元麻布春男の週刊PCホットライン

新インターフェイス規格「Thunderbolt」は普及するのか



MacBook Proの17インチモデル

 米国時間2011年2月24日、AppleはMacBook Proの製品ラインナップを一新し、13インチモデル、15インチモデル、17インチモデルのすべてを更新した。今回の目玉というかセールスポイントは、Intelの第2世代Core iプロセッサーによる最新プラットフォームの採用、最新のRadeonグラフィックス(15インチおよび17インチモデル)、そしてThunderboltといったところだ。が、今さら本コラムの読者に第2世代Core iプロセッサーや、Radeonグラフィックスについて語ってもしょうがない。何と言っても話題はThunderboltということになるだろう。

 その前に、新しいMacBook Proで、筆者にとって最大の発見について触れておきたい。それは、上の3点とは全く関係なく、スリープから復帰した際に、光学ドライブが吠えるかどうかだった。MacBookが採用するスロットインタイプの光学ドライブは、格好いいのだが、スリープから復帰する際に初期化され、「ギャーオ」と音がするのが難点だった。

 特に、コンテンツのパッケージ離れが進み、Apple自身がMac用ソフトウェアのAppStoreによるダウンロード販売に踏み切った今、光学ドライブを利用する機会はますます減っている。一家に1ドライブは必要だとは思うが、本体の中で常時待機している必要はないというのが筆者の実感だ。その使う機会の少ない光学ドライブが、スリープから復帰するたびに吠えるのはちょっと考えもの。MacBook Airに切り替えて良かったことの1つが、光学ドライブを持たないので、この音に悩まされることはないということだった。

 ところが新しいMacBook Proは、スリープから無音で復帰する。ただ、これがすべての製品で保証されるとは限らない。一般にPC(Macも含む)のパーツは、可能な限り複数の供給元から調達する。それができずに、Intel製チップセットのリコールできりきり舞いさせられたのは記憶に新しい。そういう事態を避けるため、普通は複数のベンダーからパーツを調達し、リスクを分散させるから、今回筆者が触れた個体だけが、静かなドライブを搭載していたのかもしれない。うるさいHDDにあたるか、静かなHDDにあたるかは運任せだ。

 そこでAppleの担当者に、これ(光学ドライブが吠えないこと)は仕様として保証されるのか、と尋ねたのだが、そんなことを聞かれるとは思っていなかったようで、ハッキリとした保証は得られなかった。ただ、設計チームが静音化には気をつかっていたのは事実だとの答えだった。おそらく、今度のMacBook Proは大丈夫なんではないかと思う。

●疑問の多いThunderbolt

Thunderboltのインターフェイス

 さて、Thunderbolt Technologyだが、IntelとAppleが共同開発したものとされ、最大10Gbpsのデータ転送速度(片側、双方向だと20Gbps)を持つ高速I/O技術である。プロトコルとしてPCI ExpressとDisplayPortの両方をサポートしており、既存のDisplayPort対応周辺機器(主に液晶ディスプレイ)と互換性を持つ。DisplayPortデバイスが接続されると、Thunderboltコントローラは、DisplayPort互換モードで動作するのだといわれており、ネイティブモードはPCI Expressモードなのだろう。ご存じのようにPCI Expressは、PC内部I/Oのいわば主役であり、たいていのI/OがPCI Express経由で行なわれる。というわけで、Thunderboltは1本のケーブルで何でも接続できるテクノロジーである、とも言われている。

 MacBook Proでは、左側面にこのThunderboltのコネクタが用意されている。コネクタを見る限り、コネクタそのものは以前から使われていたMini DisplayPortと同じで、ロゴだけがディスプレイを示すものからThunderboltを表す稲妻のマークに変わったようにしか見えない。Appleが用意するThunderbolt用ケーブルも見せてもらったが、見た目でDisplayPortのケーブルとの違いは分からなかった。とりあえず、MacBook Proが採用するコネクタ、提供するケーブルともに、銅線を利用したものであることは間違いない。

 ところが、Intelが公開している資料では、Thunderboltでは物理層に光を使うことも可能だとされている。小さなコネクタで、銅線と光の両方に対応するとも書かれている。だが、どう見てもMacBook Proのコネクタに光は出力されていないから、コネクタの外で光に変換するのだろうか。物理層に光を使うケースについては、今のところよくわからないことが多い。

 物理層に光を使うオプションが用意されていることでも推察されるように、このThunderboltは、以前LightPeakとして開発されていたものだという。LightPeakは、シリコンフォトニクス技術を使って、安価に光による高速データ通信を行なうハズのものだったが、いつの間にか変貌を遂げてしまったことになる。筆者は何度かLightPeakのデモを見ているが、10Gbpsという最大データ転送速度以外に、ThunderboltとLightPeakの類似性をほとんど見つけることができない。

 例えば、バスのトポロジだが、2010年6月のResearch@Intel Dayで見たデモは、ハブを使ったスター型のものだった。しかし、Thunderboltはデイジーチェイン型になっている(最大6台の周辺機器を接続可能)。SCSIといい、FireWire(IEEE 1394)といい、Appleはデイジーチェインが好きなようである。

Thunderboltの構成。周辺機器側にもIntel製のコントローラが必要になる。ケーブル長は最大で3mとされるホスト側のシステムダイアグラム。外付けグラフィックスと内蔵グラフィックスの両方をサポート可能なようだ昨年6月のResearch@Intel Dayにおけるデモで使われていた4ポートのLightPeakハブ。PCの拡張スロットに収納可能なものだった

 それはともかく、デイジーチェインには、ハブ等の周辺機器が必要ないという簡便さがある一方で、途中のケーブルが断線したり、あるいは途中のデバイスの電源が落ちているだけで、両端のデバイスが通信できなくなったりする。電源オフ対策としては、バスパワーにより中継点のコントローラを駆動する方法があるのだが、光だと給電することができない。光を前提にするとそれほど良いトポロジではないように思う。一応、光も可能となっているが、実際に光を利用することは、ほとんど考えられていないのではないだろうか。デイジーチェインは、銅線を使った場合でも、断線やコネクタのゆるみといった障害を捜すのが結構厄介で、小規模の接続にしか使われない方式だとも言える。

 かといって、光に銅線を組み合わせては、光の長所をかなりの部分、打ち消してしまう。そもそも光のメリットは、

・高速
・ケーブル長を延ばせる
・ケーブルが細い
・コネクタが小さい
・消費電力が小さい(一定以上の距離と帯域を前提)

といったあたりだが、銅線を併用してしまうと、ケーブル長を延ばせなくなるし、ケーブルは太く、コネクタも大きくなる。

 逆に欠点は

・ケーブルの作成/製造がやっかい
・ケーブルを自由に折り曲げられない
・ケーブル/コネクタのコストが高い
・それだけではデバイスに給電できない

といったあたりで、銅線と光を組み合わせることで、ただでさえ厄介なケーブルの製造が余計にややこしくなる。2つを組み合わせることは、いいとこ取りにはならない。

 もう1つLightPeakから大きく変わってしまったのは、プロトコル周りだ。以前の説明ではLightPeakはマルチプロトコルであり、上位にUSBやTCP/IP、SATAなどさまざまなプロトコルを実装することが可能であり、そこがUSB 3.0との大きな違いだと説明されていた。しかし、今回発表されたThunderboltはDisplayPortとPCI Expressに絞られており、マルチプロトコルという印象は薄い。というわけで、LightPeakの名残りはほとんど感じられない。

 LightPeakとの類似性、継続性はともかく、果たしてThunderboltは普及するのだろうか。一番の焦点はそこだ。Thunderboltの長所は、何と言っても10Gbpsという高速性だろうが、実際に、今すぐこの帯域を必要とするコンシューマ向けの周辺機器は、ほとんど存在しない。それは、すでにリリースされているUSB 3.0に、これといったアプリケーションがないことでも明らかだ。6GbpsのSATAにしても、それが活かせるアプリケーションは限られる。

 むしろ気になるのは、なぜUSB 3.0や6GbpsのSATA 3.0といった先行する規格があるにもかかわらず、Thunderboltが登場することになったのか、ということだ。これが光であれば、まだ棲み分けも考えられるが、同じ銅線を使った規格では、それほど違いが出せるとは思えない。また、PCI Expressを外に引っ張り出したいのであれば、PCI Express Cable規格というのがすでに存在する。どうも必然性を感じにくい。あるいは、なぜAppleはストレートにUSB 3.0を採用しなかったのか。

 Thunderboltの普及を危ぶむもう1つの要素は、ホスト側だけでなく、周辺機器側にもThunderboltのコントローラが必要で、その供給元がIntelに限られることだ。IntelはThunderboltについて、他社にライセンスする意向を示しておらず、またThunderboltに関しては標準化団体も構成していない。現時点でThunderboltはIntelとAppleが共同開発した独自規格と言わざるを得ない。これなら、多くのPCベンダー、PC周辺機器ベンダーは、まずUSB 3.0の普及を目指すのではないだろうか。

現時点で発表されているサードパーティーは、WesternDigitaを除くとMac系のベンダーばかり

 USB 3.0のホストコントローラも、長らくルネサス(旧NECエレクトロニクス)による1社独占供給の状態が続いていたが、それは他のベンダーによる製品のUSB I/Fによる認証がなかなか通らなかったからに過ぎない。また、その間においても、周辺機器側のチップは複数社から提供されており、周辺機器側のチップもルネサス製を買わなければならない、ということはなかった。

 昨年(2010年)の6月、LightPeakのデモを見た際に不安を感じたのは、サードパーティーの不在だった。その不安は物理層が光から銅線になり、名前がThunderboltになっても変わらない。現時点でサードパーティーとして名前が挙がっているのは、Macの周辺機器ベンダーばかりだ。果たしてPCベンダーでThunderboltを採用するところは出てくるのだろうか。

 DRAMインターフェイスにおけるRambusのように、技術的に優れていると思われているのもかかわらず、なかなか採用されない技術というものがある。どうも通信分野では、光がこのパターンに当てはまりそうだ。そうであるがゆえに、採用ベンダーが現れないことに困ったIntelと、後追いでUSB 3.0を採用するのがおもしろくなかったAppleが手を組むことにしたのがThunderbolt、ということではなければ良いのだが。いずれにせよ、しばらく業界の動向を見守りたい、新インターフェイスである。