福田昭のセミコン業界最前線

「やればできる」を証明したルネサスの2年連続最終黒字

 国内最大の半導体専業メーカー、ルネサス エレクトロニクス(以下は「ルネサス」)は2016年5月11日に2015会計年度(2015年4月~2016年3月期)の通期決算と、2015会計年度第4四半期(2016年1月~3月期)の四半期業績を発表した。

 2015会計年度(以下は「会計年度」を「年度」と表記)の業績をまとめると、売上高が対前年比12.4%減の6,933億円、営業利益が同0.6%減の1,038億円、最終黒字(親会社株主に帰属する純利益)が同4.7%増の863億円である。前年度の最終黒字824億円に続き、2年連続で年間最終黒字を達成した。ルネサスが2年連続で純利益を計上するのは、同社が2010年4月に発足して以降、初めてである。

ルネサスの2015年度(2016年3月期)業績と2015年度第4四半期(2016年1月~3月期)の業績。ルネサスが2016年5月11日に開催した記者説明会の資料から

 注目すべきは、売上高が前年度に比べて2桁減、金額にして1,000億円ほど減少したにも関わらず、営業利益の金額がほとんど変わらない(2014年度が1,044億円、2015年度が1,038億円)ことだ。ルネサスの説明資料によると、売上高の減少による利益減は487億円に達する。この大きな利益減の大半を、経費削減で補っている。具体的には、製造固定費などの削減が227億円、研究開発費と一般販売管理費の削減が合計で126億円である。このほか、円安に助けられた利益増が165億円と少なくない。これらの要因によって、前年と同水準の営業利益を達成した。

 発足当初のルネサスは、売上高の減少が損益の悪化にほぼ直結していた。しかも売上高が1兆円を超えていたにも関わらず、ごくわずかな営業利益を計上するに留まっていた。2013年度(2014年3月期)以降の強烈な構造改革が、ルネサスをまったく別の企業体に変貌させたことが伺える。

2014年度(2015年3月期)から2015年度(2016年3月期)への営業利益の変化。ルネサスが2016年5月11日に開催した記者説明会の資料から

四半期業績は上半期が好調、下半期が軟調

 売上高と営業損益を四半期ごとに見ていくと、2015年度は上半期が比較的好調で、15%を超える営業利益率を計上した。これに対して下半期は上半期の反動もあり、あまり好調とは言えなかった。それでも2012年度第4四半期以降、13四半期連続で営業損益を黒字にし続けている。純損益でも2014年度第1四半期以降、8四半期連続で最終黒字を計上してきた。かつての赤字続きだったルネサスが、まるで遠い昔のことであるかのような優等生ぶりである。

四半期売上高と四半期営業損益の推移。ルネサスの公表資料を基に作成した
四半期営業利益と四半期純損益の推移。ルネサスの公表資料を基に作成した

自動車向け製品は横ばい、汎用向け製品は2桁減

 2015年度の売上高を事業別に見ていくと、「自動車向け事業」(担当組織名は第一ソリューション事業本部)と「汎用向け事業」(担当組織名は第二ソリューション事業本部)に分かれる。

 自動車向け事業の売上高は対前年比0.4%減の3,217億円である。売上高の約7割を占める「車載制御」分野の売上高は増加したものの、残りの約3割を占める「車載情報」分野の売上高が減少したことで、全体としてはほぼ横ばいとなった。なお車載制御事業には、自動車のエンジン制御やボディ制御などを担うマイクロコントローラ(マイコン)とアナログ半導体、パワー半導体などの製品があり、車載情報事業には自動車ナビゲーションシステムといった情報端末を担うマイコンやSoC(System on a Chip)などの製品がある。

 汎用向け事業の売上高は対前年比17.9%減の3,494億円である。ここには産業機器と白物家電に向けた「産業・家電」、複合機やネットワーク機器などに向けた「OA・ICT」、そのほかの分野をまとめた「汎用製品」の3分野がある。2015年度は「産業・家電」分野の売上高は横ばいで推移したものの、事業分野の選択と集中によって非注力分野の売り上げが減少したことにより、「OA・ICT」と「汎用製品」はマイナスとなった。

事業別の四半期売上高推移。ルネサスが2016年5月11日に開催した記者説明会の資料から

構造改革によって日本市場の売上高比率が減少

 2015年度の売上高を地域別に見ていくと、日本が対前年比8.8%減の3,035億円、中国が同15.0%減の1,100億円、アジア(日本と中国を除く)が同20.7%減の1,150億円、欧州が同15.1%減の966億円、北米が同1.5%減の646億円となった。すべての地域で前年に比べ、売上高が減少した。

 ルネサスが設立された初年度(2010年度)と2015年度の地域別売上高を比較すると、日本市場における売上高の比率が大きく違う。2010年度には54%と過半数を占めていたのが、2015年度には44%と大きく下げている。

 日本市場の売り上げを海外市場が上回るようになったのは、構造改革が始まった2013年度からだ。同年度は日本市場の売り上げがマイナス成長だったが、海外各地域の売り上げはすべてプラス成長を記録した。

地域別の売上高推移(2010年度~2015年度)。ルネサスの公表資料を基に作成した
日本市場の売上高比率の推移(2010年度~2015年度)。ルネサスの公表資料を基に作成した

従業員数の減少が続く

 ルネサスの従業員数は現在も減り続けている。2016年3月31日時点の従業員数は19,160名で、1年前の2015年3月31日時点と比べると2,000名近くの減少である。3カ月前の2015年12月31日時点と比べても、600名強の減少となっている。

 ルネサス設立当初の2010年6月30日時点では、49,000名近い従業員が在籍していた。6年足らずの間に3万名もの人員削減を実行し、従業員数はおよそ4割にまで減ってしまった。

ルネサスの従業員数(連結ベース)推移。ルネサスの公表資料を基に作成した

 本来であれば、2015年度は「拡大と攻勢」への足がかりとなるはずの年だった。しかし2015年12月末に経営トップが突然に辞任したことにより、成長シナリオはリセットされてしまったようだ。新しい経営トップが就任するのは、2016年6月になる。変化の速い半導体産業で、この遅れがどのように響くのか。それが分かるのは、2016年後半以降になるだろう。

(福田 昭)