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速くなったぞ!M5版「Apple Vision Pro」。果たして60万円弱で買う価値はあるか

「Apple Vision Pro」。価格は59万9,800円(256GBモデル)から

 Appleは10月22日、最新のApple M5チップを搭載した新型「Apple Vision Pro」を発売した。初代に搭載されていたプロセッサはM2だったが、M3、M4をスキップしただけに、情報処理デバイスとしてのパフォーマンスは間違いなく大きく向上しているはずだ。

 しかし具体的に、Appleが呼ぶ「空間コンピュータ」として、どのように体験や使い勝手が進化したのだろうか?今回は主に、体験と使い勝手のアップグレードに注目して実機レビューをお届けしよう。

ハードウェアスペック上の変更はプロセッサ、バンド、電源アダプタ

 初代と比べ、今回のM5搭載Apple Vision Proでハードウェア的に変更されたのは、まず前述の通りプロセッサだ。初代はM2(8コアCPU、10コアGPU、16コアNeural Engine)を搭載していたところ、今回はM5(10コアCPU、10コアGPU、16コアNeural Engine)にアップグレードされている。

M5はVision Proだけでなく、MacBook Pro、iPad Proにも同時に搭載されている

 また、プロセッサの変更にともない、ディスプレイのリフレッシュレートが最大120Hzに向上し、バッテリ駆動時間も約30分延長されている。また詳しくはベンチマークの章で後述するが、ストレージの速度も大きく向上している。

 次に快適性のための装備がある。新たに背面と上面でホールドする「Apple Vision Proデュアルニットバンド」(価格は1万6,800円)が開発され、M5搭載Apple Vision Proには標準搭載されている。背面のみで支える従来の「Apple Vision Proソロニットバンド」(1万6,800円)はオプションで販売される。上面のバンドがあると、どうしても髪型が崩れてしまうが、見た目よりも快適性を重視したわけだ。

新開発の「Apple Vision Proデュアルニットバンド」を標準装備

 電源アダプタについても、前世代の「30W USB-C電源アダプタ」から、最大60Wに対応する「40Wダイナミック電源アダプタ」(6,480円)に変更されている。これはシステム全体の性能向上に合わせた変更というよりも、単に「30W USB-C電源アダプタ」の販売終了にともなう代替わりの可能性が高い。

最大60Wの出力に対応している「40Wダイナミック電源アダプタ」。iPhone 17なら約20分で50%まで充電可能

 そのほかのハードウェアスペックについては基本的に変更はない。メモリは16GBユニファイドメモリで、ストレージは256GB、512GB、1TBの3種類。ディスプレイは3,800×3,000ドットのマイクロOLEDを2枚備え、カメラはステレオスコピック3Dメインカメラシステム(6.5ステレオメガピクセル、18mm、F2)を装備。ワイヤレス通信もWi-Fi 6、Bluetooth 5.3のままだ。

前面中央に外向きディスプレイ「EyeSight」、前面下部に2つの高解像度メインカメラ、6つのワールドフェイシングトラッキングカメラ、前面中央下部にTrueDepthカメラ、LiDARスキャナを配置
本体内側
左側面には電源コネクタ
右側面にはフィットダイヤルを用意
上面にはトップボタン、Digital Crown
下面には6つのアレイマイクを装備
パッケージには、Apple Vision Pro、カバー、バッテリ、ライトシーリングクッション、ポリッシングクロス、40Wダイナミック電源アダプタ、USB-C充電ケーブル(1.5m)が同梱
カバー
「Apple Vision Proライトシーリングクッション」(4,800円)
「Apple Vision Proバッテリー」(3万4,800円)
Apple Vision Pro(ライトシーリング、ライトシーリングクッション、デュアルニットバンドを含む)の重量は実測762g、Apple Vision Proバッテリーの重量は355g

 細かなハードウェアスペックについては、下記の表を参照してほしい。

【表1】M5搭載Apple Vision Proのスペック
製品名Apple Vision Pro
OSvisionOS
CPUApple M5
(高性能コア×4+高効率コア×6を搭載した10コアCPU、10コアGPU、16コアNeural Engine、153GB/sのメモリ帯域幅)
Apple R1
(12msの光子間レイテンシ、256GB/sのメモリ帯域幅)
メモリ16GBユニファイドメモリ
ストレージ256GB、512GB、1TB
ディスプレイ3Dディスプレイシステム
(3,800×3,000ドットマイクロOLED 2枚構成、DCI-P3カバー率92%、90Hz/96Hz/100Hz/120Hz、瞳孔間距離: 51~75mm)
サウンド空間オーディオとダイナミックヘッドトラッキング、パーソナライズされた空間オーディオとオーディオレイトレーシング、指向性ビームフォーミングを持つ6マイクアレイ
通信Wi-Fi 6、Bluetooth 5.3
カメラステレオスコピック3Dメインカメラシステム
(6.5ステレオメガピクセル、18mm、F2)
入力手、視線、音声
対応入力機器キーボード、トラックパッドとマウス、ゲームコントローラ、空間アクセサリ(Logicool Mouse、PlayStation VR2 Sense)
センサー2つの高解像度メインカメラ、6つのワールドフェイシングトラッキングカメラ、4つのアイトラッキングカメラ、TrueDepthカメラ、LiDARスキャナ、4つの慣性計測装置(IMU)、フリッカーセンサー、環境光センサー
セキュリティOptic ID(虹彩による生体認証)
バッテリ容量35.9Wh(3,166mAh)
バッテリ駆動時間一般的な使用で最大2.5時間、ビデオ再生で最大3時間
本体サイズ165×100×220mm(実測)
重量750~800g
同梱品Apple Vision Pro(ライトシーリング、ライトシーリングクッション、デュアルニットバンドを含む)、カバー、バッテリ、ライトシーリングクッション、ポリッシングクロス、40Wダイナミック電源アダプタ、USB-C充電ケーブル(1.5m)
価格256GBモデル: 59万9,800円
512GBモデル: 63万4,800円
1TBモデル: 66万9,800円

M5搭載Apple Vision Proは前モデルから何が進化したのか?

 まずは、ベンチマーク結果からM5搭載Apple Vision Pro(以下、M5モデル)とM2搭載Apple Vision Pro(以下、M2モデル)のパフォーマンス差を確認してみよう。iPadOS向けの定番ベンチマークではあるが、M5モデルはM2モデルを大きく上回るスコアを記録した。

【表2】M2モデルに対するM5モデルのスコアの割合
CPU/GPUベンチマーク「Geekbench 6」
Single-Core Score153%相当
Multi-Core Score153%相当
Compute(Metal)138%相当
3Dグラフィックスベンチマーク「3DMark Wild Life Extreme」
デフォルトモード135%相当
Unlimited mode139%相当
ストレージベンチマーク「JazzDiskBench」
Sequential Read204%相当
Sequential Write221%相当
Random(4K) Read175%相当
Random(4K) Write192%相当

 M5モデルはプロセッサだけでなく、ストレージ速度の伸び幅が非常に大きいのが特徴だ。アプリ起動やファイルアクセスの体感速度向上が見込める。NAND/コントローラのどちらか、もしくは両方が新世代に移行した可能性が高いと言えるだろう。

Geekbench 6 Single-Core/Multi-Core
CPU/GPUベンチマーク「Geekbench 6」では、M5モデルはM2モデルに対して、Single-Core Score、Multi-Core Scoreともに153%相当のスコアを記録
Geekbench 6 Compute(Metal)
CPU/GPUベンチマーク「Geekbench 6」のCompute(Metal)では、M5モデルはM2モデルに対して、138%相当のスコアを記録
3DMark Wild Life Extreme
3Dグラフィックスベンチマーク「3DMark Wild Life Extreme」では、M5モデルはM2モデルに対して、135%相当のスコアを記録
3DMark Wild Life Extreme Unlimited mode
3Dグラフィックスベンチマーク「3DMark Wild Life Extreme」の「Unlimited mode」では、M5モデルはM2モデルに対して、139%相当のスコアを記録
JazzDiskBench
ストレージベンチマーク「JazzDiskBench」ではM5モデルはM2モデルに対して、Sequential Readで204%相当、Sequential Writeで221%相当、Random(4K) Readで175%相当、Random(4K) Writeで192%相当のスコアを記録

パフォーマンスの向上はどのぐらい体感できるか?

 ここでちょっと長くなるが、M5搭載Apple Vision Proのプレスリリースからパフォーマンス向上に関する記述をいくつか引用する。

M5搭載Apple Vision Proのプレスリリースより引用
  • 先進的な10コアCPUを搭載し、より高いマルチスレッドパフォーマンスを実現して、アプリやウィジェットの読み込み時間の高速化や、より反応の良いウェブブラウジングなど、システム全体でさらに高速な体験を生み出します
  • 16コアNeural Engineにより、AIを活用した機能の実行速度が向上し、Personaの収録や写真の空間シーンへの変換などのシステム体験では前世代と比較して最大50パーセント速く、他社製アプリでは最大2倍速くなっています
  • ピクセルを前世代と比較して10パーセント多くレンダリングでき、よりくっきりとしたテキストと、より精細なビジュアルにより、さらに鮮明な画像を実現
  • モーションブラーを軽減するために最大120Hzまでリフレッシュレートを上げることができ、Mac仮想ディスプレイを使用する時にもさらにスムーズな体験を提供

 これらの改善ポイントは、確かに事前に頭に入れていれば体感できるだけの差があるのだが、正直なところ知らなければ気づかないぐらいの違いだと感じた。

 ただ、これはM5搭載Apple Vision Proを下げているわけではなく、M2搭載Apple Vision Proが現時点でも「空間コンピュータ」として十分なパフォーマンスを持っているという意味である。個人的には、初代であるM2搭載Apple Vision Proの価値はまだ落ちていないと思う。

アプリを貼り付けられるウィジェット機能
visionOS 26で導入されたウィジェット機能。実際の空間内にさまざまなアプリを貼り付けられる
頭を動かしても表示は滑らか
わざと頭を強く振るような動作をしても、Mac仮想ディスプレイが滑らかに表示される
空間コンピューティングならではのゲーム体験
「Apple Vision Pro Game of the Year」を獲得したApple Vision Pro専用没入型XRパズルゲーム「ポルタヌビ」。空間コンピューティングならではの、ゲーム空間に入ってパズルを解く過程を楽しめる
動画視聴なら前世代でも十分な画質
「Apple TV」やほかの映像配信サービスの動画視聴がメインであれば、M2搭載Apple Vision Proで十分すぎる画質だ

初代機は今でも十分な性能だが、より高負荷な空間アプリを利用したいユーザー向け

 M5搭載Apple Vision Proは、プロセッサ性能やストレージ速度の向上によりシステム全体のパフォーマンスが底上げされ、リフレッシュレートが120Hzへ引き上げられたことで視認性や応答性も改善している。特に負荷の高い空間アプリやゲーム系アプリを頻繁に利用するユーザーにとっては、その恩恵が大きい。

 初代モデルはいまもなお十分なパフォーマンスは備えているが、日常的により高負荷なアプリを活用したいと考えているヘビーユーザーであれば、M5搭載Apple Vision Proへの買い替えは検討に値する選択肢と言えるだろう。