大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

NECが第3世代ネットブックに込めた意味
~カラー、薄さ、駆動時間が示すもの



第3世代となるLaVie Light

 NECパーソナルプロダクツは、6月4日から、同社のネットブック製品としては第3弾となる「LaVie Light」を発売する。

 2008年11月からスタートした約半年に渡るネットブック事業での経験を踏まえ、そこから得たユーザーの声をもとに、10数カ所に渡る大規模な改良を加えるとともに、4機種10モデルへとラインアップを広げたもので、同社の開発、設計部門と、中国のODMとの協力関係によって、これを完成させた。

 新LaVie Lightは、果たして、どんな進化を遂げたのか。

●第2世代までの実績に「一応の成果」

 NECは、2008年11月、同社初のネットブックとなるLaVie Lightを発売。また、1月には同じ筐体デザインながらも、液晶ディスプレイを10.1型ワイドに拡大し、4色のカラーバリエーションにラインアップを広げた。

NECパーソナルプロダクツPC事業本部商品企画開発本部・渡邉敏博本部長代理

 そして、今回の新製品では、新たな薄型デザインの筐体を採用した3機種9モデルと、廉価版として従来型の筐体を利用しながらもSSDを搭載した1機種の構成へとラインアップを一新。ネットブックだけで4機種10モデルの体制とした。

 「ネットブックの登場によって、個人での2台目PCの所有、あるいは家庭で2台目のPCを購入するという市場を創出できた。既存のPCが前年並みの実績に留まる一方、ネットブックが新たな市場を創出することで、PC市場全体で前年実績を上回る結果となっている」と、NECパーソナルプロダクツPC事業本部商品企画開発本部・渡邉敏博本部長代理は、ネットブックによる新市場創出の成果を示す。そして、「NECのLaVie Lightは、日本のメーカーが投入するネットブックとしての安心感、第2世代で展開したカラーバリエーションによる選択肢の広がりによって、2台目ユーザーを獲得することに成功した。まずは、一定の成果をあげたと自己評価している」と語る。

 こうした実績をもとに、第3世代へと進化させたのが、今回のLaVie Lightということになる。

●「スタイリッシュ」で目指すモビリティユース

 新LaVie Lightの開発コンセプトを、同社では「スタイリッシュ」という言葉で表現している。確かに一新されたデザインは、「スタイリッシュ」というコンセプトが反映されているものだ。

 だが、そのスタイリッシュという言葉の裏に隠された本来の狙いは、「モビリティユース」を意識したものであると強く感じざるを得ない。

 渡邉本部長代理は、「LaVie Lightの最大の特徴は、使いやすさにある。キーボードは17mmキーピッチを採用し、2mmのストロークを確保。さらにタッチパッドのボタンの位置をパッドの下部に配置したり、解像度を1,024×600ドットと縦方向の見やすさを改善した。こうした使いやすさの継承と進化を図ったのが新LaVie Lightである」と前置きしながら、「その上で、薄さと長時間駆動ということに徹底的にこだわった」と語る。

 薄さと長時間駆動は、LaVie Lightユーザーからの要求が高かった要素だという。そして、この2点の要素は、スタイリッシュという要素とともに、モビリティユースには欠かせないものといえる。

 新デザインのLaVie Lightの薄さは、最薄部で27.5mm、最厚部で29.8mm(Mバッテリ装着モデル)。従来のLaVie Lightの最薄部が31.3mmであったことから、開発目標を30mmを切ることに設定ししたのだ。

NECパーソナルプロダクツPC事業本部商品企画開発本部商品企画部・三島達夫氏

 NECパーソナルプロダクツPC事業本部商品企画開発本部商品企画部・三島達夫氏は、「どうしても最厚部で30mmを切れない時期があった。だが、30mmという目標は、とにかく最優先した。バッテリの配置を見直し、HDDのレイアウトにも工夫を加えた」と、薄さへのこだわりを示す。

 薄さを実現するために、新LaVie Lightは、従来モデルに比べて、若干フットプリントを広げている。幅は250mmから258mmに広げ、奥行きは176.5mmから183.5mm(Mバッテリ装着モデル)とすることで、薄さを優先したのだ。

 薄型化する一方で、相反する要件ともなる耐久性の強化も同時に図った。新LaVie Lightでも、従来モデル同様、150kgfの面耐圧を達成。既存モデルで培った堅牢性に関する数多くのノウハウを注ぎ込んでいる。

 「設計基準は、NECのLaVie Lシリーズそのまま。ネットブックだからといって、NECの基準を下回るものではない」(三島氏)というわけだ。

 耐圧性は満員電車などにおける圧力からの保護が主目的となり、薄型化の要件同様に、やはりモビリティユースを狙ったものといえる。

薄さを実現するためにレイアウトなどに工夫を凝らした基板を裏返した状態。中央にメモリ、右側の空間がHDDスペース、右上にSSDを配置HDDのSATAコネクタの直上にモジュール型のSSDを装着している
中央のメモリモジュール。本体裏面からはアクセスできないため、増設は難しい新型LaVie Lightを構成するパーツ類

●東京-大阪間の利用にも耐える長時間駆動

 そして、もう1つの要素である長時間駆動では、3セルのMバッテリで4時間、6セルのLバッテリで8時間を開発目標とした。

 「まずは3セルで4時間。東京-大阪の出張でも安心して利用できる駆動時間を目指した。そして、Lバッテリならば、東京-大阪の往復で利用できる時間」(渡邉本部長代理)と、ビジネスマンのモビリティユースを視野に入れていることを示す。NECパーソナルプロダクツの開発、製造拠点である山形県米沢までの新幹線による移動時間も、東京からの移動時間は大阪までとそれほど変わらない。社内的には、その距離感も、駆動時間目標設定の1つの目安になったのかもしれない。

 結果として新LaVie Lightでは、最もバッテリ駆動時間が長いモデルでは、Lバッテリとの組み合わせによって8.5時間の長時間化を実現している。

 「CPUのクロック制御、NECならではのパワーモードチェンジャーなどの技術によって、長時間利用をサポートしている」(三島氏)というわけだ。

 当然、SSDを搭載したモデルを用意したのも、起動時間を速くすることで、モバイルユースでも利用しやすい環境を狙ったという背景が見逃せない。

●カラーに見るNECのネットブックの方向性

 もちろん、スタイリッシュという点も、モビリティユースを強く意識したものだといえよう。

 新LaVie Lightでは、3色のカラーバリエーションを用意している。

 そのカラーリングにおいて、モビリティユースにおけるこだわりの1つが、裏面部分やバッテリ部に同系色を採用している点だ。

 天板部が光沢仕上げとしているのに比べると、塗装の質は異なるが、それでも持ち運んだ際に全面が統一した色合いに見えること、持ち運ぶ際に手で持つ部分に指紋の痕がつきにくい塗装にしているなどの工夫が凝らされている。これも細かいこだわりだといえる。

 実はカラーリングの選定は、NECの第3世代ネットブックの方向性を示すという点でも見逃せないものとなっている。

 第2世代では、パールブラック、フラットホワイトに加え、ソリッドピンク、ソリッドブルーのパステルカラーを用意していた。だが、第3世代ではパステルカラーの2色を廃止し、パールレッドを新たに追加した。

 従来のカラーバリエシーョンは、その色合いからもわかるようにゲーム専用機のカラーバリエーションに近いものがあった。それに対して、今回のカラーバリエーションは、同社のメインストリームノートPCである「LaVie L」シリーズのカラーバリエーションを意識したものとなっている。

裏面やバッテリ部も同系色としたカラーバリエーションは、PCのカラーを意識したものだ第2世代ではパステルカラーを用意していた

 「第2世代のLaVie Lightを投入した段階では、ネットブックの方向性がまだ見えていなかった。その段階において、可能性の1つとしてあげられたのが、ゲーム機のように手軽に持ち運んで利用するという使い方。それを想定した上で、ゲーム機を意識したカラーリングを施した。だが、第3世代では、2台目のPCとしての利用を明確に定義し、2台目のPCとしての使い方を想定した。ゲーム機に採用しているカラーから、PCで採用しているカラーへの変更は、いわば、NECが狙うネットブックの需要層を、『2台目のPC』に明確化したものだといえる」と渡邉本部長代理は語る。

特別な塗料を採用しすることで質感をもたらしたパールレッド

 それだけに、PCとしてのカラーバリエーションとして重要な鍵を握るのが、新色のパールレッドだった。

 同様のカラーは、LaVie Lシリーズでも「スパークリングレッド」として採用しているが、コストの関係からネットブックに同じ塗装を施すことができない。「LaVie Light用に最初にあがってきた赤は、とても商品化できるものではなかった」と、渡邉本部長代理は苦笑する。

 そこで、NECパーソナルプロダクツでは、質感のある「赤」の実現に向けて試行錯誤を重ねた。

 塗料の改良に加えて、天板の下地とする色についても検討を行ない、その結果、専用の塗料を採用することで、LaVie Lシリーズでは3度塗りとしているところを、2度塗りでもLaVie Lシリーズで実現した赤に近い色を再現するとともに、コストを抑えることにも成功したという。

 実際、LaVie Lightで採用したパールレッドは、質感のある赤となっている。

 実は、色の観点からは、NECがPCで採用しているオレンジも検討が行なわれた。LaVie Nシリーズでは、「アクティブオレンジ」として人気があるカラーだ。PCとしての使い方を前提とすれば、NECにとっては、ぜひラインアップしたいカラーの1つだろう。

 だが、「試作を作ってみたものの、どうしても納得がいくレベルのものができなかった。試作品は机の中にしまってある」と、渡邉本部長代理は笑いながら、「お蔵入り」となったこぼれ話を明かしてくれた。次の製品で、オレンジカラーを施したモデルが登場するのかどうかは注目点の1つだといえよう。

●中期目標でシェア3割獲得を目指す

 NECパーソナルプロダクツでは、中期的な目標として、ネットブック市場におけるシェア30%獲得を掲げる。

 それに向けては、NECならではの機能の採用と、さらに品質にこだわる必要があると同社では考えている。また、利用シーンを明確にした提案も必要であろう。

 今回の新LaVie Lightでも、NECならではの機能をいくつも搭載している。ネットブックとしては国内初となるSDD+HDDを採用。初心者にも使いやすくするためのサポートナビゲータや、異なるネットワーク環境を簡単に切り替えることができる「Mobile Optimizer」、バッテリを有効に利用するパワーモードチェンジャーなどがそれだ。また、万が一、OSが起動しなくなった場合でも外付けのドライブなしで再セットアップが可能なリカバリディスクの本体内蔵化も、NECならではの仕組みだ。

米沢事業場で行なわれている新LaVie Lightの検査の様子

 また、品質という点では、米沢事業場での検査体制の確立、さらには、米沢事業場の技術者が直接、中国のODMに出向いて生産および品質に関するノウハウを指導し、移転するといったことも行なわれている。

 一方、第3世代のLaVie Lightのカラーバリエーションで示したように、PCとしての使い方を前提とした利用シーンの提案も徹底する考えだ。

 とはいえ、あくまでもネットやメールといった用途、2台目のPCという世界からは逸脱するつもりはない。

 「辞書ソフトの『デ辞蔵PC』を内蔵したのも、言葉を知りたいという場合に、ローカルでさっと検索できるようにする予備的な利用を狙ったもの。また、Office Personal 2007の2年間ライセンス版搭載モデルを用意したのは、ネットブックでオフィスアプリケーションをバリバリ活用するというよりも、添付ファイルの閲覧用途などを前提としたものに過ぎない」と、あくまでもネットとメール利用の専用セカンド端末としての位置づけは変えない考えだ。

 「日本人のために、日本人が考えるたネットブックがLaVie Light。我々自身も消費者の1人であるという観点から進化を図っていく。地道で、細かい改良が多いが、それを製品に反映することが、NECならではのネットブックの創出につながり、結果として、シェア拡大につながるだろう」(渡邉本部長代理)と語る。

 NECがネットブック市場で30%のシェアを獲得するにはまだ距離があるが、ネットブックを、存在感を持った事業に育てようとしていることは明らか。それは、今回の4機種10モデルというラインアップの強化、カラーバリエーションへのこだわり、NECならではの数々の機能搭載という観点からも裏付けられよう。

 第3世代のLaVie Lightの投入で、NECのネットブックに対する本気ぶりがまた一段深まったといえる。


□NECのホームページ
http://www.nec.co.jp/
□製品情報
http://121ware.com/lavie/light/

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(2009年 6月 2日)

[Text by 大河原 克行]