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シリーズ史上最軽量の907gを実現した「ThinkPad X1 Nano」

レノボ・ジャパン「ThinkPad X1 Nano」

 レノボ・ジャパンは、ビジネスモバイルノートPC「TnihkPad X1」シリーズ新モデル「ThinkPad X1 Nano」を発売した。1月6日時点での直販価格は185,900円からとなっている。

 ThinkPadシリーズ史上最軽量となる907gの軽さを実現している点が大きな特徴だが、軽さだけでなくスペック面や堅牢性も申し分なく、ThinkPad最上位シリーズであるThinkPad X1シリーズらしい製品に仕上がっている。今回お借りできたので、詳しく見ていこう。

軽さは正義だが、軽さだけが正義ではない

 ThinkPadシリーズは、性能、堅牢性、扱いやすいキーボードなど、ビジネスモバイルノートPCに求められる機能を高いレベルで実現することから、長年ビジネスパーソンから根強い人気を誇っている。ただ、ユーザーから唯一不満に思われていたのが重量だ。ThinkPadシリーズでは、優れた堅牢性を実現するためにどうしても重量が増えてしまい、競合製品に比べて重いというイメージがある。

 しかし、今回登場した「ThinkPad X1 Nano」(以下、X1 Nano)は、シリーズ同等の優れた堅牢性を実現しつつ、重量を約907gと1kgを大きく下回る軽さを実現している。X1 Nanoの軽さは、ボディサイズの小型化や内部機版の小型化による軽量化、キーボードの軽量化など、様々な部分での軽量化を積み上げて実現しているという。

 実際にX1 Nanoを手にすると、これまでのThinkPadシリーズにあったずっしり重いという印象が完全に払拭できていることを実感できる。片手で楽々持てる軽さは、多くの日本のユーザーが長年ThinkPadシリーズに求めてきた理想の姿だが、ついにその理想が現実のものになった点は、おおいに歓迎したい。なお、試用機は最小構成モデルではなかったこともあって、実測の重量は924gと公称をやや上回っていた。

試用機は最小構成ではなかったこともあり、実測の重量は924gと公称よりもやや重かった
634gのLIFEBOOK UH-X/E3ほどではないが、X1 Nanoも片手で軽々持ち上げられる

 とはいえ、軽さの追求によってThinkPadシリーズのアイデンティティが失われていると魅力も半減だが、その点も心配は無用だ。ThinkPadシリーズとして位置付けられるには、レノボ社内で定義されている過酷な堅牢性試験をクリアする必要があるが、当然X1 Nanoもすべての堅牢性試験をクリアしている。

 天板には天面をドーム状に加工した高剛性カーボン素材を採用するとともに、カーボンと側面フレーム部の接合部分などにガラス繊維を採用することでで軽さと堅牢性を両立。またディスプレイも板バネ構造を採用することで、外部からの衝撃や圧力を吸収する構造を採用し、軽さを追求しつつも優れた堅牢性を確保。実際に本体やディスプレイ部をひねってみても、全く不安のない剛性が感じられ、堅牢性について全く不安がないと実感できる。

 本体デザインは、ThinkPadシリーズおなじみの弁当箱スタイルを踏襲。カラーもマット調のブラックで、一目でThinkPadシリーズとわかるものとなっている。天板の「ThinkPad X1」の刻印も含めて、安心できるデザインと言える。

 サイズは292.8×207.7×16.7mm(幅×奥行き×高さ)。フットプリントは、ディスプレイが4辺狭額ベゼル仕様となっていることもあり、13型クラスのモバイルノートとしてもトップクラスのコンパクトさとなっている。X1 Carbonよりひとまわり小さいため、鞄への収納性も高まっており、軽さと合わせて軽快に持ち運べそうだ。

ディスプレイを開いて正面から見た様子
天板はカーボン素材を採用し、ドーム形状とすることで軽量化と堅牢性を両立
天板にはThinkPad X1ロゴの刻印が用意されている
本体正面
左側面
背面
右側面
底面。フットプリントは292.8×207.7mm(幅×奥行き)とX1 Carbonよりひとまわり小さい

アスペクト比16:10の13型2K液晶を搭載

 ディスプレイは、アスペクト比16:10、表示解像度2,160×1,350ドットの13型液晶を採用している。パネルの種類はIPS。試用機では、タッチ非対応ディスプレイを搭載していたが、直販モデルではカスタマイズでタッチ対応ディスプレイも選択可能となっている。

 表示解像度がフルHD超となり、アスペクト比も16:10と通常のフルHDディスプレイよりも縦の情報量が増えるため、ビジネスシーンで利用されるOffice系アプリも快適な利用が可能。ディスプレイサイズが13型でフルHD超ということで、13.3型フルHDディスプレイよりも文字サイズがわずかに小さくなるものの、個人的には視認性の低下はほとんど感じなかった。

 ディスプレイ表面は非光沢処理となっており、外光の映り込みはほとんど感じられないため、文字入力も快適だ。発色については光沢液晶にやや劣る印象もあるが、このクラスのモバイルノートとして標準的であり、こちらも大きな不満はない。

ディスプレイは、アスペクト比16:10、表示解像度2,160×1,350ドットの13型IPS液晶を採用
表面は非光沢処理で外光の映り込みはほとんど感じられないが、発色の鮮やかさは光沢液晶にやや劣る印象
ディスプレイは180度開くので、対面の人に画面を見せる場合でも便利だ

シリーズ同等の快適なキーボードを搭載

 ThinkPadシリーズを選ぶ人の多くが、キーボードの完成度の高さを理由にあげることが多いが、その点はX1 Nanoにもしっかり受け継がれている。

 標準的な日本語配列を実現しているのはもちろんだが、1段下がった場所に配置されるカーソルキーや、スティック型ポインティングデバイス「Track Point」の採用などは、シリーズからまったく変わらない部分だ。

 主要キーのキーピッチは約19mmフルピッチを確保。フットプリントが小さいこともあって、Enterキー付近の一部キーはピッチが狭くなっているものの、タッチタイプは問題なく行なえるため、大きな不満はない。

キーボードはこれまでのThinkPadシリーズ同等の配列を実現している
主要キーのキーピッチは約19mmフルピッチを確保

 それに対し、ストロークは約1.3mmと、X1 Carbonなどのキーボードで確保されている約1.5mmからわずかに浅くなっている。ただ、X1 Nanoではキー内部のラバードームの形状を工夫することで、従来のキーボードと同等の打ち心地を実現しているとのこと。たしかに、実際にタイピングしてみても、適度な硬さとしっかりとしたクリック感はX1 Carbonのキーボードと大差なく、ストロークの浅さがわずかに手に伝わる程度で、ほぼ同等の打鍵感を実現していると実感できた。

 ポインティングデバイスは、シリーズおなじみのスティック型のTrack PointとタッチパッドのThinkPadクリックパッドを同時搭載。3ボタンのクリックボタンを搭載する点も変わらず、優れた扱いやすさを実現しており、こちらも大きな魅力だ。

ストロークは1.3mmと従来よりもやや浅いが、内部ラバードームの工夫で浅さを感じさせない打鍵感を実現している
もちろんキーボードバックライトも搭載している
Enterキー付近の一部キーはキーピッチがやや狭くなっているものの、タッチタイプは問題ない
ポインティングデバイスは、スティック型のTrack PointとタッチパッドのThinkPadクリックパッドを同時搭載。物理クリックボタンも搭載しており、扱いやすさは抜群だ

CPUはTiger Lake UP4を採用

 では、X1 Nanoのスペックを確認していこう。

 CPUはTiger Lakeこと第11世代Coreプロセッサで、TDPの低いUP4を採用。試用機ではCore i7-1160G7を搭載していたが、Core i5-1130G7も選択可能となっている。メモリはLPDDR4X-4266を8GBまたは16GBオンボード搭載となるが、試用機は16GB搭載していた。内蔵ストレージは、試用機では256GBのPCIe/NVMe SSDを搭載しており、カスタマイズで最大1TBのSSDまで搭載可能となっている。

 無線機能は、IEEE 802.11ax(Wi-Fi 6)準拠無線LANとBluetooth 5.0を標準搭載。またカスタマイズで5G対応のワイヤレスWANも搭載可能となっている。試用機ではワイヤレスWANは搭載されていなかったものの、5G対応ワイヤレスWANが搭載できるという点はモバイルノートとして大きな魅力となるはずだ。

 生体認証機能は、右パームレストに指紋認証センサーと、ディスプレイ上部に顔認証IRカメラを同時搭載する。場面に応じて指紋認証と顔認証を使い分けられるため、こちらも利便性を大きく高めてくれるだろう。顔認証IRカメラは720p Webカメラとしても利用でき、物理的にカメラを覆うシャッター「Think Shutter」も搭載している。

 加えて、ディスプレイ上部にはレーダー方式の講師や各人感センサーも搭載。正面にどの程度の距離で人がいるのかを検知し、人が離れると自動的にロックするとともに、人が正面に座ると自動的にロックを解除。これに顔認証機能を組み合わせることで、タッチレスでWindowsへのログオンを実現している。実際に試してみたが、タッチレスでログオンできるのは想像以上に便利と感じた。

右パームレストに指紋認証センサーを搭載
ディスプレイ上部には顔認証IRカメラを搭載し、顔認証にも対応。720pのWebカメラとしても利用できる
カメラにはレンズを覆うThink Shutterが用意されている

 ポート類は、左側面にオーディオジャックとThunderbolt 4×2のみを用意している。Thunderbolt 4はいずれもUSB PD対応で、電力の入力や内蔵バッテリの充電もThunderbolt 4を利用して行なうことになる。

 拡張性に関しては、Thunderbolt 4にポートリプリケータを接続することで十分なレベルを確保できるだろう。ただ、ポートリプリケータや変換アダプタを利用しなければ周辺機器が利用できない場面が多くなるのは間違いなく、利便性という点ではやや残念に感じる。せめてUSB Type-Aは用意してもらいたかった。

 付属ACアダプタは、出力65WのUSB PD対応のものとなっている。実測の重量は付属電源ケーブル込みで245.5g。もちろん、別途小型軽量の汎用USB PD対応ACアダプタも利用できるため、携帯性を高めたい場合にはそういったものを用意してもいいだろう。

左側面にはオーディオジャックとThunderbolt 4×2を用意
右側面には電源ボタンがあるだけで、ポートは配置されない
ポートの少なさは、オプションのポートリプリケータなどを利用して補うことになる
内部の様子。基板面積はThinkPad X1 Carbonの半分しかない。またCPUの性能を最大限引き出せるように強力な冷却システムも搭載している
付属ACアダプタは出力65WのUSB PD準拠のものとなる
ACアダプタの電源ケーブル込みの重量は実測で245.5gだった

Tiger Lake UP4ながら十分な性能を発揮

 では、ベンチマークテストの結果を紹介しよう。利用したベンチマークソフトは、UL LLCの「PCMark 10 v2.1.2506」、「3DMark Professional Edition v2.15.7113」、Maxonの「CINEBENCH R20.060」と「CINEBENCH R23.200」の4種類。比較として富士通クライアントコンピューティングの「LIFEBOOK UH-X/E3」の結果も加えてある。

【表】ベンチマーク結果
ThinkPas X1 NanoLIFEBOOK UH-X/E3
CPU"Core i7-1160G7
(ターボブースト時最大4.40GHz)""Core i7-1165G7
(ターボブースト時最大4.70GHz)"
ビデオチップIntel Iris Xe GraphicsIntel Iris Xe Graphics
メモリLPDDR4X-3733 SDRAM 16GBLPDDR4X-3733 SDRAM 8GB
ストレージ256GB SSD(NVMe/PCIe)1TB SSD(NVMe/PCIe)
OSWindows 10 Pro 64bitWindows 10 Home 64bit
PCMark 10v2.1.2506
PCMark 10 Score42004961
Essentials904310105
App Start-up Score1114713535
Video Conferencing Score74708114
Web Browsing Score88839396
Productivity52116897
Spreadsheets Score56256056
Writing Score48297857
Digital Content Creation42664756
Photo Editing Score65297808
Rendering and Visualization Score26522838
Video Editting Score44844855
CINEBENCH R20.060
CPU21331980
CPU (Single Core)536550
CINEBENCH R23.200
CPU41364795
CPU (Single Core)13561415
3DMark Professional Editionv2.15.7113
Night Raid1456416500
Graphics Score1693221327
CPU Score81267299
Sky Diver1184714190
Graphics Score1179315289
Physics Score1105310323
Combined score1381314530
Time Spy14071771
Graphics Score12561608
CPU Score44764177

 結果を見ると、Tiger Lake UP3搭載のLIFEBOOK UH-X/E3と比較してまずまずのスコアが得られていることがわかる。X1 NanoはTiger Lake UP4搭載なのでUH-X/E3に対してスコアが下回るのは仕方がないが、細かく結果を見るとスコアが上回っている部分もあり、ポテンシャルの高さがうかがえる。

 レノボは、X1 Nanoに強力な冷却システムを搭載するとともに、熱設計も高く設定しているとのことで、それによってプロセッサの性能を高いレベルで引き出せているのだろう。そのため、Tiger Lake UP4搭載でも性能面での不安はないと言える。

 加えて、高負荷時の空冷ファンの騒音も非常に静かだ。ファンの風切り音は耳に届くものの、それでも十分に静かで、これなら静かな場所でも高負荷な作業を気兼ねなく行えるだろう。

 続いてバッテリ駆動時間だ。X1 Nanoの公称の駆動時間は最大約22.8時間(JEITAバッテリー動作時間測定法 Ver2.0での数字)とされている。それに対し、Windowsの省電力設定を「バランス」、電源モードを「より良いバッテリー」、バックライト輝度を50%に設定し、キーボードバックライトをオフ、無線LANを有効にした状態で、PCMark 10のBatteryテスト「PCMark 10 Battery Profile」の「Modern Office」を利用して計測したところ、12時間43分を記録した。これなら、実利用でも10時間は余裕でクリアするはずで、1日の外出時にバッテリー残量を気にする場面はほぼないはずだ。900g少々の軽さと長時間駆動で、モバイル性能は申し分ないと言える。

完成度の高いモバイルノートとして魅力的な存在

 X1 Nanoは、ThinkPad史上最軽量を実現していることが最大の注目ポイントだが、実際に使用してみて、軽さを実現しながらも、ThinkPadシリーズに欠かせないさまざまな特徴をしっかり受け継ぎ、軽量化に伴う妥協点が少ないという点も大きな魅力だと実感できた。競合製品には、X1 Nanoよりも軽量な製品も存在するが、そういった製品ではさまざまな妥協を強いられることが多く、X1 Nanoの完成度の高さは抜きん出ていると言える。

 性能が申し分なく、優れた堅牢性で安心して持ち歩け、外出先で長時間利用できる軽量モバイルノートパソコンを探している人なら、間違いなく満足できる製品と言っていいだろう。