井上繁樹の最新通信機器事情

ソフトイーサ「PacketiX Desktop VPN」
~震災で無償提供された手軽かつセキュアなPC遠隔操作ソリューション



PacketiX Desktop VPN

発売中
価格:現在無償開放



 ソフトイーサの「PacketiX Desktop VPN」はPCの遠隔操作が簡単かつセキュアにできるサービスだ。リモートデスクトップを使うにはルーターの設定変更など少々面倒な作業が必要になることが多いが、「PacketiX Desktop VPN」では遠隔操作したいPCと遠隔操作に使うPCにソフトをインストールするだけでよい。本ソフトは2007年来より月額950円で提供しているサービスだが、この度、東北地方太平洋沖地震影響を受けている企業などを支援するため無償開放されることになったため、取り上げてみた。

●概要

 リモートデスクトップはWindowsに標準でインストールされている機能で、LANやインターネット経由でPCを遠隔操作するためのものだ。離れた場所にあるPCのファイルを取り出すのはもちろん、アプリケーションを起動してデータを編集することもできる。便利な機能ではあるのだが、ルーターの設定変更が必要になる。

 VPN(Virtual Private Network)は離れた場所にあるLAN同士をつなぐ機能で、インターネットを経由した場合でも、LAN内であるかのようにファイルのやり取りができる。通信内容は暗号化されるので、漏洩のリスクは少ない。こちらも便利な機能ではあるのだが、VPNサーバー(VPNゲートウェイ)が必要で自分で設置するとなると少々手間がかかる。

 今回取り上げる「PacketiX Desktop VPN」は、リモートデスクトップとVPNを組み合わせたサービスで、VPNのメリットである高い安全性を確保しつつリモートデスクトップが使える。設定画面を開いたり、ウィザード画面をたどることなく、使用するPCにソフトをインストールするだけで使えるようになる簡単さが魅力だ。ルーターの設定変更も、VPNサーバーも必要無い。

 前述の通り、PacketiX Desktop VPNは、PCに専用のソフトをインストールして使う。遠隔操作したいPCにはサーバー版を、遠隔操作に使うPCにはクライアント版をインストールする。サーバー版のソフトはWindows用しかないが、クライアント版のソフトはMac版もある。なお、無償開放期間外では、Mac版を使うには別途追加でオプション料金(月額525円×同時接続数)が必要だ。

【表1】Packetix Desktop VPNの機能の違い
名称サーバークライアント
共有機能有効版OO
共有機能無効版OO
実行ファイル形式クライアントXO
クライアント for MacOS XXO

 PacketiX Desktop VPNには上の表の様に4種類のバージョンがある。特徴的なのはVPN経由での直接のファイルのやり取りができないようにした「共有機能無効版」があることだろうか。それから、他のソフトとまとめて配布することを想定してか、実行ファイルのみのバージョンもある。

 制限についてだが、遠隔操作するPCも遠隔操作に使うPCもインターネットにつながっている必要がある(VPNサーバーがインターネット上にあるため)。また一般的な家庭用のルーターやファイアウォールソフトを使っている場合は問題はまず起きないが、環境によっては一部ポートを開放する必要があるかもしれない(3389、3456など。詳細は公式サイトの「よくあるご質問」を参照)

●ソフトのインストールとIDパスワードの設定

 インストールすべきソフトはサーバーとクライアントの2種類。相互に遠隔操作したい時はサーバーとクライアントの両方をすべてのPCにインストールする必要がある。

 インストールするときに是非設定しておきたいのがパスワード。仕組み上インターネット経由で外部から必ず接続可能なので必須だ。設定すべきパスワードはDesktop VPNサーバーのものと、PCのアカウント自体のもの。面倒でも必ず設定しておきたい。

システムモードとユーザーモードの選択。どちらにするからネットワーク管理者と相談した方がいいだろう。特に制限がないときはシステムモードでインストールするサーバーかクライアントかの選択。同時にインストールできないので、両方インストールしたいときはインストール作業が2回必要になるインストールが完了するとDesktop VPNサーバーの設定画面(メインとなる画面)が開く。重要なのはコンピュータIDと「セキュリティ設定」のパスワード。コンピュータIDは自動で適当な名前が設定されるが、必ず別のものに変更しておこう
Desktop VPNサーバーのインストール完了直後にパスワード設定を促すダイアログが開く。ここで忘れずにパスワードを設定しておきたい先のダイアログで「パスワードを設定して…」と書かれたボタンをクリックすると「セキュリティ設定」が開く。ここでパスワードを入力すればインストール作業は完了だもう1つ注意したいのが「動作設定」にあるスタンバイや休止状態を阻止する設定。サーバーとして使うにはリモートからいつでもアクセスできるように常時電源オンであることが望ましい。デフォルトでは有効になっているので、不都合があるなら無効にしておこう

 ファイルやプリンタの共有設定についてはクライアント側で設定する。共有設定はサーバー側のリソースを外部から見えるように設定するのではなく、クライアント側のリソースをサーバー側で見えるようにすることで行なわれる。共有状態になったクライアント側のリソースは、サーバー側のエクスプローラ等で見えるようになる。まるで水の中に入れた鏡で自分の姿を見る様な不思議な仕様だが、詳しくは次の項の画面で説明しているので確認してほしい。

●ログイン感覚でリモート接続

 遠隔操作したいPCと遠隔操作に使うPCそれぞれにソフトがインストールできたらさっそくリモート接続してみよう。遠隔操作に使うPC側(クライアント)でDesktop VPNクライアントを起動すると、ちょうどWindowsのログインダイアログによく似たダイアログが開くのであとは画面の指示に従ってログイン操作を行なえばよい。

 実際にやることはIDとパスワードの入力だ。前述した手順の通り設定した場合、IDとパスワードを2回入力することになる。1回目はDesktop VPNサーバーへの接続するためのもの、2回目は接続先のPCにログインするためのものだ。パスワードを設定していない場合は入力画面は省略される。

Desktop VPNクライアントを起動するとダイアログが開く。サーバーのコンピュータIDを入力して「接続」ボタンをクリックすると開始するサーバーと直接ファイルをやりとりするときは接続する前に「共有設定」でHDDの共有機能を有効にしておくDesktop VPNサーバーでパスワードを設定しておくと、パスワード入力画面が開く。このパスワードはDesktop VPNサーバーに接続するためのもの
PCの設定によっては実際に接続するか確認を促すダイアログが開くサーバーへの接続が完了すると、今度はPCにログインするためのダイアログが開くDesktop VPNクライアントを使ったリモートログインが完了した状態。エクスプローラのフォルダ表示で見えている「OWNER-PCのC~P」ドライブは、クライアント側のもの。こちらのドライブやフォルダにファイルをドロップするとクライアント側にファイルがコピーされる

 リモート接続では接続速度が遅くなるとレスポンスが遅くなってしまい快適とは言えない状態になってしまう。もっとも1Gbpsの有線LANを使っても、ローカルPC同様の使用感にはならないわけで、そのあたりは折り合いをつけて使っていく必要がある。オフィスアプリのようにリアルタイム性を要求されないものであれば不都合が出ることはまずないだろう。

 なお、リモートデスクトップの接続画面を全画面表示にして使う時は「Ctrl+Alt+Break」を使う。「F11」キー等を使っても全画面表示にならない点に注意したい。最大化表示(画面右上「□」ボタン)では画面下のタスクバー等が表示しきれず不便なときに試してみてほしい。

●まとめと感想

 PacketiX Desktop VPNはソフトウェアベースのリモートデスクトップサービスだ。すでに述べた通り経路のVPNを使うのでIDやパスワードを漏らすようなことが無い限り安心して使えるセキュアなシステムだ。

 PacketiX Desktop VPNの良い所はソフトさえインストールできてしまえば、即使い始められることだ。リモートデスクトップやVPNのセットアップはそれほど難しいものではないが、専門家ではない人にとって何かトラブルが起きたときの対処は難しい。ソフトをインストールすれば使えて、アンインストールすれば使えなくなる簡単さは誰にとっても優しい。

 月額950円というと個人で使うにはやや割高感のある価格設定だが、料金はユーザー数ではなく同時接続数で決まる。企業や団体で普段から使うのであれば充分リーズナブルと言える価格設定ではないだろうか。

 先日起きた東北地方太平洋沖地震では、震源から離れている都心部は建物の被害は少なかったものの、交通網は打撃を受けた。帰宅困難者の件ついては以前から話題になっていたが、今回その大変さを実感した人も多いのではないだろうか。あれほどの事象はそう何度も起きるとは思えないが、バックアップ手段の1つとしてリモートで作業できる環境を作っておくことは無駄ではないはずだ。本記事がそのときの参考になれば幸いである。

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(2011年 3月 18日)

[Text by 井上 繁樹]