大原雄介の半導体業界こぼれ話

dGPU部門も危うい?本業回帰するIntel

【図1】2022年10月現在のFlyer。今はまだIntelからダウンロードできるが、買収後はダウンロードできなくなるかもしれない。

 10月27日にIntelは第3四半期の決算を発表したが、これに先立ち10月4日にPSGのスピンアウトを発表した

 新会社は2024年1月1日からスタートするが、CEOには現在DCAIのトップであるSandra Rivera氏が就任。COOは現在PSGを率いているShannon Poulin氏が就く形だ。そして10月30日、事業部としてはNEXになると思うのだが、ここが手掛けていたSilicon PhotonicsベースのPluggable Ethernet Transceiverの事業をJabiに売却している(Javiのプレスリリース)。

シリコンフォトニクスの一部部門を売却はちょっと謎

 Intelからはプレスリリースは出ていないが、第3四半期の決算発表の中でゲルシンガーCEOが「当社は、シリコンフォトニクスビジネスの抜き差し可能なモジュール部門を売却することを決定しました。これにより、AIインフラストラクチャの拡張を可能にする高価値コンポーネントビジネスと、光I/Oソリューションに集中できるようになります」と明確に述べているから、理由は明白だ。

 Intelは100G~400GのEthernet Moduleを販売している(図1)が、この製品は標準規格に則ったものだから、他社製品と混在させても相互接続性が確保される「はずだ」(実際には時々怪しい場合がある)し、そこに変な拡張機能を入れてもアプリケーションが対応しているとは限らない。であれば機能面での差別化はできないし、必然的に品質か値段でしか勝負にならない。

 ただ品質がそこまで大きく変わるか? というと、たとえば10年や20年と使えばおそらく明確に差が出てくるだろうが、その前にネットワーク刷新が煩雑に行なわれるのが常だということを考えると、実はそこまで大きな違いは出てきにくい。

 となると結局値段の叩き合いになるのは見えている。こうなると、地味に稼ぐことは可能かもしれないが、大儲けするのは困難である。であればこうしたビジネスを売り払ってしまい、In-Package Silicon Opticsのような高付加価値が期待できる分野に集中する、という考え方は分からなくもない。

 ただ、元々なんでIntelがこの分野に参入したか? といえば、同社のSilicon Opticsが量産製品に使われたケースが非常に少ないためだ。筆者がぱっと思いつくのは2011年にVAIO Zで採用されたLightPeakぐらいのものだし、これも1世代限りになってしまった。いつまで経っても研究段階のままでは先に進めない。

 量産製品にSilicon Opticsを採用することで、量産段階で出てくるであろうトラブルとか問題に対する知見を積むとともに、広範に使われるために必要なコストダウンへの取り組みを行なうための格好な商品として、「Pluggable Ethernet Module」が選ばれて大量出荷の実績を積んだ(図2)と言うそもそもの経緯を考えると、本当に売っちゃってよかったのか? という疑問は残るところだ。

【図2】2022年のTechFieldDay 25におけるRobert Blum氏(Sr. Director, Mktg and New Business, Silicon Photonics Product Division)のスライドより。ちなみに氏の現在のポジションは現在Applied MaterialsのHead of Product Line Management, Photonics Platforms Business.

 Ethernetの方も、現在200G/Laneに向けて標準化が進んでいるほか、幾つかのMSAが独自規格のものを策定中だし、こうした用途に向けてより高速なモジュレータとかフォトディテクター、あるいはMUX/DeMUXなどのコンポーネントを実際の製品というフィールドで確認して実績を積める(図3)機会を、今回の売却で失ってしまったことになる。

【図3】これは400G DR4向けのものだが、800Gも水面下で開発が進んでおり、それは将来のIn-Package Silicon Photonicsにフィードバックできるはずのものだった

PSGの売却は必然的な流れだったか

 冒頭の話に戻るが、これはPSGも同じことである。2015年にAltera買収が報じられた際のIntelの動機は3つあったと考える。

 1つは公表されている話であるが、今後のサーバービジネスにFPGAが必須と当時は考えられていたことだ。当時、たとえばMicrosoftは同社のAzureのインフラ回りの制御をCPUではなくFPGAを使って実装しており、CPUを使うよりも高い効率を実現していた。ほかにもApplication SpecificなServer Workloadの実装にFPGAが効果的(その1つにはHFT:高頻度取引と言われる金融向けの高速取引が挙げられる)という話が出てきており、こうした用途を実現するにはFPGAが欠かすことができなかった。これは最終的にIntel PAC(Programmable Acceleration Card)という形で実現している。

 2つ目は、新たな収益源の確保である。2015年というのはブライアン・クルザニッチ氏がCEOをしていた時期に当たるが、クルザニッチ氏はx86ベースのCPU一本槍という従来のIntelのビジネスでは遠からず立ち行かなくなると判断、製品ポートフォリオの多角化を急速に進めようと試みる。

 この結果として、同氏がCEOを務めていた2013年5月~2018年6月の間に行なわれた企業買収は実に26件。公表されている範囲で一番金額が大きかったのはAlteraの167億ドルだが、2017年のMobileyeも153億ドルだし、結局後で放棄することになったNervana Systemsも3.5~4億ドル、もっと理解ができないLSI Axxia部門には6.5億ドル、Movidiusには4億ドル、と結構細かく買収を重ねており、非公開のものまで全部含めた総額はおそらく500億ドル規模に達するだろう。

 こうした多数の買収の中で、Alteraはかなり筋が良かった。というのは買収直前の2014年度末の決算報告では、売り上げが19億3,200万ドルなのに対し、粗利は12億8,400万ドルという、実に66%もの粗利率を誇った。

 絶対額はともかく、粗利率は66%という大変に優れた業績であり、2014年のIntelの事業部で言えばIoTG(IoT Group)が21億4,200万ドルの売上に対して営業利益は6億1,600万ドル、粗利率28.7%と(Intelの中では相対的に)低い粗利率に喘いでいたのと好対照である。

 仮にAlteraをIoTGに含めれば、売上40億7,400万ドル、営業利益19億ドルで、粗利率はおよそ46.7%。DCG(Data Center Group)の次になる稼ぎ頭であり、PCCG(PC Client Group)を上回る粗利率が実現する。

 そして3つ目で説明する要因が成功すれば、Altera部門の売上はさらに伸ばせるはずだと考えたのだろう(実際にはProgrammable Solutions Groupとして別組織になったが)。

 その3つ目は、ファブの利用率の向上である。もともとAlteraは2013年、それまで付き合っていたTSMCからIntel Foundryに鞍替えを決定する。TSMCの20nmが予想以上に問題が多く、その一方でIntelの22nm FinFETプロセスが非常に良好だったことを受けてだろう、次世代のStratix 10をIntelの14nmで製造することを決定。

 その後買収されてからは、次世代製品をIntel 10nmで製造するロードマップを明らかにしている(図4)。これがうまく行けば、Alteraに変わってTSMCを利用することになったXilinxに性能差を付けられると思ったのだろう。

【図4】2016年8月に国内で行なわれた説明会での資料より

 そしてIntelとしては、14nmと10nmのファブの稼働率を上げられることになる。これまでもXScale(Marvellが買収)/IXP Packet Processor(Netronomeとして独立)/Tabura(独立系FPGAベンダー:2015年に破綻)など小規模なファウンドリビジネスは行なっていたが、Alteraはそれとは比較にならない程多数の製品の製造を行なう。これを請け負うことで、早期に14nmや10nmの設備投資を回収できるめどが立つということだ。

10nmで躓いた結果がここにも

 ところがIntelの思うように事態は進まなかった。まず14nmを利用してのStratix 10の製造が予想以上に手間取り、2016年中に出荷予定だったのがほぼ1年遅れの2017年10月まで量産出荷が伸びている。

 悪いことにこの時期、Intelの10nmが完全に失敗していた。この結果、Intel自身のチップが14nmを使わざるを得ず、しかもAMDとの競合が激しくなったことでよりコア数を増やすなど競争力強化に走らざるを得ず、ダイサイズが大型化。つまりより多数のウェハを利用することになったため、Stratix 10の製造に支障をきたした。

 この結果としてこうした大容量FPGAを使う用途、この時期で言えば5Gの基地局向けのシステムでAlteraは前世代の「Stratix V」しか安定して供給ができずにいた。一方のXilinxは16nmで製造する「Virtex Ultrascale+」を2016年末から量産出荷しており、結局こうしたハイエンドマーケットをXilinxに掻っ攫われることになった。おまけに10nmを使う次期ハイエンド(Falcon Mesa: Agilex)製品は、10nmの開発の遅れをモロに喰らうことになり、こちらも出荷が遅れた。

 結果、2018年までIntelとXilinxでそれほど大きな差がなかったのが、2019年以降は大差がつくようになる。FPGAのような組み込み向けの場合、デザインウィン(設計を獲得)から出荷までに数年の差が生じるのは避けられない。2016~2017年の時点で5G基地局向けの設計でXilinxが大幅にシェアを獲った結果、2019年あたり(つまり実際に5G基地局の大規模設置が始まった時期)に売上の差として表れたわけだ。

 そしてトップエンドの製品がAltera→Xilinxに移行したことで、Arriaなどのミドルレンジを使う用途に関してもAltera→Xilinxの移行が明確に発生。変わらないのは引き続きTSMCで製造されていたローエンドのCycloneだけという有様になった。

 2015年の売上で言えば、Xilinxが23億7,700万ドル、Altera(というかIntelのPSG)が19億3,200万ドルと、55:45位の比率だったのが、2020年だと31億6,300万ドル対18億5,300万ドルで、ダブルスコアとまでは言わないものの63:37までギャップが広がっている。

 おまけに、その新製品の開発に手間取ったおかげで営業利益も急速に減少しており、2020年度におけるPSGの営業利益は2億6,000万ドル、粗利率は13.5%まで減少してしまった。つまりもうPSGは新たな収益の柱になるどころか、お荷物寸前というところまで内容が棄損されてしまったわけだ。

 悪いことに、この間にサーバー向けのFPGAのニーズは逆にどんどん減っていった。インフラ回り向けにはIPU(Infrastructure Processing Unit)がASICの形で登場、FPGAより安い価格と消費電力でより高い処理性能を発揮するようになった。2017年頃から興隆したAI/ML向けの用途も、推論はともかく、トレーニングではFPGAには荷が重く、結局NPUあるいはGPUがそのマーケットに充てられることになってしまった。

eASICは雲行き怪しく

 eASIC買収の翌年にはこんなロードマップ(図5)が発表されたものの、2020年に発表されたeASIC N5XシリーズはまだTSMCでの製造(これはつまりIntelによる買収前に開発されていたもの)であり、Intel Foundry製造のものはまだ量産に至っていない。そして今回の動きでPSGがIntelからスピンアウトしてしまうと、まだこの次世代eASIC製品の開発が継続されるかどうかも怪しくなってくる(後継もTSMCで、という可能性もある。もっと言えば、Agilex自身もどこまでIntel Foundryを頼るか怪しいところで、かつてのMarvellに引き取られたXScale製品のように、将来はTSMCを利用したAgilexに代替される可能性もある)。

【図5】この時点ではまだeASICの製品はTSMCでの製造で、Agilexシリーズとの互換性も無かった。「次世代製品ではIntel製造になり、Agilexとの互換性が出て来る」というのがこの当時の説明である

 2022年のForm 10-Kの事業部別損益(図6)の中に、既にPSGの名称はなく、「All other」の中に組み入れられてしまっている。唯一PSGの名前が出てくるのはのれん代(図7)の項目で、2022年中に全額償却を行なっているのが分かる。つまりPSGの分離は、事実上2022年末には既定路線だったことになる。

【図6】2021年まではPSGの項目があったのが消えているのが判る。これに伴い過去のPSGの売上や粗利もAll othersに移ったことで、All othersの金額が2021年度と2022年度で大きく変化している
【図7】前年の決算ではのれん代が26億5,400万ドルだったので、どっかで200万ドルほどふえたらしい(が、この数字の前では誤差の範囲ではある)

 その2022年末の決算発表の中で、NEXに属するTofinoのスイッチ製品について、もう新規投資は行なわないとすることが発表されている(図8)。実際Intel Arkで確認すると、全ての製品が「Marketing Status:Discontinued」であり、いくつかの製品はまだ供給こそされているものの、もう新製品の開発は難しい。

【図8】これは事実上TofinoシリーズのSwitch製品を指すものと考えられる

 そもそもこの製品はBarefoot NetworksがIntelによる買収「前」に販売していたものであるが、本来Intelは2度に渡るInfiniBand製品展開の放棄や、第2世代Omni-Path Fabric製品の開発中止などで、サーバー同士のインターコネクト製品を失っており、これを補完するものと考えられていた。

 実際HPCなどこれまでOmni-Path Fabricをベースに構築してきたサイトは、より高速なインターコネクトを利用するのに現状のOmni-Path FabricのSwitchとI/F Cardを捨て、NVIDIA/MellanoxベースのInfiniBandを使うか、Ethernet Switchを利用するかという話になっており、このOmni-Path FabricベースのSwitchの代替としてTofinoベースの製品を提供すると見られていたからだ。2022年末の発表は、この路線を否定するものになった。要するにIntelはもうこうしたHPC/Cluster向けのSwitchを投入する意思はない、ということになる。

次はグラフィックス?

 その一方でファブへの投資は引き続き続いているし、プロセッサへの投資も同様である。要するにIntelはもうプロセッサとそれを製造するためのFabにしか資金を投じないという話で、これはクルザニッチ氏以降の多角化路線を、それ以前の時代に戻す動きと評しても良いように思われる。

 もちろん完全に、ではない。今の時点でAIを無視することはできないし、推論はともかくトレーニングにx86プロセッサは非力すぎる。だからHavana LabsベースのGaudiに関しては積極的に投資が続いている。ただそれ以外の多角化分野については、今後も売却あるいは放棄するという方向が続きそうに思える。

 その筆頭に挙げられそうなのが、AXG(Accelerated Computing Systems and Graphics)だと筆者は考える。

 IntelはAXGを分割、Ponte Vecchioこと「Datacenter GPU Max」やArctic Soundこと「Datacenter GPU」はデータセンターAIに、AlchemistやBattlemageに代表されるディスクリートGPUはCCGにそれぞれ移管された。そしてAXGのトップだったラジャ・コドゥリ氏はチーフアーキテクトの座に就くとされたが、実際にはそのコドゥリ氏は椎間板の手術のために2022年末から入院したことを発表しており、2023年3月末に離職することをゲルシンガーCEOが明らかにしている

 このうち、Ponte Vecchioの後継(Rialto Bridgeはキャンセルとなったが、2025年にCPUとGPUをワンパッケージにまとめたFalcon Shoresが投入されることが2023年5月のISC 23公開されており(図9)、これで大幅な高速化を実現するとしている(図10)。こちらの製品はデータセンターAIの担当範囲で、IntelがHPCマーケットから完全撤退するのでもない限り必須なだけに、今後も開発が続くであろう。

【図9】このスライドは2022年2月のInvestor Meetingの時のもの。発想からするとAMDのInstinct MI300Aと同じAPUであるが、Intel的にはこれはXPUという分類との事。ちなみに2022年の時点ではこれを2024年中に投入予定だった
【図10】絶対性能そのものは相変わらず公開されていない。もっとも先日公開されたANLに納入されてTop 500で2位を獲ったAuroraの性能効率(消費電力あたりの性能)がかなり悪かったことを考えると、Performance/Wattを5倍以上引き上げるという目標は必須なのかも

 問題はCCGが担当するというXeブランドのディスクリートGPUである。Battlemage世代が本当に開発が続けられ、出荷につながるのか? というあたりである。

 CCGに移管されてしまった結果として、今年度(2023年)におけるGPUの売上というのが見えなくなっているが、2022年までは間違いなくお荷物だった(図11)ことを考えると、CPUビジネスに直接関係ないAXGのディスクリートGPU部門が生き残るのは大変に困難であろう。だからといってPSGみたいにスピンアウトしてIPOを狙う、といっても多分無理だろうし、どこかに売却しようとしたところで買ってくれる会社も思いつかない。

【図11】2022年のForm 10-Kより。そもそもディスクリートGPU部門はTSMCを使っているから、IFSに寄与する部分もない、というあたりも問題ではある

 現実問題としてディスクリートGPUビジネスからは撤退、CPUに統合するチップレット向けの開発部隊のみを残してあとは解散、といった感じになっていくように思える。早ければ年内、遅くても来年中(2024年)にはこうした動きになるように筆者には考えられる。

 結局のところ、こうした一連のリストラクチャリングにより、Intelは再び2013年以前の「強いCPUの提供」と「それを支える強い製造能力の提供」を行なう会社に先祖返りしようとしているように筆者には見える。多分ゲルシンガーCEOの目的もここにあるのだろう。

 問題は、その強い製造能力が本当に提供可能になるかどうか、である。まだ、行く手は茨の道が続いている。