井上繁樹の最新通信機器事情

ついに1万円切った10Gigabit Ethernetカード「LR-LINK LREC6860BT」を試す

 LANカードをマザーボードに挿すのはいつ以来か。自作PCブーム当初マザーボードにLANポートがついてないのが当たり前(関連記事:種類が増える440BXマザーボード、早くも「大競争時代」か?)だったが、1万円を切った10Gbps対応のLANカードが登場したことで、その機会も増えるのかもしれない。

デスクトップPC用の10Gbps対応LANカード

 LREC6860BTは、中国LR-LINK製の10Gbps-T対応の有線LANカードだ。国内での取り扱いはアユート。PCとの接続インターエイスはPCI Express x4 Gen2で、端子はRJ-45、ロープロファイルに対応しており、ブラケットを2種類同梱している。動作温度は-25℃~70℃。

LREC6860BT表面。10GbE製品にしては小型のヒートシンクを採用。MACアドレスが確認できるシールが有る
裏面。シリアル番号や、メーカー情報の入ったシールが有る
LANポート面。ブラケットには動作モードによるランプの色など刻印。10G=GRN(グリーン)、1G=YLW(イエロー)、100M=OFFとなっている
同梱物一覧。ロープロファイルのブラケット、Quick Intall Guide、8cmのドライバーディスク
10Gbps接続時の「イーサネットの状態」画面。速度の項目に「10.0Gbps」と表示

 チップセットはイスラエルのファブレスメーカーTehuti Networksの「TN401080」、コントローラは米ファブレスメーカーのMarvell Technology Groupの「88X3310」を搭載。100M/1G/2.5G/5G/10G bpsの5つの速度に対応する。

 対応OSはWindows 7以降、macOS 10.10.3以降、Windows Server 2008 R2以降、LinuxのStable kernelの2.6.x/3.x以降、Vmware ESX/ESXi 5.x/6.x以降となっている。

 ブラケットを除いた本体の大きさは約67×103×17(幅×奥行き×高さ)mmで、重量は標準プロファイルのブラケットを装着時75g、ロープロファイルブラケット装着時69g。

空きスロット、ケーブルに要注意

 LREC6860BTの利用には、PCI Express x4 gen2に対応した空きスロットがあるPCが必要になる。市販のマザーボード製品では、対応したスロットがmicro ATX/Mini-ITXサイズで1つ、ATXサイズで2つ搭載されたものが多い。ただし、空きスロットのうち、少なくとも1つはビデオカードに使われることが多い。実質、対応スロットの空きがないということもあるので、事前に確認しておきたい。

 それと、今回のテストは冒頭の画像のように、ケースに入れずサーキュレーターを回すなど、風通しの良い状態で行なったのだが、それでもヒートシンクは触っていられないくらい熱くなった。ケースに入れた場合、ほかにカードがなければ、前面ファンなどから風が当たるはずだが、ほかにカードがあったり、風通しが良くないということであれば、ファンを追加するなどの対処をおすすめする。

 それから、10Gbpsの速度で利用するなら、対応したLAN Hubも必要になる。こちらは最も安価なもので2万円台半ばであり、ポート数が4ポートの製品でも冷却ファンがつくなど、家庭で導入するにはコストと仕様面でまだ少々ハードル高めかもしれない。

 また、接続にはCAT6A/6e/7/7Aに対応したケーブルが必要だ。「A」や「e」が末尾につかないCAT6では仕様上対応していない。こちらも紛らわしいので注意したい。

1Gbpsの8~10倍速度を確認

 テストPCのスペックは次の表の通りで、編集部経由で借りたもの。LAN HubはNETGEARの「GS110MX-100JPS」で、1Gbpsの有線LANポートが8つ、10Gbps対応の有線LANポートが2つ搭載されているもの。LANケーブルはエレコムの「LD-GFAT/WH20」で、CAT6A対応、長さ2m、フラットタイプのものだ。

【表】テストPCスペック
サーバクライアント
CPUCore-i7 7700KRyzen 2400G
M/BASRock Z270M EXTREME 4ASRock AB350 Gaming K4
メモリG.SKILL TRIDENT Z RGB 8GBx2
SSDPLEXTOR M8Se 512GB

 Ryzen搭載側PCはUbuntuのインストールでエラーが、Core-i7側はUbuntu上でドライバのmakeでエラーが出たので、OSはどちらもWindows 10 Homeを使用した。また、この連載でも何度かベンチマーク用に使用したWindows Subsystem for Linux上のUbuntuについては、iperfでベンチマークを取ろうとすると、いったんWSL外でWindows版のiperfを使うなどしないと、1Gbps前後の数字しか出ないという現象が起きたので、iperfのベンチマークにはPowershellとCMD.EXE、Windows版のiperfを使用した。

 iperfのベンチマークは4パターンそれぞれ100回行なって、その平均と最大値を表にまとめた。Windowsのコピーによるベンチマークは、10Gbpsの有線LANで理論上1秒で送受信できるはずの10Gbit(約1.16GiB)のファイルと、その10倍の100Gbit(約11.64GiB)のファイルを使って、4パターンそれぞれ10回行ない、Powershellの「Measure-Commamd」でかかった時間を測定して、その平均と最大値を表にまとめた。CDMでは共有フォルダをネットワークフォルダとしてマウントしたものを測定に使用した。

 10Gbps有線LAN使用時、iperf 3.1.3(64bit版)、Windowsのコピーコマンド、CrystalDiskMark 6.0.1(64bit版。以下「CDM」)による速度の測定結果は次の表のとおり。iPerf3では9.5Gbps、Windowsのコピーでは7.5Gbps、CDMでは9.9Gbpsを記録した。オンボードの1Gbps有線LAN使用時の結果が、iPerf3で0.95Gbps、Windowsのコピーで0.93Gbps、CDMで0.99Gbpsだったので、10Gbps有線LANではその8~10倍の速度が出ていることになる。

 すべての表にある「順」、「逆」は、それぞれベンチマークプログラムを「クライアントPC」、「サーバPC」で動作させた場合のことを示す。iperf3の表の「パラレル」は「-P 8」オプションを追加して8ポートを同時利用した場合のことで、「シリアル」は「-P」オプションを付けなかった場合のことを示す。

【表1】iperf3(Gpbs)
パラレルシリアル
平均9.39.16.65.7
最大9.59.46.86.1
【表2】Windowsのコピー(Gbps)
ファイルサイズ10Gb100Gb
平均5.25.63.83.6
最大7.07.54.64.3
【表3】CDM シーケンシャルリード、ライト(Gbps)
シーケンシャルリードシーケンシャルライト
最大5.29.94.28.1
10GbEで接続したPCのネットワークドライブをCDMで測定した結果
Core i7搭載PCでRyzen 2400G搭載PCの共有ファイルをネットワークドライブとしてマウントして測定。表3の「逆」の項目のもの

比較的安価に10年を先取り体験

 ベンチマークの結果を見る限り、10Gbpsの有線LANでは、1Gbpsの最大8~10倍出ている。ファイルのコピーでは、10Gbitで5.2~7.5Gbps、その10倍の容量の100Gbitで3.6~4.6Gbpsで、容量が多くなると速度が低下する。アプリなど工夫で速度向上が見込める場合もあるが、小さめファイルで作業をするのがおすすめだ。

 ファイルのコピーについて、表ではほかと合わせるため数字をGbpsでまとめたが、ここでかかった時間を書いておくと、1.16GiBのファイルで2秒半ば、11.64GiBのファイルでその10倍の20秒半ばだった。1GiB程度のファイルであれば数KiBのテキストファイルのコピーと大差無い感覚でコピーできることになる。あるいは、複数選択したファイルの中に、1GiB程度の動画ファイルが何本か紛れていても、おそらく気づかないだろう。

 本記事執筆中、槻ノ木隆氏の記事「第5回:ギガビットイーサネットスイッチ」を読む機会があった。1Gbps×1、100Mbps×8のLAN Hub製品を紹介した記事で、2002年当時3万円前後だったとのこと。今回速度測定に使用したLAN Hubは、10Gbps×2、1Gbps×8で2万円半ば。次のLANの規格に切り替わっていくまで、10年以上の時間がかかっているわけだ。ちなみに、筆者が今年2018年まで使っていた8ポートの1Gbps対応LAN Hubは2006年に発売開始したものだった。

 まだ全ポート10Gbps対応の製品はお手頃価格とは言えないが、10Gbpsの一般向けインターネット接続サービスが登場し、アマチュアでも4Kの動画編集ができる環境が整いつつあるなど、一般でもより速いネットワークに対するニーズは高まっているように思われる。(おもにお財布面で)覚悟が必要だが、10年以上かかった性能アップに、一足先に手を出してみてもいいのではないだろうか。

 ただし、以前から同様の製品があるとは言え、一般向けにはまだ出始めと言ってもいいジャンルの製品になる。動作報告を確認する、相性保証や交換保証のある店舗で入手するなど、万全の体制で臨むことをおすすめする。