瀬文茶のヒートシンクグラフィック

Thermalright「AXP-100」

~高さ58mmの小型フォームファクタ向けクーラー

 ハイエンドCPUクーラーメーカーとして知られるThermalrightよりサンプル提供があったため、今回はAXP-100を紹介する。サンプル品のテスト結果と比較するために筆者が購入した際の金額は5,980円だった。

全高を約58mmに抑えたMini-ITX・HTPC向けトップフロー

 Thermalright「AXP-100」は、ハイエンドCPUクーラーメーカーとして知られるThermalrightが2012年12月に発売したトップフロー型CPUクーラーだ。

 近年、人気の高まっている小型フォームファクタであるMini-ITXと、HTPC向けに設計されたこのヒートシンクは、標準ファンを含めた全高が約58mmという低背設計をセールスポイントとしており、Thermalrightは、CPUクーラーに対して物理的な制約の多いMini-ITXやHTPC環境における互換性問題をクリアし、冷却性能と静粛性の両立を実現するCPUクーラーであると謳っている。

 AXP-100のヒートシンクは、6本の6mm径ヒートパイプと39枚の放熱フィン、純銅(C1100)製の設置面を持つベースユニットで構成されている。全面に光沢感のあるニッケルめっき処理を施されたヒートシンクは、細部までよく作り込まれており、全高44.15mm、重量360gというコンパクトなサイズでありながら、ハイエンドCPUクーラーらしさを感じられる製品に仕上がっている。

 標準ファンとして同梱されているThermalrightブランドの100mm径ファン「TY-100」は、90mmファンとねじ穴位置の互換性がある14mm厚のラウンドフレームを採用したファンで、PWM制御によって回転数を900rpm~2,500rpmまで広い範囲で調整できる。

 AXP-100では、ファンのヒートシンクへの固定にネジ止めを採用しており、ファン固定用のネジとして、長さが17mmのネジと30mmのネジが用意されている。これにより、TY-100のような薄型ファンの他、25mm厚前後の90mmファンをAXP-100に搭載することができる。また、AXP-100には120mmファン用のマウンタも同梱されており、これを用いることにより120mmファンとネジ穴位置に互換性のある大型ファンを取り付けることも可能だ。

Thermalright AXP-100 製品パッケージ
Thermalright AXP-100 本体
ファンの固定はネジ止め式
120mmファン用マウンタ搭載時(右)
120mmファン用のマウンタには長穴が開けられており、ファンの搭載位置を調整することができる
ファン搭載時(【左】TY-100搭載時、【右】TY-140搭載時)
放熱部には、ヒートシンク固定時にドライバが差し込めるよう、フィンの無い箇所が設けられている。
マザーボード搭載時(ASUS MAXIMUS V GENE)

 以前紹介したSilverStone製のローハイトCPUクーラー「SST-NT06-PRO」もそうであったように、AXP-100と周辺パーツとの干渉具合は、ヒートシンクの取り付け方向によって大きく異なる。今回、Micro ATXマザーボードのASUS MAXIMUS V GENEに取り付けた際は、メモリや拡張スロットとの干渉は発生しなかったが、変則的なレイアウトを採用したマザーボードが多いMini-ITXマザーボードでは、メモリスロットの上空に被る場合もありうる。AXP-100のヒートシンクがメモリモジュールに被る場合、ヒートスプレッダの無いメモリモジュールでほとんど隙間の無い状態となるので、ヒートシンクの取り付け方向と、組み合わせるメモリには十分に注意したい。

 Mini-ITXマザーボードで特に多く発生する問題として、基板裏面の実装部品とCPUクーラーのバックプレートの干渉問題がある。AXP-100は基本的にバックプレートを用いるリテンションキットを採用しているが、絶縁ワッシャで固定することも可能なので、基板裏面の実装部品との干渉が問題となるケースは少ないだろう。

冷却性能テスト結果

 それでは冷却性能テストの結果を紹介する。今回は標準ファンのTY-100を搭載し、PWM制御を無効にしたフル回転時と、PWM制御で20%に設定した際の温度をそれぞれ測定したほか、参考として、120mmファン用マウンタを使い、Thermalrightブランドの140mm径ファン「TY-140」を搭載した際の温度も測定した。

 検証結果を確認してみると、AXP-100は3.4GHz動作時に、CPU付属クーラーのフル回転時に比べて2~20℃低い温度を記録している。TY-100を搭載した20%制御時の結果は、CPU付属クーラーとの差が僅か2℃差と小さいが、付属ファンの回転数差を考えればヒートシンク性能でAXP-100がリテールクーラーを上回っていることは明らかだ。定格動作に比べて発熱が増すオーバークロック動作時については、4.4GHz動作時はTY-100のフル回転時とTY-140搭載時に、それぞれ79℃と85℃を記録したが、4.6GHz動作時はTY-100のフル回転時にかろうじて93℃を記録したのみで、残りは94℃を超えたためテストを中止した。

 動作音については、TY-100フル回転時の約2,430rpm動作時は風切り音も大きく、CPU付属クーラーのフル回転時と大差ない騒音が発生していた。一方、20%制御時の約940rpm動作では、風切り音がほとんどしない一方で、そこまで大きな音では無いものの、軸音が鳴っているのが気になった。低速から高速までワイドレンジで回転数を制御できるファンなので、多少の軸音は仕方ないところだが、静音にこだわるのであればファンの交換を検討してみても良さそうだ。

設置スペースが限られる環境で使ってこそのCPUクーラー

 本連載の冷却性能テストは、本来は大型のCPUクーラーをテストするために条件を定めたものであるため発熱が大きく、AXP-100のような小型CPUクーラーのテストには向いていない。筆者としては、ぎりぎりではあったが、AXP-100が4.6GHz動作時に記録を残せたことが驚きだ。確かに、小型のCPUクーラーとしては高いポテンシャルを持ったCPUクーラーであると言えよう。

 ただ、それはあくまで「小型CPUクーラーとしては優秀」な結果であって、純粋な冷却性能は同価格帯の製品に比べて大きく劣る。大型のCPUクーラーが搭載できる環境なのであれば、AXP-100より優れた製品はいくらでもあるだろう。AXP-100の魅力は、大型CPUクーラーが搭載できない環境という条件があってこそなのである。

Thermalright「AXP-100」製品スペック
メーカーThermalright
フロータイプトップフロー型
ヒートパイプ6mm径×6本
放熱フィン39枚
サイズ(ヒートシンクのみ)105.47×121.1×44.15mm (幅×奥行き×高さ)
重量360g (ヒートシンクのみ)
付属ファン100mm径14mm厚ファン「TY-100」 ×1
電源:4pin
回転数:900~2,500rpm
風量:16.0~44.5CFM
騒音値:22~30dBA
サイズ:108.25×101.5×14mm
対応ソケットIntel:LGA 775/1155/1156/1366/2011
AMD:Socket AM2系/AM3系、Socket FM1/FM2

(瀬文茶)