~高精度な2D-3D変換DVD再生ソフトで魅力向上 |
東芝は、NVIDIAの3D表示システム「3D Vision」に対応するマルチメディアノート「dynabook TX/98MBL」を7月下旬に発売した。すでに各社から、2010年秋冬モデルの発表が始まっている中で、2010年夏モデルのこの製品を取り上げるのは、あるソフトの公開によって魅力が大きく高まったからだ。そこで、そのソフトによる魅力的な新機能について詳しく見ていくことにしよう。
●CELL REGZAと同等の2D-3D変換を実現する「TOSHIBA VIDEO PLAYER 3D」dynabook TX/98MBL(以下、TX/98MBL)の最大の特徴となるのは、大手メーカー製ノートPCとして初となる、NVIDIAの3D表示システム「3D Vision」を採用し、Blu-ray 3Dや3Dゲームなどの3Dコンテンツを楽しめるという点だ。ただ、Blu-ray 3Dに対応してはいるものの、Blu-ray 3Dソフトは、先日発売が始まったばかりで、せっかくの3D表示システムも活用の幅が少なかった。しかし、9月17日よりユーザーに対し無償配布が開始されたオリジナルソフト「TOSHIBA VIDEO PLAYER 3D」によって、その状況が大きく変わった(配布先はこちら)。それは、TOSHIBA VIDEO PLAYER 3Dには、優れた2D-3D変換表示機能が盛り込まれ、DVDビデオや手持ちの動画ファイルなどの2D映像を、迫力のある3D映像にリアルタイム変換しながら楽しめるようになったからだ。
2D-3D変換機能を持つDVD再生ソフトは、このTOSHIBA VIDEO PLAYER 3Dが初というわけではなく、既にいくつか登場している。そのため、そこまで注目すべきことではないのでは、と思う人もいるかもしれない。しかし、TOSHIBA VIDEO PLAYER 3Dの2D-3D変換機能は、これまでのものとはクオリティが大きく異なっている。
既に存在している、DVD再生ソフトの2D-3D変換機能は、どちらかというと、“2Dの映像コンテンツを3Dっぽく見せる”簡易的な機能でしかなかった。そのため、かなり違和感を感じる3D映像になる場合が多かった。
それに対し、TOSHIBA VIDEO PLAYER 3Dの2D-3D変換機能は、映像情報をリアルタイムで解析しつつ、人物や背景、建造物などの位置を計算で割り出して3D映像を作り出すという手法で実現されている。約1,400の映像を分析した結果をもとに、映像の構図から奥行きを算出する「ベースライン3D」、近くにある物体の方が遠くにある物体より速く動いて見えるという基本原理をベースに、映像の前後のベクトルから奥行きを算出する「モーション3D」、被写体の色の違いや光による陰影から奥行きを算出する「カラー3D」という手法を組み合わせることで、違和感が少なく、本物に限りなく近い3D映像が再現されるとしている。
この仕組みを聞いてピンと来る人もいるかもしれないが、この2D-3D変換機能は、10月上旬に発売される、3D対応の最新CELL REGZA「X2/XE2」シリーズに盛り込まれている2D-3D変換機能とほぼ同じだ。ただ、TX/98MBLにはCELLベースの映像処理エンジン「SpursEngine」は搭載されておらず、CPUのみで処理が行なわれる。そういった意味では、CPUに4コア8スレッドで優れた処理能力を発揮する、Core i7-740QMを搭載しているからこそ実現できたものと言っていいだろう。
実際に、手持ちのDVDや映像ファイルなどを利用して試してみたところ、実写の映像であれば、ほぼジャンルを問わず、クオリティの高い3D映像が楽しめた。もちろん、当初より3Dで制作されている映像コンテンツほどの迫力はないものの、手前に畑などが広がり奥に山脈があるような風景シーン、ニューヨークのマンハッタンのような建物が建ち並ぶ場面など、違和感のない奥行きが再現される。また、野球やサッカーなどのスポーツ映像は、選手の位置がほぼ実際のとおりに感じられる点にはかなり驚いた。
ただし、苦手なものもある。その最たる例がセル画で描かれた日本アニメで、きちんとした奥行き感はほぼ感じられず、2D時と大差のない映像となる場合がほとんどだ。そのため、基本的には実写映像で利用する機能と考えた方がいいだろう。
ちなみに、この2D-3D変換機能は、TOSHIBA VIDEO PLAYER 3Dでのみ利用可能となる。そして、2D-3D変換が行なえるのは、DVDビデオと、MPEG-2およびMPEG-4形式の動画ファイルに限られる。その他の形式の動画ファイルやBlu-rayビデオなどが対象外となる点は少々残念。将来的には、より多くの形式の動画ファイルや、可能であればWeb動画などにも対応してもらいたい。
9月17日より無償公開となった「TOSHIBA VIDEO PLAYER 3D」 | CELL REGZAと同等の2D-3D変換技術を採用し、非常に高品質な2D-3D変換が可能だ | NVIDIA 3D Visionに対応し、「TOSHIBA VIDEO PLAYER 3D」とあわせて高品質な3D映像が楽しめる |
●dynabook Qosmioシリーズに匹敵するAV性能を搭載
dynabook TXシリーズは、基本的にスタンダードノートという位置付けの製品だが、このTX/98MBLは、AVノートの最上位モデルである「dynabook Qosmio」シリーズに匹敵するAV性能が搭載されている。
NVIDIAの3D表示システムの3D Visionに対応するため、NVIDIA製の外部GPUとしてGeForce GTS 350M(専用ビデオメモリ1GB)を搭載。液晶ディスプレイは、解像度こそ1,366×768ドットと少々物足りないが、120Hz駆動対応の15.6型ワイド液晶を搭載。LEDバックライト採用のClear SuperView LED液晶で、表面が光沢処理となっているため外光の映り込みがやや気になるが、非常に鮮やかな発色で表示品質は申し分ない。
光学式ドライブにはBlu-ray Discドライブを標準搭載し、Blu-ray 3Dソフトの再生も、もちろんサポート。さらに、3D Visionは非常に多くのゲームでの3D立体視表示をサポートしており、ゲームも3Dで楽しめる。
そして、スピーカーには、Qosmioシリーズでもおなじみの、harman/kardon製ステレオスピーカーを搭載するとともに、ドルビーアドバンストオーディオやMaxxAudioなどのサウンドエフェクト技術が搭載されており、高音質かつ臨場感あふれるサウンドが楽しめる。
TVチューナが搭載されておらず、TV機能が利用できない点は少々残念だが、それでもこの充実したAV機能は、スタンダードノートというより、ハイスペックノートと言ってもいいほどで、魅力も大きい。
120Hz駆動対応の15.6型ワイド液晶を搭載。表示解像度は1,366×768ドットで、鮮やかな発色が特徴だ | 表面は光沢処理が施され、外光の映り込みはやや気になる |
Blu-ray Discドライブを標準搭載 | harman/kardon製のステレオスピーカを搭載。ドルビーアドバンストオーディオやMaxxAudioなどにより、高音質なサウンドが再生される |
●Core i7-740QM搭載
基本スペックも充実している。CPUには、4コア8スレッド処理に対応する、Core i7-740QMを搭載。ターボブースト時には最大2.93GHzで動作し、優れた処理能力が発揮される。メインメモリは標準4GBで、最大8GBまで搭載可能。HDDは容量640GBの2.5インチSATAドライブを搭載する。
無線機能は、IEEE 802.11b/g/n対応無線LAN機能を搭載。ポート類は、ExpressCard/34スロット、Gigabit Ethernet、HDMI出力、eSATA、多数のメモリカードに対応するメモリカードスロット「ブリッジメディアスロット」などが用意される。
本体サイズは、380.5×254×30~37.6mm(幅×奥行き×高さ)。また、重量は約3kgだ。15.6型ワイド液晶を搭載していることもあり、さすがにサイズは大きく、モバイル性能は低い。とはいえ、家庭内で持ち歩く程度であればそれほど苦にならないだろう。
●価格も下落し、3D対応ノートとして非常にお買い得
では、ベンチマークテストの結果をチェックしていこう。利用したベンチマークソフトは、Futuremarkの「PCMark Vantage Build 1.0.1 1901」と「PCMark05 Build 1.2.0 1901」、「3DMark06 Build 1.1.0 1901」、スクウェア・エニックスの「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」の5種類。比較用として、dynabook RX3、VAIO Zシリーズの結果も加えてある。
試用機の基本スペック | |
---|---|
CPU | Core i7-740QM |
メインメモリ | PC3-8500 DDR3 SDRAM 4GB |
グラフィック機能 | GeForce GTS 350M(ビデオメモリ1GB) |
ストレージ | 640GB HDD(Toshiba MK6465GSX) |
OS | Windows 7 Home Premium |
結果を見ると、十分に優れた性能が発揮されていることがわかる。CPUは標準の動作クロックが低いこともあり、dynabook RX3やVAIO Zよりも結果が悪い部分もあるが、実際には遅いと感じることはほぼないと考えていい。また、GeForce GTS 350Mを搭載していることもあり、3D描画能力は十分に優れている。最新の高負荷3Dゲームをプレイするには少々厳しいかもしれないが、位置付けがスタンダードノートと考えると、破格の3D描画能力を持っていると言える。
dynabook TX/98MBL | dynabook RX3 | VAIO Z VPCZ11A SPEED | VAIO Z VPCZ11A STAMINA | |
---|---|---|---|---|
CPU | Core i7-740QM (1.73/2.93GHz) | Core i5 520M (2.40/2.93GHz) | Core i7 620M (2.66/3.33GHz) | Core i7 620M (2.66/3.33GHz) |
チップセット | Intel HM55 Express | Intel HM55 Express | Intel HM57 Express | Intel HM57 Express |
ビデオチップ | GeForce GTS 350M (1GB) | Intel HD Graphics (CPU内蔵) | GeForce GT 330M (1GB) | Intel HD Graphics (CPU内蔵) |
メモリ | PC3-8500 DDR3 SDRAM 4GB | PC3-8500 DDR3 SDRAM 2GB | PC3-10600 DDR3 SDRAM 2GB×2 | PC3-10600 DDR3 SDRAM 2GB×2 |
OS | Windows 7 Home Premium | Windows 7 Professional | Windows 7 Home Premium 64bit | Windows 7 Home Premium 64bit |
PCMark Vantage Build 1.0.1 0906a | ||||
PCMark Suite | 5235 | 5607 | 10759 | 10280 |
Memories Suite | 3881 | 3036 | 5414 | 4698 |
TV and Movies Suite | 3861 | 3701 | 4504 | 4748 |
Gaming Suite | 5063 | 2937 | 7692 | 5435 |
Music Suite | 5560 | 5258 | 11626 | 11373 |
Communications Suite | 3953 | 6642 | 10916 | 10971 |
Productivity Suite | 3976 | 3994 | 12388 | 12640 |
HDD Test Suite | 3180 | 3244 | 15384 | 16658 |
PCMark05 Build 1.2.0 | ||||
PCMark Score | 6612 | 5914 | N/A | N/A |
CPU Score | 7557 | 7219 | 8285 | 8343 |
Memory Score | 8315 | 6251 | 6804 | 6797 |
Graphics Score | 5517 | 2637 | 5826 | 2817 |
HDD Score | 4907 | 5562 | 32452 | 26436 |
3DMark06 Build 1.1.0 0906a | ||||
3DMark Score | 8376 | 1929 | 5643 | 1726 |
SM2.0 Score | 3358 | 588 | 2231 | 526 |
HDR/SM3.0 Score | 3397 | 784 | 2083 | 688 |
CPU Score | 3204 | 2629 | 3066 | 3112 |
FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3 | ||||
Low | 8115 | 4031 | 10146 | 4041 |
High | 5842 | 2616 | 8142 | 2625 |
Windowsエクスペリエンスインデックス | ||||
プロセッサ | 6.5 | 6.5 | 6.9 | 6.9 |
メモリ | 5.5 | 5.5 | 5.9 | 5.9 |
グラフィックス | 6.5 | 4.5 | 6.4 | 4.5 |
ゲーム用グラフィックス | 6.5 | 5 | 6.4 | 4.9 |
プライマリハードディスク | 5.8 | 5.9 | 7.6 | 7.6 |
次に、バッテリ駆動時間だ。モバイルノートではないため、特にバッテリ駆動時間は重視されないとは思うが、一応計測してみた。まず、Windows 7の省電力設定を「省電力」に設定するとともに、バックライト輝度を40%に設定し、無線LANを有効にした状態で、BBenchを利用してキー入力とWeb巡回にチェックを入れて計測したところ、約1時間52分だった。また、Windows 7の省電力設定を「高パフォーマンス」、に設定し、バックライト輝度を100%、無線LANを有効にした状態で、動画ファイル(WMV9、ビットレート1,156kbps、640×480ドット)を連続再生させた場合には、約1時間05分だった。やはり、バッテリのみでの駆動はかなり厳しいが、ACアダプタを抜いて部屋を移動するといった程度であれば、全く問題ないだろう。
バッテリ駆動時間 | |
---|---|
省電力設定「省電力」、BBench利用時 | 約1時間52分 |
省電力設定「高パフォーマンス」、動画再生時 | 約1時間05分 |
TX/98MBLは、大手メーカー製ノートPCとして初めて、NVIDIA 3D Visionを採用した、本格的な3Dノートだが、発売当初はそれほど大きな注目は集めていなかったように思う。ただ、冒頭で紹介した、優れた2D-3D変換機能を搭載する再生ソフト「TOSHIBA VIDEO PLAYER 3D」が無償公開されたことで、製品としての魅力が大きく向上したのは間違いない。この2D-3D変換機能がどれだけ優れているのかを、誌面で紹介できないのが非常に残念だ。とはいえ、大手量販店であれば、実機が展示されており、実際にその効果を体験できると思うので、実際に自分の目で確かめてみてもらいたい。また、10月5日より幕張メッセで開催される「CEATEC JAPAN 2010」でも、TOSHIBA VIDEO PLAYER 3Dが展示されるそうなので、興味のある人はそちらでも体験してみてもらいたい。
そしてなにより、発売から2カ月ほど経過し、価格が大きく下落している点も大きな魅力。登場当初は20万円を大きく超えていたが、すでに実売価格は20万円を切っている。3D Visionに対応し、3D Visionキットが付属していることを考えても、この価格は非常にお買い得だ。3Dに興味がある人はもちろん、コストパフォーマンスに優れるデスクノートを探している人にもおすすめしたい製品だ。
(2010年 10月 4日)
[Text by 平澤 寿康]