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Ryzen 7 2700U搭載の高コスパノート「デル New Inspiron 15 5000(AMD)」

デル「New Inspiron 15 5000(AMD) プラチナSSD」

 デルは、Ryzen Moible搭載ノートPC「New Inspiron 15 5000(AMD)」シリーズに新モデル“プラチナSSD”を追加した。APUにRyzen Moible最上位モデルとなる「Ryzen 7 2700U」を採用するとともに、PCIe接続の高速SSDを搭載するなど、メインストリームノートながらスペックをきわめたモデルとなっている。

 今回、いち早く試用する機会を得たので、ハード面や性能をチェックしたいと思う。発売時期は2018年5月中旬を予定しており、価格は未定。

Ryzen Moible最上位「Ryzen 7 2700U」など充実のスペックを搭載

 2017年3月に登場した、Zenアーキテクチャ採用CPU「Ryzen」シリーズは、メインストリーム向けCPUながら最大8コアのCPUコアを内蔵するだけでなく、競合のIntel製CPUに対する価格的なメリットもあり、ひさびさに自作PC市場を大きく盛り上げる存在となった。

 その後も、最大16コアを内蔵する「Ryzen Threadripper」を投入するなど、Ryzenシリーズはハイエンド自作PCユーザーを中心に広く受け入れられている。2018年4月に、Ryzenの第2世代モデルが発売となったことも、まだ記憶に新しいところだ。

 そのRyzenシリーズのモバイル向けとなる「Ryzen Mobile」は、ZenアーキテクチャのCPUコアとRadeon VegaアーキテクチャのGPUを統合。そして、デルの「New Inspiron 15 5000(AMD) プラチナSSD」では、Ryzen Mobileの最上位モデルとなる「Ryzen 7 2700U」を搭載している。

 Ryzen 7 2700Uでは、CPUコアを4個内蔵し、8スレッド処理に対応。CPUコアの動作クロックは、標準が2.2GHzで、ターボ動作時最大3.8GHzとなっており、Core i7-8550Uとほぼ競合するスペックとなっている。

 また、統合GPUは、Radeon Vegaアーキテクチャの「Radeon RX Vega 10 Graphics」となる。こちらは、10コアのグラフィックスコアを備えるGPUで、GPUコアの動作クロックは最大1,300MHzとなっており、Intel製CPUに統合されるグラフィックス機能に比べて優れた描画能力を発揮する。こういったスペックを実現することによって、競合のIntel製CPUと十分に張り合える実力を備えている。

 そして、なにより大きな魅力となるのが、Ryzen Moible搭載ノートPCはコストパフォーマンスに優れるという点だろう。実際に、New Inspiron 15 5000(AMD)シリーズは、同等クラスのIntel製CPU搭載製品と比べても安価に購入できる。

 現時点ではまだ販売が開始されていないが、今回取り上げているNew Inspiron 15 5000(AMD) プラチナSSDについても、同等スペックのIntel製CPU搭載モデルよりも安価になると考えられる。そういった意味で、かなりコストパフォーマンスに優れる製品と言えるだろう。実際の性能についてはのちほどベンチマークテストで検証する。

 また、Ryzen Moible最上位モデル搭載ということで、そのほかのスペックも充実している。デルの製品ということで、メモリ容量や内蔵ストレージの種類などはカスタマイズ可能となっているが、試用機ではメモリにDDR4-2400を16GB(8GB×2)、内蔵ストレージに容量512GBのPCIe/NVMe SSDを搭載するなど、ハイエンドPCに匹敵するスペックとなっていた。

 Inspironシリーズということで、基本的にはゲーミング向けなどハイエンド志向のPCというわけではないが、このスペックならハイエンドPCの領域も十分にカバーできそうだ。

デザインはInspironシリーズとして標準的

 本体デザインは、15.6型液晶を搭載するInspironシリーズとしてほぼ標準的なものとなっている。コストパフォーマンス追求モデルということで、樹脂製筐体を採用。天板や底面はフラットで、側面付近はなだらかにカーブしている。

 ゲーミングPCのような奇抜なデザインも採用していないため、落ち着いた印象だ。外装の質感はカラーによって異なるが、試用したブラックは全体的にメタリック調で、天板はマット処理、キーボード面はヘアライン処理が施されており、質感は悪くない。全体的には、メインストリーム向けPCとして標準的なデザインと言える。

 サイズは、380×258×22.7mm(幅×奥行き×高さ)となっている。こちらも、15.6型液晶を搭載するノートPCとしては標準的なサイズだ。重量は、公称で2.221kg、実測では2,144gだった。こちらも、このクラスのノートPCとして標準的な重さで、家庭内やオフィスで持ち歩くとしても、それほど苦にはならないだろう。

本体を正面から見た様子。デザインはInspironシリーズとして標準的なものだ
天板部分。筐体素材は樹脂だが、メタリック調の塗装が施され質感は悪くない。フットプリントは、380×258mm(幅×奥行き)
本体正面
左側面。高さは22.7mmと、特別薄いわけではない
背面
右側面
底面
重量は実測で2,144gだった

フルHD表示対応の15.6型液晶を搭載

 ディスプレイには、1,920×1,080ドット表示対応の15.6型液晶を搭載する。このクラスのノートPCではHD表示対応の液晶を搭載する例も少なくないが、フルHD表示対応の液晶を搭載することで、十分に広い作業領域を確保できる。これなら、ビジネスからホビーまで、十分な表示環境が確保されていると言える。

 パネルの表面は非光沢となっており、外光の映り込みはほぼ気にならない。表示品質は、全体的にやや発色が淡く、青がやや強いという印象で、発色の鮮やかさという点では光沢液晶に劣る印象だ。

 ところで、パネルの種類は非公開だが、視野角がやや狭いため、おそらくTNパネルと思われる。そのため、利用時には視野角の狭さが気になる場面もやや多く感じられた。あまり視点の位置を動かさずに正面からディスプレイを見るぶんには大きな問題はないが、ちょっとした視点移動で明るさや色合いの微妙な変化が感じられる点は、気になる人も多そうだ。性能を考えると、オプションとしてIPS液晶の選択肢も用意してもらいたいところだ。

1,920×1,080ドット表示対応の15.6型液晶を搭載
発色は全体的に淡く、また青が強い印象
TNパネルを採用しているようで視野角がややせまく、視点を移動させると明るさや色合いが大きく変化する

テンキー付きキーボードを搭載

 キーボードは、アイソレーションタイプのキーボードを搭載する。主要キーのキーピッチは約19mmフルピッチを確保。ストロークはこのクラスのノートPCのキーボードとしてはやや浅めの印象だが、やや硬めのタッチとしっかりとしたクリック感のため、ストロークの浅さはそれほど感じられなかった。また、Enterキー右には、少し間隔を置いてテンキーを配置。数字の入力を多用する場合でも、快適な入力が可能だ。

 ところで、Enterキー付近の一部キーや、スペースキー左右の無変換と変換キーが、やや特殊な実装となっている。英語キー配列のキーボードを、一部キーを分割して日本語キー配列に対応させている形だ。この変則なキー関して、実利用上それほど問題は感じなかったが、見た目にはあまり印象が良くない。コストダウンが必要なメインストリームノートではしかたがないかもしれないが、できれば標準的な日本語配列キーボードを搭載してもらいたかったように思う。

 なお、このキーボードは防滴仕様となっており、万が一水などをキーボード面にこぼした場合でも、内部へ侵入しにくいようになっている。合わせて、主要キーは1,000万回の打鍵テストをクリアする高耐久性も確保されているという。そのため、安心して長期利用できるだろう。

 ポインティングデバイスは、クリックボタン一体型のタッチパッドを搭載する。こちらはパッド面の面積がかなり大きく、ジェスチャー操作にも対応しているため、十分に軽快な操作が可能だった。

テンキー付きのアイソレーションキーボードを搭載。防滴仕様で優れた耐久性も確保されている
Enterキーとテンキーの間は幅が取られ、利便性は申し分ない。ただ、Enterキー付近の一部キーの実装がやや変則的だ
スペースキー左右の無変換と変換キーの実装も変則的。できれば標準仕様の日本語配列キーボードを搭載してもらいたかった
主要キーのキーピッチは約19mmフルピッチを確保
ストロークは浅めだが、やや硬めのタッチとしっかりとしたクリック感で打鍵感はまずまず
クリックボタン一体型のタッチパッドは面積が大きく、ジェスチャー操作にも対応しており扱いやすい

指紋認証センサー一体型の電源ボタンを用意

 搭載CPUや、メモリ容量、内蔵ストレージ容量などのスペックは冒頭で紹介しているので、ここではそれ以外の仕様をチェックしよう。

 無線機能は、IEEE 802.11a/b/g/n/ac準拠無線LAN(1×1)とBluetooth 4.1を標準搭載。側面ポート類は、左側面に電源ポート、HDMI出力、Gigabit Ethernet、USB 3.1 Gen1×2、オーディオジャックを、右側面にSDカードスロット、USB 2.0×1の各ポートを備える。また、右側面にはトレイタイプのDVDスーパーマルチドライブを搭載している。このほか、ディスプレイ上部中央には、720p対応のWebカメラも搭載する。

 電源ボタンはキーボード右上に配置しているが、この電源ボタンにはWindows Hello対応の指紋認証センサーを内蔵している。電源投入後にログイン画面でタッチするだけで、簡単かつ安全にWindowsへのログインが行なえる。なお、電源投入時に電源ボタンを押した段階で指紋が読み取られるわけではないので、電源断からは電源投入時に電源ボタンを押し、ログイン画面でもう一度電源ボタンをタッチする必要がある。

 付属ACアダプタは、このクラスのノートPCとしてはかなり小型のものとなっている。出力は45Wで、付属電源ケーブル込みの重量は263gだった。

左側面に電源ポート、HDMI出力、Gigabit Ethernet、USB 3.1 Gen1×2、オーディオジャックを配置
右側面にSDカードスロット、USB 2.0×1を配置
右側面にはトレイ式のDVDスーパーマルチドライブを搭載
液晶上部中央に720pのWebカメラを搭載
キーボード右上の電源ボタンは、Windows Hello対応の指紋認証センサー一体型
電源投入と同時の指紋読み取りは行なわれないが、それでも利便性は申し分ない
付属ACアダプタは、このクラスのノートPCとしてはかなり小型だ
ACアダプタの重量は、付属電源ケーブル込みで実測263gだった

熱処理が厳しいのか、高負荷時に不安定な動作が見られた

 では、ベンチマークテストの結果を見ていこう。利用したベンチマークソフトは、Futuremarkの「PCMark 10 v1.0.1493」、「PCMark 8 v2.8.704」、「3DMark Professional Edition v2.4.4264」、Maxonの「CINEBENCH R15.0」、スクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク」の5種類。また、比較用として、レノボの「ThinkPad X280」と、LGエレクトロニクス・ジャパンの「LG gram 13Z980-GA56J」の結果も加えてある。

【表1】検証環境
New Inspiron 15 5000(AMD) プラチナSSDThinkPad X280LG gram 13Z980-GA56J
CPURyzen 7 2700U(2.2~3.8GHz)Core i7-8550U(1.8~4GHz)Core i5-8250U(1.6~3.4GHz)
チップセット-
ビデオチップRadeon RX Vega 10 GraphicsIntel UHD Graphics 620Intel UHD Graphics 620
メモリDDR4-2400 SDRAM 16GBDDR4-2400 SDRAM 8GBDDR4-2400 SDRAM 8GB
ストレージ512GB SSD(PCIe)256GB SSD(PCIe)256GB SSD(SATA)
OSWindows 10 Home 64bitWindows 10 Pro 64bitWindows 10 Home 64bit
【表2】ベンチマーク結果
New Inspiron 15 5000(AMD) プラチナSSDThinkPad X280LG gram 13Z980-GA56J
PCMark 10v1.0.1493v1.0.1457
PCMark 10 Score3,1143,9443,206
Essentials6,7367,8636,682
App Start-up Score7,0899,8497,435
Video Conferencing Score6,6816,8976,500
Web Browsing Score6,4567,1576,174
Productivity4,4216,7545,584
Spreadsheets Score5,5288,0756,656
Writing Score3,5365,6504,686
Digital Content Creation2,7543,1352,398
Photo Editing Score4,0663,7182,902
Rendering and Visualization Score2,4352,0981,653
Video Editting Score2,1123,9522,878
PCMark 8v2.8.704
Home Accelarated 3.03,4853,5263,165
Creative accelarated 3.03,7353,7253,289
Work accelarated 2.04,4924,8074,558
Storage5,0465,0674,857
CINEBENCH R15.0
OpenGL (fps)52.542.6844.87
CPU619638531
CPU (Single Core)124170143
3DMark Professional Editionv2.4.4264
Cloud Gate9,2039,2427,310
Graphics Score12,48410,2168,108
Physics Score4,7946,9305,438
Sky Diver6,8254,8744,039
Graphics Score7,0824,5463,771
Physics Score6,1088,3806,735
Combined score6,2324,4943,792
ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク
1,280×720ドット 標準品質(ノートPC)5,1243,1853,011
1,920×1,080ドット 標準品質(ノートPC)3,3452,1541,665

 結果を見ると、CPUや統合GPUの仕様のわりに、スコアがあまり伸びていない。PCMark 10やPCMark 8のスコアは、Core i7-8550U搭載のThinkPad X280を上回っているものもあるが、大部分が下回っており、なかにはCore i5-8250U搭載のLG gram 13Z980-GA56Jを下回る部分もある。実力としては、Core i7-8550UとCore i5-8250Uの間ぐらいといった感じだ。

 また、グラフィックスまわりのスコアも、多くがThinkPad X280のスコアを上回っているものの、こちらも物足りない印象。GPUの仕様を考えると、もっとスコアが伸びても良いはずだ。ただ、テスト中には本体底面やキーボード面上部がかなり温かくなるため、もしかしたら熱処理が追いついていないのかもしれない。そこで、「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク」実行中のCPUとGPUの温度推移や、GPUの動作クロック推移をチェックしてみた。

 結果を見ると、テスト開始直後はGPUの動作クロックが700~900MHzほどで動作しているものの、その後じょじょにクロックが低下し、テストが4分の1ほど進んだあとは300~400MHzで推移していることがわかる。

 また、CPUとGPUの温度を見ると、テスト開始後にじょじょに温度が上がって90℃近くまで上昇し、その後温度が下がって70℃ほどで推移している。このことから、ベンチマークテスト中の高負荷時には熱処理が追いつかずに動作クロックが下がってしまい、本来の性能がフルに引き出せていないと考えられる。

 固体固有の問題という可能性もあるが、おそらくNew Inspiron 15 5000(AMD) プラチナSSDの熱設計がRyzen 7 2700Uに合っていないということが問題と考えられる。メインストリームPCでは、コストにかなりシビアとなるため、高コストな冷却システムを採用できなかったのかもしれない。とはいえ、高性能なCPUを搭載するなら、やはりそれに見合う冷却システムは搭載してもらいたい。せっかくの性能がフルに引き出せないはやはり残念なので、今後の改善を期待したい。

 ちなみに、テスト中の空冷ファンの動作音は、音はそこそこ大きいものの、ゲーミングPCのような爆音といった感じではない。音は確実に耳に届くが、がまんできないようなうるささではないと言っていいだろう。

「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク」実行中のCPUとGPUの温度推移
「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク」実行中のGPU動作クロックの推移

 続いて、バッテリ駆動時間も念のため計測してみた。Windowsの省電力設定を「バランス」、電源モードを「(バッテリー)より良いバッテリー」、バックライト輝度を50%に設定し、無線LANを有効にした状態で、BBenchでキー入力とWeb巡回にチェックを入れて計測したところ、約4時間59分を記録した。

 モバイルPCではないため、とくに長時間のバッテリ駆動時間が求められるわけではないが、それでも実測で5時間近い駆動時間なら、自宅やオフィスで持ち歩いてい利用する場合でも安心だろう。

コストパフォーマンスは優れるので、冷却システムの強化を期待

 New Inspiron 15 5000(AMD) プラチナSSDは、Ryzen Moible最上位となるRyzen 7 2700Uを採用するとともに、大容量メモリや高速PCIe/NVMe SSDを搭載するなど、メインストリーム向けのPCとしてかなり贅沢な仕様となっている。

 個別に見ると、液晶などコストダウンの影響も見られるが、全体的にはこの価格帯のPCとして充実した内容の製品に仕上がっていると感じる。

 ただ、今回のテストでは、熱処理の問題からか、CPUやGPUの性能がフルに引き出せていないように思われる点がかなり残念だった。もちろん、これは試用機固有の問題という可能性もあるが、おそらくRyzen Moibleに対応した熱設計となっていないための問題と考えられる。

 メインストリーム向けのPCでは、あまりコストをかけられないのも理解できるが、やはり本来の性能が引き出せていない点はかなり残念なので改善を期待したい。

 この点を差し引いて考える必要があるとしても、全体としてはコストパフォーマンスは十分に優れており、実際に使ってみて不満を感じる部分は多くないだろう。なにより、Intel製CPU搭載モデルよりも3D描画能力が優れるのは間違いなく、それほど重くない3Dゲームなら十分プレイできるはずだ。そのため、なるべくコストはかけたくないが、性能に余裕のあるPCがほしいという人におすすめしたい。