「RDNA2ではコンピュートユニットの構造を見直した。より広範囲にチューイングされたクロックゲーティング、より積極的なパイプラインの再バランス化、データパス構造の再デザインなどにより30%ほど電力効率が改善している」と述べ、RDNA2ではGPUが演算する演算器であるコンピュートユニットの設計を見直すことで、コンピュートユニットの電力効率は30%改善していると説明した。

コンピュートユニットの改善(出典:Where Gaming Begins、AMD)
Infinity Cache(出典:Where Gaming Begins、AMD)

 また、メモリコントローラの改良も重要で、同社が「Infinity Cache(インフィニティキャッシュ)」と呼んでいるL3キャッシュを128MB搭載しており、それを利用することでレイテンシと消費電力を削減することができるという。具体的には従来の384bitのGDDR6メモリに替えて、256bit幅のGDDR6+Infinity Cacheという組み合わせにすることで、DRAMのバス幅を少なくすることが可能で、メモリコントローラの消費電力を抑えることができる。しかし、実効レートでは384bitのGDDR6に比べて約2.17倍の帯域を実現し、消費電力は10%削減できる。

同じ7nmだが、クロック周波数は30%向上(出典:Where Gaming Begins、AMD)
RDNAに比べて性能は倍に(出典:Where Gaming Begins、AMD)
RDNAと比較して電力効率は54%アップ(出典:Where Gaming Begins、AMD)
AMDはRDNA3を次世代のプロセスルールで開発中(出典:Where Gaming Begins、AMD)

 また、今回のRDNA2では、RDNA世代と同じ7nmプロセスを採用している。しかし、RDNA2では「新しいカスタムライブラリやハイスピードデザインフローを採用することで、効率をアップしており、同じ電力であれば30%周波数を向上できている」(スミス氏)との通りで、同じ7nmでもプロセスルールへの最適化をさらに推し進めることでクロック周波数を引き上げられることが可能になっている。

 スミス氏によれば、こうした性能強化により電力効率は54%アップしており、ゲームでの性能はRDNAに比べて約2倍になっていると説明した。

DirectX Ultimateに対応(出典:Where Gaming Begins、AMD)

 また、RDNA2ではRDNAでは対応していなかったDirectX Raytracing(DXR)やVariable Rate Shadingなど、MicrosoftのDirectX Ultimateでサポートされた機能に対応している。これらの機能への対応はRDNAで積み残された機能だっただけに、AMDのGPUでも対応されたことで、ゲームパブリッシャーとしても対応するモチベーションになるだろう。

 また、AMDがFidelityFX(フェデリティエフエックス)と呼んでいるノイズ削減機能や適応型シャープネス、超解像技術にも引き続き対応しており、AMDは今回の記者会見でFidelityFXに対応したタイトルが35に達したことを明らかにした。

GeForce RTX 3090に匹敵する性能を発揮しながら価格は500ドル安いRadeon RX 6900 XTが市場をかき回すか?

Radeon RX 6900 XT(出典:AMD)

 こうしたRDNA2のGPUアーキテクチャを搭載した製品は、すでに述べたとおりRadeon RX 6900 XT、Radeon RX 6800 XT、Radeon RX 6800という3つの製品が用意されている。

 今回の製品ラインナップで最初に感じたことは、明らかにNVIDIAを意識した製品名の付け方だ。RDNAの時には最高峰がRadeon RX 5700 XTと、製品グレードの数字二桁目が7になっており、AMD自身としてもNVIDIAのGeForce RTX 2070などの7番台の製品対抗として位置づけていることが一目瞭然だった。しかし、今回は6900/6800と、いずれの製品もGeForce RTX 3090、GeForce RTX 3080対抗ということを意識して製品型番をつけていることは明らかだろう。

【表2】同価格帯のNVIDIA製品との価格比較
NVIDIAAMD
999ドル~1,500ドルGeForce RTX 3090(1499ドル)Radeon RX 6900 XT(999ドル)
599ドル~998ドルGeForce RTX 3080(699ドル)Radeon RX 6800 XT(649ドル)
598ドル以下GeForce RTX 3070(499ドル)Radeon RX 6800(579ドル)
Radeon RX 6800のスペック(出典:Where Gaming Begins、AMD)
4KでのGeForce RTX 2080 Tiとの比較(出典:Where Gaming Begins、AMD)
1440pでのGeForce RTX 2080 Tiとの比較(出典:Where Gaming Begins、AMD)

 もっとも下位グレードとなるRadeon RX 6800はコンピュートユニットが60基と最も少なく、クロック周波数も低めに抑えられている。このため、GeForce RTX 2080 Tiの性能をやや上回る性能とされており、市場想定価格も579ドルととなっている。ただ、既にGeForce RTX 2080 Tiの性能を上回るとされるGeForce RTX 3070が499ドルで市場に投入されており、それに比べるとやや割高感がある。

Radeon RX 6800 XTのスペック(出典:Where Gaming Begins、AMD)
4KでのGeForce RTX 3080との比較(出典:Where Gaming Begins、AMD)
1440pでのGeForce RTX 3080との比較(出典:Where Gaming Begins、AMD)

 中位グレードとなるRadeon RX 6800 XTはコンピュートユニットが72基で、発表された性能はGeForce RTX 3080と同等かやや上回るという性能になっている。市場想定価格は649ドルとなっており、GeForce RTX 3080の699ドルに比べて50ドルほど安価な価格設定になっている。

Radeon RX 6900 XTのスペック(出典:Where Gaming Begins、AMD)
Radeon RX 6900 XTではさらに性能向上幅が(出典:Where Gaming Begins、AMD)
4KでのGeForce RTX 3090との比較(出典:Where Gaming Begins、AMD)

 そして最上位グレードとなるRadeon RX 6900 XTはコンピュートユニットが80基で、発表された製品はGeForce RTX 3090と同等かやや上回るという性能になっている。市場想定価格は999ドルで、GeForce RTX 3090の1499ドルに比べると500ドルも安価になっている。

 ただ、このGeForce RTX 3090との差は「Rage Mode」と呼ばれるオーバークロック機能とスマートアクセスメモリというRyzen 5000シリーズ+X570/B550でのみ有効に出来るより効率の良いメインメモリアクセス機能を有効にした場合の性能であることは付記しておく。つまり、Intel CPUとの組み合わせではこうした結果にならない可能性がある。

NVIDIAとの価格競争が再び始まるか、それともNVIDIAは隠し球を投入して再び引き離すか……

 それでも、GeForce RTX 3090に匹敵する性能を発揮できるという性能を出せるということは、対NVIDIAとの競争では大きな意味を持ってくるだろう。というのも、ここ数年、AMDのGPUの最上位モデルはつねにNVIDIAの最上位に比べてベンチマークで勝てないという状況が常態化していた。昨年のRDNAアーキテクチャでの最上位モデルがRadeon RX 5700 XTで、GeForce RTX 2070対抗という位置づけだったことがその最たる例と言える。

 AMDは常に「電力効率や価格競争力が優れている」というようにアピールしてきたが、とはいえ性能を重視するハイエンドゲーマーには「でも結局負けてるじゃん」という認識を持たれてしまっていたのは否定できないと思う。

 だが、今回のRDNA2世代ではそこが大きく異なる。少なくともAMD公式のベンチマークテストの結果では、Radeon RX 6900 XTがGeForce RTX 3090と良い勝負を繰り広げている。しかも、ボード全体の消費電力ではGeForce RTX 3090が350Wであるのに対して、AMDのそれは300Wと少なくなっている。つまり電力効率ではAMDの方が上だと考えることができる。

 それが実際の製品でどうかはもちろん製品のリリースやそれに先だって公開されることが多いメディアによるベンチマークテストを待つ必要があるが、少なくとも今言える事は、AMDが性能競争に戻ってきたということはエンドユーザーとしては歓迎して良いということが出来るのではないだろうか。これに対して、NVIDIAがどんな手を打ってくるのか、GeForce RTX 30シリーズを値下げするのか、さらにトップエンドな製品を投入してくるのか、そちらにも期待したいところだ。