井上繁樹の最新通信機器事情
Cloud Engines「Pogoplug Cloud」
~月額500円で容量無制限のオンラインストレージ
2012年12月6日 00:00
オンラインストレージはローカルのHDDと比べると容量単価は高めなのが普通だ。そんな常識を打ち破る、容量無制限で低価格なサービスをCloud Enginesが始めた。実際に使ってみたので、他のサービスと比較しつつ紹介したい。
概要
Pogoplug Cloudの容量無制限サービスは従来からCloud Enginesが提供してきたオンラインストレージ「Pogoplug Cloud」に新たに加わったプランだ。料金は500円/月と4,980円/年(月額換算415円/月)の2種類。1年分一括で払うと月ごとに払うより約2カ月分お得になる計算だ。決済方法はクレジットカードのみとなっている。
すでにPogoplugのサービスを何らかの形で利用している場合、5GB以上のPogoplug Cloudストレージが使えるはずだが、Pogoplugの容量無制限プランに加入するとその容量がWeb UI上では「無制限」になる。
Cloud Enginesは当初はPogoplugと呼ばれる専用のハードウェアを使う、売り切り型の(無期限で利用できる)「パーソナルクラウド」サービスを提供していた(今もサービスは継続して提供中)。接続したUSBストレージがそのままオンラインストレージになるので、使える容量は接続したUSBストレージ次第、つまり容量無制限とまではいかないが容量の自由度の高いサービスだった。
だから、「容量無制限」と言うと荒唐無稽に聞こえるが、Pogoplugが容量無制限になった代わりに、1回だけ支払えば良かった料金が、毎月あるいは毎年かかるようになったわけで、それほど無茶なサービスでもないことがわかる。参考までにPogoplugデバイスの現在の価格を書いておくと、旧モデルのPOGO-P25が5,000円前後で、最新モデルのPogoplug Mobileが7,980円だ。容量無制限のPogoplug Cloudでは、毎年デバイス1つ買えるくらい料金がかかるわけで、それと比べると安すぎる価格設定というわけでもない。
Pogoplug Cloudの速度
Pogoplug Cloudの速度の測定結果は以下の表の通り。測定はアップロード、ダウンロードそれぞれ5回行なった。測定には25MBのバイナリファイルを使い、転送にかかる時間をストップウォッチで計測して算出した。また、参考のため、GoogleドライブとAmazon Cloud Drive(どちらも有料プランを使用)でも同様の測定を行なった。測定に使用したPCはWindows 7 Home Premium(Core i3、8GB、SSD)、WebブラウザはGoogle Chrome、回線はBフレッツ(NTT東日本、有線LANで接続)。
test1 | test2 | test3 | test4 | test5 | |
---|---|---|---|---|---|
Pogoplug Cloud Desktop App | |||||
upload | 1.28 | 1.30 | 1.44 | 1.45 | 1.18 |
download | 1.46 | 1.47 | 1.48 | 1.46 | 1.48 |
Pogoplug Cloud Web UI | |||||
upload | 1.50 | 1.45 | 1.44 | 1.44 | 1.53 |
download | 1.76 | 1.89 | 1.89 | 1.91 | 1.89 |
Amazon Cloud Drive | |||||
upload | 0.92 | 0.82 | 0.89 | 0.85 | 0.86 |
download | 1.87 | 1.87 | 1.87 | 1.89 | 1.89 |
Google Drive Desktop App | |||||
upload | 1.61 | 1.64 | 1.65 | 1.61 | 1.65 |
Google Drive Web UI | |||||
upload | 1.78 | 1.27 | 1.26 | 1.31 | 1.65 |
download | 1.78 | 1.82 | 1.81 | 1.82 | 1.84 |
Pogoplug Cloudの速度はデスクトップアプリ(エクスプローラー組み込み)を使った場合は、アップロードが1.2Mbps~1.5Mbps、ダウンロードが1.5Mbpsで、Webブラウザを使った場合は、アップロードが1.5Mbps、ダウンロードが1.8Mbps~1.9Mbpsだった。デスクトップアプリを使った場合でも、Webブラウザを使った場合でも上下とも1.5Mbps程度出ており、Webブラウザを使った場合のダウンロード速度は1.9Mbpsと他のサービスと比べても悪くない数字が出ていた。
参考として測定したGoogleドライブ、Amazon Cloud Driveと比較してみると、アップロードについては、Googleドライブに及ばないこともあるが、ダウンロードについては、Googleドライブよりも速いAmazon Cloud Driveと同程度の速度が出ていた。容量無制限という、他の2サービスには無い特色があること、月額500円からという料金設定も含めて考えると、決して引けをとらない魅力のあるサービスだと言えるのではないだろうか。
Pogoplug CloudのWeb UIの使い勝手
オンラインストレージで最も重要な機能はやはりファイルのアップロード機能だろう。そこで、Web UIを使ってファイルをアップロードして確認のためのファイルをプレビューを見るところまで、Googleドライブ、Amazon Cloud Driveと比較しつつチェックしてみた。
Pogoplug CloudのWeb UIはドラッグ&ドロップ操作に対応しているので、アップロードの際はエクスプローラーからWeb UIにファイルをドラッグ&ドロップするだけでファイルをコピーできる。ドラッグ&ドロップによるファイル操作はGoogleドライブも対応しており機能的な差は無いが、ファイルをオーバーラップさせた時、ファイルのコピーができる旨青い枠線や文字で表示する分Pogoplug Cloudの方が少しだけ親切かもしれない。
ただし、Pogoplug Cloud内でドラッグ&ドロップ操作した時の挙動はエクスプローラーを使った場合の挙動と少し違っていて、ファイルをフォルダにコピーすると「移動」ではなく「コピー」になる。Googleドライブではエクスプローラーの時と同じように「移動」になるので、挙動の統一がとれている分Googleドライブの方が親切だと言える。
ファイルのプレビューについてだが、画像の表示については画面一杯使って大きく表示する分Pogoplug Cloudが最も使いやすいと言えるかもしれない。Googleドライブではタイトル表示や説明表示にスペースをとられる分小さくなり、Pogoplug Cloudの半分以下での表示になる。Amazon Cloud Driveではさらに表示は小さくなりサムネイルより少し大きい程度のサイズでの表示になる。
ただし、Pogoplug Cloudがプレビュー用に生成する画像は、14~15型程度のノートPCを想定したものらしく、24型のフルHDディスプレイなど大画面で見た場合、ブロックノイズなど粗が見えてしまう。ボタン(右上の四隅に矢印が伸びるアイコン)1つでオリジナルの画像を呼び出せるのだが、1アクション余計にかかる分ストレスを感じる。GoogleドライブやAmazon Cloud Driveでは大きく表示しない分プレビュー用の画像の粗が目立たない。もっとも、Pogoplug Cloudはローカルドライブとしてマウントして、デスクトップアプリからアクセスできるので、ブラウザで完結したい人には少々不満かもしれないが、大画面環境での画質の問題は回避可能だ。
デスクトップアプリの使い勝手
次にデスクトップ用のアプリについて見てみよう。Pogoplug Cloudのアプリは、オンラインストレージをローカルドライブとしてマウントするアプリと、指定したフォルダのファイルを自動的にバックアップコピーするアプリに分かれている。バックアップコピーするフォルダと、バックアップ先は自由に設定できる。
Googleドライブのデスクトップアプリは、ユーザーフォルダのルートに作成される専用のフォルダ上に置かれたファイルを、Web上のGoogleドライブストレージと同期させるものだ。ファイルの保存先の自由は無いが、設定であれこれ悩む必要が無い分こちらの方が好みの人もいるだろう。
Amazon Cloud Driveのデスクトップアプリは、ファイルをアップロードするためのアプリと、アカウントの設定変更画面を呼び出したりAmazon Cloud Driveからダウンロードするファイルの保存先を設定する常駐アプリの2つで構成されている。ほぼWeb UIを補助するためのものだ。
以上3つのサービスのデスクトップアプリについて見てきたが、自由度と使い勝手についてはPogoplug Cloudが最も良いと言えるだろう。
と、ここまで、Pogoplug Cloudのアプリのいいところばかり書いてきたが実は少々不便な点もある。それは、PCをスリープさせたり、ネットワークを一旦切断すると、マウントが解除されてしまい手動で復帰させなければいけないことだ。以前からの仕様なのだが、自動的に回復するGoogleドライブのアプリを見ていると、もうちょっと便利になってくれてもいいような気もする。モバイル環境ではそうした不便の無いWeb UIを使ってくれということなのかもしれない(だからWeb UIのプレビュー画像はモバイル環境に合わせて画質が抑え目なのかもしれない)。
それから、Pogoplug CloudではWeb UIでドラッグ&ドロップ操作でファイルをコピーした場合、デスクトップ用アプリやAndroid、iOS用アプリを使った場合と比べてサムネイルの生成が遅い。ファイルをアップロードして、一日経って気づいたらサムネイルが生成されていたという感じだ。もっともサムネイルを表示するオンラインストレージの方が少ないくらいなので、サムネイル表示機能はおまけ機能くらいに考えて割り切るべきなのかもしれない。
さらにもう1点おまけに書いておくと、Pogoplugのデスクトップアプリのバックアップ機能は同期ではないので、ファイルが削除されても、それがバックアップ先には反映されない。これにはメリットとデメリットがある。うっかりミスでファイルを削除してしまっても簡単に復活できるのはいいのだが、不要になった、場合によっては誤った内容のファイルがいつまでも残されるということでもあり、それがトラブルの原因にならないとも限らない。
まとめと感想
Pogoplugの容量無制限プランは、オンラインストレージを使ったことがある人なら想像がついたと思うが、ここで言う「容量無制限」とはGB単位のファイルを軽々扱えるPCの感覚で言う「容量無制限」ではなく、1~2Mbps程度のモバイル環境の感覚で言う「容量無制限」だ。それでも使える容量は少なくない。
アップロード速度は1.2~1.5Mbps前後なので、1日にアップロードできる容量は12~15GiB、つまりDVD2~3枚分で、1月あたり30日換算で360~450GiBにもなる。もっとも、Pogoplug CloudのためにPCの電源を1日中入れっぱなしにするような人は居ないと思うので、参考までもう少し現実的な数字を出しておくと、1日あたり10時間、1月あたり22日使用した場合で、110~138GiBだ。
ただし、速度を考えると当然ながら大容量のファイルの扱いには向いていない。大容量のファイルはWeb UIやエクスプローラーでマニュアル操作で扱うのではなく、デスクトップアプリで「いつの間にか」アップロードさせるのが賢い使い方だ。
途中色々書いたが、Web UIの完成度はほかのサービスと比べても引けをとらないし、デスクトップアプリについてもバックアップコピーさせるフォルダも自由に設定できるなど使い勝手も悪くない。月額500円からのサービスとしては、なかなかお買い得なサービスだと思うのだがどうだろうか。