大原雄介の半導体業界こぼれ話

【番外編】海外取材終了のお知らせ

とある日の取材先でフラッと外に寄った時の風景。Google Mapでも閉店していた。ちなみに廃墟と化していたショッピングモール(兼フードコート)はこの背面。スターバックスとサブウェイだけが生き残っていた

 今月は私事になるのですが、海外取材を終了することを決めたので、ちょっとその話を。

 「お前のプライベートじゃないか」と言われそうですが(まぁ実際その通り)、一応業界の端っこにいるライターの生活ということで、こぼれ話と思って読んでいただければ。

体力的につらい海外取材

 なんで辞めるのかといえば、もう純粋に「体力的に辛いから」。他媒体含めて連載を複数本抱えているというのもあるが、取材/執筆続きで食事もまともに摂れない海外出張が入ると、体調を悪くしてしまう。

 若い時にはそれこそ中1日とかで出張行ったりもしていた(そんなことやってたので、2007年頃に鬱を喰らって半年弱まともに仕事ができなくなったりした)のだが、さすがにそろそろメンタル以前に、体力的に無理が出てきた感じだ。

 そもそもなんで海外取材が必要か? というと、企業が日本に来てくれなくなったからである。

 2000年代だと、多くの企業が日本でイベントとかをやってくれていたので、それを取材するだけで十分に事足りた。ところが2010年台に入って日本の重要性が次第に低下する様になると、日本の位置づけが「その他APAC諸国」と同等に落ちてきてしまったのだ。

 企業の立場からすると、もう日本のマーケットはわざわざエクゼクティブを出張させてイベントを開く価値はないが、とはいえ無視するほどには小さくない。であれば1カ所でまとめてイベントを行ない、そこに記者を呼ぶ方が効率が良いわけだ。

 もちろん記者を呼ぶためには相応の費用(旅費や宿泊費その他)が必要になるが、各国を回ってイベントを開く(ということはエクゼクティブ+スタッフの旅費や宿泊費が掛かる上に、会場も相応のホテルとかを借りるとなると結構な金額が掛かる)ことを考えると、むしろ安上がりだったりする。必然的に、筆者にとって海外取材が多くなってしまうわけだ。

 個人的に言えば、コロナの間(2020年前半~2022年後半)はそうしたものが全てオンラインになっていて、特にそれで不自由は感じていなかったのだが、2022年後半に急激に出張が増えたあたり、企業からするとやはりオンラインでは十分に説明ができないと考えており、コストを掛けてもいいから対面イベントを増やしたいと判断したものと思われる。

 ただ筆者からすると、1回出張に行くと2週間は体調が元に戻らない上に、どうかすると毎月出張が入ったりする(某氏は毎週とか言ってたから、それよりはマシなのだろうけど、筆者にはそんな体力はない)から、月の半分が体調不良という期間が半年続くことになる。さすがにこれは死んでしまう、と判断したわけだ。

とある日の海外取材の「飯」風景。たしかシナモンロールかなにかだったはず。それにカフェラテのラージ

体力、英語力、専門知識、ガイドなし旅行経験が大切ダヨ

 ちなみに海外取材に求められる要件というのは

体力

 まぁこれがダメなので辞めることにしたわけだが、特に欧米のエクゼクティブは体力オバケなので、あれにまともに付き合っているとキリがない

最低限の英語力

 英語力というか英会話力である。英語そのものは下手でもいい(実際筆者の英語なんて全然褒められたものではない)が、質問を躊躇わずに行なえる度胸がないと、そもそも取材にならない。うっかりすると、いきなりエクゼクティブと1対1で30分とかをアレンジされてしまうので、そこで自発的に質問ができないとかなりまずい。

 なお、ほとんどのエクゼクティブは「下手な英語」に慣れている(英語が公用語でないのは日本だけではない)から、英語の下手さは意外になんとかなる。

 ただ最近はOtterとかもあるので、英語のインタビューの文字起こしが格段に楽になった。

当該分野への知識

 英語よりもむしろこちらの方が重要だったりする(と筆者は思う)。取材は英語を喋りに行くのではなく、その分野の情報を得るのが目的なわけで、それが分かってないと厳しいことになる。

(ガイドなしでの)海外旅行の経験

 海外取材というのはハプニングの連続でもある。筆者の例だけで言っても、大きいもので

  • フライトがキャンセルされた(3回)
  • フライトが遅延して乗り継ぎできなかった(2回)
  • ロストバゲッジ(2回)
  • ホテルに着いたら一帯が全部停電していて部屋にすら入れない
  • ぎっくり腰を喰らって動けなくなった
  • 肺炎になった
  • ホテルの予約が通ってなかった

というあたり。細かいハプニングは数知れずである。こういうハプニングを乗り越えて、取材を完遂しないといけないわけで、それなりに場数を踏む必要がある。なので、ガイドさんなしで海外に旅行できる程度のスキルは必要となるというか、大体は海外取材を繰り返す中でこういうハプニングに対処するための経験を積んでゆく感じになるのだが。

 ……といったあたりになる。ちなみに公開のイベントだと、イベントの途中で速報を求められたりするので、この場合はさらに体力が必要になる。

 最近はこれに加え、物価の高騰とか円安もインパクトが大きい。2010年台だと往復の旅費+1週間の宿泊費+レンタカーでなんとか30万で収まっていたのが、今だと軽く倍(何しろアメリカ西海岸の往復のフライトだけで30万を超える)になる。

 もう自腹で取材に行くと大赤字であり、ご招待(=往復旅費と現地での移動とホテル、食費などが相手持ち)でも赤字にしないためには、相当頑張らないといけない(仕事量が実質2週間低下することを考えると、行かないで自宅で原稿書いている方が売り上げが立つ)状況である。

 ご招待と聞くと、なにか接待旅行的なものを想像される方もおられようが、実際は結構悲惨だったりするのでご注意を。

海外取材、いかがですか?

 ただそういう状況だからだろうが、若い人がこの分野に入ってこない。海外取材をできるライターの顔ぶれは大体固定されてしまっていて、で、上からどんどん足抜けしていった結果、福田さんが事実上のトップで、筆者が2番手になってしまったが、もう限界である。そんなわけで後は若い人に託す(どこに居るのかは知らない)ことにしたわけだ。

 これを読んで「んじゃ俺がやってやる」と思う奇特な方がいらっしゃったら是非編集部に連絡してほしい。きっと喜ばれるであろう。