買い物山脈
15,980円のカラーレーザーを自宅に設置したらストレスフリーになった同人誌印刷
2018年8月30日 06:00
- 製品名
- HL-3170CDW
- 購入価格
- 15,980円
- 試用期間
- 約2週間
自宅用にカラーページプリンタを買った。ブラザーの「HL-3170CDW」という機種だ。2013年に登場した製品で、ブラザー公式ではすでに販売終了しており、在庫限りではあるが、NTT-X Storeから15,980円(18,490円の2,510円会員割引)で購入した。
筆者がはじめてIT機器に触れはじめた小学生3~4年生の頃(1994年前後)、プリンタと言えば父の大学の研究室にあったドットインパクト式のものか、ワープロ(という類の機器)にくっついていたインクリボンを使う熱転写プリンタだった。これらの印刷速度はとてつもなく遅い上に、リボンについたインクの大半はそのまま無駄になっていた。もちろん、モノクロしか印刷できない。
中学生になった(1997年)自分がPCを買うさいに親から「プリンタも必要じゃない?」と言われ買ったのが、キヤノンの「BJC-400J」で、はじめてインクジェットプリンタによるカラー印刷を体験する。「熱転写より(ちょっと)速い上にインクリボンみたいなムダがない! しかもフルカラー!」などと感動していたものだが、親に頼まれた数百枚の年賀状印刷と、学校のボランティアで刷った数枚のチラシ以外、大した使い道がなかった気もする。
まあ、そもそも月数千円の小遣いしかなかった中学生に、インクを買ってバリバリ印刷して遊ぶほどの財力がなかったと言えばそれまでだが(というか、お金があるならビデオカードを買う)、筆者は、出てくる印刷物そのものを楽しむよりも、ESC/Pとはなんぞやとか、スプールデータの仕組みとか、インクジェットの仕組みとか、プリンタの機械的な仕組みとか、そういったものを知れる方が楽しい気がした。
よって、今までも家庭に置くプリンタは必要最小限のものだった。直近では、以前やじうまミニレビューでレビューしたことのあるキヤノンの「PIXUS iP2700」を自前でもう1台購入して使っていたのだ。使うのは航空券のeチケットの印刷や数枚の年賀状程度程度なので、これで十分だったのだ。
そしてこのスタンスはこの20年変わることがなかった。--そう、つい先日までは。
コミケで同人誌を30冊刷るのに10時間近く浪費
そんなある日、ひょんなことから名古屋の某大手企業に勤めるサラリーマンすまさ氏より、コミケで売り子をやらないかという誘いを受ける。しかもそのさいに、もし自分で書きたいコトがあるなら、それを書いて同人誌にしてウチのブースに置いてもいいのだという。筆者はコミケに参加したことがないのだが、せっかくの誘いなので受けることにした。
インプレスは「出版社」で、筆者は10年以上勤めているのだが、恥ずかしながらじつはDTPを体験したことがない。右も左もわからないが、とりあえずワープロでなんとかなるだろうということで、LibreOffice Writerを使って書きはじめた。
話は逸れるが、LibreOffice Writerで5ページぐらい作成して保存したところ、表のなかの文字列が何度やっても保存されないという謎のバグに遭遇。もうすでにテンプレートみたいなのが出来上がっていて、ODFファイルとして保存していたので、作り直しの面倒さから、ODFファイルをそのまま読めるApache OpenOfficeに切り替えたところ、無事表の内容も保存できるようになった。
さて、じつは本の内容の大半は、コミケがはじまる2週間前には書き終わっていたのだが、このうち1ページだけ、コミケ2日前に発表されたものの内容であり、それをどうしても入れたかったので、締切が早い印刷所に印刷をお願いできなかったのだ。
というわけで、自宅にあるPIXUS iP2700で印刷しようと決まったのだが、これがえらく効率悪かった。同人誌はA4用紙を2つ折りにしたA5サイズの小冊子。印刷するページは表紙を含めて30ページ、4ページを両面に集約するので、実質印刷する枚数は16ページ(紙8枚)なわけだが、3部印刷するのに1時間近くかかってしまった。
さらに、自動両面印刷機能がないため、途中で手動で紙をひっくり返してOKボタンを押す程度の手間があるため、放置して寝るなんてこともできないのである。
頒布するのは30部を予定していたが、見本誌で+1冊刷らなければならないので、31部である。8月8日21時から刷りはじめ、深夜1時まで刷ってようやく12冊。9日の朝、子どもを保育園に送っている最中も動作させておき、出社までの2時間で6部刷れた。
そして9日の夜、また21時から刷りはじめたのだが、青のインクが切れていたのにもかかわらず警告が出ず、それに気づかないまま裏を刷ってしまい、3部(=約1時間)無駄になる。急いで予備のインクに入れ替え、10日深夜2時近くまで刷った結果、ようやく31部完成できた。
なんというか、絶望的に遅い。会社では普段からレーザープリンタで出力しているので、インクジェットの遅さを忘れていたというのもあるのだが、こんなに遅いとは思わなかった。31部と聞くと少なく思われるかもしれないが、逆算すると合計496ページ以上刷ってるので、インクジェットプリンタとしてはかなり頑張っているのだろうが、1枚分でも足りないと本として成立しないので、“10時間でたった31部”と言われればそれまでだ。
増刷でやる気をなくしそう
とりあえずコミケ当日、印刷して持っていった同人誌の頒布は非常に好調で、開始から3時間程度で売り切れてしまい、午後は「頒布したくても頒布するものがない」状況になってしまった。午後から駆けつけた友人に対しては「申し訳ないけどなくなりました……」と頭を下げなければならない状況に。また、すでに知り合いに委託する予定があったので、さらに増刷をしなければならなくなった。ちなみに筆者の同人誌は全ページフルカラーなので、数十部単位の増刷は、印刷所やコンビニプリントにお願いすると赤字だったりする。
増刷のスケジュールは、コミケ当日ほど切羽詰まってはいないので、インクジェットでゆっくり刷る時間は取れるのだが、まず解決しなければならない問題がインク。同人誌を刷る前に何枚か出力しているので、正確に計測したわけではないのだが、筆者の場合、1つのインクで20部(約320ページ)程度印刷できた。
iP2700の交換インクはカラーの「BC-311」が約2,800円、モノクロの「BC-310」が約2,700円前後。合計すると5,500円ほどだ。互換インクを使う手もあるのだが、Amazonのレビューを見るかぎりトラブルが多いようだ。本機は噴出ノズルも兼ねたカートリッジ一体型なので、リサイクル品などは品質にバラつきが出そうだ。
でも5,500円なら、いっそのこと400円足してエプソンのスキャナつき複合機「カラリオ PX-049A」を買うのも手だ(本体のコストはいずこ?)。エプソン純正のインク「RDH-4CL」は4色で3,500円ほどなので、仮にiP2700と同様に20部程度刷れるのなら、こちらのほうが“製造原価”が安い(1部あたり275円、1枚あたり約17.2円 vs. 1部あたり175円、1枚あたり約10.9円)。しかもエプソンの場合、インクごとの交換も可能だから、メリットも大きい。
だが、筆者的に不満なのは製造原価だけではない。印刷速度だ。「30冊刷るとまた10時間近くかかるのか……」なのである。プリンタを入れ替えてもなお“業務効率”が向上しないのって、入れ替える意味があるのだろうか、という点だ。CPU的に言えば、Intel H310マザーの上で動作しているCore i7-8700をわざわざCore i7-8700Kに入れ替えるぐらい、無駄を感じるのだ。
15,980円衝撃
「増刷するのかったり~な~」と思っていたとき、購読していたNTT-X Storeのメルマガの1文がふと目に留まる。
▽ブラザー▽A4カラーレーザープリンター HL-3170CDW
│(22PPM/両面印刷/有線・無線LAN)
│18,490円(税込)+期間限定:2,510円割引 = 15,980円(税込)
│【ご提供台数:28台】
└→ https://nttxstore.jp/_II_BR14349906?LID=mm&FMID=mm
無線? 有線? カラーレーザー? 両面? 22PPM?? 15,980円!!??。6つのキーワードから導き出した答えたった1つ--「ポチる」--それしかなかった。一応は16,000円もするし、40cm四方超の大型製品なので、妻のもとに飛んでいき、同意を求めてみた。「それぐらいなら買っていいよ」ということで、ちょっと設置スペースを確認し、購入を決意した。
日曜日夜に製品を注文して、月曜に「出荷しました」のメールが届く。そして火曜日の夜、佐川急便で、ついにHL-3170CDWがついに我が家にやってきた。
意外とイケるこの大きさ、そして圧倒的な効率
NTT-X Storeなどでカラーレーザー扱いにされているが、本機種は正しくは「カラーLEDプリンタ」である。光源はレーザーではなくLEDだ。そのため筐体はレーザー採用品と比較して一回り小さく、とくに高さは240mmに抑えられている。フットプリントは465×410mmなので、家庭に置くには十分に大きいのだが、4色カラータンデム方式でこのサイズなのだからむしろスゴイのである。棚に乗せてみたところ、筐体は前後にはみ出してしまったが、とくに問題なく設置できてしまった。
サラッと「タンデム方式」だなんて書いてしまっているが、じつはかなりスゴイことだったりする。その昔、カラーレーザーと言えばC/Y/M/Kのトナーが1つのユニットとなっているロータリー式が主流で、モノクロに対してカラーの印刷ではロータリーが4回転する動作が伴うため、印刷速度が4倍違っていた。タンデム方式はC/Y/M/Kのトナーが独立し、それぞれに感光体を設けているので、1回で印刷できる。つまりモノクロもカラーも同じ速度なのだ。
HL-3170CDWに関して言えば、カラーもモノクロも22ppmだ。自動両面印刷では紙がいったん本体内に戻るため、最高7枚/分となるが、それでもカラーインクジェットとは比較にならないほど高速なのである。iP2700の場合、紙8枚の同人誌を3部刷るのに1時間かかっており、逆算すると0.4枚/分。これをNL-3170CDWに置き換えるだけで効率が17.5倍になる計算だ。
実際計測したところ、3部刷るのに印刷スプールデータの作成や転送に約1分10秒程度かかり、それから約6分で3部刷り上がった。公表値の約半分の速度(3.5枚/分)だが、筆者の原稿は画像データが比較的多めなので、こんなものだろう。HL-3170CDWは連続で250枚給紙できるので、30部を一気に印刷できる。排紙トレイは100枚なので、順次取り除く必要はあるが、スプール作成時間を考慮に入れても、30部を約1時間程度で印刷できる計算。効率はじつにインクジェットの10倍だ。
気になる電力効率はどうか。HL-3170CDWの公称値はピーク時で990W、印刷時で435Wの電力を消費する。一方iP2700の公称値は印刷時で13W。印刷時の消費電力だけを比較すると、HL-3170CDWはiP2700の約33.5倍もの消費電力を消費していることになる。しかし、先述のとおりHL-3170CDWは10倍高速に印刷できるので、同じ量を刷るのにかかる総電力量は(ウォームアップなどのピーク電力を考慮しても)実質3倍程度に過ぎないのである。
電気代以外のランニングコストはどうだろうか。HL-3170CDWは、少なくとも増刷26部(416ページ)を刷ったところではまだ(グラフ的に)60%ほど残っていた。製品に最初から付属しているトナーは1,000ページほど刷れるとのことだが、感触的にはそれとほぼ同じ印象だ。
ブラックで2,500枚、カラーで約2,200枚印刷できる純正トナー「TN-296」シリーズは、1本あたり実売9,000円弱、4本セットで36,000円前後。価格はiP2700のインクの6.5倍だが、単色の交換が可能だし、6.9倍程度の枚数は刷れるので、実際のランニングコストはトントンと言ったところ。
これだけだと「やっぱり電気代含めればランニングコストはインクジェットだね」と言いたいところが、じつはAmazonでは、TN-296シリーズ互換のトナーが4色セットで5,000円程度で売られている。筆者はまだ実際に購入して試したわけではないが、知人に聞いても、Amazonのレビューを見てもおおむね好評のようで、仮に公表どおりの枚数刷れるとしたら、約2.27円/枚と、iP2700のわずか7分の1程度のコストになる。3倍程度の総電力量を含めて考慮しても、HL-3170CDWのほうがランニングコストが低いことがわかる。
もちろん、ページプリンタならでは問題として、ベルトやドラムといった消耗品も考慮しなければならないが、その寿命が来たときは、製品の買い替え時だと思っている。というより、何よりも代えがたいのが9時間分の待ち時間であり、それを家族と過ごす時間にすればプライスレス、仮に時給1,000円のバイトをしたとしても9,000円の儲けなのだから、ページプリンタがもたらす効率は圧倒的だ。「かったり~な~」どころか「むしろ刷りたい」レベルである。
アクセスポイントから離れている場合、無線LANは微妙かも
いきなり出力から結論を出してしまったが、設置の手順を振り返ろう。HL-3170CDWはUSB接続のほか、IEEE 802.11b/g/n無線LANとEthernetによる有線LAN接続もサポートしている。まずは、せっかくなのでワイヤレス化しようと試みた。
設定は本体のみから行なえ、アクセスポイントを選択してルーターのWPSボタンを押すだけである(手動パスワード入力も可能)。その後ドライバのインストール時に、ネットワークで接続していると選択すれば、自動的に本機を探して接続してくれるという超簡単設定だ。
問題なく認識したものの、いざ印刷しようとしたところ、5分経っても1枚めが出てこない状況だった。筆者の自宅では、無線LANアクセスポイントを2階、プリンタを1階に設置したため、電波状況が芳しくなかったためだろう。もっとも、PCからそれほど遠くに設置したわけではないため、iP2700で使っていたUSBケーブルでそのまま接続することにした。今後、機会を鑑みて有線LANに切り替えるつもりだ。
ちなみに本機はWindowsのほかに、無線LANを使ったAirPrintや、専用モバイルアプリからの印刷も可能。さらにGoogle Cloud Printにも対応しているため、自らのGoogleアカウントとプリンタを結びつければ外出先からでも印刷できる。まあ、筆者にとっては猫に小判的な機能だが、15,980円でこれらの機能もついてくるわけだ。
肝心な印刷結果だが、普通紙に印刷する分にはiP2700を凌駕するほどの鮮やかさがある。光沢紙に印刷するのであればiP2700のほうが発色がいいが、普通紙ではやはりトナーが強い。画面で見るのと比べると、鮮やかさが乏しいのは否めないが、資料としての同人誌なら十分満足の行く仕上がり。若干色のバンドが確認できるが、目を凝らして作品として鑑賞しないかぎりは実用十分だ。
やや気になるとすれば、印刷終了後、用紙が強めにカールしてしまう点。もっとも、普通紙+インクジェットの組み合わせでも、インクが多く載っている部分がしなってしまうし、本体サイズを考えれば、このぐらいカールしてしまうのは致し方ないだろう。ちなみに騒音は、さすがに近くだとうるさいが、筆者のような一軒家の場合、2階にいけば聞こえないレベルである。
さあ、あなたもページプリンタの世界へ(?)
ちなみに卓上型のレーザープリンタでタンデム方式を採用した初の機種は、1998年の沖電気の「MICROLINE 8c」のようで、そのときの価格は約50万円、印刷速度は8ppmであった。カラーで22ppmの高速出力を実現したプリンタは、富士ゼロックスが2000年に発売した「DocuPrint C2220」があるが、こちらも価格は50万円近かった。
それから約10年後には、ついに一桁万円クラスにまで落ち、そして約20年が経ち、ついにミドルレンジクラスのインクジェットプリンタよりも安い16,000円になったのである。中学生の頃、BJC-400Jを3万円で買った当時、まさか家にカラーページプリンタを設置する日がやってこようとは、夢にも思ってもみなかった。
HL-3170CDWで増刷してとりあえず思ったのは、もうインクジェットに戻れないということ。インクの詰まりに悩む必要はなさそうだし、22ppmという印刷速度や自動両面の便利さを体感してしまうと、今までやっていた作業がアホらしく思えてくる。これならコミケ前にさっさと購入して、50部刷って頒布すべきだったと後悔しているほどだ。
機械フェチにとってもインクジェットプリンタ以上の満足度であり、カバーを開けて中身をじっくり観察し、その美しさをおかずにしてはご飯を3杯食べられる雰囲気である。本体に「食べられません」とは一言も書かれていないので、きっと食べられる。
筆者が書く限りいいことづくめに見えるHL-3170CDWだが、万人におすすめする製品ではない。同人誌のなかでも筆者のように自家で印刷するのはいわゆるコピー本の部類。HL-3170CDWで印刷すると紙が若干ロールしてしまうし、きれいに綴じたり裁断したりしない限り、本として美しくない。筆者のように資料的な同人誌を数十部刷る程度ならまだしも、数百部レベルで刷るなら、本としての仕上がりがキレイで、なおかつ安価な印刷所をおすすめする。
また、年に数十枚程度のオリジナル年賀状を刷る程度なら、やはり数千円レベルのインクジェットのほうが良いだろう。なにせ手軽で、なおかつコンパクトである。普段はクオリティの高い光沢写真も印刷できるし、家庭に1台常備していてもさほど邪魔にならない。
一方で「ある日突然、500枚~1,000枚ほどフルカラードキュメントを出力したくなった!」といった用途には、ぜひカラーページプリンタの導入をおすすめしたい。HL-3170CDWはすでに生産終了品なので、在庫限定になってしまうが、リコーの「SP C260L」やキヤノンの「Satera LBP7010C」など、2万円前後で購入可能なカラーページプリンタはほかにも存在する。カラーページプリンタは、かつて存在したハードルの高さはなく、もはや庶民が普通に扱えるデバイスになっているのだ。