~SSDとHDDを両搭載したネットブック |
NECの「LaVie Light」は、いわゆるネットブックに付けられたブランド名である。初代LaVie Lightは2008年11月に投入され、国内大手PCメーカーとしては東芝に続いてのネットブック市場への参入となった。
初代LaVie Light BL100/RAは、8.9型ワイド液晶を搭載しており、液晶周囲の額縁部分が大きく、デザイン的にもやや古い感じを受けたが、2009年1月に登場した後継機「LaVie Light BL100/SA」では、液晶が10.1型ワイドになり、ボディカラーも4色用意されるなどの強化が行なわれた。
今回発表されたLaVie Lightの夏モデルでは、多様化するニーズに応えるためにラインアップが拡大され、BL350/TA6、BL310/TD6、BL300/TA6、BL100/TAという4つのバリエーションが用意された。中でも注目したいのが、国内大手PCメーカー製ネットブックとしては初めて、SSDとHDDを両搭載した最上位モデルのBL350/TA6だ(ちなみに、MSIが5月22日にSSDとHDDを両搭載した「Wind Netbook U115 Hybrid」を発売している)。今回は、BL350/TA6を試用することができたので、早速レビューしていきたい。なお、今回試用したのは試作機であり、製品版とは細部や性能が異なる可能性がある。
●ボディデザインも一新BL350/TA6およびBL310/TD6、BL300/TA6では、ボディデザインも従来のLaVie Lightから一新されている(BL100/TAは従来と同じボディ)。従来のLaVie Lightは、エッジがほぼ直線で直方体に近い形状だったが、BL350/TA6では、天板の周囲がなだらかなアールを描くようになっている。サイズは従来のLaVie Lightが250×176.5×31.3~36.5mm(幅×奥行き×高さ)だったのに対し、BL350/TA6では、258×205.5×27.5~36.9mm(同)とやや大きくなっている(ただし、HDDとMバッテリ搭載モデルのBL300/TA6では258×183.5×27.5~29.8mm(同)であり、旧LaVie Lightよりもスリムだ)。本体重量は約1.32kgで、ネットブックとしては標準的といえる。
ボディカラーは、パールレッド、フラットホワイト、パールブラックの3色が用意されている。今回試用したのはパールレッドだが、その名の通り、つややかなグロス塗装が特徴だ。天板だけでなく、背面や底面、側面まで同じ塗装で仕上げられており、統一感があって美しい。また、従来通り天板への150kgf面耐圧試験をクリアしている。
BL350/TA6の上面。標準でLバッテリ搭載なので、バッテリが後ろにやや出っ張るデザインとなっている | 「DOS/V POWER REPORT」誌とのサイズ比較。奥行きはほぼ同じだが、横幅は一回り小さい | BL350/TA6の底面。メモリスロットのカバーなどはなく、すっきりしたデザインだ |
●CPUとしてAtom N280を搭載し、16GBのSSDと160GBのHDDを搭載
スペック的な強化としては、まず、CPUがAtom N270(1.60GHz)からAtom N280(1.66GHz)に変更されたことが挙げられる。動作クロックの向上はわずか60MHzだが、FSBも533MHzから667MHzへと向上している。チップセットは従来と同じく、Intel 945GSEで、メモリ1GBという仕様も変わらない。なお、メモリスロットカバーは用意されておらず、ユーザーによるメモリ増設は保証外の行為となる。
BL350/TA6の最大のウリは、ストレージとしてSSDとHDDの両方を搭載していることだ。ネットブックは、ストレージとして小容量だが高速なSSDを搭載するモデルと、大容量だがランダムアクセスが遅いHDDを搭載するモデルに大別できるが、最近はHDDモデルが主流となりつつある。しかし、BL350/TA6は、SSDとHDDを両方搭載することで、SSDの高速性とHDDの大容量を両立させているのだ。SSDの容量は16GBで、ここにWindows XPのシステムやアプリケーションが格納されている。また、HDDの容量は160GBで、ユーザーが作成したデータなどはこちらに保存されるようになっている。SSDから起動することで、春モデルに比べてOSの起動時間は約20%短縮されたという。SSDとHDDはそれぞれ別のドライブとして認識されており、Cドライブ(システムドライブ)がSSD、DドライブがHDDとなる。なお、OSは従来通り、Windows XP Home Edition SP3である。
●液晶解像度は再び1,024×600ドットに戻る液晶のサイズは春モデルと同じ10.1型ワイドだが、解像度が1,024×576ドットから1,024×600ドットに変更されている。もともと縦方向の解像度が不足気味だったネットブックにとって、わずか24ドットとはいえ縦方向の解像度が上がったことは嬉しい(なお、初代LaVie Lightでは8.9型ワイド1,024×600ドット液晶が搭載されていた)。液晶は、いわゆる光沢タイプであり、発色は鮮やかでコントラストも高いが、外光の映り込みが気になることがある。液晶の上部には131万画素Webカメラが搭載されており、ビデオチャットなどに利用できる。詳しくは後述するが、Webカメラを活用するためのソフトも高機能なものが搭載されている。
液晶は10.1型ワイドで、解像度は1,024×600ドットだ。光沢タイプなので発色は鮮やかだ | 液晶上部に131万画素Webカメラを搭載。アレイマイクも備える |
●キーボードの見やすさも改善、パッドのボタンも手前に
キーボードは全88キーで、キーピッチは約17mm、キーストロークは約2mmで、キー配列も標準的だ。キータッチも良好で、快適にタイピングが可能である。ただし、「む」などの一部のキーピッチは狭くなっている。キーレイアウトなどは従来のLaVie Lightとほぼ同じだが、キートップの刻印が変更され、文字サイズが大きくなったり、文字の間隔が広くなったことで、より見やすくなっている。細かいところだが、InsertキーやDeleteキーの表記も、従来は略称のIns、Delと表記されていたが、BL350/TA6ではInsert、Deleteと表記されている。また、キーボードの左奥には、無線LANなどのインジケータが用意されている。
ポインティングデバイスとしてはNXパッドを採用。スクロール操作やピンチ操作などのジェスチャー機能にも対応する。また、従来は、パッドの左右にクリックボタンが配置されいたため、一般的なノートPCのパッド操作に慣れている人にはやや違和感があったが、BL350/TA6では、一般的なパッドと同様に、クリックボタンがパッドの手前に配置されているので、使い勝手が向上している。
全88キーで、キーピッチは約17mm。キー配列も標準的だ使いやすい | ジェスチャー機能に対応したNXパッドを採用。クリックボタンがパッドの手前に配置されている | キーボードの左奥に、無線LANなどのインジケータが用意されている |
●11nドラフト2.0やBluetooth 2.1を新たにサポート
インターフェイスとしては、従来通りUSB 2.0×3、Ethernet、アナログRGB出力(ミニD-Sub15ピン)、マイク入力、ヘッドフォン出力を備えている。USB 2.0ポートのうち、左側面に配置されている1つは、パワーオフUSB充電機能に対応。本体の電源がオフでも、ACアダプタに接続されていれば、USBポートへの給電が行なわれる仕様になっているので、ケータイやポータブルオーディオプレーヤーなどの充電に便利だ。メモリカードスロットとしては、SD/SDHCメモリーカードスロットを搭載。従来は、右側面にSD/SDHCメモリーカードスロットが配置されていたが、BL350/TA6では前面に移動しており、より抜き差ししやすくなっている。
ワイヤレス機能も従来機に比べて大幅に強化されている。無線LAN機能が、IEEE 802.11b/g準拠からIEEE 802.11nドラフト2.0準拠(IEEE 802.11b/gにも対応)に強化されたほか、従来は非対応であったBluetoothにも対応。規格は最新のBluetooth Ver.2.1+EDRである。
左側面には、LANとパワーオフUSB充電機能に対応したUSB 2.0ポートが用意されている。バッテリが多少下にはみ出すので、キーボードにわずかな傾斜が付く | 右側面には、アナログRGB(ミニD-Sub15ピン)とUSB 2.0×2、マイク入力、ヘッドフォン出力が用意されている | 前面には、SD/SDHCメモリーカードスロットが用意されている |
●6セルバッテリで長時間駆動を実現
BL350/TA6は、標準で6セルのLバッテリが付属しているため、バッテリ駆動時間も長く、公称約7.4時間もの長時間駆動を実現している。この長時間駆動は、システムがSSDに格納されていることも貢献しているのであろう。実際に、バッテリベンチマークソフトの「BBench」(海人氏作)を利用し、1分ごとにWebサイトへの無線LAN経由でのアクセス、10秒ごとにキー入力を行なう設定でバッテリ駆動時間を計測したところ、7時間8分もの駆動が可能であった(電源プランは「バランス」に設定し、バックライト輝度は中)。無線LANを常時オンにした状態で、7時間以上も持つのは非常に優秀だ。
ちなみに、日本HPの「HP Mini 1000」(16GB SSDモデル)のバッテリ駆動時間を同じ条件で計測したところ、2時間19分しか持たなかった(公称バッテリ駆動時間は約3.5時間)。Lバッテリは、本体の後ろと下に少しはみ出す形になっているため、本体を机の上に置いたときにキーボードにやや傾斜が付き、タイピングしやすい。ACアダプタのサイズはネットブックとしてはやや大きめなのが残念だ。
標準で6セルのLバッテリが付属 | 6セルなので、10.8V/5,800mAhの大容量を実現 | CDケース(左)とバッテリのサイズ比較 |
付属のACアダプタ。ACアダプタのサイズはネットブックとしてはやや大きめだ | CDケース(左)とACアダプタのサイズ比較 |
●プリインストールアプリも強化
ネットブックは、コストに対する要求が厳しいので、プリインストールアプリは最低限で、ほとんど素のOSだけという製品が多い。そうした中で、LaVie Lightシリーズは、当初から独自のランチャーソフト「LaVie Lightメニュー」をプリインストールするなど、初心者にも使いやすい環境の実現に注力していた。
今回登場した、BL350/TA6では(BL310/TD6やBL300/TA6も同じ)、LaVie Lightメニュー以外に、新たに辞書ソフト「デ辞蔵PC」や「家庭の医学」、「血液サラサラ健康事典」がプリインストールされている。デ辞蔵PCは、三省堂と研究社の国語・英語・和英の各辞書を内蔵し、いつでもオフラインでわからない言葉や単語の意味を調べることができるほか、Webサービス上の辞書(オンライン辞書)も同時に利用できることが特徴だ。オンライン辞書としては、ウィキペディア日本語版が利用できるほか、有償のデ辞蔵Net DX「国語・英和・和英・現代用語セット」も利用できる(3,150円/年または315円/月)。
また、内蔵Webカメラを活用するための「YouCam for NEC」も面白い。動画や静止画にフレームを付けたり、手書きで落書きしたりできるほか、撮影した動画をワンタッチでYouTubeにアップロードして公開(限定公開も選べる)が可能だ。
NEC独自のランチャーソフト「LaVie Lightメニュー」。初心者にはわかりやすい | 新たに辞書ソフト「デ辞蔵PC」をプリインストール。オフライン(ローカル)の辞書とオンライン(Webサービス上)の辞書を同時に利用できることが特徴 | ウィキペディア日本語版を利用して検索したところ |
「家庭の医学」も新たにプリインストール。HTML形式の医学辞典となっている | 「血液サラサラ健康事典」もプリインストール。こちらもHTML形式の事典だ |
●ネットブックとしてはやや高価だが、SSD+HDDのメリットは大きい
参考のためにベンチマークを計測してみた。利用したベンチマークプログラムは「PCMark05」、「3DMark03」、「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」、「ストリーム出力テスト for 地デジ」、「CrystalDiskMark」で、比較対照用にNEC「VersaPro UltraLite タイプVS」、日本HP「HP Mini 2140 Notebook PC(1,366×768ドット液晶)」、MSI「X-Slim X340 Super」、デル「Inspiron Mini 10」、デル「Inspiron Mini 9」の値も掲載した。
PCMark05のCPU Scoreは、Atom N270を搭載したHP Mini 2140 Notebook PCやInspiron Mini 9よりもわずかに高くなっている。これは、動作クロックが60MHz向上し、FSBも533MHzから667MHzに向上したためだろう。ただし、その差はわずかなので体感できるほどではない。また、HDD Scoreが8939と、HDD搭載のHP Mini 2140 Notebook PCやX-Slim X340 Super、Inspiron Mini 10よりもかなり高い。さすがに64GBの高速SSDを搭載したVersaPro UltraLite タイプVSには及ばないが、SSD搭載の効果がはっきりと出ている。なお、Inspiron Mini 9もSSDを搭載しているのだが、かなり速度が遅いタイプであり、HDDよりも低いスコアしか出ていない。
CrystalDiskMarkは、Cドライブ(SSD)とDドライブ(HDD)のそれぞれについて実行したが、Cドライブのシーケンシャルリードは83.31MB/secに達しており、Dドライブよりも遙かに高速だ。ただし、SSDはいったん消去してから書き込む必要があるため、書き込みには時間がかかる。そのため、シーケンシャルライトや512KBランダムライトの結果は、Dドライブのほうが高速である。
LaVie Light BL350/TA | VersaPro UltraLite タイプVS | HP Mini 2140 Notebook PC (1366×768ドット液晶) | X-Slim X340 Super | Inspiron Mini 10 | Inspiron Mini 9 | |
CPU | Atom N280(1.66GHz) | Atom Z540(1.86GHz) | Atom N270(1.6GHz) | Core 2 Solo SU3500(1.4GHz) | Atom Z530(1.6GHz) | Atom N270(1.6GHz) |
ビデオチップ | Intel 945GSE内蔵コア | US15W内蔵コア | Intel 945GSE内蔵コア | Intel GS45内蔵コア | US15W内蔵コア | Intel 945GSE内蔵コア |
PCMark05 | ||||||
PCMarks | N/A | 1850 | 1566 | 2101 | N/A | N/A |
CPU Score | 1521 | 1739 | 1482 | 2435 | 1469 | 1484 |
Memory Score | 2453 | 2456 | 2350 | 3338 | 2233 | 2358 |
Graphics Score | N/A | 319 | 546 | 1108 | N/A | N/A |
HDD Score | 8939 | 18226 | 5713 | 5086 | 3819 | 2843 |
3DMark03 | ||||||
1,024×768ドット32ビットカラー(3Dmarks) | N/A(1,024×600ドットでは638) | 445 | 718 | 1552 | 計測不可 | N/A(1,024×600ドットでは628) |
CPU Score | N/A(1,024×600ドットでは240) | 200 | 242 | 492 | N/A(1,024×576ドットでは121) | N/A(1,024×600ドットでは232) |
FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3 | ||||||
HIGH | N/A | 347 | 1010 | 1427 | N/A | N/A |
LOW | 1459 | 550 | 1386 | 2094 | N/A | 1426 |
ストリーム出力テスト for 地デジ | ||||||
DP | 31.97 | 8.2 | 36.9 | 68.1 | 6.23 | 37.9 |
HP | 88.2 | 31.2 | 75.97 | 99.97 | 10.4 | 94.47 |
SP/LP | 99.37 | 99.93 | 99.97 | 100 | 99.53 | 99.97 |
LLP | 99.93 | 99.97 | 99.97 | 100 | 99.93 | 99.97 |
DP(CPU負荷) | 81 | 50 | 68 | 100 | 50 | 65 |
HP(CPU負荷) | 80 | 53 | 68 | 61 | 47 | 64 |
SP/LP(CPU負荷) | 64 | 42 | 42 | 35 | 37 | 33 |
LLP(CPU負荷) | 38 | 34 | 32 | 28 | 26 | 21 |
CrystalDiskMark 2.2 | ||||||
シーケンシャルリード | 83.31MB/sec(Cドライブ)、56.50MB/sec(Dドライブ) | 107.4MB/sec | 未計測 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
シーケンシャルライト | 40.39MB/sec(Cドライブ)、54.63MB/sec(Dドライブ) | 112.4MB/sec | 未計測 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
512Kランダムリード | 79.24MB/sec(Cドライブ)、31.25MB/sec(Dドライブ) | 103.6MB/sec | 未計測 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
512Kランダムライト | 29.44MB/sec(Cドライブ)、31.23MB/sec(Dドライブ) | 102.8MB/sec | 未計測 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
4Kランダムリード | 12.43MB/sec(Cドライブ)、0.560MB/sec(Dドライブ) | 11.03MB/sec | 未計測 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
4Kランダムライト | 1.928MB/sec(Cドライブ)、1.551MB/sec(Dドライブ) | 10.36MB/sec | 未計測 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
BL350/TA6は、NECのLaVie Lightシリーズの中で最上位となるモデルであり、SSDとHDDの両搭載、6セルバッテリの標準装備、IEEE 802.11nやBluetooth 2.1+EDRのサポートなど、機能的には充実している。特にSSD+HDDのハイブリッド構成による、起動の高速化やバッテリ駆動時間延長のメリットは大きい。予想実売価格は7万円前後とされており、ネットブックとしては高価な部類に属するが、バッテリ駆動時間や快適性を重視する人には魅力的な製品であろう。
(2009年 6月 3日)
[Text by 石井 英男]