■西川和久の不定期コラム■
日本時間の3月10日、iOS 4.3がリリースされた。3日の発表会の時、それなりの時間を割いて説明があったので、楽しみにしていたユーザーも多いだろう。早速、iPhone 4、iPad、Apple TVを使って、機能強化ポイントをレポートしたい。
●iOS 4.3の新機能
iOS 4.3の対象となる製品は、iPad、iPad 2、iPhone 3GS、iPhone 4、第3世代と第4世代のiPod touch。また少し前にiTunesも10.2.1になっていて、iOSのアップデートにはこの最新版が必要となる。瞬間的にセキュリティ修正などを行なったiTunes 10.2も存在していたが、10.2.1からiOS 4.3と同期可能になり、ホームシェアリング機能がiOS 4.3のデバイスに対応した。
さて新しいiOS 4.3の新機能で、まず対象となる全ての機種で便利になったのは、
・iTunesホームシェアリング対応
・Mobile Safariに新しいNitro JavaScriptエンジンを採用
・iPod AppにPingの「いいね」/「投稿」ボタンを追加
・「Apple Digital AVアダプタ」で720p HDデジタルビデオ出力
この4点が挙げられる。
iTunesホームシェアリングは、ネットワークを使い、PC上のiTunes同士、もしくはApple TVで共有できるライブラリだ。これまではiPadやiPhoneなどからはアクセスできず、筆者の場合、iTunesの入っているPCへDLNAサーバーをインストール、同じフォルダを指定し、iPhoneやiPadにDLNAクライアントAppを入れ再生していた。
しかしiOS 4.3でその対象がiPadやiPhoneにまで広がったことにより、Wi-Fi経由でライブラリをストリーミング再生できるようになった。
iTunesホームシェアリングが機能するには、同一「Apple ID」が必要(最大5つのiTunesにセット可能)。つまり同期しようと思えば同期できる環境だが、例えばライブラリの容量が巨大でローカルのストレージには入りきらない。筆者のようにiPadは主に自宅で使う(=つまりコンテンツは身近にある)のでローカルには入れない。複数のiTunesで管理しているコンテンツがあり用途を分けている。サクッと動画を再生したい……など。特に動画は容量が大きいので、ローカルには最新やお気に入り、iTunesには全てと言った役割分担が容易になる。
iTunesホームシェアリング/iTunes側 | iTunesホームシェアリング/iPhone側 | iTunesホームシェアリング/iPad側 |
次に、Safariに新しいNitro JavaScriptエンジンを搭載した。iOS 4.2との比較で最大2倍速で動作する。これに関しては、申し訳ない。iOS 4.3がリリースされた途端に嬉しくて直ぐアップデートしてしまった関係で、比較のデータや動画を撮影していない。最近のサイトはJavaScriptを使わないケースはまず無いため、それなりに効果はあるだろう。特にGmailやGoogle DocsのようなAjax系のサイトになればなるほどその差は現れるだろう。
音楽ソーシャルメディアの「Ping」へiPod Appから直接「いいね」/「投稿」が出来るボタンが追加された。筆者はこのPingを利用していないが、コンテンツ再生中に直接アクションをとれ、より便利になる(iTunesから購入した楽曲のみ有効)。
Apple Digital AVアダプタ |
そしてハードウェア関連として、これまでDockコネクタを使ったビデオ出力はアナログに限られていたが、iPad 2と同時に発表されたHDMI出力ケーブル「Apple Digital AVアダプタ」で720p HDデジタルビデオ出力に対応した。
ただしiPad 2以外の機種では、画面がそのまま出力されるミラーリングではなく、従来ビデオ出力に対応していた、ビデオAppやiPod App、写真、YouTube、Safari、Keynoteおよび他社の対応Appからのみとなる。
iPhone 4では「パーソナルホットスポット」が追加された。ある意味、iOS 4.3の目玉的な機能だ。iPhone 4を小型無線ルーター化するもので、3G通信を使い、Wi-Fi(3台まで)/Bluetooth/USB経由でPCなどからネット接続が可能になる。ただ非常に残念だが、日本では未サポートだ。
この件は、以前のコラムでも触れたが、なぜ対応を渋るのか疑問だ。数年前まだ3G無線ルーターが出回っていない頃は「3G通信のトラフィックが大変なことになるから……」が理由になっていて、当初それなりに納得していたものの、その後3G無線ルーターが一般化され、3G通信のトラフィックが増えるにしても、専用の機器があるだけに、もはやこの理由は成り立たない。
また今回、iPhone 4のみこの機能を搭載したのは、筆者のようにiPadと2台持ちにした場合、2回線分契約しなくても済むようにとの同社の配慮からとも考えられる。接続先がiPadやiPod touchなど、iOS搭載機に限るの条件付でもいいので、何とか国内でも使えるようにして欲しい。
iPad限定としては、本体横のスイッチに割り当てる機能を、「スクリーンの回転ロック」か「消音」かを「設定」から切り替えられる様になった。これは同社がユーザーの希望に応えたものだ。
【お詫びと訂正】初出時に4/5本指ジェスチャーについて言及しておりましたが、この機能は開発者向けのものであり、一般には利用できないため、記述を削除いたしました。お詫びして訂正させて頂きます。
さて、実際iOS 4.3をiPad、iPhone 4、iPhone 3GSへインストールしたところ、全体的な作動は気持ち重くなった印象を受ける。ホーム画面をスワイプしたり、Appを起動すると、少し引っかかったような動きをするのだ。加えてiPadではロック画面を解除するボタンが反応しないことが1回、スリープから復帰後Wi-Fiを認識しなくなることが数回あった。どちらも再起動すれば直るものの、以前のバージョンでは無かったこのなので、気になっている。Safariに関しては、サイトによって速くなった感じもするが、比較データを取っていないので何とも言えない。
また今回からiPhone 3Gがアップデートの対象から外された。従って3G対応の最終バージョンは4.2.1となる。この4.2.1でもマルチタスク機能が外されるなど、部分的に制限があったため、今回の非対応はハードウェア的に仕方ない部分だろう。
●Apple TVも4.2へアップデートiOS 4.3のリリースで、同時にApple TVのiOSもアップデートされた。バージョンは4.2。アップデート後、再起動して一番驚いたのは「MLB.TV」が「インターネット」の項目トップに追加されたこと。
事前リークも無かったため「エッ!?」という感じだ。メジャーリーグの試合などを見ることができるサービスだが、ワールドワイドで発売している製品に、いきなりメジャーリーグは、筆者的にはちょっとどうかと思う。なお、米国では「NBA League Pass」、「Netflix Dolby Digital 5.1」も加わっている。この辺りに関しては、今後その国々のローカライズが必要となりそうだ。
オンスクリーンキーボードも改善され、タブによる大文字/小文字切替や履歴表示など、以前よりは使いやすくなったものの、相変わらずに半角英数のみの対応で、日本語入力はRemote Appを使う必要がある。
AirPlayはiPadやiPhoneなどiOS搭載機からWi-Fi経由でAirPlay対応機器にストリーミング配信する機能だ。iOS 4.2でも対応していたが、動画や写真までAirPlayできるのは、iOS標準搭載の写真/動画/YouTube Appのみ。他社のAppは音声だけだった。
iOS 4.3+Apple TV 4.2では対応の幅が広がり、「写真Appに保存している動画」、「Webページ上の動画(対応しているフォーマットのみ)」、「他社製Appでも対応すれば動画をAirPlayできるようになる」の3点をサポートした。
「写真Appに保存している動画」は単にiOS 4.2で仕様抜けだったような気がするものの、3番目はかなり重要だ。他社製Appでも動画がAirPlayできるようになると、例えばwmvなど本来iOSが対応していない動画フォーマットをサーバー側でトランスコードしつつApp経由でAirPlayすれば、Apple TVに接続したTVで対応していない動画フォーマットまで映すことが可能となる。YouTube以外の動画投稿サイトや電子書籍に埋め込まれた動画なども対応したAppを出せば、TVの大きい画面で観られるようにもなる。
まだ上記のようなAppは(筆者の知る限り)リリースされていないが、これからが非常に楽しみ。ますますApple TVの出番が増えそうだ(AppStoreにはまだ載っていないが、ServersManがAirPlayに対応し、クラウド上のコンテンツをApple TVで再生可能になった)。
最後はスライドショーのテーマが「スクラップブック」、「フォトモビール」、「ホリデーモビール」と増えている。
iOS 4.3+Apple TV 4.2で追加された機能 | オンスクリーンキーボード | スライドショーの項目 |
以上のようにiOS 4.3は、Safariの高速化、iPhoneやiPadでは強化されたiTunesホームシェアリング機能を使い、同期しなくてもWi-Fiのストリーミングで音楽や動画が再生可能など、使い勝手が向上し、加えてApple TVがあれば、対応したAppからAirPlayで動画も含めたコンテンツの再生が可能となる。
目玉である「パーソナルホットスポット」が日本では使えないのが残念な点ではあるが、該当するiOS搭載機のユーザー全てにお勧めのアップデートと言えよう。