チップLEDのハンダ付けに挑戦しよう



 電子部品を分類する方法は複数ありますが、その1つが、スルーホール用と表面実装用の2つにわけるやり方です。これは部品の取り付け方をもとにした分類で、スルーホールの場合は基板にあけられた穴に部品の足(リード線)を通し、基板の反対側でハンダ付けをします。スルーホール実装を前提としている部品を、スルーホール部品とかリード部品と呼びます。一方の表面実装は、文字通り基板の表面に実装する方法で、部品に足がありません。そうした部品はSMD(Surface Mount Device)とかチップ部品と呼ばれます。部品を小型化でき、機械的にハンダ付けするのが容易なため、今日の電子製品の大部分がこの方法で製造されています。

 我々がするような電子工作ではリード部品を使うことがほとんどです。とくにブレッドボーディングでは必須の存在と言えるでしょう。しかし、近年は、電子工作においてもチップ部品を無視することは難しくなってきています。性能がよく、入手しやすい部品は表面実装を前提とするものが増えています。また、コンパクトで美しい作品を目指すなら、チップ部品の特性を生かすことも重要です。

 今回はチップ部品の扱いに慣れることを目的に、手作業による表面実装の練習をします。

 先生になってくださったSilrium(シリウム)さんは、オリジナルのキットを開発し配布している有志のグループ。その作品は美しく精緻なデザインが特徴で、我々は大ファンです。また、SilriumさんはMake Tokyo Meeting等のイベントでワークショップを継続的に行なっていて、初心者に手作業での表面実装を教えることに慣れています。チップ部品をふんだんに使ったSilriumさんのキットを、Silriumさん自らのレクチャーを受けながら作ってみるのが、今回のテーマです。

 なお、先生に教わりながらカメラの前で実際にハンダ付けをするのは、みのり先生です(先生ですがここでは生徒役)。みのり先生は学生時代からハンダ付けに親しんできたようですが、チップ部品は未経験。「ぜひやってみたい」とご本人が前向きだったこともあり、参加していただきました。

完成したSilriumのキット "60th Luminous LED Clock"。円形に並ぶ60個のチップLEDが主役の美しい時計です。動作中の映像はのちほど紹介します
ハンダ付けを済ませ、目視チェックが終了したあと、おそるおそる電源を接続するみのり先生。無事に動作したのでしょうか

 クロックキットは半完成の状態で配布されています。マイコンやIC類はあらかじめ実装(ハンダ付け)が済んでいて、自分で取り付けるのはそれ以外の部品です。約80個のチップ部品と、十数個のリード部品をハンダ付けすることになります。

 初心者向けのキットとは言えませんが、Silriumさんがこれまでに行なったワークショップでは、超初心者を含む数十人の参加者全員が完成に漕ぎ着けたようです。じっくりと取り組めば確実にできあがるキットと言えるでしょう。

キットの中身。チップ部品とチップ抵抗は細長いテープにパックされています。LEDが青のキットと、赤+オレンジのキットがあります。今回使用したのは、赤+オレンジのものです(並べるLEDの色はオレンジに統一しました)
プリント基板の写真です。マイコン等のICはあらかじめ実装済みです。そのほかの部品はすべて自分でハンダ付けする必要があります。配線パターンが美しいですね
これがチップLED(発光部を下にして置いています)。2×1.2mmの大きさです

 続いて、必須の工具と、あったほうが良い工具を紹介します。今回のキットを作るのに必要な道具は多くありません。

ハンダゴテは我々の装備品であるgoot(太洋電機産業)の「RX-802」を使用しました。温度調整機構があるものをおすすめします。この写真では設定温度が370度と表示されていますが、実際にはもっと低い350度以下に設定して作業を始めました。製作の途中、ハンダの付きが悪い部分では370度近辺に温度を上げて作業しています
コテ先はいくつか用意して、Silriumさんに選んでいただきました。その結果、はじめから付属しているもっとも一般的な形状のものを使うことに決定。当初我々は先端の細さが重要なのではないか、と考えたのですが、細すぎると熱の伝わりが悪くなり、かえって作業が難しくなることがあるようです
糸ハンダは太さの違うものを3種類用意しました。0.3mm、0.65mm、0.8mmの3種です。こちらも細ければいいというわけではないようで、状況によって作業しやすい太さは違うようです。好みとしか言えないところもあるらしく、Silriumチームのなかでも細い派と太い派に分かれるようです。みのり先生は0.65mmのものを主に使用しました
ニッパはリード部品を取り付けた後にだけ必要となります。このキットの場合、出番はそう多くないのですが、必ず使う工具です
ピンセットはチップ部品を取り扱うときに必要です。先端が「く」の字に曲がっているタイプとまっすぐなタイプがありますが、今回の用途では、まっすぐタイプのほうが使いやすいという意見が優勢でした

 ハンダ付けに失敗はつきもの。部品の向きを間違えたり、ハンダがきれいにくっつかない、といったことは注意していても起こります。そういうときのために、いったんハンダを除去して、やりなおす方法が必要。用意しておきたい工具をいくつか紹介します。

 ただし、今回はこうした工具の出番は1回もありませんでした。つまり、みのり先生はいきなりノーミス、ノー修正のパーフェクトを達成してしまったのです。これにはSilriumの先生たちもビックリ。表面実装初体験のみのり先生がやってしまった失敗をSilriumの先生方が優しく直してあげる……という展開を期待していた我々はちょっと拍子抜けしました。

ハンダ吸い取り器はgoot GS-100を用意しました。Silriumさんの装備です。かなり大型の吸い取り器ですが、大は小を兼ねるとのこと。使い方については、別の機会に改めて説明しましょう
ハンダ吸い取り線。こちらもgootの製品です。幅が何種類かあります。今回はどちらかというと細めの2.0mmを用意しました。やはり、出番がありませんでした
Silriumさんが持参したHakkoの機械式ハンダ吸い取り器。強力な吸引力で簡単にハンダを除去することができるようです。その様子を見たかったのですが、残念ながら出番はありませんでした
高倍率のルーペは必須と言ったほうがいいかもしれません。写真用品の売り場にあるものが使えます
こちらはSilriumさんのオススメ品。金属繊維のコテ先クリーナー。水を使わないのでコテ先の温度が下がりません。コテをブスブスと刺すように使うといいようです。Silriumさんはこれを「アフロ」と呼んでいました

 準備は整ったので、ハンダ付けに取りかかりましょう。

 まず、机の上を整理して、きれいな空間を作ります。チップ部品を扱う際に一番大事なのは、部品をなくさないこと。油断するとピンセットの先からピーンと飛んでいきます。ごちゃごちゃしたところに落としたら発見は困難です。

チップ抵抗やチップLEDはテープを剥がして取り出します。端から透明の膜を引っ張るときれいに剥がれます。みのり先生はこの作業がとても快感だったようで、「ヒャー!」という歓声(?)があがりました
テープから取り出したチップ部品はお皿のなかにまとめておきましょう。我々はHOZANの静電気対策がされたパーツトレーを使用しましたが、スーパーで売っている紙皿でかまいません

 さて、本番。Silriumさんの指示に従って(キット付属の説明書にあるとおりです)、順番に部品を取り付けていきます。基本的には「背の低い部品から」というセオリーに沿った順序ですが、チップ部品のハンダ付けに慣れるという意味でも、失敗しにくいチップ抵抗からスタートします。

 チップ部品は小さく軽いため、正確な位置に固定することが困難です。基板に部品を置いてからコテを当てるやり方では、簡単にずれてしまいます。そこで、ランド(基板上のハンダをつける部分)の片側にあらかじめハンダを盛っておいて、そこに部品を持ってくる方法をとります。多少の慣れが必要な作業ですが、部品の位置決めと固定(仮留め)が同時にできる効率の良いやり方です。

2つあるランドの片側にだけハンダを盛ります。コテ先をランドに当ててから、ランドとコテ先の接点に糸ハンダの先をチョンとくっつければOK。ハンダはごく少量、わずかに盛り上がる程度で充分です。山盛りになってしまった場合はハンダ吸い取り線で取り除き、やり直します。作業性を考えて、チップ抵抗すべての分を先に済ませてしまいます
チップ抵抗をランドに固定します。ハンダを盛ってあるランドにコテを当てたまま、溶けているハンダに部品を押し込む感じです(力は要りません)
コテ先を離し、ハンダが冷えた状態で、部品の状態を確認します。浮いていたり、ひどく曲がっている場合は、もう1度コテを当て、位置を修正します。問題がなければ、もう片方のランドもハンダ付けします。位置の修正は両方をハンダ付けしてしまってからでは難しいので、注意しましょう

 チップ抵抗に続いてチップコンデンサ、そしてチップLEDの順に作業します。要領はどれも同じですが、それぞれ少しコツがあります。

 コンデンサは基板のパターンの影響で熱が逃げやすく、ハンダが乗りにくいかもしれません。そういう場合はコテ先を寝かして触れる面積を増やしたり、温度調整ができるコテならば少し高温に設定しなおして対処します。コテを長時間当てていると部品が壊れる恐れがあるのですが、とりあえずその危険性は忘れて、しっかりハンダが馴染むまでコテを当てます。

 過去に行なわれたSilriumさんのワークショップにおいて、コテの当て過ぎで部品が壊れたケースは1件もないとのこと。ときには10秒以上もじっくりとコテを当てる初心者の様子を見て、内心は「部品が壊れちゃうんじゃ……」と思うこともあるそうですが、それでも動作に影響が出たことはなく、加熱が足りずに接触不良となるよりは、じっくり必要なだけコテを当てるほうが良いという結論に達したようです。

本キットの主役、60個のチップLEDにとりかかりました。やはり、まずランドの片側だけにハンダを盛ってしまいます。みのり先生は、コテを当てている間、息を止めていました
抵抗やコンデンサは多少曲がっていても動作に影響ありません。しかし、LEDの場合は光軸がズレると目立ちます。中心の位置と水平度を入念に確認しましょう
作業は必要十分な正確さですいすいと進み、中盤からは、コテ先をチョイチョイと上下させる動きや、ざくざくとアフロに突っ込むクリーニング動作など、独自のテクニックが開発されていきました。写真は表面実装部品の取り付けが完了したところ。予想外の楽勝感が漂っています
【動画】みのり先生の迷いがないハンダ付けの様子を動画でどうぞ

 表面実装部品がすべて済んだら、次はリード部品を取り付けます。Silriumさんによると、ここで戸惑う初心者が少なくないようです。チップ部品で慣れた手順や感覚とちょっと違ってくるからです。

 リード部品の場合、基板を裏返す動作が必要です。部品の位置を修正するときは、片手に基板、もう一方の手にハンダごてを持って両面に意識を配りつつ作業することになります。大きい部品は熱が逃げやすく、ハンダが溶けにくく感じるかもしれません。

 今回のキットでは、7セグメントLEDの位置決めとACアダプタ用ジャックのハンダ付けがちょっと難しいかもしれません。でも、それが済めば完成です。

リード部品の中で1番時間がかかるのは、4個ある7セグメントLEDでしょう
10本ある足のうち、1本だけをハンダ付けし(仮留め)、位置のズレがないかよく確認します
部品が浮いているときは、基板を持って人差し指でその部品を押さえ、仮留めした足にコテを当てます。ハンダが溶けた瞬間に部品がパチリと音をたてて正しい位置に収まるはずです。その瞬間がよほど気持ちよかったらしく、みのり先生はうっとりしていました
熱が逃げて付きにくいときは、リード線を短く切ってからコテを当てるとうまくいくことがあります。電解コンデンサはまずプラス側を付け、マイナス側のリードを適当な長さに切ってからコテを当てるようにするといいかもしれません
完成です。ACアダプタをつなぐ瞬間、緊張します。もしチップLEDが点灯しなかったらどうしましょう……
電源投入後、全LEDが短時間点灯するので、ハンダ付けの成否が判断できます。1カ所の失敗もなく動作しました。完璧です
LEDの明滅に見とれるみのり先生
【動画】あらかじめたくさんのアニメーションパターンがプログラムされていて、プッシュスイッチにより選択することができます
キットにはとても詳しいマニュアルが付属します。この記事では触れなかった細部については、マニュアルを参照してください
青色LEDで作ると、また違った趣になります。写真のクロックは、CEATECでの展示用にAvagoのLEDを使って我々が組み立てたものです
Silriumさんの新作は7セグLEDが72個並んだディスプレイ装置。これまたシビレるアイデアです
基本アプリケーションはやはり時計。ランダムに明滅する数字のなかに時刻が浮かび上がります
ご参加いただいたSilriumの皆さんとみのり先生。おつかれさまでした。無事に完成して良かったです