西川和久の不定期コラム

ラジオ再来!? 「radiko.jp」



 ラジオと言えば筆者の場合、まず思い出すのは中・高校で夜勉強中に聴いたヤンリク(ABCヤングリクエスト)やヤンタン(MBSヤングタウン)だ。当時、ベリカードやアマチュア無線なども結構流行っていたこともあり、スカイセンサーなどの高性能ラジオは男子の人気の的だった。そしていつの間にかラジオを聴かなくなり、気がつけば21世紀。そんな今、ネットを利用したラジオ放送が始まった。久々にラジオを聴きながら、思ったままを書いて見たい。

●インターネットラジオ

 もともとインターネットラジオは、今回紹介するradiko.jpとはかなりスタンスが違い、そのほとんどはネット専用の放送局だ。アクセスする方法はいろいろあるが、一番簡単なのは、iTunes(for Windowsも同じ)を起動し、ラジオをクリックすればさまざまなジャンルが並んでいるので中から好みの局を選べばよく、基本的にビットレートが高い放送は音質も良い。海外のものばかりであるが、これだけでも十分以上に楽しめる。

 ウェブからのアクセスは例えば、ローカルFM局と連動した「http://www.simulradio.jp/」、クラック音楽専門の「http://ottava.jp/」、筆者が好きな「http://radioio.com/」など、無料で聴けたり、有料で聴けたり、高ビットレートのものだけ有料など、その形態はさまざまだ。さらにSHOUTcast形式の放送局をPCレスで単独で聴ける「BB-Shout」や「Slim Devices Squeezebox」など専用機もあり、全世界で考えるとリスナーはかなりの数だと思われる。

iTunes for Windows。いろいろなジャンルがあるため、インターネットラジオ入門としてはちょうど良いSimul Radio。各地のローカルなFM局がまとまっている。「湘南ビーチFM」は、江ノ島の映像と共に楽しめるOTTAVA。クラシック専用ネット放送。iPhone用のAppもある
radioio。筆者は主にjazz系を聴いているBB-Shout。キットを組み立てたものだが、これはけっこういろいろ楽しめたSlim Devices Squeezebox。見た目が美しいSqueezebox。電源ONにするとパネルにLED調の文字が浮かび上がる

 もう1つ面白いところとしては、個人放送の「livedoor ねとらじ」があげられる。ネットでの配信は免許も必要なく、誰でも好きな時に好きなだけ放送できる。システムをlivedoorが用意し、ユーザーが勝手放送をする仕掛けだ。さらにリスナーは掲示板にメッセージを書き込み、それをパーソナリティが読み上げながら応えるという、リアルタイムなやり取りや、Skypeを使い離れた複数のパーソナリティで放送を行なっているケースなど、結構楽しめる。そう言えば、筆者もかなり前に「PC Watchラジオ」に出ていたのを思い出した。当時はシステム的に大変だったが、今では誰でも放送できるようになったのだ。

livedoor ねとらじねとらじApp「らじおたっち」。個性豊かな個人パーソナリティでいっぱいだ。これはこれで日本の文化だろう

 これらに関しては基本的にストリーム配信となっているが、もう1つの方法として、例えばタレントなど個人ブログにトークを録音したデータを貼り付ける方法(Podcast)もある。リアルタイムではないものの、リスナーは好きなタイミングで聴く事が可能で、これはこれで現在でも人気がある。

 以上のようにインターネットラジオは、さまざまな放送をネットを通じて配信している。いずれにしても、ネットから声や音が流れれば、ストリーム型であろうとPodcastであろうと、リスナーからすればラジオには変わりない。

 そして今回ご紹介する「radiko.jp」は、このインターネットラジオの常識を覆す(と言うより昔の技術をうまくネットに応用した、でも画期的な)ラジオ放送だ。

●radiko.jpとは

 3月15日、在京ラジオ7局と在阪ラジオ6局、電通が共同で設立した「IPサイマルラジオ協議会」がインターネットを通じてラジオ放送をサイマル配信する「IPサイマルラジオ」実用化試験を開始した。サイト名は「radiko.jp」。ID登録なども必要なく、誰でも無料で即利用できる。

 ネット配信に踏み切った背景には、ラジオそのものの普及率の大幅な低下が原因だと思われる。例えば筆者が最後に持ったMyラジオは高校生まで、つまり30年前。大学時代の下宿先にはすでに置いていなかった。肝心の電波もビルの中では入らなかったり、都会の場合、ビルの高層化やモーターなどの雑音により、電波状況が悪く快適に聴けないケースも多い。さらに強力なライバルとしてワンセグの存在もあげられる。多くの携帯電話に入っていることもあり、電波が入る限り気楽に観ることが可能だ。

 こうした状況をネットを使ったリアルタイム・ストリーミング配信で何とかしたいと考えた結果がradiko.jpスタートの原動力になったのは疑う余地もない。最大の特徴としては、「接続IPアドレスから地域を限定」、「リアルタイムで電波と同じ内容をストリーム配信」と言うことだろう。

 まず地域は下記の2パターンに分類される。従って属さない地域の放送は聴くことができない。

・関東地区(配信地域:東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)
TBSラジオ、文化放送、ニッポン放送、ラジオNIKKEI、インターFM、TOKYO FM、J-WAVE

・関西地区(配信地域:大阪府、京都府、兵庫県、奈良県)
ABCラジオ、MBSラジオ、ラジオ大阪 OBC、FM COCOLO、FM802、FM OSAKA

 この件は「インターネットを使っているのに地域を限定するのはなぜ?」と言う、素朴な疑問が沸くだろう。筆者もそう思っている1人だ。ただ電波での放送をそのまま(著作権上問題が無い限り)無編集でリアルタイムに配信している関係上、例えば、「表参道の××カフェから中継しながらのトーク番組」、「3月×日に多摩川で花見」など、かなりローカルな話題やPR、CMなどが入る。従って地域外のリスナーが聴いてもピンと来ないし、広告主もエリア外のリスナーではターゲットにならない。そう考えるとこの地域限定にはそれなりの効果、そして意味がある。ただ、それでも例えばTVやワンセグで放送されない「プロ野球オープン戦の中継」など、聴きたいと言う国内外のリスナーも大勢居ると思われ、今後の課題の1つだ。

 そしてすでに書いてしまったが、無編集でそのままリアルタイムでストリーミング配信と言うのがかなりのインパクトだ。これまでも同様の実験放送はあったものの、権利関係からネット配信できない場合もあり、一部内容が異なっていたり、ネットは別放送のものばかりだった。電波とほぼ同時にそのままと言うのは何よりリスナーにとってありがたい。

 コーディック自体は「HE-AAC 48kbpsのステレオ」。FM放送局だけでなく、AMを含めて全ての放送局の音声がステレオと言うのもなかなか斬新だ。音質は電波を使わない分、ノイズレスでクリアー。ビットレートも低いので、遅めの回線でも楽々アクセスできる。

●使い勝手

 radiko.jpで放送を聴くのはいたって簡単。http://radiko.jp/をブラウザを開き、[listen now!]ボタンを押せばFlash Playerを使った別ウィンドウが開きラジオが流れ出す。ここで再生/停止、音量調整、その下のタブは「now on air!」「選局」、それぞれトピックス/インフォメーション、選択可能な放送局が並んでいる。また、EPGが表示できたり、番組で紹介された商品を扱っているオンラインショッピングなどのリンクもあったりと、単にネットへラジオを配信しているだけでなく、ネットに接続していることを最大限に活かした構成になっている。

 音質に関しては、そもそも電波でラジオを聴く場合も、受信機自体のクオリティで音質はかなり異なるし、AMかFMかでも音質は大幅に変わる。筆者の環境で聴いた限りは、AM放送よりは明瞭、FM放送と比較するとちょっと劣るといったところだろうか。ただし、FM放送を聴いたのは随分前のためその真意はあやふやだ。もちろんPCで再生する場合も、その再生環境で音質はかなり左右する。

 ここでちょっと不思議なのは、使用コーディックの「HE-AAC 48kbpsのステレオ」は、MPEG-4 Audioの一種で、一般的に「48kbps程度でCD音質」と言われている。従ってFM放送に関してはもう少し高音質になりそうなのだが、マスターから直接エンコードせず、何か経由しているのだろうか。インターネットラジオのMP3/128Kbps(64Kbpsステレオ)よりかなりこもった音がする。

radiko.jpトップページ。現在アクセスが殺到しているのか、かかなり重いが放送自体は音切れすることはないプレーヤーウィンドウ。現在はブラウザの別ウィンドウだが、iPhoneのApp、Windows 7やMacのウィジェット版も欲しいところシンプルで分かり易いEPG(関東地区)

 1つ残念なのは、インターネットラジオなどでよく見かける、放送中の楽曲情報がFlash Playerを使ったプレーヤーでリアルタイムに見れないことだ。できれば表示した上で、その楽曲が購入可能なサイトへのリンクなど、更なるネットとのシームレス化も検討して頂きたい。

 また通常のラジオ同様「私的録音する事も可能」なのだが、このFlash Plyerを使ったプレーヤーは録音/留守録などにも対応していない。この件についてはいろいろツールを組合せばアナログでもデジタルでも可能であるものの、ここでは記事の趣旨から外れるので方法は触れないことにする。

「TOKYO FM」App。地域情報はiPhone内蔵のGPSを使用して判断している

 Flash Playerを使う関係上、Windows、Mac、LinuxなどPC系では動くが、iPhoneやiPod touchのMobile Safariは非対応なのでアクセスできない。「TOKYO FM」は、このradiko.jpとは無関係にアプリの形で対応しているものの、radiko.jp全体に対応したアプリも欲しい。またストリーミング本体のURLは非公開なので、例えばTVersityでラジオとしてURLをセット、DLNAサーバーとして動かし、PS3などDNLAプレーヤーで再生と言ったちょっと変わった聴き方もできない。せっかく素晴らしいサービスなのだから、もっと多くの機器で聴ければベストだ。


 やはりラジオの良いところはTVと違って何かをしながらでも聴けることだろう。radiko.jp開始以降、仕事や原稿をしながらずっとつけっ放しの状態だ。多分集中している時は実際には聴こえていないのだが、何かの拍子に例えば「10時です!」とか「JR山手線が事故で…」など、(遅延があるので若干遅れはあるものの)リアルタイムな情報が飛び込んでくる。これは海外などのインターネット放送では得られないローカルな情報だ。今回1番の収穫はJeff Beckがまた来日するのが分かったこと。たまにはライブに行ってみようかと思っている。「Led Boots」が流れた時には何かなと思ってしまった(笑)。

 いずれにしてもこのradiko.jpによって、筆者のように大昔聴いていたリスナーがまた戻ってくるのは間違いないだろう。ハード面、ソフト面でいろいろ大変だと思うが、ぜひ頑張って欲しいものだ。