山口真弘の電子辞書最前線

シャープ「PW-AC10」
~Blackberry似のストレート型カラー電子辞書



PW-AC10。今回紹介しているピンクのほか、シルバーホワイト、グリーンの計3色をラインナップ

8月6日 発売
価格:オープンプライス(実売価格13,000円前後)



 シャープの電子辞書「PW-AC10」は、ストレートタイプの筐体を持ったコンパクトな電子辞書だ。スマートフォンの「Blackberry」を彷彿とさせるデザインの筐体は、ポップなカラーを含む3色がラインナップされており、他の電子辞書とは異なる独特の存在感がある。重量はわずか97gで、同社では本製品を「業界最軽量のコンパクトカラー電子辞書」であるとしている。8月6日の発売日を前に、さっそくレポートしていこう。

●スマートフォンライクな筐体。重量は電池込み約97gと軽量

 まずは外観と基本スペックから見ていこう。なお、今回はメーカーより借用した評価機を用いているため、実際の製品とは一部仕様が異なる可能性があることをお断りしておく。

 ストレートタイプの筐体は、全長はiPhone 3GSとほぼ同じで、幅は若干広い程度。本製品と同じストレートタイプの電子辞書としては、本連載でも以前紹介しているキヤノンの「wordtank S500」とそのシリーズが存在するが、長さは本製品のほうが20mm以上小さく(wordtank S500は140mm、本製品は118.6mm)、手に持った時の印象としては、本製品のほうが圧倒的にコンパクトに感じる。

 wordtank S500では、筐体が縦に長いことに加えて決定キーが下部にあるために片手での操作は困難だったが、本製品は検索/決定キーが液晶画面の真下、ほぼ重心に当たる位置にあることから、片手で入力する際もバランスは悪くなく、操作性は極めて良好。wordtank S500は両手で操作する電子辞書、本製品は片手で操作する電子辞書、といった位置づけになるだろう。胸ポケットに入れた際も、頭が飛び出ることもなくすっぽりと収まるので、持ち運びにも最適だ。

 筐体カラーはシルバーホワイトのほか、グリーン、ピンクの計3色が用意されている。かなりポップなカラーリング、かつメタリックがかった塗装は、電子辞書というよりも携帯電話やマウスに近いものがある。ちなみに液晶はグレアタイプなので、外光の映り込みがやや気になる場合はあるかもしれない。

 特筆すべきは重量だろう。100gの大台を割った97gという値は、単4電池2本込みでの重量というから驚きだ。同社では「業界最軽量のコンパクトカラー電子辞書」としているが、実際に持ってみるとその謳い文句はダテではないと感じる。ちなみにiPhone 4は137g、3GSが135gで、差は30~40g程度ということになるが、実際に手に持ってみるとそれ以上の差を感じる。

 さらにこれだけ軽いにもかかわらず、質感は非常に高く、安っぽさがないのも秀逸だ。先のメタリックな塗装もプラスに作用しており、全体的によく計算されていると感じる。

 液晶は2.4型カラー、320×240ドット。このサイズおよび解像度は先に述べたwordtank S500と同じだ。画面については非常にくっきりと鮮明で、動作もきびきびとしている。コンテンツ数の違いもあろうが、同じシャープのPW-AC900/910シリーズが動作が重く、明らかに待たされる感覚があるのに比べると、本製品の動きの速さは際立っている。

片手での操作が可能。左右ほぼ対称なだけに、左手、右手どちらでも操作できるCD-Rとのサイズ比較。かなりコンパクトであることが分かる左側面から見たところ。メモリカードスロットやヘッドホン端子などは搭載しない
右側面から見たところ。とくにキーや端子類はない下部から見たところ。ちなみに裏面はゴム足などはないため、机上に置いた状態での操作はやや不得手液晶画面はやや段差があり、キズがつきにくくなっている。ちなみに液晶画面の右側には「広辞苑」「英和/和英」「旅行会話」と内蔵コンテンツ名が書かれているが、とくに何らかのボタンやスイッチになっているわけではない
電源キーは液晶画面左下の位置にレイアウトされている。ファンクションキーは横一列リング状のキーで上下左右に移動、中央の検索/決定キーで決定する仕様になっている。リングキーは若干固く押しにくい感はあるが、慣れればとくに問題はない

●片手だけで操作が完結する秀逸なインターフェイス
キーボードは一般的なQWERTY配列。似た仕様のキヤノンwordtank S500はメンブレン方式だったが、こちらはやや硬めのタッチで、そのぶん反応が分かりやすい

 また、意外に使い勝手がよいのがキーボード。キーの幅はわずか約4mm、キーピッチも約6mmと、普通に考えるとスムーズな打鍵は難しそうに思えるのだが、実際に使ってみると意外にも押しやすいので驚く。ちょうど親指の腹がキートップに触れる格好になるのだが、隣のキーと干渉することもなく、またストロークが深すぎたり浅すぎることもない。クリック感が多少硬い感はあるが、こういうものだと思って使えば、特に問題になるレベルではない。

 もっとも、このあたりは爪が長い女性などにとってはまったく感想が異なってくる可能性があるので、店頭で実物をさわってみて判断されることをオススメする。ちなみにキーボード自体は一般的なQWERTY配列であり、とくに奇をてらっているところはない。

 その他のキーについては、検索/決定キーの左側に戻るボタン、右側にはページ送りキーがレイアウトされている。QWERTYキーの上部に並ぶファンクションキーは横一列で、「一括検索」、「英和/和英」、「広辞苑」、「旅行会話」、「メニュー」の5つ。一般的な辞書に比べると、左端の一括検索の隣に広辞苑ではなく英和/和英キーがきているのが特徴的だが、これは単に利用頻度が高いであろう広辞苑を検索/決定キーに近づけてレイアウトする意図があるのかもしれない。

 また、利用頻度がそれほど高くないと思われるSジャンプや文字サイズキーは、QWERTYキーのさらに下部に配置され、結果的に利用頻度が低いキーほど本体の下寄りにレイアウトされるようになっている。実際に使ってみても違和感は少なく、合理的なキー配置であると感じる。キー自体も特に省略されたものは見当たらない。

 もっとも、本製品は音声出力機能を搭載していないため、通常の電子辞書であればスピーカーを配置するスペースを本製品ではうまく活用している、と見ることもできる。また拡張インターフェイスについては、一般的な電子辞書にあるようなSDカード/microSDスロットやUSBポートは持たず、テキストや音楽の読み込みは行なえない。そのため同社のコンテンツ販売サイト「ブレーンライブラリー」を経由してのコンテンツの追加はできず、拡張性は低い。

 電池方式は単4×2本で、エネループおよびエボルタの利用にも対応する。持ち歩きが多い製品のコンセプトを考えると、充電池ではなく外出先で購入可能な乾電池が利用できるこの設計は妥当だろう。電池駆動時間も110時間と、十分な時間を確保できている。

本体左上にストラップホールが付属する本体背面上部に単4電池×2のボックスを搭載。本体上部に重量が集中していることもあり、たまに握りそこねて落としそうになることも
文字サイズは4段階で可変する

●12コンテンツを搭載。片手で操作できるカード式単語帳機能も便利

 続いてメニューとコンテンツについて見ていこう。

 コンテンツ数は12。「広辞苑第六版」のほか、「漢字源」「パーソナルカタカナ語辞典」「ジーニアス英和辞典」「ジーニアス和英辞典」「ブルーガイドわがまま歩き旅行会話(7カ国語)」など、国語系3、英語系2、旅行系7という構成だ。旅行系7というのは各国語版なので、それらを差し引いて考えると、搭載コンテンツが網羅する範囲はあまり広くない。

 本製品には他の電子辞書と同様、複数のコンテンツを串刺しで検索する一括検索機能が用意されているが、搭載コンテンツ数が多くないことから、いざ一括検索を実行してもヒットするのは広辞苑のみ、もしくは広辞苑に加えて英和・和英辞典のみという場合がほとんどで、複数のコンテンツを一括検索できる電子辞書専用機ならではのメリットがあまり生かせていないと感じる。メーカーは旅行および日常利用をアピールしているが、せめて百科事典系のコンテンツが1つあれば、ずいぶんと印象も変わってくるのではないかと感じる。広辞苑の搭載を優先したためにそれ以外のコンテンツがやや弱くなったという印象はなくはない。

 画面のインターフェイスについては、従来のシャープ製電子辞書と同じ、横向きのタブメニューを踏襲している。前述の通りキーの操作性が高く、反応もきびきびとしているので、ストレスが溜まらない。カラー液晶を活かした画像や図版を表示しようとすると、かなりの重さを感じるのが、唯一の難点だ。

 コンテンツ以外に目を向けると、本製品の売りの1つとして、カード式単語帳機能がある。これは内蔵コンテンツから任意の単語などを登録し、暗記チェックができるというものだ。もともと本製品は30~40代をメインターゲットにしており、学習用途の機能というのは多少ミスマッチも感じるが、それはさておき片手で登録して片手でチェックできるという操作性はなかなかのものだ。

 電子単語帳といえば、コクヨが販売している「メモリボ」という製品があるが、これと同様、電車の吊革につかまりながら片手で操作する暗記チェックマシンという使い方ができる。このインターフェイスを生かして、資格試験特化型などの派生製品が出てくれば、かなり魅力的だろう。今後の展開に期待したいところだ。

画面は一般的なシャープの電子辞書と同様、横向きのタブ切り替え方式を採用。国語系のコンテンツは3つ英語系のコンテンツはジーニアス英和と和英の2つ旅行会話系は7カ国語が用意されている
設定および電卓、単語帳の画面広辞苑の画面。広辞苑は約240,000項目を搭載文中の単語を指定してさらに検索が可能なSジャンプ機能を搭載
旅行会話系のコンテンツは搭載されているが、音声出力はサポートされないカード式単語帳の画面。各コンテンツから任意の単語を登録して暗記に使えるカード式単語帳の「問」の画面
切替キーを押すと「答」が表示される。ここで表示する文章は元コンテンツの中から範囲を選択して取り込む。また当然のことながら英和・和英辞典からの取り込みも可能設定画面。機能が絞られているぶん設定できる項目数は少なめ税計算機能がついた12桁の電卓機能も搭載。数字入力に適したキー配置かと言われるとさすがにNOだが、海外旅行の際には重宝する機能だろう
一括検索機能も搭載されるが、語彙数やコンテンツ数の関係で、検索結果はほとんど広辞苑が占めている場合も少なくない広辞苑では約4,400点のカラー画像を収録。画像から探すためのメニューも用意されている

●メリットは軽さと操作性、デメリットはコンテンツ数と音声出力

 以上ざっと機能と使い勝手を見てきたわけだが、ここからは既存の電子辞書を持っているユーザーの観点で、本製品をあらためて俯瞰してみよう。

 200~300gクラスの重量が多い一般的な電子辞書と比較した際、わずか97gという軽さはやはり大きな魅力だ。また、単に軽いだけではなく、すべての操作が片手で完結してしまうのは、従来の電子辞書にはない特徴だ。自宅などでは一般的なノートPC型の電子辞書を使い、旅行や出張ではこちらを使うという併用スタイルもありだろう。バッグの中に入れておいても、重さをほとんど感じずにすむはずだ。

 一方、コンテンツがカバーする範囲が狭く、また購入後のコンテンツの追加もできないことは、既存の電子辞書ユーザーは不満を感じるかもしれない。また海外旅行用途を謳うのであれば、音声出力はあってもよかったのではないかと思う。もちろん現状の筐体サイズや重量、価格帯にするためにこうした結論になるのはやむを得ないところだろうが、やや割り切りすぎた印象はなくはない。後継モデルや上位モデルで見直しがあることを望みたい。

 あと、スタンダードタイプの電子辞書では標準搭載となりつつあるタッチ入力は、本製品ではサポートされていないが、キーボードの使い勝手が悪くないこともあり、タッチ入力の必要性はまったく感じない。困るシーンがあるとすれば、読みがわからない漢字の手書き入力ができないことくらいだろうか。

●コンテンツの充実もしくは製品のバリエーション展開に期待

 現在、市販されている電子辞書の多くは数十~百以上のコンテンツを搭載している。これは機種間の差別化要因でもあると同時に、携帯電話やスマートフォンなど、電子辞書ソフトを搭載するデバイスと比較した際の強みになっている。単純にどれだけ多くのコンテンツを搭載できるかといった数の問題ではなく、それら複数のコンテンツを串刺しで一括検索し、多面的に語義を調べられることが、電子辞書専用機のなによりのメリットだからだ。たまに「iPhoneに大辞林を入れたので、もう電子辞書の専用機はいらない」という声を耳にするが、単純に辞書が使えることと、一括検索で複数の辞書を調べられることとはちょっと違う。

 その点本製品は、敢えて電子辞書専用機という形をとっているにもかかわらず、搭載コンテンツが少ないことから、このメリットがいまいち生かせていないように感じる。片手での持ちやすさや入力しやすさなど、ハードウェアとしては非常によくできているのだが、コンテンツ数が少ないがゆえ一括検索で表示される語彙数が少なく、電子辞書専用機である意味がいまいち感じられないのだ。コンテンツのラインナップとしては生活総合モデルだと思うのだが、それにしても少ない。

 なぜそう感じるのかというと、この製品は形だけ国語・英和・和英辞書を揃えた見掛け倒しの電子辞書にとどまるのではなく、スタンダードタイプの電子辞書と直接競合するポテンシャルを持っていると感じるからだ。なにせインターフェイスがよくできており、片手でサクサク操作できる。これは従来の電子辞書にはない特性だ。それだけにあともう一息、コンテンツ面で頑張ってほしかったというのが、今回試用しての率直な感想だ。敢えてスタンダードタイプの電子辞書との違いをつけるためにこうした構成になったのかもしれないが、百科事典なり音声出力なり、方向性を決めるコンテンツもしくは機能があと1つ欲しかった気がする。

 筆者の現状の評価としては、現状のコンテンツの顔ぶれで問題なければ買い、そうでなければキヤノンのwordtank S500シリーズのような英語特化などのバリエーション展開を望みつつ、しばらく様子見、ということになるだろう。ハードウェアが新規設計であることを考えると、13,000円前後と想定される実売価格はかなり頑張っている。意欲作であることは間違いないだけに、ユーザーとしては今後の展開も含めて注目したい。

【表】主な仕様
製品名PW-AC10
メーカー希望小売価格オープン
ディスプレイ2.4型カラー
ドット数320×240ドット
電源単4電池×2
使用時間約110時間
拡張機能なし
本体サイズ(突起部含む)118.6×68.6×18.8mm(幅×奥行き×高さ)
重量約97g(電池含む)
収録コンテンツ数12(コンテンツ一覧はこちら)