西川和久の不定期コラム
アイ・オー・データ機器「WN-AC733GR」
~IEEE 802.11acドラフト/433Mbpsに対応したエントリーモデル
(2013/6/24 00:00)
株式会社アイ・オー・データ機器は4月3日、IEEE 802.11acドラフトに対応した無線LANルーターと子機を発表した。筆者の自宅はまだIEEE 802.11nと言うこともあり、その違いには興味深々。編集部から433Mbps対応モデルの「WN-AC733GR」と「WN-AC433UK」が送られて来たので、試用レポートをお届けしたい。
IEEE 802.11acドラフト/433Mbps対応のエントリーモデル
まずはじめにIEEE 802.11acドラフト(以降802.11ac)の簡単な解説から。IEEE 802.11n(以降802.11n)の後継で第5世代の規格となる。アンテナの数は最大4本から8本へ、周波数帯域は最高40MHzに加え、80MHzや160MHzも使用可能だ。変調方式は64QAMから256QAMへ。これらの組み合わせが高い(多い)ほど、通信速度がアップする。
アンテナ1本/80MHz/256QAMが最小構成で、この時の理論値最大通信速度が433Mbpsだ。802.11nでは、いろいろな組合せで近い速度まで出る製品もあり、今となっては特に目新しいものでもないかも知れないが、精一杯頑張ってこの速度と、最も基本でこの速度では、規格自体の余裕が随分違う。次に速い組合せだと理論値最大通信速度が867Mbps、1,300Mbpsとなる。
今回ご紹介する「WN-AC733GR」と「WN-AC433UK」は、基本の433Mbpsに対応したモデルだ。無線LANルーターの速度はともかくとして、802.11acドラフトに対応したPCはまだ少なく、後付けするとなればUSBポート接続タイプが一般的だ。
この時、433Mbpsだと、USB 2.0の理論値最大通信速度の480Mbps範囲内。ほぼ全てのPCで利用可能となる。次の速度、867MbpsだとUSB 3.0が必要で、ここ数年内の機種に限られてしまう。主な仕様は以下の通り。
【表1】アイ・オー・データ機器「WN-AC733GR」の仕様 | |
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ルーター部 | |
有線規格 | IEEE 802.3ab(1000BASE-T)、 IEEE 802.3u(100BASE-TX)、 IEEE 802.3(10BASE-T) |
ポート | インターネット用×1、LAN用×4 |
インターネット接続方法 | IPアドレス自動取得、PPPoE認証(1セッション)、IPアドレス固定 |
サブネットマスク | 255.255.255.0 固定 |
そのほかの機能 | SPI、DoS攻撃防御、 DHCPサーバー(最大253台)、 ポートの開放(最大32エントリー)、 DMZホスト、UPnP、 IPv6パススルー、MTU設定、 オートブリッジ、NTPクライアント、 IPsecパススルー、PPTPパススルー |
無線LAN側ネットワーク部 | |
無線LAN規格 | IEEE 802.11acドラフト/n/a/g/b |
周波数帯域 | 2.4GHz帯、5GHz帯(W52/W53/W56) |
使用チャンネル | 5GHz帯:36~140ch、2.4GHz帯:1~13ch |
伝送速度 | IEEE 802.11a/g:54Mbps、 IEEE 802.11b:11Mbps、 IEEE 802.11n(5GHz):150Mbps、 IEEE 802.11n:(2.4GHz)300Mbps、 IEEE 802.11acドラフト:(5GHz)433Mbps |
無線LANセキュリティ | WPA2-PSK(TKIP/AES)、WPA-PSK(TKIP/AES)、WEP(128/64bit) |
サイズ | 約193×109×32mm(幅×奥行き×高さ、横置き) |
重量 | 約250g |
直販価格 | 10,600円 |
有線規格は、10BASE-Tから1000BASE-Tまで対応。4ポートあるHUBはGigabit Ethernetで作動するので、他の機器と組合わせて快適に操作できる。インターネット接続方法は、IPアドレス自動取得、PPPoE認証(1セッション)、IPアドレス固定。その他の機能として、DoS攻撃防御、DHCPサーバー(最大253台)、DMZホスト、UPnP、NTPクライアント、IPsecパススルー、PPTPパススルーなど、DDNSがない程度で、一通り揃っている。
無線LAN規格は、2.4GHz帯と5GHz帯に対応し、802.11a/b/g/nそしてacと全部入りだ。802.11a/b/gに関しては定格通り、802.11nに関しては、5GHz帯で最大150Mbps、2.4GHz帯で最大300Mbpsにも対応している。冒頭に書いたように、802.11acは、ベーシックな最大433Mbpsとなる。セキュリティはWPA2-PSK(TKIP/AES)、WPA-PSK(TKIP/AES)、WEP(128/64bit)。
サイズは横置きで約193×109×32mm(幅×奥行き×高さ)。重量約250g。直販価格は10,600円。オーソドックスな無線ルーターであり、802.11ac/433Mbpsに対応していることが特徴となる。
また上位モデルとして、802.11ac/1,300Mbps対応の「WN-AC1600DGR」も今月中旬に出荷が始まっている。タイミング的に今回の原稿が決まった後だったこともあり、こちらも機会があれば試したいところだ。
筐体はコンパクトにまとめられ、色はマットな黒(リアだけツヤあり)。指紋やホコリをあまり気にする必要はない。LEDは全て緑色だ。
横置きはもちろん、付属のスタンドと併用して縦置きもできる(扉の写真参照)。リアパネルには、上からWPSボタン、初期化ボタン、自動/AP/ルーターモード切替スイッチ、Hub×4、インターネット用×1、電源入力と並び、それぞれ色分けされている。
ルーター作動時、初期設定のIPアドレスは、192.168.0.1。初期値のSSIDや暗号キー、PINなどが左側に書かれ、それとは別に同じ内容のシールも付属。奥まった場所へ設置した後でも各情報を見るために引っ張り出すこともない。
PC側に使用したUSB子機は、同社の「WN-AC433UK」。コンパクトなUSBタイプの子機で、ノートPCなどで使ってもそれほど邪魔にならないだろう。仕様は以下の通りだが、「WN-AC733GR」にマッチする内容となっている。Mac OS Xには非対応なので注意が必要だ。
【表2】アイ・オー・データ機器「WN-AC433UK」の仕様 | |
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インターフェイス | USB 2.0 |
対応OS | Windows XP/Vista/7/8 |
無線規格 | IEEE 802.11acドラフト/n/a/g/b |
通信周波数 | 2.4GHz帯、5GHz帯(W52/W53/W56) |
チャンネル | 5GHz帯:36~140ch、2.4GHz帯:1~13ch |
伝送速度 | IEEE 802.11acドラフト:433Mbps、 IEEE 802.11n:150Mbps、 IEEE 802.11a/g:54Mbps、 IEEE 802.11b:11Mbps |
無線LANセキュリティ | WEP(64/128bit)、WPA-PSK(TKIP/AES)、WPA2-PSK(AES) |
サイズ | 16×22×8mm(幅×奥行き×高さ、USBコネクタ除く) |
重量 | 約4g |
直販価格 | 5,300円 |
自宅では802.11nの無線LANルーターが全環境に関わっているため、大本を交換すると大変なことになる。従ってテスト環境は「WN-AC733GR」をAPモードにして試用。カスケード接続したGigabit Ethernet対応のスイッチングHub側にセットしている。この時、インターネット用のポートも加わり、計5ポートのHubとして機能する。メインの無線ルーターからIPアドレスを取得するので、工場出荷設定のまま使うのであれば特に何もする必要はない。
クライアントは以前「Ivy Bridge最安モデルを試す」で記事にしたCeleronマシン。OSは64bit版のWindows 8。SSDに80GBのSSDSA2MJ080G2C1、メモリ4GB……と、普通のPCだ。これに「WN-AC433UK」を接続した。注意点としてはUSB Hubでなく、PCのUSBポートに直接接続すること。試しにUSB Hubへ接続したところガックリ速度が落ちてしまった。
セットアップ自体は非常に簡単。付属のCD-ROMか、同社のサイトからドライバをダウンロードし、SETUP.EXEを起動、指示に従えばOKだ。現時点ではアップデートは無く、前者も後者も同じとなる。ドライバインストール後、再起動する必要は無い。
Wi-Fi接続のSSIDを見ると、Stream00142、AirPort00142、Game00142、3つ増えているのが分かる。この時、Stream00142は5GHz、他2つは2.4GHzでの接続となる。後半のベンチマークテストも無線LANに関しては、環境はそのまま、このSSIDを切り替え、802.11acか802.11nかの設定を行なっている。
Webブラウザを使って、URLへルーターに割当てられたIPアドレスを入力すると、設定画面が表示される。工場出荷状態ではパスワードがかかっていないので、そのままアクセス可能だ。
メニューとしては、ステータス/簡単接続/LAN設定/無線設定/ECOモード/システム設。必要に応じてタブでさらにページがある。ご覧のように非常にアッサリした画面だが、一通りの機能は含まれている。
なお、アプリ形式で設定が行なえる「Magical Finder」も、PC/Mac版、iOS/Android版が用意され、前者は同社のサイト、後者は各Storeから無料でダウンロードできる。
433Mbpsでも確実に802.11nより速い802.11ac
テストに使うサーバーは、第2世代Core iプロセッサを搭載したMac mini(Mid 2011)。OSはOS X Mountain Lion/10.8.4。メモリは16GB搭載しているものの、HDDがかなり遅いため、オーバーヘッドが出ないように念のためRAMDISKを使用している。
FTPサーバーはOS Xのコマンドプロンプトから起動。転送に使ったファイルのサイズは100MB。設置場所に関しては、見通しの良い2DKなので、見える範囲であれば何処に置いても大差無かった。各環境設定は、コマンドなどを掲載したので参考にして欲しい。
・RAMDISK作成/マウント
diskutil erasevolume HFS+ "ramdisk" `hdiutil attach -nomount ram://524288`
・FTP起動
sudo launchctl load -w /System/Library/LaunchDaemons/ftp.plist
・FTP停止
sudo launchctl unload -w /System/Library/LaunchDaemons/ftp.plist
・100MBのファイル(dummy)を作る
C:\>fsutil file createnew dummy 104857600
有線LANのGigabit Ethernetは安定しているものの、無線LANの802.11nと802.11acは若干バラつきがあるため、5回計測した結果をそのまま画面キャプチャしている。
結果は、Gigabit EthernetのGET 115MB/sec超え:PUT 115MB/sec超え、802.11ac(433Mbps)のGET 34MB/sec程度:PUT 27MB/sec程度。802.11n(72Mbps)だとGET 4.1MB/sec程度:PUT 3.8MB/sec程度となった。
また「WN-AC433UK」の仕様に「※IEEE 802.11ac、IEEE 802.11nでWPA-PSK(TKIP)またはWEPを選択した場合十分な通信速度が得られません。」とあったので、セキュリティ無しでも計測したが、特に状況は変わらなかった。
802.11ac対802.11nは大雑把に言ってしまえば7倍。Gigabit Ethernetに対しては4分の1程度となる。同じ802.11acでも1,300Mbpsタイプだと、Gigabit Ethernetといい勝負しそうだ。筆者の自宅のPCからネットワークケーブルが消える日も近いかも知れない。
参考までにスループットを計測するiperfを1秒間隔で30回行なった平均値は、UP 205Mbits/sec、DOWN 253Mbits/sec。こちらはファイルのやり取りが無い分、ストレージのオーバーヘッドなどに影響されず純粋なネットワークの速度を計ることができる。先のFTPの結果と一致し、いずれもダウンストリームの方が若干速い。
最近ネットなどでいろいろ掲載されているデータを眺めると、一番良い状態の1,300Mbpsで3分の1、対867Mbpsだと2分の1に近い値に収まっていて、理論値通りの差だ。また折れ線グラフでは凸凹しているが、数十Mbits/secも上下している分けではないので、許容範囲内だと思われる。
以上のようにWN-AC733GRは、IEEE 802.11acドラフト/433Mbps(5GHz)に対応した、無線LANルータのエントリーモデルだ。USB子機の「WN-AC433UK」も含め433Mbpsなので、USB 2.0で扱えるなど、対応範囲は広い。
またHubの部分はGigabit Ethernet対応と言うこともあり、ローカルLANも快適な速度でアクセス可能だ。APモードを使えば、既存のネットワークへ簡単に802.11acドラフトを追加することもできる。
既にIEEE 802.11acドラフト/1,300Mbps(5GHz)対応の上位モデル「WN-AC1600DGR」も出荷され、その差、約5千円と、結構微妙なポジションだが、手軽に扱えるIEEE 802.11acドラフト入門機として候補になりえる1台だろう。