多和田新也のニューアイテム診断室

ベンチマーク対決 Windows XP vs Vista vs 7



 Windows 7が発売されて2週間が過ぎた。すでに導入している方も多いだろう。体感速度が上がった、カーネルのメモリ使用量が少ないなど、性能面の優位性がアピールされることも多い。果たして、これらの改善はベンチマークソフトで数字として見られるものかどうか。旧Windowsと比較してみた結果を紹介したい。

●テスト環境やテストの内容など

 早速ではあるが、今回のテスト環境などを紹介しておきたい。テストに用意したハードウェア、OSは表のとおりである。Windows XP/Vista/7それぞれの32bit(x86)版、64bit(x64)版を用意。Windows XP Professionalの64-bit EditionはService Pack 3がリリースされていないので、Service Pack 2となる。

 CPUはCore i7-860を使用。Hyper-Threadingおよび、Turbo Boostも有効にしている。Turbo Boostは、同一環境の比較では無効にすべき、という意見もあるだろう。ただ、今回のテストは、これも含めたトータルのパフォーマンスを見るという観点から、有効にしたままテストを実施した。

 メモリは4GB。32bit環境では実際に使用できる容量が3GBあまりとなってしまうが、現在のパフォーマンス~ハイエンド環境で、4GBが定番となりつつあることを重視した。また、64bit OSの重要なメリットの1つでもある。

 ビデオカードはGeForce GTX 280。ドライバはテスト時点で最新の正式版であるVersion 191.07を使用している。ちなみに、ドライバのバージョンは同じだが、Windows Vista/7のバイナリは共通で、Windows XPは別のバイナリとなっている。

 なお、ベンチマークソフトは本コラムで普段から利用しているものであるが、今回はハードウェアコンポーネント単位のテストは最小限に留め、実際のアプリケーションを用いたテストを中心に行なっている。

【表】テスト環境
CPUCore i7-860
チップセットIntel P55
マザーボードASUSTeK P7P55D EVO
メモリDDR3-1333(1GB×4/9-9-9-24)
GPU
(ドライバ)
GeForce GTX 280
(GeForce Driver 191.07)
HDDSeagete Barracuda 7200.12(ST3500418AS)
OSWindows 7 Ultimate x64
Windows Vista Ultimate x64 SP2
Windows XP Professional x64 SP2
Windows 7 Ultimate x86
Windows Vista Ultimate x86 SP2
Windows XP Professional x86 SP3

●ベンチマークテストの結果

 では順に結果を紹介していく。まずはSandra 2009 SP4のProcessor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark(グラフ1)、PassMark Performance Test 7のCPU Test(グラフ2)の結果である。

 まずSandraであるが、ここではXP/Vista/7の3OSによる性能差はほとんどない。しかし、Sandraは64bit OS/32bit OSに両対応するユニバーサルバイナリで、Multi-Media BenchmarkではSSEレジスタが倍となることもあって、64bit OSの効果がよく出ている。

 一方、Arithmetic Benchmarkは、32bit OSが良い結果を出している。ちなみに、Hyper-Threadingを無効にした状態で、Windows 7 64bit/32bitそれぞれで計測してみると、64bitではDrystoneが72.51GIPS、Whetstoneが34GFLOPS、32bitではそれぞれ66.2GIPS、37.8GFLOPSとなった。つまり、WhetstoneはHT有効/無効に関わらず32bitが良い結果を出すものの、DrystoneについてはHT有効時に64bitではスコアを落とすことが分かる。64bitのHT有効/無効によるスコア差は大きくないため、HT有効時に各コアがリソースを使い切ることによる多少のオーバーヘッドが加わっていると見ていいだろう。

 PassMarkは32bit版と64bit版でバイナリが分かれている。CPU処理中心のベンチマークなので各環境による差は、やはり小さい。64bitと32bitの差もそれほど大きくないが、整数演算/浮動小数点演算をテストする項目では大きな差がつく。ベンチマークソフトの特性の1つとして、64bit OSにおける性能面でのメリットを感じられる結果といえる。

【グラフ1】Sandra 2009 SP4 (Processor Arithmetic/Multi-Media Benchmark)
【グラフ2】PassMark Performance Test 7(CPU Test)

 PCMark05の結果は、今回は各テストスイートのスコアを紹介する(グラフ3)。3回計測の平均値である。このベンチマークソフトは32bit動作となる。差が目立つのはGraphicsとHDDだ。

 GraphicsはWindows XPがもっとも良く、Windows 7がもっとも奮わない結果となった。これはPCMark05がもともとWindows XP時代のベンチマークソフトであることと、Windows AeroとGDI/GDI+のサポートが大きく影響していると見られる。

 Windows XPがもっとも良い結果となった最大の要因はGraphics Memoryへのアクセステストの結果が良かったからだ。Windows Vista以降ではDirect3Dを用いたDesktop Window Managerによりデスクトップ管理がなされるようになった。このアーキテクチャ変更によりWindows XPよりもビデオメモリへのアクセス負荷が大きくなり、相対的にWindows XPが良いスコアを出すと見られる。

 一方で、Windows VistaとWindows 7のスコア差の大きな要因となったのが、Transparent Windowsと呼ばれるテストだ。これは、多数のダイヤログボックスを重ね合わせて表示した際のパフォーマンスを測定するもの。Windows VistaのAero表示の場合は、これが完全に3D処理となったことで、Windows XPまでのGDI/GDI+処理時より格段にスコアが良くなる。今回のテストでは32bit環境で7倍弱、64bit環境で5倍弱という差がついている。Windows 7ではいうまでもなく、このAero機能に大幅に手が加えられた。この結果、PCMark05のTransparent Windowsテストでは、Windows XPに対して、32bit環境で約1.7倍、64bit環境で約2倍程度の性能向上に留まる結果となり、Windows VistaよりもGraphics Scoreが低下するスコアが算出された、ということになる。

 HDDスコアは、PCMarkではそもそも誤差が大きく出るが、Windows 7でやや奮わない傾向があるのは気になるところである。ただし、詳細な結果を見ても、特定の傾向は見られなかった。

【グラフ3】PCMark05 Build 1.2.0

 実際のアプリケーションを用いたベンチマークの結果であるが、ここでは本コラムでいつも使用している、SYSmark 2007 Preview(グラフ4)、PCMark Vantage(グラフ5)、CineBench R10(グラフ6)、POV-Ray(グラフ7)、ProShow Gold(グラフ8)、TMPGEnc 4.0 XPressによる動画エンコード(グラフ9)を使用する。

 このうち、PCMark Vantageはユニバーサルバイナリ、CineBench R10とPOV-Rayは32bit/64bit別にバイナリが用意されている。ほかのアプリケーションは32bit動作となる。WMVエンコーダには64bit版も提供されているが、フロントエンドとして使用しているTMPGEnc 4.0 XPressから32bit版が呼び出されるため、テスト結果も32bit動作によるものとなっている。PCMark VantageはWindows XPで動作しないほか、Windows Vista 64bitでHDDテストが完走しないトラブルがあったので割愛している。

 SYSmark2007、PCMark Vantageは、Windows 7の優位性が数字として表れている部分が多い。PCMark Vantageでは64bit OSでスコアを伸ばすテスト項目も多いが、MusicのようにWindows 7が良いスコアを出すものの、64bit版ではスコアを落とすといった項目もある(誤差程度ではあるが)。

 ただ、いずれの結果も32bit/64bitの条件が同じであれば、Windows 7はVistaを上回る結果を見せているあたりは、性能が良いというMicrosoftのアピールが数字にも表れた結果といえる。一方で、SYSmark2007において、Windows XPに対しては完全な優位性を示せていない。

 CineBench R10、POV-RAYについては、32bit版に対して64bit版が良いスコアを出す傾向は現れているが、Windows XP/Vista/7間の差はあまりない。CineBench R10でわずかにWindows 7が良い結果を見せているが、32bit版のシングルCPUレンダリングの結果が奮わないところを見るに、確固たる差とは言いづらい。

 PhotoShow Goldは、Windows XP/Vista/7、32bit版/64bit版でまったくといって良いほど差がなかった。結果は誤差の範囲である。

 動画エンコードはMPEG-2でWindows Vista 32bit版の結果のみが大きく劣るという、少々不可解な結果が出ているのは気になるところ。傾向がはっきりしているところでは、WMV9とDivX6.8.5のエンコードで、WMV9はWindows 7が高速に処理できるのに対し、DivX6.8.5はWindows 7で速度を落とす結果となった。DivXはまだWindows 7に最適化されていないのかも知れない。

 WMV9エンコードについてもはっきりした理由は分からないが、Windows 7の32bit版/64bit版ともに成績が良いところを見るに、Windows Media Player 12が採用されたことが関係しているのではないだろうか。ちなみに、先のSYSmark2007ではWindows 7のスコアが非常に良かったわけだが、これはAeroによる動画表示のアクセラレーションや、WMV9エンコードの性能が影響していると見られる。

【グラフ4】SYSmark 2007 Preview(Ver. 1.06)
【グラフ5】PCMark Vantage Build 1.0.1
【グラフ6】CineBench R10
【グラフ7】POV-Ray v3.7 beta 34
【グラフ8】Photodex ProShow Gold 4.0
【グラフ9】動画エンコード(SD動画)

 最後に3Dベンチマークである。3DMark 06/VantageのCPU Test(グラフ10)、3DMark VantageのGraphics Test(グラフ11)、3DMark06のSM2.0 TestとHDR/SM3.0 Test(グラフ12)、BIOHAZARD 5 ベンチマーク(グラフ13)、Darkest of days(グラフ14)、Far Cry 2(グラフ15)、ストリートファイターIV ベンチマーク(グラフ16)、Tom Clancy's H.A.W.X(グラフ17)をテストしている。

 いずれのアプリケーションも最高クオリティになるよう設定し、4xアンチエイリアスおよび16x異方性フィルタを適用。Far Cry 2は異方性フィルタの設定が適用されないので、4xアンチエイリアスのみ設定してテストしている。

 このほか、DirectX 9/10を選べるゲームタイトルについては、DirectX 10でテストを実行し、Windows XPではテストを行なっていない。3DMark VantageはWindows XPでは動作しないため、やはりテストを割愛している。

 結果を見ると、Windows VistaとWindows 7の比較では、64bitでは、Windows 7がわずかながら良好なスコアを示すテストが多いが、32bit版の場合はVistaのほうが高性能を示すシーンが多い。

 また、DirectX 9のゲームにおいては、Windows XPが良好な結果を示すシーンが多いのも気に留めておきたいポイントといえる。

【グラフ10】3DMark06 Build 1.1.0 / 3DMark Vantage Build 1.0.1(CPU Test)
【グラフ11】3DMark Vantage Build 1.0.1
【グラフ12】3DMark06 Build 1.1.0(SM2.0 Test,HDR/SM3.0 Test)
【グラフ13】BIOHAZARD 5 ベンチマーク
【グラフ14】Darkest of days
【グラフ15】Far Cry 2(Patch v1.03)
【グラフ16】ストリートファイターIV ベンチマーク
【グラフ17】Tom Clancy's H.A.W.X

●一般アプリは数字のうえでもWindows 7が良好

 以上のとおりベンチマーク結果をお伝えしてきた。32bit版と64bit版の性能差が目に留まる部分が多い一方で、OS間での違いはそれほど大きくない。

 ただ、SYSmarkやPCMark Vantageのようにゲームで以外の用途を中心としたベンチマークテストで、Windows 7が良いスコアを出しているのは好印象だ。Windows 7の体感速度の向上が、数字として顕在化した部分といえるだろう。

 ゲームについてもOS間の差は小さい。もちろん本稿の環境で用いているGeForceの場合、という前提はあるが、Windows Vista以降が必要なDirectX 10対応ゲームについては、Windows 7のほうが好結果を示す傾向にある。ただし、DirectX 9世代のゲームでは、Windows XPから乗り換える動機にはなりそうにない。

 ゲームユースでのWindos XPからの乗り換え動機は、ベンチ性能ではなく、DirectX 10/11への世代交代となるのではないだろうか。とくにDirectX 11対応ゲームは、こちらの記事図10でも示したとおり、リリースを表明しているゲームベンダーが早々に表れている。こうした新世代のゲームがWindows 7導入の1つの動機になりそうだ。