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薄いカード型PC「RY-P1」で“モバイルデスクトップ”を再発見

4型クラスのコンパクトスマホに似たサイズ感の「RY-P1」。もちろん手のひらにもすっぽり収まるサイズだ

 自作PCでもメーカー製PCでも、とにかくコンパクトなモデルが大好きな筆者なので、手のひらサイズのミニPCが大流行している現状は本当にうれしい。今回もそうしたミニPCの1つを紹介するわけだが、今までのミニPCと比べてもグッと小さい「カードサイズ」である。

 そんな筐体に、普通にPCとして利用できるだけのハードウェアとWindows 11が組み込まれているのだ。今回はそんな驚きのカードサイズPC、zepanの「RY-P1」をさまざまな角度から検証してみよう。

クラウドファンディングでも好評な超小型PC

 RY-P1は、クラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING」で支援が呼びかけられている超小型PCだ。現状での最低出資額は、ケースやUSB接続の拡張ドックなどを合わせて4万1,600円。また9月13日時点での支援人数は122人、総出資額は目標額の約28倍にあたる553万1,800円となっており、ユーザーの期待も大きいことがよく分かる。

GREEN FUNDINGでクラウドファンディングを実施中

 編集部から届いたのは、まるでスマートホン向けのような小さな白い化粧箱だった。本当にこの中にPCが入ってるの? オプションが先に届いただけなんじゃないの? とも思ったが、開けてみれば確かにそこにはカード型のRY-P1本体が入っていた。この小さなケースの中に、本体のほか、インターフェイスを追加する拡張ドック、ACアダプタや充電ケーブルなど、RY-P1を利用するために必要な一式も含まれている。

6.67型の有機ELディスプレイを搭載するXiaomiの「11T Pro」と比べても小さい化粧箱
本体、充電用のACアダプタ、拡張ドック、USBケーブルなどが入っていた

 PCがこんな小さな箱に入る時代になったんだなあ、と感慨深くなりながらもRY-P1を手に取ると、さらに驚く。幅63mm、奥行き121.5mm、厚み10mmというサイズは、たとえるなら革製の名刺ケースのような感じだろうか。手のひらサイズなのはもちろんだが、本当に小さい。

RY-P1本体
左がRY-P1で、右が先ほどの11T Pro。スマホより小さいPCというのはなかなか衝撃的

 CPUはIntelの「Celeron J4125」を採用する。低価格ノートPCやChromeBookなどに搭載されることが多いれっきとしたノートPC用のCPUであり、4コア4スレッドに対応する。ただ一般的なノートPCで利用される「Coreシリーズ」ではなく、消費電力が低いAtom系列のアーキテクチャを採用しており、性能はあまり高くない。このほかメモリは8GB、ストレージは128GBのeMMCと、基本スペックは3万円前後で購入できる低価格ノートPCに似た構成だ。

メーカーzepan
製品名RY-P1
OSWindows 11
CPU(最大動作クロック)Celeron J4125(4コア4スレッド、最大2.7GHz)
搭載メモリ(空きスロット、最大)DDR4 8GB(なし)
ストレージ(インターフェイス)128GB(eMMC)
拡張ベイなし
通信機能IEEE 802.11a/b/g/n/ac/ax、Bluetooth v5.1
主なインターフェイスUSB 3.0 Type-C×2、USB 2.0 Type-C×1、microSDカードスロット
本体サイズ63×121.5×10mm
重量約140g
クラウドファンディングの最安プラン41,600円

 表面と裏面はマットブラックの金属製で、側面はシルバーのツートンカラーだ。滑って落とさないようにホールド性を高めるためか、ストライプ状のきざみがあり、なかなかカッコよい。金属製の筐体は放熱用のヒートシンクとしても機能しているらしく、利用時には筐体全体がほんのり暖かくなる。

表面の様子。右上に電源ボタンを装備する
裏面には何もない。4本のネジを外すと裏蓋を外して内部にアクセスできるが、裏側からアクセスできるスロットはない

 重さは約140g。最近の大型ディスプレイを搭載するスマホと比べても軽く、PCだというのが信じられないくらいだ。ビジネスバッグの中に入れて持ち歩くのはもちろん、ちょっとだれるし必要もないがシャツのポケットに入れても重さは感じない。ACアダプタもコンパクトで軽量なので、システム一式持ち歩くのも苦にはならないだろう。

コンパクトなACアダプタ。USB PD対応で最大出力は30Wだった

 インターフェイスはコンパクトなType-Cで統一されており、正面に向かって左側面に2基、下部に1基装備する。HDMIや一般的なUSBポートは、このサイズのPCだと組み込むのが難しいのだろう。付属するUSB接続の拡張ドックは、そうした一般的なPCが搭載する各種インターフェイスを補うためのものであり、事実上これがないとPCとして利用することは難しい。

左側面にはUSB 2.0 Type-Cと、USB 3.0 Type-Cを1基ずつ装備。このほかスマホのようなトレイ式のmicroSDカードスロットを装備
底面にもUSB 3.0 Type-Cを装備する

 この拡張ドックには、映像出力用のHDMIを1基搭載するほか、Type-AのUSB 3.0ポートを1基、USB 2.0ポートを1基、USB Type-Cを1基装備する。USB Type-Cは一般的なUSBポートとしても利用できるほか、ACアダプタからのケーブルを接続し、PC側に充電するためにも使われる。

拡張ドックは底面のType-Cコネクタ経由でRY-P1に接続する
側面のインターフェイスは左からUSB 2.0、USB 3.0、USB 3.0 Type-C
底面にHDMIを装備する

 実際の利用シーンでは、底面のType-Cコネクタに拡張ドックを接続し、ここにHDMIケーブルやマウス、キーボード、ACアダプタなどの周辺機器やケーブルをすべて接続する。たとえば別の作業環境に、同じような拡張ドックと各種周辺機器を備えた利用環境を用意しているなら、拡張ドックのUSBケーブルを抜いてRY-P1だけを持っていけばよいわけだ。

軽作業や動画配信サービスの視聴なら問題はない

 次に動作時の状況を紹介しよう。試用機にはWindows 11 Homeがインストールされおり、OSやインストールした各種アプリの起動、各種操作にもたつきを感じる場面はほとんどない。省電力CPUなので性能はそれほど高くはないのだが、Webブラウズや書類作成など軽作業主体なら問題なくこなせるだろう。

 NetFlix、U-Next、Prime Videoなど、動画配信サイトの視聴も問題はなかった。YouTubeでは、インプレスの「PAD」チャンネルにアップロードされている4K解像度の動画を再生してみたが、とくにコマ落ちや音切れが発生することもなく、動画再生用PCとしても普通に使える。

PADチャンネルの動画を4K解像度にしてもスムーズに再生された

 ただし一般的なPCゲームはもちろん、Webブラウザゲームの中でも演出が豪華で、動きが激しいものはコマ落ちが発生しやすく、演出レベルを低くしないとまともに遊べないことがある。こうしたコンテンツはそれなりにCPUやGPUのパワーが必要なので、いたしかたのないところだ。

 動作音は、それなりに大きい。こうしたタイプのCPUを搭載するPCではファンレスモデルもめずらしくないが、さすがにこの薄さだと放熱用のヒートシンクのみでは運用できないようだ。ファンは常時回転しており、「サー」という風切り音は動作状態を問わず発生する。

上部と右側面に吸気口、底面に排気口があり、ほんのり暖かい風が底面に吹き出してくる

 アイドル時のCPU温度は40℃前後、CPUに高い負荷をかける「Cinebench R23」実行中の温度は60~65℃といったところだ。アイドル時の消費電力は3.2W、同じくCinebench R23実行中は10W前後と、このへんは省電力CPUの面目躍如と言ってよいだろう。

 最後に、いくつか基本的なベンチマークテストを実行してみた。ただ性能をアピールしているPCではないので、あくまで参考値としてとらえてほしい。比較対象は、同じくIntelの省電力CPU「Intel Processor N100」を搭載するBeelinkの「EQ12」だ。

 N100は、Intelの第12世代Coreシリーズに「Efficientコア」(高効率コア、Eコア)として搭載されていたコアを4基分取り出して、それのみで構成したCPUである。比較対象としたEQ12に代表されるミニPCや、低価格ノートPCなどで採用例が多い。RY-P1が搭載するCeleron J4125は、世代的にはN100の2世代前のアーキテクチャを採用しており、N100のほうが性能面では優位となる。

Intel Processor N100を搭載するBeelinkのEQ12

 下のグラフは、ユーザーがよく利用するアプリを実行し、その性能をScoreで確認できる「PCMark 10 Extended」の結果だ。このテストでは、Scoreの数値が大きいほうが性能が高い。前述のとおり、N100を搭載するEQ12のほうが全体的にScoreが高いという結果になった。

PCMark 10 Extended

 グラフィックス描画性能を検証する「3DMark」では、3つのテストを行なった。こちらもScoreが高いほうが性能が高いのだが、PCMark 10よりも性能差が大きい。Celeron J4125と比べると、N100が内蔵するGPUはかなり性能が高いと考えてよさそうだ。

3DMark

 CPUコア部分の性能を数値で比較できる「Cinebench R23」では、やはり数値が大きいほうが性能が高い。結果を見ると、PCMark 10 Extendedと同じ傾向を示しており、CPUコア部分の性能もN100にはかなわないことが分かる。とはいえ、こうしたベンチマークテストの結果が使用感に直接反映されるわけではない。前述のとおり、軽作業や動画配信サービスが主体ならほとんど不満は感じにくい。

Cinebench R23

 最後にファイルの読み書き速度をCrystalDiskMarkで計測した。eMMCなので最新のM.2対応SSDほど高速ではないが、それでも初期のSerial ATA 3.0対応SSDとほぼ同等の読み書き性能を示している。こうしたストレージのOSやアプリの応答性を支えているのだろう。

CrystalDiskMarkの結果

モバイルできるデスクトップPCの「再発見」?

 本サイトを読んでいるようなユーザーなら、一昔前にUSBメモリのような棒状の筐体を採用する「スティックPC」というスタイルが一時代を築いたことを覚えているのではないだろうか。軽量でコンパクト、使い場所を選ばない利便性という面ではRY-P1もよく似ている。

 しかしスティックPCは当時としてもかなり性能が低くて使い勝手が悪く、「モバイルできるデスクトップPC」として特異なジャンルを確立するにはいたらなかった。今回のRY-P1は、以前のスティックPCと比べるとずっと使いやすく、書類作成やWebブラウズと言った軽作業なら十分という印象だ。その意味では、新しいデスクトップPCの流れを作る可能性は十分にある。動作音など気になるところはあるが、今後の発展に期待したい。