ELワイアで明るく輝くTRON風ヘルメット



 ELワイアは専用の電源につなぐことで光を発する特殊な電線です。曲げたり、切ったりして、自分だけの光のオブジェを作ることができます。

 今回はELワイアを使って、いくつかの実験をしてみました。工作の難度はそれほど高くありません。キレイに処理するためにはいくつかの工具と部品が必要ですが、他の用途にも使えるものなので揃えておいてもムダにはならないと思います。

 ELワイアを扱う前に、注意を1つ。

 一般的なELワイアは100Vを超える高い電圧を与えて光らせます。露出した線や端子に直接触れたり、他の機器と接触させないよう注意が必要です。

 もし、うっかり触ってしまったらどんなことが起こるのでしょうか……。我々は実際に電極に指を触れて試してみました。その瞬間、指先に激しい痛みが走り、椅子からお尻が浮きました。数時間、指に違和感が残りました。蜂に刺されたときの苦痛に似ていますが、これは感電時の状況にもよると思います。指が濡れていたり、体調が悪かったりしたら、もっとひどいダメージとなるかもしれません。

 露出した端子に触れなければ安全です。絶縁(電極をビニールで覆うなどして電気が流れない状態にすること)を意識した工作を心がけてください。製作中は、電池を抜くなどして回路を停止させておくことも大事です。

ELワイアは半透明の電線に見えます。これは直径2.3mm、長さ3mの白色タイプ。赤や緑などさまざまな色が用意されています
ELワイアに電気を供給するインバータ。Adafruitから購入したこの製品は、乾電池2本で2.5m程度のELワイアを駆動できる高性能なものです。7.5ドルと、送料を考えても手頃な価格でした。2mのELワイアと合わせて20ドルのセットもあります
ELワイアとインバータを接続すると光ります。太陽光下ではあまり明るく見えないのですが、暗いところではとてもハッキリ見えます。夕暮れ後の屋外で点灯させると美しさがよくわかります。今回使ったELワイアはすべて白ですが、写真では青く写る傾向がありました
拡大した写真を見ると、透明な樹脂の中の発光する線の存在がわかります。この発光体(phosphor coat)は中心の銅線を覆っており、その外側にも極細の電線が通っています(写真をよく見ると2重らせんになっている極細の線がわかると思います)。中心の電線と外側の電線の間に高電圧の交流をかけると、発光体が反応して光を発します

 ELワイアは他の電線と同じように、短く切った状態で売られています。コネクタを付けてすぐ使えるようにしてくれるショップもありますが、好みの長さで使うためには、切って末端を処理する必要があります。ここではAdafruitや後述のSparkfunのインバータと組み合わせて使う前提で、末端処理の方法を説明します。必要な工具は、ワイアストリッパ、ハンダごて、圧着ペンチです。カッターもあるといいでしょう。

ワイアストリッパのカッターの部分で切った断面。何層にもなっているのがわかるでしょうか。ここにコネクタを取り付けます。以下の説明はAdafruitで購入した2.3mmのワイアの例です
まず1番外側の被覆を剥きます。エンジニアのワイアストリッパPA-06の場合、AWG18の刃(穴)がちょうどいい感じでした。手持ちのワイアストリッパでは径が合わないこともあると思います。その場合は、中の線を傷つけないようカッターで切り込みを入れ、抜き取る方法もあります
先ほどの被覆は光の色を決める役割がありました。次の被覆は内部の電線を保護するためのもので、ずっと細いものです
こちらはAWG26の刃を使って剥くことができました
被覆を2回取り除くと、こうなります。極細の電線が2本現れました。髪の毛くらいの太さでしょうか。切れやすいので注意が必要です。この2本は電気的につながってます。ハンダ付けするときに、軽く撚って1本にまとめてもいいでしょう
最後の被覆は発光体そのもので、他に比べて剥きにくい材質です。また芯線が固いため、ワイアストリッパの刃がひっかかりやすいでしょう。少し太めの穴(AWG28)から試してください。剥いたあとも多少、被覆が残るかもしれません。ハンダ付けに影響しますが、ごく少量ならば気にしないでもいいでしょう
ELワイアに直接コネクタを付けるのは難しく、また柔らかい電線がついていないと取り回しにくいので、ビニール線につなぎます。使用するコネクタのデータシートによるとAWG24以下の電線が推奨されています。今回撮影に使ったものは、それより若干太かったかもしれません
絶縁と接合部の強化のため熱収縮チューブが必要です。どの太さが最適かは仕様するケーブルの太さによって違います。直径1mmから3mm程度の、いろんな太さのものがあると安心です。ハンダ付けする際は、あらかじめチューブを通しておくことを忘れないようにしましょう。我々はよく忘れてやりなおしになります
インバータの出力に極性はありません。赤と黒に色分けされていますが、どちらを繋いでもOKです。いちおう我々は芯線に赤をつなぐことにしています。極細の2本はまとめて黒の線に繋ぎます
芯線側を細い熱収縮チューブで保護し、絶縁をはかります。さらにその上から、両方の線を覆うように、より太いチューブをかぶせました。我々がチューブを加熱するときは、ハンダごてのヒーターの部分を使うことが多いです。すれすれまで近づけると縮みます。多少ならくっついても大丈夫なようです。コテ先(先端部)がくっつくと溶けて煙がでます
ビニール線の反対側にコネクタを付けます。日本圧着端子製造のPH型です。ELワイア用のインバータだけでなく、いろいろなところで使われている端子です。端子数は2です。2端子から16端子まで、多くのサイズが用意されているので、間違って買わないよう注意しましょう
PHコネクタは共立電子千石電商など、多くのショップで入手可能です。今回はマルツ電波のPH2.02PSETを使いました。ハウジング(白い部分)のオスとメス、コンタクト(内部の金属端子)がセットになっていて、わかりやすい商品です
圧着作業にはエンジニアのPA-09を使いました。詳しい使い方がエンジニアのサイトで解説されています。例もPHコネクタを使ったものなので、その通りのやり方でいけるでしょう
圧着できたら、ハウジングに挿入してできあがり。ビニール線が少し太かったせいで、パツパツになってますが、なんとか入りました
おっと忘れていました。ELワイアの反対の端に、熱収縮チューブをかぶせます。こうしないと、先端から顔を覗かせている電線の先に触れてしまい感電する可能性があります

 コネクタを取り付けたELワイアは、インバータに接続するだけで光ります。点灯可能なワイアの長さはインバータによって異なり、使用したものは2.5mまでOKで、これは乾電池2本で動くものとしては、高出力な部類に入るでしょう。そのかわり、点灯中はキーンという鳴きが少し気になります。

 それでは、できあがったELワイアを使ってみましょう。最初の例は、TRON風に光る自転車用ヘルメット。

ELワイアをヘルメットの凹凸を利用して巻くように取り付けます。固定には結束バンドを使用しました。ELワイアはコシが強い電線なので、思ったとおりの形に仕上げるには、しっかりした固定方法が必要です。結束バンドのほかには、釣り糸や針金で縛る、テープで止める、ホットボンド等の樹脂で固める、透明シートで挟むといった方法が考えられます
バージョン1の完成。インバータは後頭部に固定しました。念のためコネクタはビニールテープでくるみ、感電対策としています。この写真では結束バンドが目立ちますが、屋外で少し離れたところから見るとほとんど気になりません
極めて高い被視認性です
別のインバータとELワイアを使って、自転車のフレームをデコってみました。しかし、長さが足りず中途半端なできばえに。極寒の屋外で即興的に作業したので、ちゃんとまとまらなかったというのもあります
ELワイアを直角に曲げることはできませんが、曲線の組み合わせで表現できるならば、文字の表示にも使えます。写真は我々が普段お世話になっているサイトへのオマージュ
クルマのサイドウインドウに黒テープを使って貼り付けました。これも高い被視認性です

 インバータによっては点滅モードをサポートしています。簡単にELワイアがチカチカします。しかし、それは自分のイメージするテンポとは違うかもしれません。次に、小さな回路でELワイアをチカチカさせる方法を紹介します。

 ELワイア用のインバータは高電圧、高周波数の交流を生成します。たとえば、次の作例で使ったSparkfunのインバータの場合、最高150V/3.5KHzというスペックです。これをコントロールするためにトライアックという部品をつかいます。

 トライアックをタイマーIC(555)を使った発振回路と組み合わせ、ELワイアに供給する電力をオン/オフします。ここでは発振回路側についての説明は行ないませんが、過去の555を使った記事を参考にしてください。

動作中の回路全体。乾電池2本(3V)の電源1つで、インバータと発振回路の両方に給電しています
Sparkfunのインバータ。3Vの電源で3mまでのELワイアを駆動できます。コンパクトで使いやすい形状です。ケーブルにはあらかじめPHタイプのコネクタがつけられています。国内では千石電商で取り扱っています
トライアック BTA24-600CW。トライアックによっては、ELワイア用インバータが生成する高い周波数の交流を制御できないようです。いくつか試した結果、これに落ち着きました
コンデンサC1の容量を変えることで点滅周期がかわります。トライアックは555に直結するのではなく、トランジスタ(2SC1815)でドライブしています
ブレッドボード上で仮組みした状態。インバータとELワイアをつなぐコネクタははずした状態です
PHコネクタ経由で接続するため、このような子基板を作りました。この基板はUni-Sipという製品で、ブレッドボードに載せにくい部品をモジュール化するのに便利です。ただし、感電には注意してください

 より高度なコントロールがしたい人に向けて、SparkfunはArduino用のシールドを用意しています。最大8本のELワイアを接続し、個別にチカチカさせることができます。ただし、同時に2本以上を点灯することはできません。1本だけです。複数のELワイアを並べて順番に光らせたい、といったときに便利な製品です。

Arduino UNO SMDとSparkfunのELワイア制御シールド EL ESCUDO。この基板はインバータからの高電圧が各所で露出しています。注意してください。ちなみに先述の感電実験はこのボードを使って行ないました
Arduino、EL ESCUDO、インバータを接続し、eneloop stick boosterを電源にして動作実験中。このインバータの電源は4.2Vまで対応しているようですが、この構成ではそれよりも高くなってしまいます。本格的に使う場合は、対策が必要でしょう

 最後にELワイアを使ったパフォーミングアート(?)の様子をご覧ください。闇のなかでELワイアを持ってぐねぐねと動き、それをスローシャッターで撮影したものです。予想外の映像が撮れ、深夜の屋外にいながら寒さを忘れる面白さでした。