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質感の高い筐体でRGB LEDが光って静かなRyzen AI搭載ミニPC、「ACEMAGIC F3A」を試す
2025年3月19日 06:14
MINISFORUMやGMKtekなど大手メーカーのミニPCでは、クッキーケースのようなシンプルデザインを採用することが多い。しかし、ユニークなデザインや機能でその存在感をアピールするメーカーもいくつか出てきている。
ACEMAGICもその1つで、現行モデルではたたんだ扇子を縦置きにしたような「AM08 Pro」、サイコロのような正方形の「M1A TANK 03」などをラインナップしている。置き場所を取らない縦型デザインやワンポイントのLED、前面液晶が特徴的な「S1」は筆者も気に入って購入したが、置き場所が小さくて済むので重宝している。
今回紹介する「F3A」も、そうしたイルミネーションやインパクト重視の設計を受け継いだミニPCだ。前面や側面、背面にLEDで光る1本のラインを組み込み、デザインのアクセントとしている。またCPUとしてはAMDの最新CPUである「Ryzen AI 9 HX 370」を搭載しており、性能でも大きく期待できる。今回はこのF3Aをさまざまな角度から検証していこう。
最新のRyzen AI 9 HX 370を搭載、LEDの制御ソフトもある
F3Aが搭載するRyzen AI 9 HX 370では、CPUコアに最新の「Zen 5」アーキテクチャ、GPUコアには「AMD Radeon 890M」を組み合わせている。CPUコアは通常のZen 5コアが4基、小規模なZen 5cコアが8基で合計12基という構成であり、デスクトップPC向け1のRyzenシリーズと比べても遜色はない。
メーカー | ACEMAGIC |
---|---|
製品名 | F3A |
OS | Windows 11 Pro |
CPU(最大動作クロック) | Ryzen AI 9 HX 370(12コア24スレッド) |
搭載メモリ (空きスロット、最大容量) | DDR5 SODIMM PC5-44800 16GB 2基 (なし、96GB) |
ストレージ(インターフェイス) | 1TB(PCI Express 3.0 x4) |
拡張ベイ | PCI Express 4.0対応M.2スロット 1基 |
通信機能 | IEEE 802.11a/b/g/n/ac/ax、Bluetooth v5.2 |
主なインターフェイス | 2.5Gigabit Ethernet 2基、DisplayPort 1基、HDMI 1基、USB4 2基、USB 3.2 Gen 2 4基 |
本体サイズ(実測値) | 147×147×56mm |
重量(実測値) | 1kg |
直販価格 | 13万6,990円(値引きクーポンコード「ACEF3Afans」適用) |
またモデル名に「AI」と付く通り、AI向けのNPUも強化されている。たとえば1つ世代が古い「Ryzen 7 8845HS」ではNPU単体で最大16TOPS(1秒間に計算できる演算数、16TOPSなら16兆回)、CPU全体で最大38TOPSだが、Ryzen AI 9 HX 370ではNPU単体で最大50TOPS、CPU全体で最大80TOPSまで強化されている。MicrosoftではAIベースのCopilotを新機能として打ち出しており、NPUの性能も重要な指標の1つだ。
Ryzen AI 9 HX 370を搭載するPCは徐々に増えてきているが、ノートPCでは20万~25万円台の製品が一般的だ。一方でミニPCでは15万円代、特に今回紹介するF3Aではクーポンやキャンペーン価格を考慮すると13万円台で購入できるなど(クーポンコードACEF3Afans適用)、かなり安く購入できることがある。購入時は、値引きやクーポンの配布状況もよくチェックしたい。
箱から出すと、今まで見てきたミニPCと比べるとズシッと重さを感じる。幅と奥行きは14.7cm、厚みは5.6cmとサイズ感的には従来のミニPCと比べて大きな違いはないのだが、重さは実測値で約1kgと、一般的なミニPC(650g前後が多い)と比べて明らかに重かった。
Webサイトの冷却機構の紹介を見ると、ヒートパイプや大型のヒートシンクなど、かなり豪勢な冷却システムを搭載していることをアピールしており、こうした冷却性能へのこだわりが重さに反映されているのだろう。
筐体はプラスチック製で天板付近に吸排気口を設けるほか、冒頭でも紹介した通りLEDによるイルミネーションが楽しめる。標準状態では七色のリングが側面を彩るイメージで、なかなか美しい。側面のLEDはPCが動作中なら光り、スリープ状態は消える。電源ボタンのランプはゆっくりと点滅する。後述するが動作音が非常に静かで、起動しているのかどうかが分かりにくいため、LEDの光でも動作状況が分かるのはありがたい。
標準状態だと、このLEDの光を変更するアプリやUEFI上での設定は見付からなかった。そのため色や発光パターンは変更できないのかと思ったが、同社のWebサイトから「LedControl」というユーティリティがダウンロードでき、それを使うことで調整が可能だ。
標準の「Rainbow」設定のほか、点滅を繰り返しながら色が変わる「Breathing」設定、点灯したまま色が変わる「Color Cycle」設定、そして消灯の4パターンが選択可能だ。あまり自由度はないが、気分に合わせて選択したい。深みのある黒に、控えめな発色のイルミネーションが映え、なかなか高級感のあるデザインのように感じた。
底面にもかなり大きめな吸気口を装備し、メッシュ構造の吸気口の内部にはCPUを冷却するファンが見える。そのためこの底面の吸気口をふさいで空気の流れを阻害しそうなものの上に置いたり、熱源の近くに置かないほうがよいだろう。
前面のインターフェイスは、USB4が1基とUSB 3.2 Gen 1が2基、ヘッドセット端子という構成。背面のインターフェイスはDisplayPortとHDMI、USB4が1基、2.5Gigabit Ethernetの有線LANとUSB 3.2 Gen 1を2基ずつ装備する。またサウンド出力用の3.5mm端子も装備しており、本格的なデスクトップPCとして運用する際に主なケーブルを背面から引き回せるのは便利だ。
ちょっと驚いたのはACアダプタの小ささだ。120W出力に対応するモデルだが、ミニPCに付属する一般的な120Wモデルと比べると半分くらいのサイズである。周囲に置いてもジャマになりにくいし、持ち運びを想定する場合にはメリットの1つになる。
動作時は非常に静か、PCゲームもそれなりに楽しめる
アイドル時や軽作業時の動作音はかなり小さい。本体に耳を近付けないとファンの回転音はほぼ聞こえないというレベルだった。またベンチマークテストやPCゲームのプレイ中など負荷が高い状況でもファンの動作音はほとんど気にならないレベルで、かなり静かに利用できる。
いくつかのベンチマークテストで、基本性能やPCゲームへの適性を見てみよう。「PCMark 10 Extended」は、軽作業中心の快適度をScoreで示すベンチマークで、Scoreが高いほど性能が高い。3DMarkは主にグラフィックス性能を計測できるベンチマークテストで、こちらもScoreが高いほど性能が高いことを示す。
比較対象は、AMDのCPUでは1つ世代が古い「Ryzen 7 8845HS」を搭載するGMKtekの「K8」と、Intelの「Core Ultra 9 185H」を搭載するMINISFORUMの「AtomMan X7 Ti」とした。K8との比較では世代が進むことによる性能の進化、AtomMan X7 Tiとの比較では現行のミニPCでは最新のIntel製CPUを採用するモデルとの違いが分かる。この2つのミニPCと比較することで、Ryzen AI 9 HX 370を搭載するF3Aの「立ち位置」が分かるはずだ。
CPU | メモリ | CPUコア | GPUコア | |
---|---|---|---|---|
ACEMAGIC F3A | Ryzen AI 9 HX 370(12コア/24スレッド) | 32GB(DDR5 SO-DIMM PC5-44800 16GB 2基) | Zen5 | Radeon 890M |
GMKtek NucBox K11 | Ryzen 9 8945HS(8コア/16スレッド) | 32GB(DDR5 SO-DIMM PC5-44800 16GB 2基) | Zen4 | Radeon 780M |
MINISFORUM AtomMan X7 Ti | Core Ultra 9 185H(16コア/22スレッド) | 32GB(DDR5 SO-DIMM PC5-44800 16GB 2基) | Meteor Lake | Intel Arc Graphics |
PCMark 10の総合スコアはK8がもっとも高いが、F3Aも非常に近いスコアだ。Windows 11などの日常的な使い勝手を反映するEssentialsがK8と比べてやや低いが、このレベルになると違いを体感するのは不可能だろう。3モデルともに軽作業中心の使いほうで問題が発生することはない。事実今回の検証でも、Windows 11や各種アプリの操作で、不満を覚えることはなかった。
一方でグラフィックス性能を検証できる3DMarkでは、どのテストでもF3Aがトップに立つ。IntelもCore Ultraの世代では内蔵GPUの性能が大きく向上し、AMDのRyzenシリーズに勝るとも劣らないスコアを出せるようになってきたが、最新モデル同士の比較ではまだ及ばない部分もあるようだ。
続いてPCゲームベースのベンチマークテストをいくつか実行し、PCゲームへの適性を見ていこう。さすがに高解像度でのプレイは現実的ではないので、テスト時の解像度はフルHD(1,920×1,080ドット)で統一した。
「ファイナルファンタジーXIV:黄金のレガシー ベンチマーク」でのグラフィックス設定は、「標準品質(デスクトップPC)」と「高品質(デスクトップPC)」の2つ。「F1 24」ではグラフィックスの詳細設定を「低」と「高」だ。
「サイバーパンク2077」では「低」と「レイトレーシング:低」でベンチマークモードを実行した。サイバーパンク2077とF1 24ではフレーム生成機能にも対応しているので、この有無による比較も行なった。
ファイナルファンタジーXIV:黄金のレガシー ベンチマークの「評価」はどちらも「快適」。ただ高品質では一部カクつく場面があり、スムーズな描画で楽しめるとはいかない状況もある。描画負荷はそれほど重くないF1 24も、フレーム生成機能を有効にすれば「高」設定でもかなり快適に遊べる。CPU内蔵GPUでもこれらのゲームがちゃんと遊べる、というのはスゴイことだと改めて思う。
ただし現行のPCゲームでも重量級のサイバーパンク2077ともなると、さすがに話は変わってくる。グラフィックス設定をもっとも低い「低」にしても60を切る場面はそれなりに多く、画面の切り換え時などにカクつク場面はある。
またレイトレーシングを有効にすると描画性能はさらに低下する。これはF1 24の「超高」設定(レイトレーシング重視の設定)でも見られる現象であり、現状の高性能なCPU内蔵GPUでも、レイトレーシングはかなり重い作業であることが分かる。
高負荷でもCPU温度は低め、メモリやSSDも拡張しやすい
最後に温度の状況と内部の構造をチェックしていこう。下記のグラフは、いくつかの状況における温度の変化を整理したものだ。「アイドル時」は起動後10分間何もしない状態の平均的な温度、「動画再生時」は動画配信サイトの動画を1時間再生した時の平均的な温度で、どちらも軽負荷時の状況を想定したものだ。
「3DMark時」は3DMarkに含まれる「Time Spy Stress Test」実行中の平均的な温度で、長時間のゲームプレイ時を想定している。「Cinebench時」はCinebench R23実行中の平均的な温度で、こちらは主にCPUに高い負荷がかかり続ける状況を想定したものと考えてよい。室温は23.1℃で、温度測定には「OCCT 13.1.15」を利用した。
実際の結果を見れば分かる通り、今まで検証してきたミニPCと比べても温度は低めだ。特にCPUのコア/スレッドをフルに利用するため温度が上がりやすいCinebench時でも85℃と、90℃を大きく下回っており、冷却性能については文句なしの結果と言ってよいだろう。また前述の通り、各種ベンチマークテストで負荷の高い状況でもファンの音はかなり静かで不快に感じる場面はない。
F3AではメモリとM.2 SSDの交換や増設に対応しており、どちらのスロットも天板からアクセスできる。天板を外すには、背面にあるラッチレバーの固定ネジを1本外し、ラッチレバーを右にスライドさせると天板のロックが解除され、天板を外せるようになる。
天板を外すと、冷却ファンが組み込まれたプラスチックのカバーが見える。4隅をネジで固定されているので、これを外してカバー部分のみを上に引っ張って外すと、メモリスロットやM.2スロットにアクセスできる。
このカバーにはファン用の電源ケーブルがつながっているので、外すときは慎重に行なおう。とはいえカバーが固くロックされていたり、複雑な内部構造になっていたりすることはなく、作業は非常に楽に行なえた。
LEDによるイルミネーションが目を引くが、実際の性能も非常に高く、強力なミニPCの1台であることは間違いない。現状ではRyzen 7 7040/8040シリーズを搭載するミニPCと比べてちょっと高いのが玉にキズではあるが、性能的には十分にその価値はある。
Windows 10のサポート終了を受けて新しいPCにアップデートしなければならないユーザーや、新入社や新入学で新しくPCを導入するユーザーなど、自分のニーズに合わせてメモリやストレージを強化しながら長く使い続けたいユーザーにぴったりのミニPCだ。また動作音が非常に小さいことを生かして、リビングの大画面テレビと組み合わせ、コンテンツを楽しむPCとして使うのもオススメだ。