山口真弘の電子辞書最前線

シャープ「PW-AC40」
ハングル文字を手書きで入力できるコンパクトモデル



韓国語モデルのPW-AC40。想定実売価格は2万円前後で、本体色はホワイトのみ。このほか中国語モデルのPW-AC30も同時発表されている

発売中
価格:オープンプライス



 シャープの「PW-AC40」は、ハングル文字の手書き入力に対応した、コンパクトタイプの電子辞書だ。胸ポケットに入るストレートタイプの筐体でありながら、タッチ入力に対応したカラー液晶画面を搭載し、手書き入力が行なfえることが大きな特徴だ。

 ストレートタイプの電子辞書は、今電子辞書市場の1つのトレンドとなりつつある。座学用という位置付けのクラムシェル型の電子辞書に対して、持ち歩いて電車の中などで使うのに向いていることから、ユーザ層も含めて、従来とはやや異なるマーケットを形成しつつあるようだ。

 今回紹介するシャープの「PW-AC40」は、同社が昨年発売したストレートタイプの電子辞書「PW-AC10」の系譜に連なる製品で、韓国語モデルという位置付けだ。本製品と同じタイミングで発表された中国語モデル「PW-AC30」と同様、外出先などで読みが分からないハングルもしくは簡体字に出会った際、タッチ操作で手軽に意味を確認するのに役立つ製品だ。

●胸ポケットに収まるコンパクトなボディ。筐体はマイナーチェンジ

 まずは外観から見ていこう。なお、今回はメーカーより借用した評価機を用いているため、実際の製品とは一部仕様が異なる可能性があることをお断りしておく。

 Blackberryにそっくりと話題になったこれまでのモデルと同様、胸ポケットに収まるコンパクトなボディが特徴の本製品だが、これまでの製品ではキーが扇状の配置になっていたのに対し、本製品では横1列の直線的な配置に改められている。とはいえ、後述のタッチ操作を除いて、片手で持って親指中心に操作するスタイルは基本的には変わらない。

 キーボードはQWERTY配列。ストレートタイプの電子辞書は、キヤノンの製品のように五十音配列を採用するケースもあるが、本製品は一般的なタイプライター配列にこだわっている。キーサイズが極小であるにもかかわらず突起があるため押しやすい点は、これまでのモデルと同様だ。キーの押下感は従来より若干硬めに感じられるが、個体差によるものか、それとも機構そのものに違いがあるのかは不明だ。

 筐体色はホワイト1色。男女ともに違和感なく使えるカラーだ。一般的なクラムシェル型の電子辞書に比べると高級感はあまりないが、決して安っぽいわけではない。重量は電池も含めて約114gと、体積がほぼ同じスマートフォンに比べ、かなり軽量だ。

 カラー液晶のサイズは2.4型、ドット数は320×240ドットと、これまでのモデルと変化はない。タッチ操作に対応したことで、画面の右端に操作パレットが追加されているが、ここは「PW-AC10」、「PW-AC20」でも余白扱いだったエリアであり、画面サイズに変化はない。

 本体右側には手書き入力用のタッチペンを収納する。タッチペンは使用時に伸ばすことができるが、径が細いことから握り心地はあまりよくない。サードパーティ製のタッチペンをストラップに取り付けて使うことを検討してもよいかもしれない。ちなみにタッチペンではなく爪先などで手書き入力することもできなくはない。

 このほか「PW-AC20」では左側面にあったイヤフォンジャックは底面へと移動し、本体を左手で持ちやすくなった。スピーカーは備えないため、音声出力先はイヤフォンのみとなる。カードスロットなどは搭載されておらず、コンテンツの追加や、テキストデータの読み込みなどには対応しない。

 電源は単4電池×2本で、エネループでの駆動にも対応する。駆動時間は約110時間と、このクラスのモデルとしては標準的な値だ。

本体の形状は、Blackberry似であることが話題になった従来の筐体からマイナーチェンジが施されたが、片手で持って親指で操作するスタイルそのものは変わらない左側面から見たところ。PW-AC20ではイヤフォンジャックがあったが、本体下部に移動したため、この面には端子類はなにもなくすっきりしている右側面から見たところ。タッチペン収納口がある
下部から見たところ。イヤフォンジャックが追加されているキーボードは扇状に配置されていたこれまでのモデルと異なり、横一直線に並ぶレイアウトに改められている。ハングル文字では一般的な2ボル式の入力にも対応CD-Rとのサイズ比較
iPhone(左)とのサイズ比較。サイズは本製品のほうが大きいが、重量は本製品のほうが軽い本体背面上部に単4電池×2のボックスを搭載。重量バランス的にはやや頭でっかちだが、持ちにくいわけではないキーはサイズこそ極小だが、段差があるため親指でも問題なく押せる。押下感はやや硬め
中央部の検索/決定キーに親指を置くのがホームポジションということになる。右側の前見出/次見出キーの上下配置がややずれているのは基板レイアウトの都合か伸縮するタッチペンが付属。細いためやや握りにくいタッチペンは本体右側面に収納する
タッチペンを用いて手書き入力を行なっているところ。画面左端のパレットで「戻る」「検索/決定」などの操作が行なえる

文字サイズは、スーパー大辞林では4段階で変えられる

●読みの分からないハングル文字を手書きで入力できる

 本製品の最大の特徴は、コンパクトモデルでありながら手書き入力に対応していることだ。二つ折りタイプ、俗にいうクラムシェルタイプの電子辞書ではすっかり一般的になった手書き入力機能だが、コンパクトモデルでこの機能を備えている製品は珍しい。

 さて、本製品は韓国語モデルということで、ハングル文字の手書き入力に対応している。韓国旅行、あるいは国内の韓国料理店のメニューや看板でハングル文字を見かけて、何が書かれているのかを知りたい場合がある。しかしハングル文字をまったく知らない人(筆者がそうだ)からすると、意味を調べようにもまず読み方が分からない。それ以前に、ハングル文字の入力方法自体が未知の分野だ。

 一般に、キーボードからハングル文字を入力する場合は「2ボル式」と呼ばれる方式が用いられるとのこと。これはハングル文字の母音と子音とを両手で入力していく方式で、WindowsはもちろんiPhoneなどでもIMEを追加すれば利用できるが、これにしてもハングルの構造を知っていることが前提で、知らなければちんぷんかんぷんだ。

 その点、手書き入力であれば、ハングル文字で書かれた看板やメニューを見て、そのままタッチペンで書き込めばよい。形状さえ正しくトレースされていれば、正しいハングル文字に置換され、意味を検索できる。形状が多少間違っていたとしても、よく似た複数の候補文字が表示されるので、適当に書いてもそこそこ正しく入力していける印象だ。

 今回、試用前に気になったのは「筆順が不正確な場合でも大丈夫なのか」という点だ。ハングル文字に不慣れな場合、どこが始点でどこが終点なのかすらもわからないため、もし文字認識で筆順が重要な要素になっているようであれば、使いものにならない可能性があるからだ。しかし実際に試した限りでは、まずありえないと思われる筆順で入力した場合でも、目に見えて変換精度が落ちるといったことは感じなかった。

 メーカーに話を聞いたところ、筆順もある程度は判断材料に使われているとのことだが、間違った筆順で書かれる可能性も考慮しているそうなので、まったくハングル文字の心得がない初心者にとっても、安心して利用できそうだ。学習用から旅行用、さらには日常でのちょっとした読みを知りたいという用途まで、幅広く対応できると感じた。また前述の「2ボル式」にも対応しているので、こちらの入力方式に慣れているユーザーであれば、キーボードからすばやく入力することもできる。

 ちなみに本製品の2.4型/320×240ドットという画面サイズは、一般的な電子辞書でキーボード手前に装備されている手書き対応の子画面よりも大きく、使い勝手の面でも問題はない。本製品は本体上部に重心があり、本体を持つ際は液晶画面のちょうど後ろを人差し指で支える形になるため、手の中での収まりもちょうどよい。バランスを考慮して作られていると感じた。

一括検索機能は、日本語、英語、ハングルに対応ハングル文字の入力は、手書きのほか、2ボル式によるキーボードからの入力にも対応読みが分からないハングル文字を手書きで入力しているところ。筆順は正確でなくともよい
候補の文字が左側、縦1列に表示された。正しいと思われる文字をタップすると上部に表示される続いて別の文字を入力同様にして正しいと思われる文字をタップする。入力が終わったら「検索/決定」キーを押す
今回調べた単語が「銀行」を意味することが分かった。発音が聞きたければ、見出し下の緑色のマークをタップすればイヤホン経由で聴くことができる手書き入力はハングルはもちろんのこと、日本語についても対応している英語の手書き入力も可能だが、さすがにキーボードからの入力のほうが早そうだ
設定画面。単語帳機能なども備える

朝鮮語辞典では文字サイズは3段階可変

●韓国語対応の2コンテンツをはじめ計14のコンテンツを収録

 次に搭載コンテンツについて見ていこう。

 コンテンツ数は14。韓国語に対応した「朝鮮語辞典」「小学館 日韓辞典」といったコンテンツのほか、「スーパー大辞林 3.0」「漢字源」といった日本語コンテンツ、さらに「ジーニアス英和・和英辞典」などの英語コンテンツを搭載する。朝鮮語辞典には約6,100語のネイティブ音声も収録されている。

 手書き入力が大きな特徴の本モデルだが、ハングルだけではなく日本語入力時にも利用できるので、例えば漢字源において、読み方がわからない漢字の読みがなを知る目的にも使える。QWERTYキーボードを搭載していることからニーズはあまりないかもしれないが、英語の手書き入力にも対応している。

 多少気になるのは、「PW-AC10」「PW-AC20」と比較した場合、広辞苑第六版がスーパー大辞林に差し替えられていることだ。個人の好みの出る部分で、一概にどちらがよい悪いというわけではないが、広辞苑を目的に電子辞書をチョイスしようと考えている人は注意したい。

 このほか、旅行用のコンテンツとして「ブルーガイドわがまま歩き旅行会話」を搭載しており、これは韓国語に限らず英語やイタリア語、フランス語など、複数の国をカバーしている。これは本製品と同時に発表された中国語モデル「PW-AC30」も同様で、モデル自体が特定の外国語向けであっても、旅行会話集についてはその国だけに特化せず、複数の国を網羅するという方向性のようだ。

 ちなみに、同時発表の中国語モデル「PW-AC30」について補足しておくと、読み方がわからない簡体字について、本製品と同様に手書き入力ができる。「日本の漢字とよく似ているのに、入力方法がわからなくてイライラする」というケースであっても、手書き入力機能があれば問題なく対応できるというわけだ。ビジネスユースにおいて、かなりのニーズがあるのではないかと感じた。

広辞苑は搭載せず、代わってスーパー大辞林を搭載英語コンテンツはジーニアスのみとややシンプル
韓国語モデルということもあり、朝鮮語辞典と日韓辞典の2コンテンツを搭載旅行会話コンテンツは韓国語に限らず各国語版を搭載する

●タッチ入力の利点を最大限に生かしたコンセプトありきの製品

 ざっと試用してみたが、本製品はただ電子辞書の流行に乗ってコンパクトモデルにもタッチパネルを搭載したというわけではなく、読みも入力方法もまったく未知の文字を手書きで直感的に入力できるという、タッチ入力の利点を最大限に生かした、コンセプトありきの製品であると強く感じた。動作についてもきびきびとしており、操作にストレスを感じないのもよい。

 コンテンツ数が決して多いわけではないので、複数の辞書によるクロス検索という点では若干見劣りし、専門的な語学学習までをカバーできるわけでは決してないが、ハングル文字を使った表現にひととおり慣れ親しむという意味では、これまでなかった選択肢として注目してよいのではないかと思う。

 気になったのは、ひょっとして本製品と同じ機能をもったアプリがスマートフォン向けにリリースされているのではないか、ということだが、筆者が調べた範囲では発見できなかった。仮にそのようなアプリがあったとしても、信頼性のある辞書を搭載し、さらにネイティブ音声を収録している点など、本製品を活用する意義は大きいと言えるだろう。

【表】主な仕様
製品名PW-AC40
メーカー希望小売価格オープンプライス
ディスプレイ2.4型カラー
ドット数320×240ドット
電源単4電池×2
使用時間約110時間
拡張機能なし
本体サイズ71.0×127.0×21.2mm(幅×奥行き×高さ)
重量約114g(電池含む)
収録コンテンツ数14(コンテンツ一覧はこちら)