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ゲーミングデバイスメーカーが繰り出すモバイルノート「Razer Blade Stealth」

Razer Blade Stealth

 Razerは、12.5型のモバイルノート「Razer Blade Stealth」(以下:Stealth)を日本国内で発売した。直販での税別価格は119,800円と、スペックを考えると比較的リーズナブルに設定されている。発売から1カ月以上が経っているのだが、今回はお借りしたQHD/ストレージ256GBモデルのインプレッションをお届けしたい。

“ゲーミング界のApple”が繰り出す「フツーのモバイルノート」

 Razerと言えば、やはりゲーミングマウスやキーボードを手掛ける周辺機器メーカーというイメージが強い。しかし近年はPC本体もリリースしており、周辺機器メーカーからPCゲーミング全般を手掛けるメーカーへと変化している。

 Razer製PCの最大の特徴は、Appleに代表されるような「ミニマリズム」精神を取り入れている点。つまり、必要最小限のデザインだ。機能を実現する上で必要なデザインを最小限に留め、“デザインのためにデザインをしない”というのが開発コンセプトである。このため海外では、Razer製PCことを“ゲーミング界のApple”などと呼んでいるという。

 詳細は後述するが、Stealthもその精神に則っており、デザイン上での無駄はほぼない。“ゲーミングノート”と言うと、やたらと多角形を取り入れたデザインを思い浮かぶが、Stealthはデザインで凝っている点はあまりなく、一般人にも受け入れやすいデザインである。このメーカーイメージとのギャップが、本製品の最大の特徴と言える。

パッケージと外観

 それでは早速パッケージおよび外観から見ていく。パッケージは大きめの茶箱で、この中に本体およびマニュアルを収めた箱と、ACアダプタ/ケーブルを収めた箱が2つ入っている。本体が入っている箱の方は薄くて小さく、シンプルなエンボス加工がされている。この辺りはAppleに似た印象を受ける。

 本体はマットなブラック仕上げで、アルミ筐体も手伝ってなかなか高級感がある。天板はボンネット構造で強度を増やしているが、そのほかはAppleのMacBook Proをそのまま黒くしたと言われればその通りかも知れない。しかし、表面はかなり指紋や手汗が付着しやすいのが気になった。毎日持ち運ぶなら、日々のメンテナンス(拭き取り)も欠かせないだろう。そのためのクリーニングクロスも付属している。

 USBポート類はグリーンの塗装がされており、この辺りはコーポレートカラーをイメージしている。個人的には好みの色である。天板にはRazerのロゴ(3匹の蛇)が入れられており、稼働時(液晶点灯時)はグリーンに光るようになっている。このロゴのデザインについては好みがあるだろう。個人的な意見だが、できればもう少し小さくして欲しかった。

 フットプリントは321×206mm(幅×奥行き)と12.5型としては大型で、13.3型クラスに匹敵する。12.5型クラスのフットプリントを期待していたユーザーにはややつらいかも知れない。しかし剛性はなかなかのもので、端などを持ってもたわむことがなく、安定感がある。加えて電源ボタンがキーボード上部中央に設置されているため、左辺/右辺のどちらを持っても電源ボタンを誤作動させてしまうことは避けられる。さまざまな持ち方が考えられるモバイル用途においては満足が行く設計だ。

 重量については1.25kg(実測1.268kg)とこのサイズのクラスとしては軽くはないが、後述するCore iプロセッサやIGZOディスプレイ、タッチパネルなどを搭載していると考えれば、なかなか立派な数字だ。

製品パッケージ
ACアダプタが収納されている箱(左)と、本体の箱(右)
天板のロゴは液晶点灯時に光る
重量は実測で1.268kgであった

モバイルノートとしては高いスペックを実現

 本機の特徴を語る上で避けて通れないのがスペックである。ビデオカードが装着できるドッキングステーション「CORE」の拡張により、ゲーミングもある程度視野に入れているスペックだからだ。本機はスペックの違いで4モデルが用意されている。

 CPUは全モデル共通で、Skylake世代のCore i7-6500U(2.5GHz、ビデオ機能内蔵)を搭載。デュアルコア/4スレッド対応の製品で、残念ながら最上位のSKUではないのだが、モバイル用途には十分な性能である。メモリは8GBと、こちらも一般用途としては十分。メモリは調達歩留まりの都合上DDR4ではなくLPDDR3-1866なのだが、デュアルチャネルアクセスで、バンド幅は確保されている。

 今回試用したのはQHDモデル。ストレージは256GBで、高速なNVM Express接続のSSDが採用されている点や、液晶解像度が2,560×1,440ドット(QHD)で一般的なノートPCよりも高解像度を実現している点は、価格を考えれば大きく評価すべきだろう。スペックを考慮した場合、本機のコストパフォーマンスの高さが光る。

 インターフェイスはUSB 3.0×2、Thunderbolt 3、HDMI 1.4b出力、200万画素Webカメラ、音声入出力を備えている。12.5型のMacBookはUSB Type-Cしかないので、それと比較すると豊富だが、このサイズであればSDカードスロットを付けて欲しかったというのが本音だ。4Kモデルでは、AdobeRGBカバー率100%のパネル搭載を謳われており、デジタルカメラの写真を取り扱うユーザーもいるだろうが、こういった場合ケーブルを持ち運び、カメラのUSB機能を使うか、Wi-Fi経由で取り込むことになりそうだ。

発色が非常に鮮やかなIGZOパネルを採用
本体左側面。Thunderbolt 3およびUSB 3.0、3.5mmミニプラグを備える
右側面はもう1基のUSB 3.0とHDMI 1.4b出力を装備
前面に電源インジケータを装備。また、指を入れて液晶を開くために溝も掘られている
背面は何もない
本体底面

気になる使い勝手はどうか

 キーボードは19.5mmのピッチを確保しており、窮屈さは一切ない。アイソレーション方式だが、日本へ投入するにあたりきちんとフレームまでローカライズされているため、いびつなキー配列がない点は高く評価したい。薄型ノートならではの短いストロークは思った通りと言った感じだが、近年の薄型モバイルノートに慣れた人であれば特に気にならないだろう。長文入力も特にストレスを感じることはない。

 キーボードは独特のChromaライティングシステム(RGB LEDバックライト)が採用されている。このLEDの発色方法は、プリインストールのユーティリティ「Synapse」から変更可能だ。初期からプリインストールされているバージョン1.20では一部表示に日本語の変換ミスが見られるが、次第にアップデートで改善するだろう。

 タッチパッドについても広く確保されており、高解像度画面でもカーソル移動がストレスになることはない。優しい摩擦で滑りもよく、長時間利用でもストレスにならなかった。筆者は外出先にノートを持ち運んで使う際に必ずと言っていいほどマウスも同時に持ち運ぶのだが、Stealthぐらいのクオリティのタッチパッドであればマウスは不要だと感じた。

 キーボードの左右には大きくスピーカーの開口がある。スピーカーの音質については、薄型筐体の割には頑張っている印象だが、やはり低域が少なく、音の広がりもあまり感じられない。簡単なYouTube動画再生や適当な音楽鑑賞には耐えるクオリティだが、迫力のゲームサウンドを楽しむのであれば外部スピーカーが必須だ。

キーボードは日本語向けにローカライズされている
バックライトはFnキー押下時、ファンクションキーだけが光る
キーピッチは約19.5mm
タッチパッドの幅は約105mm
奥行きは約65mm。かなり余裕がある
本体左右にスピーカーの開口部がある

 液晶はIGZOパネルを採用していることもあり、発色は非常に鮮やか。精細感が非常に高い上に視野角も広く、大変美しいディスプレイだと感じる。ただ輝度を最高にしても、明るい事務室内ではやや暗く感じられた。また、表面は光沢処理がされており、反射がやや多め。先述の最大輝度の暗さもあって、やや見にくく感じる場面もあるかもしれない。ただ自宅など照明がさほど明るくない場所では気にならないだろう。

 解像度はQHDで、Windowsのデフォルトスケーリング表示150%だった。これは文字表示が綺麗なのだが、せっかくの情報量を活かせない。個人的には125%辺りが妥当ではないかと思う。なお、100%表示にしても一応文字は読める。

先述の通り色は鮮やかだが、表面の反射はやや強め
Windowsの推奨スケーリングは150%だが、情報量がやや少ない
125%辺りがバランス取れている
100%でもなんとか文字は読める

 薄型ノートの宿命とも言える熱だが、本機はヒンジ部に大きく開口部が用意されており、ヒートシンクも比較的大型のためか、ベンチマーク中や試用中気になることはまったくなかった。特にパームレストは非常に快適で、熱がストレスになることはまずない。

ファンは騒音がやや大きい。この辺りは薄さとトレードオフだ

 その代わりファンの音はやや大きく、深夜や静かな場所での使用は音に気を取られてしまう。CPU負荷に応じてダイレクトに反応する印象があるのだが、上昇する方はアルゴリズム的にもう少しディレイがあっても良いのではないかと思った。

 ACアダプタはUSB Type-C接続の45Wタイプと、容量が少ないためかなり小型。スリムでケーブルバンドも付いているため、かばんでの持ち運びは問題ないだろう。一方で気になるのはACケーブル。3ピンのいわゆるミッキータイプだが、このケーブルが結構太くて、なおかつコンセントのプラグもかなり大きくかさばる。モバイルを考慮しているのであれば、2ピンにするか、やはりウォールマウントタイプはオマケで付けて欲しかった。この辺りは次機での改善を期待したい。

ACアダプタとACケーブル
コネクタはミッキータイプ
ACケーブルは太く、ややかさばる
USB Type-Cで充電する

期待通りの高性能

 それでは最後にベンチマークテストを実施してまとめとしたい。使用したベンチマークは「PCMark 8」、「ファイナルファンタジーXIオフィシャルベンチマーク3」(FFXIベンチ)、および「SiSoftware Sandra 2016」である。

 筆者が同様のベンチマークを走らせたのは「HP ProBook 455 G3 Notebook PC」以来なので、価格は大きく違うがそちらの値を参考値として掲載する。本来比較すべきなのは同価格帯のデルの「XPS 13」や「HP Spectre 13」なので、そちらの記事のベンチマークの値も合わせて参照していただきたい。

HP ProBook G455 G3Razer Blade Stealth
CPUA10-8700PCore i7-6500U
メモリ4GB8GB
ストレージ500GB HDD128GB SSD
OSWindows 7Windows 10 Home
PCMark8
Home accelerated25863202
Web Browsing-JunglePin0.443s0.323s
Web Browsing-Amazonia0.147s0.135s
Writing5.73s4.21s
Photo Editing v20.372s0.333s
Video Chatv2/Video Chat playback 1 v230fps30fps
Video Chat v2/Video Chat encoding v252ms75.3ms
Casual Gaming18.3fps34.7fps
Creative Accelerated25573663
Web Browsing-JunglePin0.442s0.324s
Web Browsing-Amazonia0.147s0.135s
Video Group Chat v2/Video Group Chat playback 1 v230fps30fps
Video Group Chat v2/Video Group Chat playback 2 v230fps30fps
Video Group Chat v2/Video Group Chat playback 3 v230fps30fps
Video Chat v2/Video Chat encoding v260.7ms77ms
Photo Editing v20.375s0.332s
Batch Photo Editing v236.5s19.3s
Video Editing part 1v219.4s16.2s
Video Editing part21v234.2s23.6s
Mainstream Gaming part 17.9fps9.8fps
Mainstream Gaming part 24.5fps4.7fps
Video To Go part 148.4s8.9s
Video To Go part 238.6s13.8s
Music To Go83.25s16.83s
ファイナルファンタジーXIオフィシャルベンチマーク3
Low63728196
High45285515
Sisoftware Sandra
Dhrystone44.5GIPS59.35GIPS
Whetstone22.48GFLOPS36.55GFLOPS
Whetstone Double15.36GFLOPS30.26GFLOPS
FP Shader Native460.09Mpixel/sec365.62Mpixel/s
Double Shader Native188.91Mpixel/sec102.36Mpixel/s
Quad Shader Emulate14Mpixel/sec54.15Mpixel/s

 本機は高速なNVM Express SSDを採用していることもあり、PCMark 8のスコアはHomeで3,020、Creativeで3,663と比較的高い。同じCPUと同じ解像度の液晶を搭載した「LaVie Hybrid ZERO HZ750/DAB」と比較してスコアが低いのが気になるが、実用上体感できる差はほぼないだろう。

 3DMarkなども実施してみたが、Cloud Gateのスコアが取得できなかったなど、一部不安定な面も見られたので、掲載を省略する。Skylake世代でのGPU性能強化は目を見張るものがあるが、ドライバが未熟である点や絶対的な性能という点で、現代的な3Dゲームをプレイするにはやはり力不足である。Razerはそこをよく理解しており、だからこそ「Core」のようなビデオカード外付けソリューションを提供しているのだろう。

 バッテリ駆動時間についてだが、従来PC WatchではBBenchにより、Web巡回とキーストロークを繰り返す単純なテストを行なっていたが、「Edgeがほかのブラウザより低消費電力」であることが明らかになったことを踏まえ、これは現実的なユーザー利用から大きく乖離すると考え、テストをPCMark 8のHomeによるバッテリテストに切り替えることにした。液晶輝度は50%、電源プランは「バランス」である。

 その結果は3時間32分だった。筆者としては初計測なので、これが実利用として長いのか短いのが判断し難いが、PCMark 8のHomeはさまざまな処理が絶えず実施されるため、実際の利用よりも厳しいと予想される。実利用では4~5時間と見積もっても良さそうだ。一日中電源が取れない場所での利用は厳しいが、外出先や移動中、サクッと使う分にはちょうどいいだろう。

低価格で高スペックを求めたいモバイルユーザーに。本領発揮はCore発売待ち

 Stealthを試して感じたのは“安心感”であった。つまり質実剛健である点だ。本来Razerに期待すべき製品は、やはりディスクリートGPUを搭載したゲーミングノートPCなのだが、本機はあえてGPUを省き、決して無理はしていない重量に、Core i7とNVM Express SSDの性能、高解像度のIGZOディスプレイとタッチパネルを、無難なデザインに収めた。RazerはStealthを機に、ゲーマーではないより多くの一般ユーザーを獲得したいと話していたが、この質実剛健さで一般層にも受け入れやすい製品には仕上がっているのは確かだ。

 ただStealthの本領が発揮されるのは、やはりCoreと組み合わせた時だろう。CoreはThunderbolt 3経由で、ユーザーが自由に選択したハイエンドビデオカードを接続できる。また、Gigabit EthernetやUSB 3.0 Hubなどを内蔵し、ドッキングステーションとして機能する。StealthをCoreに接続するだけで、本格3Dゲームプレイ環境を構築できるわけだ。Stealthには、今自宅にあるゲーミング用デスクトップを完全に排除できるほどのポテンシャルが秘められている。

 ともすればやはりCoreの日本投入が気になるのだが、今のところRazerからのアナウンスはない。海外でかなり人気のようで、生産が追いついていないためだ。もちろん、日本国内にも投入されるだろうから、Stealthの本領が発揮されるのはそこからだ。特に「BYODで会社にも持って行くし、外出先でモバイルはするが、自宅でゲームもプレイしたい。1台で済ませたい。しかしその性能を妥協したくない」というちょっと欲張りなユーザーに、おすすめしたい機種である。