山口真弘の電子辞書最前線

シャープ「PW-AC900」
ライバルはポメラ? テキストメモ機能搭載のカラー液晶モデル



製品本体。今回紹介しているシーブルー以外に、ライトシルバー、チャコールブラック、ボルドーレッド、クリームアイボリーの計5色展開

発売中
価格:オープンプライス



 シャープの電子辞書「PW-AC900」は、100コンテンツを搭載したカラー液晶モデルだ。新たに「テキストメモ」機能を搭載し、キーボードから入力したテキストを本体もしくはmicroSDに保存し、PCに転送して利用できることが大きな特徴だ。

 キングジムのデジタルメモ「ポメラ」の大ヒットは記憶に新しいところだが、本製品はポメラ同様、キーボードを用いたテキストメモ機能を装備している点が新しい。もともとQWERTYキーボードを備えているだけに、むしろこれまでこうした機能がなかったのが不思議なくらいだ。今回はこのテキストメモ機能を重点的に見ていくことにしよう。

●筐体やキーボードは基本的に従来モデルを踏襲

 まずは外観と基本スペックから見ていくことにしたい。

 筐体は、従来モデル「PW-AC890」とほぼ同一。高級感がある一方で指紋がつきやすかったそれ以前のモデルに比べ、外装がマットな質感になったことで、指紋がまったくといっていいほど目立たなくなった。カバーなしで電子辞書を使っていると神経質にならざるを得なかった点だけに、この変更は歓迎できる。

 5型のカラー液晶を採用し、画面サイズは480×320ドット。これらの仕様は従来モデルから変化はない。メイン画面、子画面ともにタッチ入力に対応している点も同様だ。なお、従来モデルに比べて大型化された手書きパッドは、アルファベットを1文字1マスではなく長方形の枠の中にまとめて書ける「英単語サッと手書き入力」機能が搭載された。地味ながら嬉しい進化である。

 キーボードはQWERTY配列。本製品は後述するようにテキストメモ機能を新たに搭載しているが、キーボードそのものは従来モデルの仕様から、ほとんど変化していない。今春発売されたモノクロモデル「PW-AT790」の仕様に合わせ、上下左右キーの中央に決定キーを配置したレイアウトに変更されている程度だ。ちなみにキーピッチは13.5mmである。

 本体には約100MBの内蔵メモリを搭載する。また手前に配置されたmicroSDスロットには、テキストやMP3データを保管できるほか、専用サイト「ブレーンライブラリー」からダウンロードしたコンテンツの保管も行なえる。

 重量は約358gと、増加こそしていないものの、従来モデルと比べてほとんど変化はない。リチウムイオン充電池で最大80時間駆動するとされている。USB給電機能は用意されない。

上蓋を閉じたところ。ピアノ調の塗装だった過去のモデルに比べると指紋がつきにくい左側面。イヤフォン端子とストラップホールを備える右側面。USB端子とACジャック、スタイラス挿入口を備える
重量は約358gと、電子辞書としてはヘビー級キーボード盤面。手書きパッドが左右に広くなった点が大きな変化として挙げられるキーボード上段にファンクションキーを装備。Home画面の新設により、右端に辞書メニュー、その隣にHomeという並びに変更された
microSDスロットは本体前面に装備検索/決定キーは、上下左右キーの中心に配置されるようレイアウトが変更された大型化した手書きパッドでは、枠によらずに英単語の連続入力が可能になった
1世代前の「PW-AC880」との比較。手書きパッドが大型化していることが分かる右側面にスタイラスを収納可能
リチウムイオン充電池を採用。充電は付属のACアダプタで行なう裏面には「Windows Embedded CE 6.0」のシールが見える
アルファベットを長方形の枠の中にまとめて書ける「英単語サッと手書き入力」機能が新たに搭載された

●「Home」画面の新設により、各機能の並列関係が明確に

 テキストメモ機能の紹介の前に、1つ大きな変更点に触れておきたい。それは、メニュー画面の1つ上の階層に「HOME」画面が新設されたことだ。

 これまでの電子辞書は、電源を投入すると、辞書コンテンツを選択するためのメニュー画面が表示されていた。タブ切り替えか否かといった表示方法の違いこそあれ、この画面構成は他社も含めた電子辞書ほぼすべてに共通していた。

 今回の「PW-AC900」では、電源を投入すると、辞書のほかにMP3プレーヤー、手書きメモ、電卓、さらには今回新搭載のテキストメモが並列に配置されたHOME画面が起動するようになっている。まず辞書ありきだったのが改められ、並列関係にあるコンテンツが視覚的にも並列に配置されたわけである。

 これまでの製品で、MP3プレーヤーや電卓機能が、辞書メニューの一部となっていることに違和感を持つユーザは少なくなかったのではないだろうか。今回のHOME画面ではこれらの機能の棚卸しにより、コンテンツの並列関係が一目瞭然になった。電子辞書という枠に収まることなく、新機能を貪欲に取り入れて新しいデバイスに進化していこうという姿勢は評価できる。

 ちなみにその辞書コンテンツは100コンテンツを搭載している。新しいコンテンツとしては「日本語コロケーション事典」「裁判員~選ばれる前にこの1冊~」などが追加されたことが目立つ。それ以外では、日本語キーワードから英語・中国語の適した表現を探せる「会話アシスト機能」や、タッチペンを使った「カラーマーカー機能」といった特徴的な機能も健在だ。

新設されたHome画面。本製品ではこれがスタートページに相当する。従来の辞書メニューは上段左、新機能であるテキストメモは上段左から3番目に配置されている辞書メニュー画面。従来モデルにみられた画面切替時のアニメーション効果がOFFになったせいか、動作のもっさり感が大幅に軽減された新しく搭載されたコンテンツ「裁判員~選ばれる前にこの一冊~」の画面

●ポメラに似た「テキストメモ機能」を新たに搭載

 さて、本製品の目玉機能であるテキストメモ機能について見ていこう。

 テキストメモ機能は、「テキストメモ for Brain」という独立したアプリケーションとして提供されており、前述のHOME画面では辞書機能と並列に並べられている。本機能を立ち上げた状態では、電子辞書というよりもUMPCといった体裁だ。

 日本語入力システムには、富士ソフトの「FSKAREN for Windows Mobile」が採用されている。ソフトバンクモバイルやイーモバイルのWindows Mobile端末、さらにカーナビなどで採用されている、予測変換機能を備えたIMEだ。IME自体がWindows Mobile対応ということもあり、ツールバーなどの構成はWindowsに非常に近く、馴染みやすい。また、ひらがな/アルファベット/数字といった文字種はキーボード手前の手書きパッドから変更できるため、直感的な操作が可能だ。なお、文字入力はキーボードのみで、手書き入力には対応していない。

タッチタイピングを行なっている様子。キーピッチは13.5mmで、指同士のすき間がまったくない状態

 もっとも、いかにQWERTY配列のキーボードとはいえ、周辺のキーレイアウトはあくまで電子辞書のものであり、キーの印字もテキストメモ用に特化しているわけではない。そのため、句読点入力やDelete、BackSpace、漢字変換などの操作をどのキーが受け持っているかは、説明書を読んで1つずつ覚えていく必要がある。例えば句点は「文字小」、読点は「文字大」キーで入力するのだが、さすがに説明書を見ないと気付かないだろう。ある程度の慣れが必要になると考えておいたほうがよい。

 保存できる1ファイルあたりの文字数は、32,768字が上限とされている。これは「8,000文字のテキストファイルを6ファイルまで、合計で最大48,000字まで」というポメラに比べてもはるかに多い。ちなみに保存できるファイル数に制限はなく、内蔵メモリおよびmicroSDの容量に依存する。また、内蔵メモリへの保存時はルートディレクトリに、microSDへの保存時は、「TextMemo」というフォルダ内に格納される。

 保存したテキストをUSBもしくはmicroSD経由でPCに転送することができる点は、ポメラと非常によく似ている。またmicroSDなどを経由し、PCで作成したテキストファイルを読み込むこともできる。実際に試してみたところ、文字コードはSJISのみ対応し、EUCやUnicodeでは文字化けした。また、前述の制限文字数を超過しているとそれらが切り捨てられた状態で表示される。切り捨てられた状態のまま上書き保存を選択してしまうと、超過分のデータがなくなってしまうので要注意だ。

USBケーブルでPCと接続することで、本体メモリ領域もしくはmicroSDがマスストレージとして認識されるテキストメモ機能こと「テキストメモ for Brain」の起動画面
いかにもメモ機能といった初期画面。ちなみにテキストメモを立ち上げたまま辞書機能を使うことはできない文字種の切替は手書きパッドから行なう。このテキストメモ機能は手書き入力には対応しない
Windows Mobile向けのIMEであるため、メニューバーもWindowsライクなものになっている。タイムスタンプ挿入機能も備える
実際にテキストを入力したところ。これは改行コードを表示した状態改行コードを非表示にすることもできる。行番号を表示する機能はない
文字サイズは5段階に変更できる。これは最小サイズと最大サイズ漢字変換の候補は下段に表示される。予測変換はOFFにすることも可能なので、携帯電話ライクな予測変換が好みでない場合はOFFにしておくとよい
入力メニューを表示したところ句読点は「文字大」「文字小」キーを使って入力する。独特の割当なので最初は戸惑いがち
定型文や顔文字の入力も可能
全角半角問わず32,768字を超えたテキストファイルを開こうとすると、超過分のデータを切り捨てた状態で表示される文字コードはS-JISのみ対応。それ以外だと文字化けする。写真はUTF-8で保存したテキストファイルを開いた状態
「FSKAREN」の設定画面。予測変換のON/OFF、ユーザ辞書の登録などが行なえる

 ざっと機能を使ってみたが、本製品はメインの液晶画面がタッチに対応しているため、コピー&ペーストで文章を選択する際にタッチペンで範囲選択ができるなど、ポメラにはないメリットも多い。画面サイズが5型と大きく、文字サイズも5段階に変更できるなど、見やすく工夫されている点も好印象だ。

●アイデア入力、文章の下書き用に最適

 以上、今回はテキストメモ機能を中心にレビューをお届けした。筆者自身「ポメラ」を発売直後にゲットしたクチだが、本製品はポメラのテキストメモ機能を大いに意識した、野心的な造りに仕上がっていると感じる。PCユーザに馴染み深いATOKを搭載するポメラに比べるとさすがに慣れは必要だが、最大250個の定型句も登録できるので、議事録のように書式が決まった文書の作成には威力を発揮しそうだ。

ソフトのバージョン表記。1.1.0となっている

 もっとも、キーボードからのテキスト入力機能を1つの製品としてパッケージングした体のポメラと異なり、本製品はあくまで電子辞書の枠を超えない範囲で、メモをとるためのIMEを組み込んだ体の製品だと感じさせられる。理由の1つはキーボードの操作性、もう1つは予測変換機能を中心としたIMEの挙動だ。最小限のキータッチで文章を完成させるというコンセプトは、PCよりもケータイのIMEに近い(FSKARENはモバイル端末向けのIMEなので当然といえば当然なのだが)。「テキストメモ機能」といえば類似性を感じさせるが、こうした開発コンセプトの違いは、使い勝手に明らかな違いをもたらしている。

 そうした意味では、本製品のリリースに「外出先や移動中に思いついたアイデアなどを入力でき、PCに取り込んで議事録や報告書などの文書作成に活用できます」と書かれているように、本製品はあくまでも短文中心の下書きが主用途であり、喫茶店などに持ち歩いてライターや編集者が原稿の仕上げにバリバリ使うといった用途は、ちょっと考えにくい。例えば筆者がこの記事を書くのに本製品を使うならば、要点を箇条書きする際に本製品を使い、残る工程はPCを用いて作業をすることになると思う。

 とはいえ、キーボードとIMEへの慣れ次第で、ポメラやノートPCに遜色ない使い方をすることは不可能ではなさそうだ。このあたりは個人差もあると思うが、下書き用の製品としてはじゅうぶんに合格点をつけられる出来であることは間違いないので、電子辞書とポメラをともにバッグに入れて持ち歩いていたというユーザは、この製品に一本化することを検討してみてもよいだろう。

 いずれにせよ、今後このテキストメモ機能を軸に、電子辞書という製品が大きく進化を遂げる可能性は高いと思う。キーボードの強化はもちろんのこと、既存の辞書コンテンツとの連携、例えば手紙の文例集などとの連携などにも期待したいところだ。

【表】主な仕様
製品名PW-AC900
メーカー希望小売価格オープンプライス
ディスプレイ5型カラー
ドット数480×320ドット
電源リチウムイオン充電池、ACアダプター
使用時間約80時間
拡張機能microSDカードスロット、USB
本体サイズ145×108×22.4mm(幅×奥行き×高さ)
重量約358g(電池含む)
収録コンテンツ数100(コンテンツ一覧はこちら)