福田昭のセミコン業界最前線
Intelが半導体トップの座から滑り落ちる日
(2015/1/23 13:55)
半導体業界における冬の恒例行事の1つ、2014年の半導体ベンダー売上高ランキングが出揃った。ランキングの真打ちとも言える、米国のハイテク調査会社Gartner(ガートナー)が半導体ベンダー売上高トップ10社を1月6日(米国時間)に発表した。Gartnerの発表に先立ち、同じ米国のハイテク調査会社IC Insightsが2014年11月6日(米国時間)に、これも同じ米国のハイテク調査会社IHSが2014年12月22日(米国時間)に、半導体ベンダーの売上高ランキングを公表した。この発表順は例年通りである。どちらかと言えば、知名度の低い調査会社が先行してランキングを発表し、知名度の高い調査会社が最後に発表する、という形になっている。
Gartnerのランキングでは、トップから3位までが前年と同じ。トップは米国のIntelで、同ランキングでは23年連続の首位となった。もちろん半導体業界が始まって以来の最長記録で、なおかつ更新中の記録である。2位は韓国のSamsung Electronics(サムスン電子)で、これも最近は“不動の2位”と言えるような状態になっている。筆者が所持している資料によると、少なくとも2002年以降はずっと、GartnerのランキングでSamsungが2位に付けてきた。3位は米国のQualcomm(クアルコム)である。2012年以降、3位のままだ。徐々に“不動の3位”になりつつあるようだ。
4位と5位は、2013年と2014年で入れ替わった。4位の米Micron Technology(マイクロン・テクノロジ)は2013年には5位、5位の韓国SK Hynix(エスケー・ハイニックス)は2013年には4位だった。
6位から10位までは、前年と変わらない。6位が東芝、7位が米国のTexas Instruments(テキサス・インスツルメンツ)、8位が米国のBroadcom(ブロードコム)、9位が欧州のSTMicroelectronics(エスティーマイクロエレクトロニクス)、10位がルネサス エレクトロニクスである。
調査会社IHS(アイエイチエス)と調査会社IC Insights(アイシー・インサイツ)のランキングは、トップ11社を見る限りはわずかな順位の違いはあるものの、全体としてはGartnerとあまり変わらない。
企業買収でMediaTekとAvagoがランクアップ
調査会社各社によるランキングの大きな違いは、Gartnerがトップ10社だけを公表しているのに対し、IHSとIC Insightsは10位以下の順位も公表していることである。過去には、IHSは売り上げ上位25社を、IC Insightsは売り上げ上位20社を公表してきた。2014年に関しては、両者とも上位20社を公表した。
ランキングの10位から20位を見ると、IHSのランキングでは大きな変動が2つほどあった。いずれもほかの半導体ベンダーを買収したことによる売上高の増加が、順位を大きく押し上げる要因となった。
その1つはMediaTekである。ランクを前年の15位から、2014年は10位と初めての上位10社入りを果たした。売り上げは57.5%も上昇した。MediaTekの製品売り上げそのものが好調であることに加え、MediaTekが半導体ベンダーのMStar Semiconductorを買収したことによる売上高の拡大がランクの上昇をもたらした。
もう1つは、米国のAvago Technologiesである。ランクを前年の23位から、2014年は15位と大きく上昇させた。売上高は2倍以上、成長率は107.9%と突出した事業拡大を示した。Avagoの売上高は主に、半導体ベンダーのLSIとPLX Technologyを買収したことで、大きく伸びた。
一方、IC Insightsのランキングでは11位から20位の企業に、あまり大きな順位の変動がない。MediaTekの売上高成長率は25%と、IHSに比べると控えめである。順位は前年と2014年とも12位で、11位のルネサスとの差は著しく縮まったものの、順位を逆転するまでには至らなかった。
半導体業界ではこれまで、毎年のランキングでは大きな順位の変動が少なからず起こってきた。2014年は過去に比べると、順位の変動が比較的少なかった年であり、堅実な水準の成長率ともあいまって、かなり穏やかな年だったと言えよう。
IntelをSamsungで割った売り上げ比率は過去最低に
話題を上位2社、すなわちIntelとSamsungに転じよう。最近の売上高推移を見ると、2011年以降はIntelの売上高がほとんど伸びていない。およそ500億ドルに留まっている。これに対してSamsungは、2011年から2014年にかけて売り上げを70億~80億ドル前後伸ばしている。この結果、2011年には両社の売上高比率はIntel対Samsungで1.85対1であったのが、2014年には1.44対1にまで変化した。1.44という値は過去最低であり、両社の売り上げが“比率では”最も近付いたことになる。
もっとも、売上高の差分そのものは、それほど近付いているわけではない。過去にIntelとSamsungの売上高が近付いたのは2010年で、比率は1.49、差額はおよそ140億ドルだった。2014年は比率こそ1.44でさらに下がったものの、差額はおよそ150億ドルであり、2010年に比べると差額そのものは広がっている。
Intelの売上高がここ数年に渡ってあまり伸びない理由は明らかだ。新しい応用市場の開拓が上手くいかないことによる。主力製品であるマイクロプロセッサの売り上げがマイナス成長に陥っていることが大きい。PCの出荷台数が世界全体で減少しつつあり、サーバーの出荷台数は伸びているものの、PC向け事業のマイナスを埋めるほどには至っていない。IC Insightsが公表してきたマイクロプロセッサのベンダー別売り上げランキングによると、Intelの売り上げは2012年にマイナス1%、2013年にマイナス2%である。金額のシェアは6割を超えて断トツのトップなのだが、成長トレンドはわずかながらマイナスが続いている。
Samsungは同じランキングでは2012年と2013年ともに3位に付ける。売上高の増減は2012年がプラス78%、2013年がプラス14%となっており、金額ではIntelの8分の1から9分の1しかないものの、トレンドとしては高い成長が続いている。また、SamsungはDRAMとNANDフラッシュメモリという、いずれもシェアトップの製品を所持する。Intelに比べると、主力製品の応用範囲は広い。
20XX年、SamsungがIntelに売上高で追いつく
トップを疾走するIntel、追走するSamsungという構図は、既に10年を超えた。相対的には、両社の距離は徐々に縮んできた。この傾向が続くとすると、20XX年には、両社の売上高はほぼ等しくなる。XX年はいつか。過去の傾向を単純に外挿すると、以下のようになる。
過去の傾向が将来も続くと仮定すると、20XX年は「2020年」頃だと分かる。もちろん、今後もSamsungが売上高をこれまでのように拡大するという保証などない。そしてIntelの売上高が伸びないという保証もない。モバイル市場やウェアラブル市場などでIntelは積極的に動いているし、最近はファウンダリ(製造請け負い)事業にも熱心に見える。
売上高の拡大だけが目的ならば、Intelにとってその実現は、ほかの半導体ベンダーに比べると比較的容易だろう。ほかの半導体ベンダーを買収すれば良いのだ。といってもIntelの場合は売上高の絶対値が500億ドルと巨大なので、売上高が20億ドルクラスの企業(これでも十分に大企業だ)を買収しても、売り上げ全体に与える影響は5%に満たない。つまり、売上高ランキングでトップ10社に入るような大手企業を買収しない限り、Intelの売り上げに直接的に大きな影響は与えられない。もっとも、トップ10社の7位~8位クラスを買収する力は、Intelに備わっている。事業戦略次第では、大型買収が実現しないとも限らない。そして大型買収が過去に何度も繰り返されたのが、半導体業界の歴史なのだ。