大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

生年月日が同じ新旧社長の交代の意味は?

~NEC PC/レノボ・ジャパンの留目新社長に聞く

留目真伸氏

 2015年4月1日付けで、NECパーソナルコンピュータ(NEC PC)およびレノボ・ジャパンの代表取締役社長に留目真伸氏が就任した。3月26日に行なわれた社長就任会見では、「和魂洋才」をキーワードに、留目新社長のこれまでの経験を活かした経営を行なう姿勢を強調。さらに、「日本のIT活用力を、世界トップレベルの水準にまで引き上げる」と宣言し、国内トップシェアメーカーとしての長期方針をここに置くことを示した。そして、留目新社長は、「これからは、NEC PC レノボ・ジャパングループの成長がセカンドフェーズに入る」とも位置付け、成長戦略を加速させる姿勢を強調する。留目新社長体制となったNECパーソナルコンピュータおよびレノボ・ジャパンの今後の成長戦略を聞いた。

--2015年3月2日に新社長就任を発表して以来、既に1カ月以上が経過しました。4月1日の社長就任までの期間はどんな活動をしてきましたか。

留目氏 お客様、パートナーへの新社長就任のご挨拶にまわる一方で、ちょうど期の変わり目でもありましたから、全社の新年度事業方針について、より深く理解を進めるといった作業にも時間を割きました。私はここ2年ほど、コンシューマ事業を担当してきましたので、むしろコマーシャル事業に関する理解に時間を使い、さらに、全社規模での年度プランのキャッチアップ、そして戦略実行に向けた体制作りにも取り組み、社内との緊密なコミュニケーションにも時間を割きました。

--具体的にどんな手を打ちましたか。

留目氏 これまでコンシューマ事業においては、ライフスタイル改革のキーワードとして「Digital Dramatic Days」を打ち出す一方、LaVieへのブランド統一を実施してきましたが、コマーシャル事業においても、エンタープライズビジネスを統合しながら、成長軌道に乗せるための基本的な姿勢を打ち出す必要があると考えました。コンシューマ事業で取り組んだように、事業の本質やビジョンをベースにして、そのための成長戦略を練り、コマーシャルに関わるビジョンと方向性を策定しました。

 その結果、ワークスタイル改革のキーワードとして、「Work Style Innovation」を掲げ、さらに、4月1日からは、エンタープライズの営業組織を統一しました。これにより、NEC PC レノボ・ジャパングループの中には、コマーシャルPCだけを売るという営業は1人もいなくなりました。パートナー営業も、ハイタッチの直販営業も、サーバー、ストレージ、PCをトータルで提案する体制とし、それに伴い、4P(プロダクト、プライス、プレイス、プロモーション)と言われる販売戦略や営業戦略、オペレーションを担当する組織も統合しました。これは、3月になって決定したものです。

セカンドフェーズでさらなる成長を目指す

--社長交代の場合、一般的に若返りによる活性化や、年上を起用することでの組織固めなどの狙いがありますが、前社長のロードリック・ラピン氏と留目新社長は、生年月日が1971年9月22日とまったく同じ。これまでの取材活動の中で、こんな社長交代は一度もありませんでした(笑)。社長交代の狙いはなんでしょうか。

留目氏 私も、ロッド(=ロードリック・ラピン氏)もデル出身で、レノボ入りする前から、お互いのことは知っていたのですが、生年月日が一緒だと気が付いたのは、レノボに入ってからですね。今から7年前のことです。お互いに驚きましたよ(笑)。

 7年前のレノボ・ジャパンを振り返ると、一通りのリストラクチャリングは済んだが、これからの成長路線を描けない状態にありました。成長の原動力となるパワーが少ない状態でした。そうした中で、ロッドは、適材適所の人材を揃え、組織を整備し、グローバルチームとの戦略統合、働き方の統一化、グローバルリソースの活用といったことにも取り組んできました。

 徐々に、レノボ・ジャパンを成長軌道に移す中で、NECとのジョイントベンチャーという大きな変化が訪れました。この新たなグループの確立においても、新たな良い文化を作り上げ、さらにビジネスを成長軌道に乗せることに成功した。グローバルな視点と、ローカルに対する理解を示しながら、新たな基盤を作り上げた功績は大きかったと言えます。

 私が、ロッドからバトンを引き継いだ意味は、ロッドが築き上げてきた成長軌道をさらに加速させるということだと思います。既に、コンシューマ事業においては、私の独自色が出ていますが、これと同じように、日本人として、日本の社会に対して、あるいは日本のパートナー、お客様の理解に基づいて、中長期的に成長していくための戦略を練りなおすというのが私の役割ではないでしょうか。

 ロッドは成長のための体制を整備し、それをもとにファーストフェーズの成長を成し遂げました。私は、これを次のステップの成長に持って行くことになります。日本のさまざまな企業から、この会社と一緒にビジネスをやっていきたいと思われる企業へとさらに発展させていきたいと思います。

--一方で、NECとのジョイントベンチャーがスタートしたのが2011年7月。4年を経過しないうちに、4人目の社長です。ちょっと代わりすぎではないでしょうか。

留目氏 ファーストフェーズの成長においては、物事が大きく変化していきました。その中での変化であったと言えます。私自身、レノボ・ジャパンの中で9年間やってきましたし、NECのジョイントベンチャーの統合プロジェクトに中心的役割として携わり、NECパーソナルコンピュータとの付き合いは最も深いと思っています。また、ロッドとも7年間一緒にやってきたわけですから、ロッドがやってきたことも深く理解しています。NEC PC レノボ・ジャパングループの今後の基本方針についても、変化があるわけではありません。これからのセカンドフェーズにおいては、私が社長を長く続けていきたいと思っています。まだまだやりたいこともたくさんありますしね。

--留目新社長は、NECパーソナルコンピュータと、レノボ・ジャパンの社長を兼務していますが、メリットとデメリットはどう考えますか。

留目氏 むしろ、デメリットはないと考えています。NECパーソナルコンピュータと、レノボ・ジャパンは、それぞれに独立した企業として存在しているわけですが、今では1つになって動くことが多く、両社の社長というポジションで見なければ、両社のオペレーションを最適化できません。一人で見ている方が最適だと考えています。

--NECパーソナルコンピュータの社長の仕事と、レノボ・ジャパンの社長の仕事は、切り分けて行なっているのですか。

留目氏 いや、それはありません。私がこれまで担当してきたコンシューマ事業においても、日本のコンシューマ市場に対してどう事業を行なうのか、という観点から、NECパーソナルコンピュータとレノボ・ジャパンを合わせた形で考えていました。それと同じ考え方を全社に展開することになります。むしろ、コンシューマ事業とコマーシャル事業は性質が違うので、そこの区切りはありますね。

日本人としてのアイデンティティを活かす

--ラピン前社長には無くて、留目新社長にあるものとはなんでしょうか。

留目氏 やはり一番の違いは、「日本人」のアイデンティティであると思います。日本で生まれて、日本で育ち、最初の社会人生活は日本の会社です。日本人の気持ちが分かり、日本の企業や組織の動き方が理解できるという点では、オーストラリア人であるロッドと、日本人である私の大きな違いになると思っています。日本のパートナー、お客様、そして、社員の気持ちを理解できる社長でありたいと考えています。

--3月26日に行われた社長就任記者会見では、「和魂洋才」という言葉を打ち出しましたね。この意味は何ですか。

留目氏 これは自分自身のキーワードでもあるんです。私は、日本人のアイデンティティを持っていますが、日本人でありながら、グローバルチームの一員として仕事をしてきました。その中で、日本の存在そのものを、グローバル社会の中で輝かせていきたいという気持ちを常に持ってきました。NEC レノボ・ジャパングループの中でも、その気持ちは変わりません。

 「グローバル化」と言われて久しいですが、その多くの意味が、「海外市場において、海外の会社と戦い、シェアを取ること」、あるいは「海外売り上げ比率を高めること」と理解されています。私はそれがグローバル化だとは思っていません。これは、一昔前のグローバル化です。私が考えるグローバル化とは、それぞれの人が持つ強みを活かすことができるグローバルチームを作り、グローバル規模の課題を解決するという仕組みです。日本人である私が、そのアイデンティティを活かして、貢献することで、さらに輝いていけるものだと思うのです。この新たなグローバル化をリードしていく存在が、和魂洋才の人材であり、和魂洋才の組織であると考えています。

--NEC レノボ・ジャパングループにとっての「和魂」とはなんでしょうか。そして、「洋才」とはなんでしょうか。

留目氏 ThinkPadの研究開発は、IBMのPC事業時代から大和研究所で行なってきましたが、これはまさに「和魂」です。日本の繊細なモノ作りの思想に基づいた製品であり、これは今でもNEC PC レノボ・ジャパングループの中に息づいています。そして、NEC PCが米沢事業場で続けてきたLaVieのモノづくりも「和魂」だと言えます。日本人の繊細さや勤勉さに基づく、オペレーションの強みは「和魂」として、レノボグループのオペレーションの中でも輝いていくものだと言えます。

 一方で、「洋才」という点では、グローバル規模で成長するIT業界において、有力なパートナーと連携しながら、新たなイノベーションを起こす役割を果たす企業であることがあげられます。業界のリーダーシップを取れる立場にあるという感覚を事業に持ち込むことができるという点は、NEC PC レノボ・ジャパングループだからこその「洋才」だといえるのではないでしょうか。

--留目新社長体制になって変わるものと、変わらないものとはなんですか。

留目氏 NEC レノボ・ジャパングループが持つ良い文化はこれからも変わらないと思っています。レノボグループがグローバルに持つ強みと、ローカルの良さを組み合わせるという経営の根幹にある考え方には変化がありません。一方で、変化するという点では、単にシェアを追うというのではなく、事業における本質的な目標設定を行ない、それに向けて、市場動向と掲げた事業目的とのギャップを浮き彫りにし、課題設定からのアクションを展開するといった、一歩踏み込んだ施策立案が挙げられます。

 NEC PC レノボ・ジャパングループが国内トップシェアメーカーとしてやらなくてはならない使命とは何か、それに向けてどんなギャップが生まれてくるのか。そうしたところにフォーカスするといった点で、「深み」が出てくると考えています。

--社長就任会見では、「日本のIT活用力を世界最高レベルに引き上げる」と宣言しましたね。これも本質的な目標の1つであると。

留目氏 そうですね。日本のIT活用力は先進国の中でも低いという調査結果が出ています。タブレットの普及率も上昇傾向にはありますが、まだまだ低いのが実態です。NECパーソナルコンピュータおよびレノボ・ジャパンの社長として、業界各社とのディスカッションを通じて、IT活用力を高める重要性について、理解を深めていきたいですね。1社だけの取り組みではなく、業界をあげて、IT活用力の向上に取り組むことを提案していきたいと考えています。

 WDLC(ウィンドウズ・デジタル・ライフスタイル・コンソーシアム)との連携も、その取り組みの1つになりますね。社長就任会見で、この方針を打ち出してから、業界関係者から、その考え方に共感したという声も頂いていますし、パートナー各社からも、その分野で協業できないかといった話も頂いています。業界全体の動きを通じて、日本の企業に貢献していきたいですね。

 今は円安を背景にして、日本への製造回帰という動きもありますし、さらに、2020年の東京オリンピックに向けて、景気が上昇するという見方も出ています。足下は決してグラついてはいない。しかし、その先を見据えると、今の猶予期間の間に、生産性、効率性を高め、国際競争力を上げていく必要があります。そうしないと、「失われた何年」ということがまた起こりかねない。そこに、NEC レノボ・ジャパングループが貢献していきたいと考えています。和魂洋才の強みを活かして、さまざまな業界、企業において、成長を支援する役割を果たしていきたいですね。

先日行なわれた記者会見の様子

グループ内で高まる米沢事業場の価値

--レノボグループにおいて、米沢事業場の役割が重視されてきた感じがします。ThinkPadの米沢事業場での設計のほか、日本市場向け一部製品の生産を開始しましたし、今後は、x86サーバーの生産も今年度下期から開始します。

留目氏 NECパーソナルコンピュータは、典型的な日本のモノづくりの会社です。ここ数年、日本でのビジネスが好転し、シェアが伸び、利益率も高まっており、そこで開発された製品が世界でも認められている。米沢事業場で開発した「LaVie Hybrid ZERO」は、2015 International CESで24の賞を受賞したことからも、それが証明されています。つまり、先ほど触れたように、グローバル社会において、日本の企業のユニークなアイデンティティを活かし、グローバル化に参加し、グローバルチームとして発展するという良い事例になると考えています。米沢事業場で行われている改革は、日本のお客様にも紹介していきたいですね。日本の企業にとってのヒントになるといいと思っています。

--ちなみに、今後、日本市場に投入する予定のレノボ・ジャパンによるスマートフォンは、米沢事業場で生産することも検討していますか。

留目氏 現時点ではそうした話はありません。まだ、スマートフォンの戦略は話せる段階にはありません。

国内PC市場における新たなシェア目標は?

--NECとレノボのジョイントベンチャーがスタートした際には、両社合計で30%のシェアを目指すとしていましたが、3月末には、GfK Japanの調査で初めて40%のシェアに到達しました。セカンドフェーズとする成長戦略のなかで、新たに掲げるシェア目標はありますか。

留目氏 現時点で、将来の目標とする数値はまだありません。当然ながら、3月末に初めて達成した40%というシェアは、維持できるように努力をしていきたいと考えています。新たな目標については、近いタイミングでお話しできると思っています。それが40%という具体的なシェア目標であるということは現時点では言及できませんが、高いシェア目標を掲げていきたいと思っています。

--レノボグループの最新四半期決算では、PC事業の構成比は65%に留まる一方で、モバイルが24%、エンタープライズが9%といったように、かつてない収益源の多角化が進みました。今後、エンタープライズ事業の加速、国内スマートフォン市場への参入を踏まえると、日本も同様に多角化が進むことになると思いますが。

留目氏 これも、まだ具体的な数字目標が作れていませんので、そのバランスについては言及することはできませんが、事業として多角化していくことは目的の1つではあります。ただ、それよりも、日本のIT活用力を高める中で、PCやタブレットというピースだけでは埋められない部分もある。そこに、エンタープライズやスマートフォンが加わることで、それを埋めることができるようになります。これによって、日本のIT活用力を高めるためのピースが揃ったといえますね。これらがすべて揃うことで、強力なパートナーとの連携を一歩進めることができますし、業界をあげた動きも取れるようになります。日本のIT業界の中で、中心的なリーダーシップを取るためにも、多角化は不可欠な取り組みだと考えています。

(大河原 克行)