福田昭のセミコン業界最前線

Samsungがついに半導体売り上げランキングのトップを奪取へ

~Intelが25年間にわたって君臨してきた地位を明け渡す

2016年第1四半期から2017年第2四半期までの半導体売上高の推移。青い部分はIntel、赤い折れ線はSamsungの数値。2017年第1四半期までは実績推定、2017年第2四半期は予測 ※市場調査会社IC Insightsが2017年5月1日に公表した資料から

 半導体売り上げランキングのトップ企業が交代する可能性が現実味を帯びてきた。

 米国の半導体市場調査会社であるIC Insightsは今年(2015年)5月1日(米国時間)に、2017年第2四半期(2017年4月~6月期)の売上高でSamsung ElectronicsがIntelを抜き、半導体の売上高ランキングで首位になるとの予測を発表した。

 半導体売上高の年間ランキングを発表している調査会社でもっとも良く知られているのは、米国のハイテク調査会社Gartnerである。同社の年間ランキングでは昨年(2016年)まで、Intelが25年連続でトップに君臨してきた。そしてSamsung Electronics(以降はSamsungと表記)は同社のランキングで2016年まで、15年連続で2位につけてきた。

 IC InsightsはGartnerほどの知名度ではないものの、半導体業界ではかなり知られた調査会社であり、それなりの信頼を得ている。今回の予測は直近の四半期ということもあり、かなり実現性の高いものだろう。

 四半期売上高の具体的な動きとして、IC Insightsは、Intelの売上高が2016年第3四半期(7月~9月期)から伸び悩んでいるのに対し、Samsungの売上高がずっと伸び続けてきたことを指摘する。

 2016年第1四半期(1月~3月期)にIntelの半導体売上高は131億ドルであったのに対してSamsungの半導体売上高は93億ドルで、両社には38億ドルの開きがあった。それが1年後の2017年第1四半期には、Intelが142億ドル、Samsungが136億ドルとなり、両者の差はわずか6億ドルで1年前の約6分の1に縮まってしまった。この間、トップグループの2社を脅かすような新たな半導体企業は登場していない。

半導体メモリの価格上昇がトップの逆転を促す

 約25年振りのトップ交代を促そうとしている大きな要因は、半導体メモリ価格(DRAM価格とNANDフラッシュメモリ価格)の上昇である。半導体メモリ価格の下げ止まりは昨年(2016年)夏ごろに始まり、2017年に入ると価格は上昇を始めた。

 上昇の要因は供給不足であり、かなり深刻だ。このことはすでに、半導体メモリ業界全体の共通認識となっている。

 Samsung Electronicsの半導体事業の主力製品はDRAMとNANDフラッシュメモリであり、メモリ価格の上昇によって半導体事業全体の売り上げが押し上げられた。

 これに対して、Intelの半導体事業の主力製品は良く知られているようにマイクロプロセッサであり、Intelのマイクロプロセッサの主要顧客はPCであり、PCの出荷台数は前年同期比でマイナスを続けている。サーバーの出荷台数は伸びているものの、数量そのものではPCに比べるとはるかに少ない。またスマートフォンには、Intelのマイクロプロセッサはほとんど搭載されていない。これらの事情が、Intelの半導体事業の成長を抑制している。

DRAMとNANDフラッシュメモリの平均単価の推移。DRAMは1年間で45%の上昇、NANDフラッシュメモリは1年間で40%の上昇である ※市場調査会社IC Insightsが2017年5月1日に公表した資料から

過去最小を更新するも横ばいだったトップ2社の売り上げ比率

 市場調査会社Gartnerは5月15日(米国時間)に、2016年の半導体ベンダー売上高ランキングの確定値(1月18日に発表した速報値の修正版)を発表した。この発表資料によると2016年の半導体売上高は、Intelが前年比4.6%増の541億ドル、Samsungが同5.9%増の401億ドルだった。両社の売上高には140億ドルの違いがある。

 Intelを分母、Samsungを分子として計算した両社の売上高比率は、「1.35」で過去最小を更新した。2015年の同比率は「1.37」だったので、過去最小とは言ってもほぼ横ばいである。

 本コラムで以前に予測(売上高でインテルの後を追うSamsungとHynixの脅威)したように、2016年前半はDRAM価格が低迷したことから、Samsungの売上高は2015年ほどには伸びなかった。ちなみに市場調査会社のIC Insightsは3月29日に、2016年のDRAM平均単価は前年に比べて12%低下したとの推定値を発表している。

IntelとSamsungの半導体売上高推移 ※Gartnerの公表値(確定値)を筆者がまとめたもの
IntelとSamsungの半導体売上高比率の推移(Samsung/Intel) ※Gartnerの公表値(確定値)から筆者が計算したもの

年間ランキングでも半導体トップが入れ換わる可能性は小さくない

 2017年第2四半期の売上高でSamsungがIntelを追い抜く可能性が高いことは、上記のように明らかになった。それでは、2017年全体を通じた売上高でSamsungがIntelを追い抜き、年間ランキングでトップを入れ換える可能性はどの程度あるのだろうか。

 すでに分かっていることは、2017年第1四半期ではトップがIntel、2位がSamsungであることだ。その差は約6億ドルである。そして同年第2四半期には、トップがSamsung、2位がIntelになると見られる。その差は約5億ドルである。具体的には、Samsungの売り上げ予測が149億ドル、Intelの売り上げ予測が144億ドルとなっている。

 つまり2017年の上半期を通算すると、IntelがSamsungに約1億ドルの差を付けてトップを維持するということだ。約1億ドルという差は、年間の売上高が400億ドル~550億ドルの両社にとっては、ほとんど無きに等しい。こうなると2017年下半期(2017年後半)の売上高が重要である。

 メモリ対プロセッサで見ていくと、勢いはメモリに分がある。深刻なメモリ不足が緩和されるのは、来年(2018年)になると見込まれているからだ。

 Gartnerが4月13日に公表した資料によると、PC向けDRAMモジュールの平均単価は2016年半ばを底に、約2倍に上昇した。NANDフラッシュメモリの平均単価は2016年後半からずっと、上昇を続けているという。またIC Insightsが3月29日に公表した資料によると、DRAMとNANDフラッシュメモリの2017年における平均単価は2016年に比べてそれぞれ37%上昇、22%の上昇と予測されている。

 Samsungが公表した四半期業績によると、2017年第1四半期(1月~3月期)のメモリ事業部門の販売額は前年同期に比べて53%も増えている(韓国ウオンベース)。Samsungの半導体部門の売り上げに占めるメモリ部門の割合は、77.4%に達する。前年同期は71.2%だったので、1年間でメモリ比率は6.2ポイントほど、上昇したことになる。半導体部門全体の売上高では、前年同期に比べて40%も増えた。

 一方、Intelが公表した四半期業績では、2017年第1四半期(1月~3月期)の売上高は前年同期比8%増(GAAPベース)である。この売り上げにはSSDといった半導体応用製品が含まれているので厳密には半導体売り上げよりも多い。そこでプロセッサの主力部門であるクライアントコンピューティグ部門とデータセンター部門の売り上げを見ると、いずれも前年同期比6%増で、1桁の成長率にとどまっている。また、Intel全体の2017年第2四半期の売り上げ見通しは、前期比でおよそマイナス3%である。

 このように見ていくと、Intelの半導体売上高は2017年に1桁成長にとどまる可能性が高い。するとSamsungの半導体売上高、より具体的にはDRAMとNANDフラッシュメモリの売上高が2017年後半にどのように推移するかが、トップ2社のランキングを左右することがわかる。そしてDRAMとNANDフラッシュメモリの価格、つまりは需給バランスが、Samsungのメモリ売り上げを左右する。

 メモリ市場で現在のような供給不足が続けば、Samsungが年間ランキングで史上初のトップになる可能性は少なくない。