多和田新也のニューアイテム診断室

TDPを125Wへ抑制して再登場「Phenom II X4 965 Black Edition」



 AMDは11月4日、Phenomシリーズの最上位モデルとしてラインナップしていた「Phenom II X4 965 Black Edition」のTDPを140Wから125Wへ引き下げたモデルの投入を発表した。国内でも11月6日から店頭に並ぶ予定だ。新リビジョンによって実現された低TDP版の能力をチェックしてみたい。

●C2からC3へリビジョンアップ

 今回投入されるTDP 125W版のPhenom II X4 965 Black Editionの主な仕様は表1にまとめたとおりである。動作クロックやキャッシュ容量などに差はなく、従来の「Deneb」コアをそのまま用いたものとなる。

【表1】Phenom II X4 965 Black Editionの主な仕様

Phenom II X4 965 Black EditionPhenom II X4 965 Black Edition
使用コアDeneb
OPNHDZ965FBK4DGMHDZ965FBK4DGI
リビジョンRev.C3Rev.C2
ソケット種別Socket AM3
動作クロック3.4GHz
L1データキャッシュ64KB×4
L2キャッシュ512KB×4
L3キャッシュ6MB
HT Linkクロック2.0GHz
対応メモリDDR3-1333/DDR2-1066
動作電圧0.825~1.4V0.875~1.5V
周辺温度(最大)62℃
TDP(最大)125W140W

 ただし、リビジョンがC2からC3へ変更されており、このことが、より低電圧で従来の動作クロックを実現し、低TDPに寄与していることになる。コアのリビジョンが変更となったことで、マザーボードのBIOSを最新にアップデートする必要性は高いので、既存マザーボードでアップグレードパスとして検討しているなら対応を確認すべきだろう。

 OPNは末尾がIからMへ変更(写真1、2)。この記載を確認することで125W版と140W版を判別することができる。CPU-Zの結果でもコアのリビジョンが変更されていることを確認でき、若干ながら動作電圧が低くなっていることを見て取れる(画面1、2)。

 ちなみに、AMDによると、新しいリビジョンはオーバークロック耐性も向上しているという。簡単ながら定格電圧でのオーバークロック耐性もチェックしてみてたところ、125W版ではBIOS上で201MHz×19.5に設定した約3.92GHzまでの動作を確認できた(画面3)。対する140W版は同条件で205MHz×18.5に設定した約3.79GHzまで限界だった。

 オーバークロックは個体ごとのばらつきがあるため断言はしづらいが、AMD自身が耐性が良くなったと表明している点も含めて考えると、より高い耐性を期待することはできそうだ。

【写真1】Phenom II X4 965 Black EditionのTDP 125W版。OPNの末尾Mで判別が可能だ【写真2】Phenom II X4 965 Black EditionのTDP 140W版。こちらはOPN末尾がI
【画面1】TDP 125WにおけるCPU-Zの結果。リビジョンがC3になっていることを確認できる【画面2】こちらはTDP 140W。TDP 125W版よりピーククロック時の動作電圧が若干高い【画面3】TDP 125WにおけるOC結果。CPU-Z上ではベースクロックが202MHzに近い値になっているが、BIOSでは201MHzに設定している

●125W/140Wの性能と消費電力を比較
【写真3】AMD785+SB710を搭載する、ASUSTeK「M4A785TD-V EVO

 それではベンチマーク結果をお伝えしたい。テスト環境は表2に示したとおりで、ここでは同じPhenom II X4 965 Black Editionの125W版と140W版とで比較する。動作クロックやキャッシュが同じ製品で、リビジョンの違いが性能や消費電力に及ぼす影響を見ようというわけだ。

 マザーボードはAMD785搭載製品(写真3)を使っているが、Radeon HD 5870を利用しているので、内蔵グラフィックスは無効化している。

【表2】テスト環境
CPUPhenom II X4 965 Black Edition(125W版)
Phenom II X4 965 Black Edition(140W版)
チップセットAMD 785G+SB710
マザーボードASUSTeK M4A785TD-V EVO
メモリDDR3-1333(2GB×2,9-9-9-24)
グラフィックス機能
(ドライバ)
Radeon HD 5870
(CATALYST 9.10)
HDDSeagete Barracuda 7200.12(ST3500418AS)
OSWindows 7 Ultimate x64

 まずはCPU性能のチェックだ。テストは、Sandra 2009 SP4のProcessor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark(グラフ1)、PassMark Performance Test 7のCPU Test(グラフ2)、PCMark05のCPU Test(グラフ3~4)、Sandra 2009のCache & Memory Benchmark(グラフ5)と、PCMark05のMemory Latency Test(グラフ6)である。

 リビジョンが違うとはいえ、性能面では同等の結果が出るのが妥当といって良い製品間での比較であり、結果もそうした傾向が出ている。

 違いが目立つ部分をピックアップしてみると、PassMarkのInteger Mathの違いがやや大きい。ほかのCPUベンチの結果を見る限り、CPUアーキテクチャ面で手が加えられたという可能性は低く、次に示すキャッシュ周りの性能差が影響した可能性はあるものの、誤差と捉えてもいいと考えている。

 そのキャッシュ周りの性能の件は、Sandraの16MB転送テスト、PCMark05の8MB時のメモリレイテンシは、L3キャッシュメモリとメインメモリの境界線をまたぐという共通点があるテストサイズであるが、ここで125W版が、140版に対して揃って劣る結果となった。新CPUで起こりがちなキャッシュ容量をフルにいかしきれてない状況が見られる結果であり、結果としては気に留めておきたいところである。

【グラフ1】Sandra 2009 SP4 (Processor Arithmetic/Multi-Media Benchmark)
【グラフ2】PassMark Performance Test 7(CPU Test)
【グラフ3】PCMark05 Build 1.2.0(CPU Test-シングルタスク)
【グラフ4】PCMark05 Build 1.2.0(CPU Test-マルチタスク)
【グラフ5】Sandra 2009 SP4(Cache & Memory Benchmark)
【グラフ6】PCMark05 Build 1.2.0(Memory Latancy Test)

 次に実際にアプリケーションを用いたベンチマークテストである。一般アプリケーションテストはSYSmark 2007 Preview(グラフ7)、CineBench R10(グラフ8)、POV-Ray(グラフ9)、ProShow Gold(グラフ10)、TMPGEnc 4.0 XPressによる動画エンコード(グラフ11、12)。

 3D関連ベンチマークは、3DMark 06/VantageのCPU Test(グラフ13)、3DMark VantageのGraphics Test(グラフ14)、3DMark06のSM2.0 TestとHDR/SM3.0 Test(グラフ15)、Far Cry 2(グラフ16)、BIOHAZARD 5 ベンチマーク(グラフ17)、Tom Clancy's H.A.W.X(グラフ18)である。Far Cry 2とH.A.W.X.は4xアンチエイリアス、バイオハザード5は4xアンチエイリアスと16x異方性フィルタを適用した状態でテストしている。ほかのクオリティ設定は最高クオリティになるよう指定している。

 結果はご覧のとおり、多少の誤差はあるが両製品でほとんど差がない結果となった。先に示したCPUやメモリ周りの結果から、こうした傾向であることは妥当といっていい。ここは結論が見えていた部分であるが、リビジョンによる性能差はないと考えていいだろう。

【グラフ7】SYSmark 2007 Preview(Ver. 1.06)
【グラフ8】CineBench R10
【グラフ9】POV-Ray v3.7 beta 34
【グラフ10】Photodex ProShow Gold 4.0
【グラフ11】動画エンコード(SD動画)
【グラフ12】動画エンコード(HD動画)
【グラフ13】3DMark06 Build 1.1.0 / 3DMark Vantage Build 1.0.1(CPU Test)
【グラフ14】3DMark Vantage Build 1.0.1(Graphics Test)
【グラフ15】3DMark06 Build 1.1.0(SM2.0 Test,HDR/SM3.0 Test)
【グラフ16】Far Cry 2(Patch 1.03)
【グラフ17】BIOHAZARD 5 ベンチマーク
【グラフ18】Tom Clancy's H.A.W.X

 最後に消費電力の測定結果である(グラフ19)。TDPが下がったことが今回の製品の差異となるわけだが、アイドル時はまったく同じ値となった。スペック上は最低動作電圧が下がっているわけだが、ここには大きな差は期待できそうにない。

 一方で、ピーク時は確かに消費電力が減少していることが分かる。10Wに満たない程度ではあるが、TDPが140Wと125Wということは理論上のピーク差でも15Wしかないわけで、テスト対象の個体差もあるだろうが、この程度の差でも妥当と考えてよいのではないだろうか。

【グラフ19】消費電力

●新リビジョンの広がりに期待

 以上のとおりベンチマーク結果を見ると、性能は同等で、ピーク消費電力はわずかに低下といったあたりの傾向を見て取ることができる。なお、価格は据え置きとなっている。

 140W版は発売から3カ月足らずで旧製品として扱われることに、既存ユーザは残念に思うかも知れない。ただ性能自体は同等なので、今後も上位製品が出るまではPhenom IIシリーズとして最上位の性能というポジションは変わらない。Phenom II X4 955 Black Editionを考えていたユーザーにとっては、同じTDP枠内でアップグレードパスが提供されるわけで、これまでと同じ性能がより低い電力で実現されるという流れは歓迎すべきだ。

 とくに本製品の素行の良さは、オーバークロック耐性という点も含めて魅力的なところであり、このC3リビジョンを使った従来モデルの低TDP版や、3.4GHzを超える高クロックモデルの投入にも期待したい。