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ソニー製ゲーミングモニター「INZONE M9」。自然な色味で暗所に強い。ゲームに最適化された映像美が秀逸

INZONE M9

 ソニーがゲーミング周辺機器ブランド「INZONE」を新たに立ち上げた。第1弾製品はゲーミングモニターとヘッドセットとなっている。

 同社は2014年にVAIOの事業を譲渡し、PC事業からは撤退済み。グループにコンシューマゲームブランドのPlayStationや、テレビブランドのBRAVIAを抱えながら、新たなブランド展開に乗り出すのは、やはりPCゲーム市場を意識してのことだろう。「PlayStationとBRAVIAを抱えるソニーがゲーミングモニターを出す」と言えば、注目を集めるのは確かだ。

 今回はゲーミングモニターの第1弾「INZONE M9」をお借りできたので、レビューをお届けする。期待度は高いものの、ブランド立ち上げの最初の製品だけに、どこまで作り込めているかは未知数。既に多数のメーカーが乱立するゲーミングモニター製品において、他社に勝るものがあるのかどうか、さまざまな側面から見ていきたい。

「Perfect for PlayStation 5」認定。ローカルディミングも搭載

 まずは仕様を確認しておこう。

【表】INZONE M9の主な仕様
液晶サイズ27型非光沢
パネル方式IPS
表示解像度3,840×2,160ドット
リフレッシュレート24~144Hz(DisplayPort 1.4)、24~120Hz(HDMI 2.1)
可変リフレッシュレート技術Adaptive-Sync、G-Sync Compatible、VRR(HDMI 2.1)
応答速度1ms(GTG)
輝度600cd/平方m
HDRDisplayHDR 600
コントラスト比80,000:1(DCR)
視野角178度(上下・左右)
色域DCI-P3比95%以上
最大表示色10億7,000万色
入力端子HDMI 2.1×2、DisplayPort 1.4×1、USB Type-C×1(DP Alternate mode)
その他端子ヘッドフォン端子、USB×4、USB Type-B(アップストリーム)×1
スピーカー2W×2
VESAマウント対応(100×100mm)
チルト/高さ調整/スイーベル/ピボット0~20度/70mm/-/-
付属品ACアダプタ
本体サイズ(幅×高さ×奥行き)約615×479×248mm
重量約6.8kg(スタンドなしでは約4.6kg)
価格15万4,000円(ソニーストア直販)

 27型の4Kモニターで、HDMI 2.1を2ポート搭載。DisplayPort接続では144Hzまで入力でき、HDRはDisplayHDR 600。パネルはIPSで、色域はDCI-P3比95%。昨今の4K/120Hz対応ゲーミングモニターとしては標準的なスペックだ。ステレオスピーカーも内蔵している。

 本機の最大の売りは、直下型LED部分駆動(ローカルディミング)を採用している点。「LEDバックライトを液晶パネル下に配置し、映像全体を小さなブロックに分けてコントロールすることで明暗のきめ細かな描写を可能にする」としている。どの程度の効果があるのかは、実際の映像で見比べてみたい。

 ソニー製品ということで、PlayStation 5の表示に最適とする「Perfect for PlayStation 5」の認定も受けている。PS5本体のHDR調整を自動で最適化する「オートHDRトーンマッピング」や、PS5を接続すると画質モードを「ゲーム1」にしつつ、映画を観ると「シネマ」に切り替わる「コンテンツ連動画質モード」を搭載する。

PS5をHDMI接続し、「Fortnite」を起動した後の映像出力情報。4K120Hz、HDR、VRRと全て対応している

 機能面ではオートKVM機能を搭載。本機にキーボードとマウスを接続すれば、起動したデバイスに連動して操作できる。オートKVM機能を利用するには、1台はUSB Type-Cによる接続、もう1台はディスプレイケーブルのほかにUSB Type-Bのアップストリーム接続が必要になる。

 注意点としては、DisplayPortケーブルやHDMIケーブルなどの映像用ケーブルは一切付属しないところ。付属品はACアダプタとスタンド関連、マニュアル類のみとなっている。PS5にはHDMIケーブルが付属しているので問題ないが、PCなどほかの機器を接続するつもりなら、別途ケーブルを用意しておく必要がある。

 価格は直販で15万4,000円。本稿執筆時点では、家電量販店や通販サイトで142,800円の10%ポイント還元というところもある。HDMI 2.1に対応した27型4Kゲーミング液晶モニターとしてはほぼ最高値だが、他社でもまだ10万円を割る製品は少なく、飛びぬけて高価というわけではない。最高値なりの良さがあるかどうかが問題だ。

PS5にマッチしたデザインと、便利な設定ツール「INZONE Hub」

3本脚のスタンド。見た目は細いが安定している

 早速、実機を見ていこう。スタンドは2つの部品を重ねた3脚形状で、前方中央に1本、後方左右に2本の脚がある。脚はかなり細いので、モニターの下にも物を置けるスペースがある。

 前方の1本脚はPS5と同じ白と黒のカラーリング。何となしにPS5用コントローラーのDualSenseを置いたところ、デザインが完全に一致している。PS5ユーザーなら、このマッチングを見ただけで幸せがある。

本機のスタンド横にDualSenseを置いたところ。デザインが完全に一致している

 スタンドはチルト(上下角度)が0~20度、高さ調整は70mmと若干狭い印象。シンプルな3脚のスタイルのため、高さ調整は斜めの前脚部を滑るように動く。デザイン的にも未来的でユニークだ。

 ただその弊害か、スイーベル(左右回転)ができない。位置を決めてしまえばそう動かすことはないという判断かもしれないが、全く動かないというのはさすがに違和感がある。VESAマウントには対応しているので、嫌ならディスプレイアームを使えという話ではあるのだが、そうするとPS5合わせデザインのスタンドが失われてしまい、悩ましい。

高さ調整はユニークな動きで面白い。高さを最も上げたところ
高さを最も下げたところ。上げた時よりモニターが少し前に来る
チルトは最大で上方向に20度

 モニター部は、前面はブラックで統一されており、左下にソニーのロゴが薄めに入っている。背面は左右から中心部に向かって少し盛り上がるように丸みのあるデザインで、色はホワイトで統一されている。色味や形もPS5とのマッチングを意識しているのが感じられる。INZONEという文字やロゴはどこにもなく、ブランドの主張はしないようだ。

 額縁は上部と左右は約1.5mm、下部は約12mmで、見た目にはかなり狭い。電源を入れてみると、額縁の内側の非表示部分が左右に7mm、上に6mmあり、トータルで8mm前後の額縁となる。壁紙を黒単色にしていると、非表示部分との境目がわかりづらく、画面端の表示領域で混乱する。これはコントラストの高さやLED部分駆動の効果が出ている証拠であり、ポジティブな要素だ。

 端子部は背面に下向きで配置されている。スタンドの中央部分は空洞になっており、ケーブルを通して後ろにまとめて出せるようになっている。その上部にはLEDが仕込まれたラインがあり、控え目に光っている。色は設定で変更可能。

端子部は下向きの配置。USBを含めて横一列に並んでいる
控え目なLED装飾も搭載。他の色にも変更可能

 モニター設定は、背面左側にあるスティックで操作できる。スティック押し込みでメニューが表示され、上下左右でメニュー操作、押し込みで決定。またメニューを表示していない状態でスティック左右で音量、上下で明るさ設定をダイレクトに呼び出せる。

背面にある設定操作用のスティック。その下には電源ボタンがある

 さらに本機には専用ソフト「INZONE Hub」が用意されており、Windows側から設定を操作できる。設定内容はモニターの直接操作と同じのようだ。直接設定のスティック操作やメニューのUIも決して悪くはないが、「INZONE Hub」を使う方が圧倒的に操作しやすい。本機のユーザーは真っ先にインストールしておくべきだ。

「INZONE Hub」を使ってモニターの設定を変更できる
音量や入力、KVM設定なども切り替え可能
使用するアプリに合わせて表示モードを切り替える機能も用意されている

ゲーム向けに最適化された暗所に強い映像表示

 気になる画質についても詳しく見ていこう。基本的な色味はいずれも鮮やかで、特に赤は鮮烈に出ている印象がある。光量もとても明るく、普段暗めの画面で使用する筆者は100段階の明るさ設定で10もあれば十分。HDRをオンにした時には白がまぶしく見えるほどだ。視野角もIPSパネルだけあって十分に広い。

自然な色味で美しく、明るさも十分
視野角も広い

 応答速度は最高で1ms(GTG)とされている。設定では標準、高速、超高速の3段階があり、標準でも特に気にならないが、高速にすると文字のスクロールがよりくっきり見えるようになる。超高速にするとオーバーシュートの残像が出てくるので、僅かな応答速度差を稼ぎたいのでなければ高速の設定がよさそうだ。これ以後のテストも応答速度は高速の設定で実施する。

 注目のローカルディミングは、オフ、低、高の3段階。オフはともかく、低と高でどう違うのか説明がないので詳細は不明。実際の効果を見るべく、特徴的なゲーム画面を使って比較してみた。

「Apex Legends」。左からローカルディミングオフ、低、高
「Valorant」。左からローカルディミングオフ、低、高
「Diablo III」。左からローカルディミングオフ、低、高

 設定を変えながら画像を見比べてみると、暗い部分がより暗くなるのが分かる。特に真っ黒の部分は、薄ぼんやりと白みがあったのが、より真っ黒に近く沈むのが分かる。全体としてコントラストが上がり、メリハリの効いた映像になる。

 ただし、黒背景にあるアイコンなどは、周囲に引っ張られてやや暗く表示されてしまう。また白と薄い灰色のような微妙な階調の違いがわかりにくくなる部分もあり、特に設定を高にした時は顕著だ。ぱっと見た時の印象はメリハリが効いて美しく感じるが、細かい階調が犠牲になっている部分もある。一長一短あるので好みの範疇だと思うが、個人的には低を使うかなと思う。

 実際にゲームプレイも試してみた。4Kかつハイリフレッシュレートのおかげで、精細で滑らかな映像が楽しめる。応答速度も十分速く、少ない残像感で、ゲームのみならずWebブラウザのスクロール表示などでも気持ちのいい表示ができている。ただ、この辺りは他社の4Kハイリフレッシュレート製品でも概ね同じ感想になる。

 本機で特徴的なのは、暗部の表示の美しさ。一般的なモニターだと黒く沈んでしまいそうな暗いシーンでも、うまく表示に差をつけて細かいところまでしっかりと見える。本機には暗所を強調させるブラックイコライザー機能もあるが、それに頼らなくてもかなり見やすい。しかも画面の明るさがかなり暗めの設定であっても、暗所をうまく引き立てている。

 ゲーミングモニターによくある暗所強調機能は、黒い部分が白けて見える。そのおかげで暗所は見えるが、映像としては全体的に白っぽくなる。本機はそういった機能に頼らず、自然に見せてくれる。「Diablo III」のように暗い場面が多いゲームを改めてプレイすると、画面全体の情報量が圧倒的に増えたように感じ、従来とはプレイ感が全く違う。FPSで洞窟などの暗いシーンに入った時でも同様だ。

ブラックイコライザーがオフの状態
ブラックイコライザーを最大の3に設定。より暗所が強調されるが、本機で必要になる場面は稀だ

 表示遅延については「LCD Delay Checker」を使って、TNパネルを搭載したゲーミングノートPCとクローン表示したものを、1/4,000秒の高速シャッターで撮影して比較した。表示のタイミングはほぼ同等で、残像感も本機の方がやや少ないように見受けられた。応答速度の設定が高速の状態でも、TN液晶に勝るとも劣らないのであれば十分だ。

TNパネルのノートPCと比べて、表示遅延や残像感で劣る様子は見られなかった

 最後にサウンド面もチェックしておく。スピーカーは背面上部のスリット付近に内蔵されているようだ。音質はとてもクリアで、耳触りな感触はほとんどない。人の声や楽器の音などの中高音はとてもいい感触だ。

 ただ2W×2の小型スピーカーだけあって、低音はほとんど出ておらず、位置が背面にあるせいかステレオ感も乏しい。内蔵スピーカーにしては自然な音が出ているものの、軽くて平坦な音という印象だ。他社の製品なら及第点をあげていいと思うが、ソニー製品ならばこそ、もう一声と言いたくなる。

ゲーム映像の美しさは際立つが、不満も残る

不満点もあるが、新ブランド第一弾製品としてはよくやったと思う

 先に述べた「4Kゲーミング液晶モニターとして最高値なりの良さがあるかどうか」については、2点を挙げられる。

 1点目は映像表示のうまさ。発色の良さや色域の広さという点では他社に譲るが、HDR表示を含めた明るい映像の自然な見せ方や、暗所の細かな階調の表示は実にうまい。ゲーミング向けの表示の味付けが最初からきっちり調整が済んでいて、後から細かく設定を触る必要がないのは素晴らしい。

 さらに設定を触りたいと思ったら、「INZONE Hub」という便利なツールも用意されている。モニター標準のインターフェイスも含め、操作周りの完成度は極めて高い。参入第1弾の製品でここまでできているのは意外だ。

 2点目はPS5と親和するデザイン。「見た目の話かよ」と言われそうだが、このデザインを作れるのはソニーだけだろう。ソニーブランドらしい、ソニー製品を持つことの幸福感をうまく突いている。

 それ以外の部分では、不満点もある。本機を上から見ると、後方が曲面で膨らんだ形状になっているのだが、画面は平面。膨らんだスペースは端子部分とスピーカーで使っているが、そのスペースがあるならもう少し高音質にして欲しい。「ゲームはヘッドセットでやるんだろう?」ということなのかもしれないが、ヘッドセット用のフックがあるわけでもない。

 他にも、電源が本体内蔵ではなく大きめのACアダプタがあること(本体の軽量化になるので一長一短)や、ディスプレイケーブルが1つもついてこないことも気になる。スイーベルしないのも人によっては致命的だろう。また設定画面の漢字のフォントが中国語(繁体字?)になっているのも、日本のブランドを掲げるにしては詰めが甘く残念だ(「INZONE Hub」では問題ない)。

ACアダプタが大きめ。設置場所次第ではACアダプタの置き場所も考える必要がある
筆者が気になった漢字のフォント。実用上は問題ないが、残念な気分になる

 細かいところまでケチをつけてしまったが、本機はINZONEブランドの最初の製品であり、パーフェクトな製品を求めるのは酷というもの。画質の面では抜きんでた部分もあり、ソニーらしいユニークな製品を出せていることはきちんと評価したい。今後、市場でもまれていくことになるが、この先もソニーらしさや日本製品の強さを見せて欲しいものだ。